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「それを許すと地球に人間がいなくなるぞ」韓国社会で子なしの夫婦に向けられた"ありがたいお説教"の中身

プレジデントオンライン / 2022年9月22日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anamejia18

結婚しても子どもを持たない選択をするカップルがいる。ライターのチェ・ジウンさんは「そうした選択は韓国社会では激しい攻撃の対象になる。批判する人たちは、子どもを望まない夫婦がいるという事実を受け入れようとはしない」という――。

※本稿は、チェ・ジウン著、オ・ヨンア訳『ママにならないことにしました』(晶文社)の一部を再編集したものです。

■韓国の“子なし夫婦”に向けられたお説教の中身

インスタグラムで「ダブルユーのソーソーセンガク」という日常漫画を描いている作家のインタビューを読んだ(※)。同い年の友人と結婚して10年を迎えるパク作家は「韓国で子なし夫婦として生きて行くこと」というエピソードを通じて自分たちが経験した無礼、同情、差別についてのエピソードを話したことがある。

※【引用】「カップルNストーリー:黒いスーツに白い靴下、なぜ穿いてきたのか尋ねたら……結婚10年目の私たち夫婦がDINKを悩む理由」、ハン・スヒ(エディター)(サムラップ、2019年9月26日)

「私たちにとって、『子ども』の問題はまだ悩んでいる最中のことなんです。最初は『二人でいるほうが楽』という気持ちでした。でも、だんだんと子どもを産んで育てて、責任をとるというのは普通のことじゃないと、重圧感として迫ってきたんです。(中略)どんな選択をするにせよ、完全に私たち二人の幸せのための決定をして一緒にのり越えていきたいですね」

それなのに、この文句のつけようのない答えに300を超すコメントがついた。二人の考えを尊重し応援するレスもたくさんあったが、わざわざお説教するようなレスによって炎上が起きて……地獄絵になった。いったい子なし夫婦のなにが彼らの攻撃ボタンを押したのか気になり、目に入ったコメントをいくつかタイプにわけて整理してみた。

■偏見・呪い・愛国・偽善…攻撃コメントの4タイプ

偏見タイプ

・自発的DINKはごく少数。不妊だってことを隠すための道具でしょ。(一人の人が同じコメントをいくつもコピー&ペーストしていた)
・ただの不妊でしょ……うちは娘2人、息子1人……うらやましいでしょ?
・周囲のDINK族をみてると、あったかい家庭で育った人があまりいないよね。

呪いタイプ

・いくらジャジャ麺が好きでも一日くらいはちゃんぽんを食べないとちゃんぽんの味がわからないように、二児の父としては、ジャジャ麺を諦められないからという理由で、一生ちゃんぽんの味を知らずに生きて行くのと似てる気がしますね。(これは二児の母の立場もぜひ聞いてみたい)
・今はいいだろうけど、あとで年取ってから後悔するはず。

愛国タイプ

・全地球人があなたのようなことをしたら地球に人間がいなくなるぞ。(誰かがこのコメントにつけたレスは、「地球村の大統領のおでましだ」だった)
・DINK族が国の新婚夫婦として恩恵を受けるのは詐欺ではないんですか? DINK族を装った結婚と何が違う? DINK族は国が結婚を無効にすべきです。
・出生率をあげるためにも国がこういう結婚を認めるべきじゃない。

偽善タイプ

・個人的にはみな尊重してますが、ネイバーのトップページにこういうのが出てると、まるでこれがクールなことみたいなイメージを与えるので不快ですね。(何を尊重してるというのかわからず、こちらが不快ですね)
・私もDINK族に子どもを産めとか産むなとかいう権利はないと思ってます。でも、そういうライフスタイルをいちいち見せる必要はないと思います。

■「出産しないかもしれない」というだけなのに…

私はこの人たちの言葉がこっけいだと思う一方で、心に小さな傷がつく気がした。彼らの言葉が正しいとか意味があるからではなく、他人の選択にここまで積極的に悪意を向けてくる人たちの存在を目の当たりにしたからだった。自分は「正常」で「平凡」だと思い込み、平気で他人を傷つける彼らもまた誰かの親だということが残念だった。

もちろん、彼らすべてが子どもを産んだり育ててる人だとは思わない。しかし、女性が出産しないかもしれないと意思表明するだけで、まるで地球が滅亡するかのように怒りをぶつけてくるインセル〔非自発的独身主義者(Involuntary celibate)の略で、ミソジニーという意味でも使われる〕と呼ばれる人たちがたくさんいるのも事実だ。

