「担当が男性だったらなぁ」店舗オーナーに力不足を指摘された私が「ファミマル」の責任者になるまで
プレジデントオンライン / 2022年9月21日 11時15分
■いつも「逃げ出す」タイミングを伺っていた
最近のコンビニエンスストアでは、デザートや飲料、総菜、お弁当など、プライべートブランド商品が個性を打ち出している。ファミリーマートでは、昨年10月から「ファミマル」を展開。そのブランド推進に携わっているのが商品業務部副部長の柘植さんだ。それまで加工食品・菓子グループを率いて、菓子の中でも主力のチョコレート商品を担当してきたが、「そもそもチョコが苦手だったので、苦労しましたね」と苦笑する。
変化の激しいコンビニ業界で二十数年、スーパーバイザー(SV)、営業企画、マーケティングなど渡り歩いてきたが、もともと「コンビニは興味がなくて、いつ逃げ出そうかといつも考えていました」と、意外な過去の本音を明かす。
■「担当が男性だったらなぁ…」
学生時代には社会の教員免許を取り、教育関係の仕事を目指していた。だが、就職したのは地元の名古屋に拠点を置くサークルKジャパンだった。入社後の一年半は店舗勤務が続き、そこでまずくじけそうになったという。
「周りの同級生が、入社した企業で新たな仕事に携わって『大変だけど楽しい』とキラキラする中、自分は店舗勤務と環境も違い、いろいろ大変に思ってしまい ……。逃げ出すためには何か資格を取ろうと思い、カラーコーディネーターの勉強を始めました」
翌年には女性社員一期生として、店舗を指導するスーパーバイザーを任されたものの、そこでも肩身が狭かった。加盟店のオーナーには何かトラブルがあると「担当が男性だったらなぁ……」と、若い女性の力不足を指摘される。
配属先は男性ばかりの職場でどこか仲間外れの空気を感じ、誰にも相談できない。着任当初はつらく、半年ほどで5キロ痩せてしまった。
「一年くらい経って、やっとオーナーさんとの関係がつかめ、仕事内容も全体がわかるようになってきた。 もうちょっと頑張ってみようかなと思っていたのですが……」
■二度目の「逃げ出したい」
今度は本部へ異動になって、加盟店向けの広報誌や社内報の業務を担当することに。本部ではマーケティングにも携わり、資料の作成やプレゼンの仕方まで叩き込まれた。持ち前の負けん気で勉強に励み、仕事の手応えを感じていた矢先、さらなる転機が訪れる。入社10年目のことだ。
2004年にサークルKとサンクスが合併。このタイミングで柘植さんは、初めてマネジャー(課長職)に就任する。さらに東京本社への転勤を命じられたのだ。
慣れない東京での新生活がスタートし、新しい部署で営業企画に携わる。やがてチームもまとまって充実していた3年目、組織変更でチームはばらばらに。柘植さんは全社の予算管理をする部門へ異動になった。
「入社以来、二度目の“逃げ出したい”時期でした。私は数字に関することが弱くて、会計の知識も無かったので、打ち合わせで飛び交う用語がわからない。部下から聞かれることにも答えられず、本当につらかったですね」
『よくわかる決算書の読み方』など初心者向けの本を買って、何とか付いていこうと必死で勉強した。自分にできることは何かと考えて、何でも率先してやるように心がけた。
■上司と部下の橋渡しになりたい。でも、なれない。
当時の部長はキャリアを積んだ財務のスペシャリスト。最初は指示されるまま部下に伝えていたが、そのうち自分のやるべきことが見えてきた。部下の思いを聞いていくうちに、彼らの意見を上部に伝える橋渡しが必要と思ったのだ。
しかし、昔ながらのやり方を守る部長とはぶつかることが増えていく。だんだん自分の心も疲弊していった。
「どれだけ勉強しても追い付けず、メンバーが大変なときも何もできないもどかしさがありました。仕事を終えて会社を出ると、涙がぽろぽろ出てきて止まらない。たえず仕事のことが頭から離れませんでした 」
思い余った末に転職を考えた柘植さんは、かつて営業企画で目をかけてもらった上司に相談する。
「もうしんどいです。このまま続けいくのは無理だと思うので……」と打ち明けると、上司は黙って耳を傾け、「今の会社でもチャンスがあるんじゃないか?」と。それからまもなく異動が決まったという。
次の配属先ではマーケティングに携わり、デザート商品のブランド立ち上げも経験した。モノづくりの現場に関わることは楽しく、カラーコーディネーターの資格を持っていたことも活きて、新たな仕事のチャンスにつながっていく。
■異動早々「商品回収」が発生
そして2016年、サークルKとサンクスはファミリーマートにブランド転換された。柘植さんはファミリーマートの(現)商品本部へ異動。加工食品・菓子グループのマネジャーとして、初めて商品開発に携わることがかなえられたのだ。
