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スマホの普及と少子化の悪化には関係がある…都会に住む人たちが子育てをイヤがる根本原因

プレジデントオンライン / 2022年9月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

ほぼすべての先進国では少子化が進んでいる。とりわけ大都市ほど深刻だ。大阪大学大学院の山本和博教授は「都市部ではレストランやアパレルなど魅力的な消費財が多く、所得の価値が高い。このため結婚や出産よりも、所得を増やそうとする人が増えてしまう」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、山本和博『大都市はどうやってできるのか』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

■「東京一極集中」と少子化にはどんな関係があるのか

2014年、1冊の本の出版が衝撃を引き起こしました。増田寛也編『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』という本です。この本では日本の少子化の現状が豊富なデータによって綴(つづ)られ、全国の自治体の49.8%に当たる896の自治体で2010年から2040年までの間に20歳から39歳の若年女性の数が半分になってしまう「消滅可能性都市」にあることが示されたのです。

『地方消滅』では、東京一極集中こそがその原因であると言われています。確かに東京一極集中によって農村部や地方都市の人口は減りそうです。しかし、少子化とは、文字通り子供の数が減ることです。東京一極集中と少子化の間にはどのような関連があるのでしょうか。

少子化は、人々が持つ子供の数が減ることによって引き起こされます。人々が持つ子供の数は、「合計特殊出生率」という数字で測られることが多いので、最初にこの合計特殊出生率について解説します。合計特殊出生率とは、15歳から49歳までの女性の年齢別の出生率を合計したものです。

1年あたりの出生率を、15歳から49歳までの出産可能年齢で合計するわけですから、1人の女性が一生の間に産む子供の数の平均値であると言うことができます。男性が子供を産めないことに注意すると、合計特殊出生率が約2を下回ると、人口が減ってしまうことがわかるでしょう。乳幼児死亡率を考慮すると、2.07という合計特殊出生率が、人口が減らないための最低値であると言われています。

■1975年以降、合計特殊出生率は2を下回り続けている

図表1は人口動態統計により1950年以降の日本の合計特殊出生率の推移を描いています。1950年に3.65だった合計特殊出生率は急激に下がっていきますが、1974年までは2を上回る水準を維持していました(1966年は丙午(ひのえうま)と呼ばれる年で、この年だけは1.58という水準になっています。次の丙午は2026年になります)。

【図表1】日本の合計特殊出生率の推移
日本の合計特殊出生率の推移 出所=『大都市はどうやってできるのか』

1975年以降は2を下回る水準になり、以降一度も2を上回っていません。2019年の合計特殊出生率は1.36になっています。図表2を見てみましょう。この図は、厚生労働省の人口動態統計、総務省統計局の「国勢調査報告」および「人口推計」をもとに2019年の都道府県の人口を横軸に、合計特殊出生率を縦軸に描いたものです。各点が都道府県の人口と合計特殊出生率の組み合わせを表しています。

【図表2】都道府県の人口と出生率(2019年)
都道府県の人口と出生率(2019年) 出所=『大都市はどうやってできるのか』

最も右側にある点が東京都であり、東京都の合計特殊出生率は1.15で全国最小になっています。また、最も合計特殊出生率が高いのは、沖縄県であり、その数字は1.82になっています。東京都との違いは実に0.67になります。

点線は回帰直線で、簡単に言うと、点がどのような傾向で散らばっているのかを表しています。点線が右下がりになっているということは、人口の多い都道府県になるほど合計特殊出生率が低くなることを意味しています。つまり、東京一極集中のように人口が多い都道府県に人口が集中すると、少子化が確かに進むことを意味しているのです。

■多くの消費財を生み出したスマートフォン

このような合計特殊出生率の低下はなぜ起こったのでしょうか。本稿では、経済成長によって増加した消費財と、大都市における少子化の関係性について考えてみましょう。

経済成長によって、人々が消費できる財の種類は、大きく増えました。1975年生まれの筆者が子供の頃、パソコンは一般的な家庭ではほとんど見ませんでした。もちろん、インターネットも電子メールも使われておらず、新聞や雑誌、そしてテレビで社会の情報を収集し、離れた人と連絡を取り合う手段は電話と手紙が中心でした。ビデオの普及も進んでおらず(現在ではVHSのようなカセットテープはすでに使われなくなり、テレビに内蔵されたハードディスクによって録画がされるようになっています。まさに隔世の感があります)、携帯電話が一般的に使われるようになったのは、20歳を超えてからです。

Windows95の開発と普及により、インターネットと電子メールが普及し、情報収集の手段がインターネットに、連絡を取り合う手段の中心は電子メールになりました。iPhoneが登場してスマートフォンを使えるようになったのは30歳を超えてからです。スマートフォンの登場は、移動しながら手軽に携帯できる電話が増えただけではなく、さまざまな機能を消費することを可能にしました。

スマートフォンによってどこでもゲームができますし、動画を見ることもできます。スマートフォンは持ち運べる正確な地図にもなりますし、わからないことを検索もできます。これら全てが消費財であると考えると、スマートフォンという一つの物の登場は多くの消費財を生み出したことになります。

わずか40年余りの間に、これまではこの世に存在しなかった多くの消費財が登場してきたのです。

■消費財が増えると人々の行動はどう変化するか

このように、今まではなかった製品がこの世に登場するのは技術の進歩によるものであり、技術の進歩こそが経済成長の原動力になってきました。

アップル製品の箱
写真=iStock.com/Ekaterina79
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ekaterina79

