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「3C・4低・3強・3生」という高い壁…結婚したくても結婚できない日本人男性が増える根本原因

プレジデントオンライン / 2022年9月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Naoyuki Yamamoto

「生きづらい」とこぼす日本人男性が増えている。『男が心配』(PHP新書)の著者で、20年以上にわたり、男性の生きづらさを取材、研究してきた近畿大学の奥田祥子教授は「依然として『男らしさ』に縛られている人は多い。20年前は少しは笑いに変えられるような希望があったが、いまはまったく笑えない深刻な状況になっている」――。(前編/全2回)

■20年たってやっと「男が心配」と言えるようになった

――なぜ「男性の生きづらさ」を研究するようになったのですか。

大学院修了後に新聞社に入社し、30歳代になって、30~50歳代のサラリーマン男性を主な読者とする週刊誌に配属されたのですが、そこで一般的なサラリーマン男性の中には「男らしさ」を実現できずに苦しんでいる人がたくさんいることに気がつきました。ポスト削減が始まっていた20年前にも、出世できないという仕事の悩みや、ずっと仕事一筋でやってきたために家庭にも居場所がないと嘆く声はすでにあったんですね。

私は女性が極めて少ない時代に新聞記者としてキャリアをスタートして、警察や政治家といった権力に毅然とした態度で対峙(たいじ)して弱音を吐かない先輩たちに憧れていましたから、強い存在と思い込んでいた男性が仕事や家庭の悩みで弱り果てていることに激しく心を揺さぶられたのです。

しかも、男性の生きづらさは経済動向や雇用情勢の悪化によって起きている問題ですから、看過されている社会の問題です。にもかかわらず、男性記者は同姓の男性のつらさを取り上げたくないのか、手を挙げる人はいない。それで私がやるべきなんじゃないかと考えたのです。

新聞社での仕事とは別に個人活動として取材を始め、その後研究を再開して大学教員となった今まで、週末を使って全国を回ってインタビュー調査を行い、夜から朝にかけて調査データを分析、執筆するといった生活を続けてきました。取材者総数は男性だけでも約1000人に上ります。このうち500人を超える男性が一度で終わることのない継続インタビューで、最も長い方で20年余り追い続けています。

――『男が心配』という本のタイトルはインパクトがありますね。

今でこそ『男が心配』というタイトルの本を出させていただいていますが、取材を始めた当初は「心配」という言い方ができない状態だったんですよ。

女性が男性の生きづらさを追うことに対して、男性からは「なんでお前に分かるんだ」というお叱りを受けますし、女性からは「今、女性の差別撤廃が必要なのに女性のあなたがなんで男に同情するの?」と言われる。最近になってようやく、男女ともに共感を持ってくださる方が増えて、時代が変わってきたなと感じています。

■5年、10年と取材していくなかで語られる“男性の本音”

自分の実績が評価されずにポストに就けないことに苦しむ男性も少なくありません。バブル崩壊を機に始まった新卒採用減が、2000年代前半ごろからリストラへと進行し、さらに法律に抵触しないよう、巧妙にリストラに追い込んでいくケースが増えていきます。同期は出世したのに自分は左遷、出向、転籍という憂き目に遭ったと嘆く人もいました。

2015年に刊行した『男性漂流 男たちは何におびえているか』の中でも紹介しましたが、「長年勤めた会社からいろんな手を使って退職に追い込まれたら、会社を恨んでしまうから、あえて感謝して別れるために、先に自分から会社を辞めたんだ」と話された方のお話には胸を打たれましたね。

――本書の中では、普段聞くことのない悲痛な本音が吐露されています。

皆さん、1回会っただけでは本音を明かしてくれないんです。最初は「大丈夫ですよ」と明るくお話されていても、会う回数を何度も重ねて、5年、10年と月日が流れていく中で「やっぱりつらいんです」という本音を打ち明けてくださいます。

もちろん「大丈夫」とおっしゃった時の表情や身振りなどノンバーバル(非言語)の部分を観察し、取材者として「本心ではないな」とは思いますが、臆測で対象者の心情を書くことはできない。だから、「眉間にシワがよった」「頬がピクピク動いている」といった観察記録を書き留めておくわけです。初めてお会いしてから20年経って、「あの時、本当はつらかったんです」と本音を話してくれた方も少なくありません。