実はそこでも着任早々に大変なトラブルが待ち受けていた。菓子メーカー で原材料に異物が混入していることが判明 。急遽、商品の回収が決まったのだ。ファミリーマートの商品本部では、その商品を扱う店舗や販売業者などへの対応を求められ、あちこちから電話がかかってくる。
何もわからないまま判断を迫られたときは本当に怖かったと振り返る。
「その後も大きなトラブルが相次いで、思わず担当に『こんなにトラブルってあるものなんですか?』と聞くと、『数年に1回くらいのトラブルが考えられない短期間で起こっています』と。おかげで私も腹が据わりました(笑)」
着任して3カ月ほどは、部下が提案した商品の企画もなかなか部長に通らず、毎日のように言い争いをしていたという。部長に怒られていることの意味もわからず、「おっしゃっていることがわかりません、何をすればいいんですか?」という状況だったが、半年くらいでようやく自分のやりたいことをメンバーにも共有できるようになっていく。
なかでも苦労したのが、菓子の中でも主力のチョコレートだった。
「あまりチョコが得意じゃなかったので、おいしいかどうかの判断をしていいのかという不安はありました。だからいつも、『ごめんなさい』と言いながら食べていたんです。それでも信頼できるメンバーに恵まれて、本当にチョコが好きな人たちにおいしいといってもらえる商品づくりに取り組んできました。主観の“おいしい”以外の角度から、客観的に良い商品づくりをサポートできるという意味では、私がいる意味もあるかなとようやく思えるようになりました」
■マネジャーとしてすべての橋渡しに
ファミリーマートが創立40周年を迎えたのは、2021年9月。全国には約1万6600店の店舗があり、新たなプライベートブランド「ファミマル」が立ち上げる。そのブランドマネジャーとして、統括を担うことになった。
「ファミマルのコンセプトは『ファミリークオリティ』。大切な家族に安心してお薦めできる品質と安全性を目指し、パッケージや商品名、食材の産地、環境への配慮にもこだわっています」と柘植さん。
たとえば、「カリっと香ばしいアーモンドチョコレート」にはサステナブルカカオを使い、ロカボ糖質量を明記。オリジナル飲料の「ごろごろ果肉バナナミルク」には、「もったいないバナナ(流通過程でキズや熟度などを理由に廃棄されているもの)」を使用し、人気商品のひとつになっているという。
こうして日々、新たな商品の誕生に携わっている柘植さん。今、どんな思いで仕事に向き合っているのだろうか。
「コンビニは新しいことに挑戦しながら成長し、時流の中でどんどん変化している業態です。今のお客さまにとって、どのような商品が求められ、いかに役立つことができるか。それを皆で形にしていくことが最大の醍醐味だと思っています。加盟店の皆さま、店舗スタッフの方、物流や工場の関係者の方など全部が関わり合って、お客さまに喜んでいただけたときは何よりうれしいですね」
■逃げ出したいとき「3カ月」は様子を見てみる
もともとコンビニ業界には興味がなく、幾度も逃げ出したいと思ってきた柘植さん。それでも辞めずに続けられたのは、「何を言われても3カ月は我慢しよう!」と決めていたからだという。3カ月がんばれたら、また次へ。
![ファミリーマート 商品業務部副部長 柘植幹子さん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/4/1200wm/img_e406275032c601930b9d75c9ba5ab783463843.jpg)
自身もたえず何かに挑戦しながら成長してきた日々があって、今があるのだろう。
「今振り返ると入社当時に勉強していたカラーコーディネーターや、自信をつけるために勉強したマーケティング、会社の数字のことなどが、今のブランドマネジャー業務に活きていると思います。苦手だったチョコも、だいぶ食べられるようになりました」と、うれしそうに答えてくれた。
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ノンフィクションライター
1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。
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(ノンフィクションライター 歌代 幸子 文=歌代幸子)
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