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何の役にも立たないけれど…私が10万円以上する「単なる鉄の棒」を買い集めて満足しているワケ

プレジデントオンライン / 2022年9月23日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elena Goncharova

商品の「適正価格」とはいくらなのか。マーケティングに詳しい小阪裕司さんは「原価や仕入れ値から価格を決めてはいけない。重要なのは、お客がその商品にどれだけの価値を感じるかだ」という――。

※本稿は、小阪裕司『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■原価から価格を決めるのは時代遅れ

あなたはある品物の価格を決める際、どのような基準で決めているだろうか。

最も一般的な価格決定の方法はおそらく「原価や仕入れ値から決める」というものだろう。

メーカーなら、製造原価率30%などと設定し、たとえば製品一つ当たりの原価が1000円なら、3300円くらいの価格を付ける。そして、その商品を仕入れた小売業なら、仕入れ価格35%上乗せした価格で販売する、などである。

だが、「30%」「35%」という数字に、それほど明確な根拠がない場合も多い。過去からの経験則であったり、利益を出そうと調整しているうちにこの数字に落ち着いた、というケースが多いのではないだろうか。

私は20代の頃、婦人服を売る会社に勤めていたのだが、当時の価格設定はバイヤーの経験則だった。通常は仕入れ価格に35%くらい上乗せした値付けをするのだが、「この商品はもう少し安くしたほうが売れそうだ」と思ったら20%にしたり、逆にリスクを考えて40%にしておこう、などということで価格を決めていく。

最初に言いたいのは、このような「原価から決める」という価格の決め方は現代にそぐわないということだ。

■理にかなってはいるが「売り手本位」の発想でしかない

より正確には、原価から決めていく値付けは「大量消費時代」のやり方だったと言ったほうがいいかもしれない。

生産や流通を分担し、各工程でかかったコストを積み上げていく。いわば「原価積み上げ式」の価格設定は、極めて工業社会的な発想だ。さらにその背景には、各工程での積み上げを小さくして、最終売価をできるだけ低くする、という考えがあったかもしれない。

それは確かに理にかなってはいるが、「作り手本位」「売り手本位」の発想である。

一般消費者向けの販売においては、世界で初めて「定価」を定めたのは越後屋(現在の三越)とも言われるが、それ以前、もっと価格はふわふわとしたものだったはずだ。「毎回買ってくれるからあの人にはこの値段で」とか、「今日はだいぶ儲けたからあとはこのくらいでいいや」とか、気分によって値段が変わったりすることもあっただろう。そもそも作り手のほうも、毎日同じ価格で原料が仕入れられるわけでもなかっただろうから、そこも含めて価格はもっと流動的だったのだと思う。

今でもアラブのスーク(市場)などに行くと商品に値札が付いておらず、客と店主は延々と価格交渉をするそうだ。お茶を飲みながら30分でも1時間でも交渉する。時間の無駄だと思う人もいるかもしれないが、これもまた商売の原点ではあると思う。

■私が「単なる鉄の棒」に十数万円を出したワケ

ところで私は『スター・ウォーズ』の大ファンで、オフィスには「ライトセーバー」が何本もある。ライトセーバーとは、『スター・ウォーズ』の主人公たちが用いる武器のことである。もちろんレプリカではあるが、非常に精巧にできている。価格はものによって異なるがおおむね十数万円だ。

しかし、『スター・ウォーズ』にまったく関心のない人にとっては、これは単なる鉄の棒だ。これを5万円に値引きしたところでほしくなるとは思えないし、タダであげると言っても、「邪魔だからいらない」と断る人もいるだろう。

しかし、私にとって十数万円は適正価格である。さらに、ここに『スター・ウォーズ』出演者のサインなどでも入っていたら、もっと高くても適正価格だ。

ちなみに私は、『スター・ウォーズ』のイラストの入った湯呑みも持っている。『スター・ウォーズ』のキャラクターが湯呑みを使うわけもないのだが、これもつい買ってしまった。価格は忘れてしまったが、数百円ではすまなかったように思う。