弱音を吐かない、出世しなければいけない、妻子を養わなければならない。そんな旧態依然とした「男らしさ」に縛られているがゆえに、誰にも悩みを打ち明けられずに自分をここまで追い込んでしまうのではないかと思うと……。男性がすごく心配という気持ちは、今も昔も変わりません。

■出世圧力に追い詰められ自信をなくしていく

――なぜ多くの男性が「出世しなければならない」と感じてしまうのでしょうか。

旧態依然とした「男らしさ」のジェンダー規範に沿おうとすると、男性はどうしても出世して社会的評価を得なければならなくなりますよね。また、人間には人から認められたいという承認欲求があるとされています。男性の場合は、社会から高く評価されたいという承認欲求と、自分は「男らしさ」を具現化するための勝負に勝ったんだという自負が結びつきやすい。出世は、まさに「男らしさ」を認めてもらう究極の象徴なのです。

ただ、最初に申し上げましたように、ポスト削減は昔から始まっているし、多くの人は給料も上がらないし、人件費削減がどんどん進んでいるので一握りの人しか出世できません。「男らしさ」を実現するのがかなり難しい状況の中で、出世圧力に追い詰められる男性が増えているのです。

頭を抱えるビジネスマン
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■「正規雇用になれば結婚できる」と考えていた40代男性

非正規雇用の男性にとっては、正規登用されることが出世に近い状態です。しかし、運よく正社員になれても、「男らしさ」の呪縛からはなかなか解放されません。

学卒期が就職氷河期と重なってしまった小川さん(仮名)は、非正規雇用で、派遣スタッフや契約社員の職を転々としてきました。経済力がないことを理由に女性に対する自信を失っていた小川さんですが、2013年に施行された改正労働契約法の「無期転換ルール」を追い風にして18年にジョブ型正社員に登用され、さらに翌年44歳で同業他社に正社員として転職を果たしました。

それを機に、「雇用形態に負い目を感じて女性から逃げなくても、堂々としていられます」と、精力的に婚活を始めます。しかし、いざ婚活を始めてみると、正社員であること以外にも女性から求められる条件の多さに疲弊し、「まるで粗探しをされているようだ」と、女性に対する自信を再び失ってしまいました。

その後、小川さんはこれまで以上に仕事に邁進し、周囲に遅れながらも46歳で課長に就任します。仕事を女性に好かれるための手段ではなく、仕事自体にやりがいを感じられたのは幸いでしたが、「出世圧力」と、「男たるものモテなければいけない」という「モテ信奉」の根深さを感じた取材でした。

■かつては「半径5メートル以内」で相手が見つかった

――男女ともに結婚できない人が増えている印象があります。なぜ結婚できない人が増えているのでしょうか。

国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」では、「結婚できない理由」として最も多い回答は男女ともに「適当な相手にめぐり会わない」という傾向が20年以上続いています。しかし、出会いの数が多すぎることがかえって結婚を遠ざけていると私は考えています。

昔は、職場など身近な半径5メートル以内で巡り合った人をいい意味で、“運命の人”だと思えました。出会いに溢れた現在は、そうした尊さが全くありません。「来週また婚活パーティーがあるから」などと思うと、男女ともに相手の良いところを見つけるのではなく、粗探しをしてしまいやすく、「選択」ではなく、「排除」に陥ってしまっているのです。

50歳時の未婚割合の推移
出所=『男が心配』

2020年の国勢調査を基に国立社会保障・人口問題研究所が算出した男性の「50歳時の未婚割合」は28.3%と、3人に1人に迫る勢いです。結婚したいのにできない人の割合が、なおいっそう増えています。現在の状況が続けば、男性の孤独や孤立を強め、自殺者数の増加といったより深刻な事態につながりかねません。

■女性が求める男性の条件はますます厳しくなっている

――本書では女性が求める「理想の男性像」がさらに厳しくなっていると指摘されていました。

女性は変わったと言われていますが、男女のマッチングにおける本音の部分は変わっていません。これは既存の意識調査などでは女性が本音を明かさないケースが多いため、ほとんど出てこないことです。学歴と経済力は依然として重要ですし、それに加えて家事力や育児力を求められていることを考えると、条件はむしろ厳しくなっています。