オンライン上だとよけいに無礼な表現が使われるということもあるが、インタビュー参加者たちが話してくれた経験もやはり、そういった人たちからのありとあらゆる無礼とおせっかいのオンパレードだった。

【ジュヨン】最初は、「子どもは産まないつもりなんで」と言ったら、ある上司が「いつ離婚するの?」と言ってきて。「子どもがいないなら離婚する、子どもがいれば我慢して長続きする」って。

※ジョユン 41歳。結婚10年目。釜山で公務員として働いている。他の地域に勤務するパートナーと週末婚。

【ボラ】恩師のように慕っているご夫婦がいらっしゃるんですね。挨拶にいったら奥様が私を上から下まで舐め回すように見ながら、「妊娠したの?」と。知り合いの教授は結婚して以来、会うたびに「まだニュースないの?」と言い、夫には「妊娠させたか?」と言ったそうです。あとで私が「そういうことは言わないでください」と伝えました。子どもを持たない人たちは、そういう質問をしないのに、子どものいる人たちはずけずけと言ってくる。夫の高校の同級生が「お前たちいつまでそうしてるつもりだ?」と聞いてきたので、夫が「俺は今がすごく幸せだ」と言ったら、「嫁さんがかわいそうだろ?」と言ってきたらしいです。

※ボラ 38歳。結婚5年目。芸術家。同業者のパートナーと釜山に暮らす。

■「欲しくてもできない女性もいるのに」

【ヨンジ】自己紹介をする機会があったんですけど、子どもがいるかと聞かれたので「結婚して猫を飼っていますが、子どもを育てるつもりは今はありません」と言ったんですね。そうしたら、ちょっと年配の方がかっとなって「あなたね、簡単にいいますね。もしこの場所に子どもが欲しくてもできない女性がいたらどうするんですか」と責められて。それって私と関係ないでしょ!(笑)それからその場にそういう女性はいなかったんです。すごい不快でした。子どもを持つ計画がないと言えば「えらそうに、じゃあうちらはバカだから産んだのか?」こういう具合に受け止める人がいるんですよね。じゃあなぜ聞くのかと思います。

※ヨンジ 39歳。結婚9年目。造船所勤務のパートナーと猫2匹と、慶尚南道統営で暮らす。書店と読書会、文章教室を運営。

ヨンジの話を聞いていると、「あんたはそんなに偉いのか?」という思考パターンは韓国社会でよくみかけるコミュニケーションのやりとりの一つだとは思った。

端的な例としては、私はベジタリアンではないが、ベジタリアンに向けられた非ベジタリアンたちの怒りにはどうしていいかわからなくなる。他人の人生を侵害していないのにもかかわらず、少数派の生き方を選んだ人たちは、簡単にヘイトの標的になり、彼らの選択は絶えず疑われ、干渉されるうちに、その選択の価値を卑下するようになる。女性に「気が強い」というフレームをあてはめて男性を被害者扱いするのは、子なし夫婦を見下すときによくあるやり方だ。

■「けしからん妻」と「懐の深い夫」という不平等

【ドユン】私は物事をはっきりと言うタイプなんですね。周りからもよく言われるんですが、「男はみんな子どもが欲しいものだ。夫はやさしいから、気の強いお前のせいで黙って言うとおりにしてるんだ。子どもを欲しがらない男がいるはずない」と。そこで夫に聞いてみたら、「俺がそんなふうに見える?」と(笑)。それから「どうして子どもを産まないのか」と聞かれるときは、「うちはそれで合意したんで」と答えると、きまって「旦那さんもそれを望んでるの?」とまた聞かれるんです。この時に「夫のほうが望んでるんです」と言わないと会話が終わらない。これが簡単な方法だとは言え、癪に障りますよね。

※ドユン 39歳。結婚15年目。小学校教師で歴史教師のパートナー、猫5匹と京畿道城南に暮らす。

子どもを産まない女は「けしからん女」で、子どもを産まないことに合意した男は「いい人」と評価されるのは、「子どもを産まない女と暮らしてくれる男は実に懐の深い男だ」という認識から来ている。

でも、男性なら誰でも子どもが欲しいと言う言葉にこめられた真実は、男性たちは子どもという存在を渇望しているからというよりも、自分の体一つ傷つけることなく姓まで引き継いでくれる子どもを簡単に手に入れられるから欲しがるというのに近いはずだ。そして子どもがいないと家族が完成しないし、そういう家庭こそが維持する価値があると信じている人たちは、本気で子どもを望まない夫婦がいるという事実と、子どもがいなくても彼らが幸せな家庭を保てる可能性を信じようとしない。