おそらく湯呑み自体は、100円ショップでも買えるだろう。しかし私にとってはやはり、適正価格なのである。

■客にとって重要なのは原価ではなく“意味合い”

さて、ここであなたに問いたいことがある。この『スター・ウォーズ』グッズを作って売った会社は、果たして「原価」から算出して、価格を決定していただろうか。

もちろん、ルーカスフィルムにいくばくかのロイヤリティを支払うため、最低このくらいの価格を、という基準はあったかもしれない。しかし原価だけでいえば、ライトセーバーはどれくらいだろうか? 価格に対して極めて低いに違いない。湯呑みとなれば数百円か、もっと安いかもしれない。

しかし、それに対して「原価が安いのに、こんなに高いのはおかしい」と言ってくる人はいない。それは、モノとしての「鉄の棒」や「湯呑み」を買っているわけではないからだ。意味合い消費としての「スター・ウォーズの世界観を身近に置く価値」を買っているからだ。

つまり、言いたいのは「値付けにおいて、原価から考える必要はない」ということだ。たとえ原価がものすごく安くても、お客さんにとって十二分の価値があれば、常識外れな売価を付けて構わないということだ。たとえ原価が100円くらいだったとしても、「お客さんにとってそれだけの価値がある」と考えれば、1000円くらいの値付けをしても構わない。それは誰にとって構わないのかと言えば「お客さんにとって構わない」のだ。

■他社を基準にしてはいけない

そしてもう一つ、「ありがちな価格決定の間違い」がある。それは「同業他社と比べ、それと揃えようとすること」だ。

何かの価格を付けようとする際にまず、多くの人が同業他社の商品やサービスの価格をリサーチする。別にそのこと自体は構わない。問題は、他社の価格と並びか、少しだけ安い価格を付けようとすることだ。この発想そのものが、「安くないと売れない」という旧来の常識に縛られている証拠だ。

都内にてジビエ料理レストランを展開する「ティナズダイニング」という会社がある。同店では以前、猪の肉を使った「ぼたん鍋」を2800円で出していた。なぜ2800円かといえば、周囲の店をリサーチした結果、鍋料理の上限はだいたいこのくらいの価格だったからだ。

ぼたん鍋
写真=iStock.com/motosuke_moku
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/motosuke_moku

しかし、そのときには価格を抑えるために本当に使いたい素材も使うことができず、それでもなるべくいいものを出そうとした結果、高い原価率になってしまっていた。

その後、店主・林育夫氏は私の主宰する会で学び、商売に対する意識も変わってきていたあるとき、広島の生口島の猪の肉と出会った。これはみかんを食べて育った猪で、その肉もほんのりみかんの味がする。いわば「みかん猪」だ。

■平均客単価が5000円→1万円に上昇した理由

最初に話を聞いたのは卸業者からだった。生口島には広大なみかん畑が広がっており、そこに猪が侵入して畑を荒らす。みかんを食べてしまう。猪はみかんが大好物なのだそうだ。

その肉はとてもおいしく、猟師によれば「みかんの味がする」。ただ、肉の色が黄色っぽくなってしまうので見栄えは悪く、おいしさに比してあまり人気がないという。

小阪裕司『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)
小阪裕司『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)

その話を聞いた林氏はぜひ店で出したいと思い、仕入れることに。この機会に思い切って3500円という値付けをしてみたが、大人気商品となった。その後、さらに3800円にしてみたが、以前にも増して売れまくった。売上は1年で1300食を超えたという。

そこで、今まで自分がいかに「安くなければいけない」というタガにはめられていたかに気づかされたという。

その後はさらに高単価の商品を連発し、客単価がどんどん上がっていった。今ではなんと、客単価はこういった取り組みを始める前の平均だった「5000円」を大きく超え、倍の「1万円」を突破しているという。

原価から考えない。同業他社とも揃えない。これが何を意味しているかと言えば、どちらも「顧客の価値から価格を考える」ということである。

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小阪 裕司(こさか・ゆうじ)
オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学)
山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県から約1500社が参加。2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。著書に『価値創造の思考法』(東洋経済新報社)、『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHP研究所)など多数。 公式サイト

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(オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学) 小阪 裕司)

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