例えば本書では、先行研究などから、女性にとっての男性の新しい理想像として、高身長に目をつぶった代わりに家事などへの協力を重視した「3C」や、女性にとっての負担やリスクを軽減する「低さ」を求めた「4低」、女性を経済面・体力面・生活面で守る「強さ」を兼ね備えた「3強」、生存力・生活力・生産力を重視した「3生」などを挙げています。

女性がもとめる男性の「新しい理想像」
編集部作成

経済力に関して変化があるとしたら、年収の高さよりも、リスクの低い職業に就いているなどの安定性が求められるようになったことですね。現在はハイスペックのサラリーマンでも収入の伸びには限度がありますから、自治体の正職員のように、リストラされずに収入を常に入れてくれる男性に人気が集まりやすくなっています。

■「男のプライドにかけて女性の条件は下げられない」

――「結婚できないのではなく、しないだけ」と語っている高スペック男性のエピソードも印象的でした。

いわゆる「高スペック男性」の苦悩については、いままで多くの取材を重ねてきました。本書で紹介した男性はそのうちの一人です。大手ゼネコン営業課長の佐藤さん(仮名)は、38歳にして同世代と比べて収入も高かったですし、コミュニケーション能力も抜群で、婚活市場では“超”がつくほどの“優良物件”でした。ただ、会って開口一番「僕は結婚できないんじゃない。結婚しないだけですから」と能力不足で結婚できないのではないと釘を刺してくる。典型的なパターンですね。

しかも、「男のプライドにかけて女性の条件は下げられませんよ」と堂々とおっしゃって、お付き合いする女性の条件として「美人で料理がうまくて家庭的、聡明で短大か女子大卒」の「20歳代」を挙げていました。当時の女性が結婚相手の男性に求める条件を兼ね備え、合コンに出向けば、逆に女性から声をかけられるという。「男はモテなければいけない」という「男らしさ」を具現化できていることに誇りを持っていたんでしょうね。

その5年後、佐藤さんは「効率性」を求めて結婚相談所に入会していたのですが、収入など外面ばかり注目され、中身を見てもらえない婚活に疲弊している様子でした。そこに、部長昇進間近と目されていた時期に、うつ病で休職していた部下から「佐藤さんに過重労働を強いられていた」と人事部に訴えられ、譴責(けんせき)の懲戒処分を受けたことが追い打ちをかけます。

佐藤さんは「花形部署を離れて、出世も見込めないなんて、女性にモテるわけがない」と心をひどく痛めていました。

■20年前は笑いに変えられる明るさがまだあった

奥田祥子『男が心配』(PHP新書)
奥田祥子『男が心配』(PHP新書)

ポストが削減されている現在、実際には「高スペック男性」は部長まで昇進できればまだいいほうですが、彼らの中には社長は無理でも、せめて役員にはならないとダメという認識の人も少なくない。だから、高スペックは、どこかで終わってしまう期限付きのものなんですね。高スペックの期限に気付いていない男性たちを前にしても、取材者という立場上、何も言えないことをいつももどかしく思っています。

15年前に『男はつらいらしい』を刊行したときは、取材相手の男性に怒られながら取材する大変さがあった一方で、文字にしてみると、男性からもクスっと笑ってもらえるような明るさがまだありました。

ですが、現在は最悪、男性が孤独死する状況が明日にでも待ち受けている状況なわけです。男性も年齢が上がれば上がるほどマッチングの可能性が低くなってしまいますし、自信もやる気もなくなり、最終的には孤独感に苛まれながら、周囲から孤立してしまいかねない深刻さをとても危惧しています。それでも、次にお会いしてインタビューするときには状況が良くなっているかもしれないと願いながら、取材を継続しています。

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奥田 祥子(おくだ・しょうこ)
近畿大学 教授
京都生まれ。1994年、米・ニューヨーク大学文理大学院修士課程修了後、新聞社入社。ジャーナリスト。博士(政策・メディア)。日本文藝家協会会員。専門はジェンダー論、労働・福祉政策、メディア論。新聞記者時代から独自に取材、調査研究を始め、2017年から現職。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。著書に『捨てられる男たち』(SBクリエイティブ)『社会的うつ うつ病休職者はなぜ増加しているのか』(晃洋書房)、『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社)などがある。

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(近畿大学 教授 奥田 祥子 構成=佐々木ののか)

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