思い悩む女性
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

■「できないふり」をすることもある

両親でも兄弟姉妹でも、友人でも、ひいては義両親でもない赤の他人の干渉に疲れた子なし女性たちは、だんだん自分の立場を隠す戦略を選んだりもする。何人かのインタビュー参加者は「子どもができないふりをすることもあるし、そうすると気の毒がられてそれ以上訊かれないので」と話していた。(「この世に自発的なDINKはいない、子どもを産めないだけ」と固く信じる人たちに「皆さんは賢いDINKに騙されているんですよ」とささやいてあげたい。)

ジュヨンの場合はあえて嘘はつかないが、わざわざ全面突破もせずに、エネルギー消耗を最小化するための戦略を選んだ。

【ジュヨン】子どもがいないとすぐに離婚する、と言ってきた人とは別に、私のことを長く知っている別の上司がいて。その人は子どもを産めとか産むなとか一切言ってきませんが、ただ「ジュヨンさんに似た子はかわいいだろうね……」とだけ言っていました。職場で私のことをよく知らない人は、子どものことを聞いてきたりしますが、「あ、この人は私と話すきっかけが何か必要なんだろうな」と思うぐらいですね。結婚して時間が経ってるので今は「なぜ産まないのか」と聞かれたときに「タイミングを逃して」と言えることですね(笑)。

——あえて子どもが欲しくないとは言わないんですね?

そうです、産まないとは言いますが、「私は子どもを絶対に産まないって決めたんです」とは言いません。実際に親しい間柄の人とは、「これこれの理由で産まないわけで、だから今が幸せ」と話しますが、そこまで親しくない人をいちいち相手にしていたらきりがないし、話も大きくなって勝手に言いふらされますし。

■おせっかいを焼く人たちに言いたいこと

チェ・ジウン著、オ・ヨンア訳『ママにならないことにしました』(晶文社)
チェ・ジウン著、オ・ヨンア訳『ママにならないことにしました』(晶文社)

だから、子なし夫婦に干渉し、おせっかいを焼く人たちは、そろそろ気づいてほしい。相手にとってあなたは本心を打ち明けるほど親しい人ではなく、あなたの意見に特別な価値はなく、相手もまたあなたに言いたいことはたくさんあっても我慢してるんですよ、ということを。

それでもああだこうだ言いたいのなら、ユーチューバー「ミラノンナ」で有名なファッションコンサルタント、チャン・ミョンスクさんのインタビューでもまず読んでみることをお勧めしたい。(子どもを二人も産んで育てた人の話ならちょっとは聞く耳持つだろうから!)

結婚して子どもを産め、1人産んだらもう1人産め、2人産んだら今度は娘を産め……。あの時はほんとうにけんかしてやりたかったですね。だからこう言いました。「なるほど、じゃあ娘産んだら育ててくれる?」2人目を産んだときこう言いました。「私に2人目を産めと言った人たち、みんな列に並んで一日に一人ずつうちの子を面倒みてもらうから」って。手伝ってくれるわけでもないのに、なんであんなに他人の人生に口出しするんでしょう。

【引用】「取材ファイル:ミラノンナ現象『私たちの明日』に期待すること『52』年生まれチャン・ミョンスク」、クォン・エリ記者(SBSニュース、2020年1月19日)

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チェ・ジウン ライター
興味深いストーリーや素敵な人たちの世界に憧れて放送作家になり、「マガジンt」「アイズ」などで十年余りにわたり大衆文化の記者として活動する。常におもしろいものを書きたいと思っているが、常にうまくいくとは限らず、2015年以降は一連の事件をきっかけに女性として韓国の大衆文化をどうとらえていくかについて悩み『大丈夫じゃありません』を執筆した。共著に『乙たちのロバの耳』『フェミニズム教室』がある。自分の人生をあえて一言で言うなら「ゆっくりのんびり、後回し」と言えるが、女性たちの話を読んで聴いて書いて伝えることだけは、これからも続けていきたいと願っている。Instagram

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オ・ヨンア 翻訳家
在日コリアン3世。慶應義塾大学卒業。梨花女子大通訳翻訳大学院修士課程卒業、同院博士課程修了。2007年に第7回韓国文学翻訳新人賞受賞。訳書に『世界の果て、彼女』(クオン)、『話し足りなかった日』(リトルモア)、『続けてみます』(晶文社)、『秘密を語る時間』(柏書房)、『モノから学びます』(KADOKAWA)、『かけがえのない心』(亜紀書房)などがある。

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(ライター チェ・ジウン、翻訳家 オ・ヨンア)

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