エジソンは蓄音機や電灯を発明して人々が消費する財の種類を増やしました。これと同じように、スティーブ・ジョブズはiPhoneを生み出すことにより、人々が消費する財の種類を大きく増やしたのです。ここからは、消費できる財の種類が増えることによって、人々の行動、特に子供の数を決める行動がどのように変化するかについて、考えてみましょう。

おこづかいとして5000円のお金を持っているとします。お金の持ち主は、昼食を食べることと、趣味に使う資金を5000円で賄(まかな)っています。学校の近くに昼食を提供するレストランの数が増えた場合、どのように行動が変化するでしょうか。

■選択肢が増えると満足度が高まり、財の消費が増える

一般的には、昼食の選択肢が増えることになります。昼食の選択肢がおにぎりとサンドイッチしかない状態から、カップラーメン、たこ焼きが選択肢に加わると、昼食の楽しみが増えることでしょう。すると、この人は趣味に割いていた予算を減らして、昼食に使う予算にまわすことでしょう。なぜこのような行動の変化が起きるのかというと、昼食に使うお金の価値が上がったからです。毎日500円を昼食に使っていても、選択肢が増えると、500円から感じることのできる満足感が増えるのです。

人々は、高い満足感が得られる活動には、多くの予算を割くようになります。この場合は、趣味と比較して、昼食から感じ取れる満足感が上がったので、昼食に割く予算が増えるのです。一般的に、消費できる財の種類が増えると、財の消費から得られる満足感が高くなります。したがって、人々はより多くの予算を財の消費に回すようになります。

このことを頭に入れた上で、経済成長が進むと、子供の数がどのように変化するかを考えてみましょう。

■消費活動の満足感と子供を持つ喜びの天秤

考えなくてはいけないのは、以下のような状況です。

人々が持っているものは一定の時間です。たとえば、1日なら24時間の時間があります。この時間の振り分け方を考えます。会社に出勤し、働くことに使うと賃金がもらえ、所得が増えます。所得が増えると消費活動を楽しめるようになります。人々は、自分が持つ子供の数も決めます。子供を持つと、そのことから喜びを得ることができます。

しかし、子育てには時間がかかります。子供の数が増えれば増えるほど、多くの時間を子育てに費やさなくてはなりません。すると、犠牲になるのは働く時間です。働く時間が短くなると、手にする賃金の額が減ります。その結果、消費活動から得られる満足感が犠牲になるのです。つまり、人々は子供を持つことからの喜びと、消費活動から得られる満足感を天秤(てんびん)にかけているのです。

こうした前提のある世界で経済成長が起こると、人々が消費可能な財の種類が増えます。経済成長が進んでも、子供を持つことから得られる喜びが変化するようには思えません。一方、経済成長の結果、消費できる財の種類が大幅に増えたことで消費活動から得られる満足感は大きく上昇します。すると、人々は、より多くの消費活動を楽しむために、より長い時間働こうと考えるようになります。

なぜなら、子供を持つことから得られる喜びは経済成長によって変化していないのにもかかわらず、たくさんの種類の消費財を楽しめるようになった結果、お金から得られる満足感が増えたからです。

■消費財の多様化は、少子化の原因の一つ

経済成長の過程で多くの種類の製品やサービスが開発され、消費することができる財の種類が増えると、手にすることのできるお金の価値が上がるのです。すると、人々はより多くのお金を手にするために、より長い労働時間を求めるようになり、育てることのできる子供の数は減るのです。

経済学者の丸山亜希子と私の研究は、経済成長に伴う消費財の多様性の増加により、少子化が進むことを明らかにしました。出生率の低下の一因として、晩婚化、非婚化が挙げられることもあります。図表3と図表4は2020年の国勢調査をもとにそれぞれ日本の男性と女性の年齢別未婚率の推移を表しています。

【図表3】日本の男性の未婚率の推移
日本の男性の未婚率の推移 出所=『大都市はどうやってできるのか』
【図表4】日本の女性の未婚率の推移
日本の女性の未婚率の推移 出所=『大都市はどうやってできるのか』

1920年から時代を経るごとに両方の性別で25〜39歳の人々の未婚率が上がっていることが確認できます。この図は、晩婚化、非婚化が確実に進んでいることを表していますが、少子化の場合と同じようなメカニズムで経済成長によって晩婚化、非婚化が進むことも説明できます。

■女性が結婚を遅らせて、所得を増やそうとする理由

結婚によって仕事をできる時間が減るような(たとえば家事労働時間が増える)場合を考えてみましょう。

日本の場合は、特に女性は結婚によって家事負担の時間が増加すると考えられます。家事労働時間には賃金が発生しません。そして、家事労働時間が増えるにしたがって、賃金を稼げる会社等での労働時間が減ります。すなわち、家事労働時間が増えるにしたがって稼げる所得は減るのです。

結婚で手に入るもの(たとえば自分の好きな人と一緒に過ごせる時間が増える)の価値は経済成長によって変化することがなく、消費活動の楽しみは、消費できる財の種類が増えることを通じて高まります。すると、(特に女性は)結婚を減らして(結婚するタイミングを遅らせて)労働時間を長くし、消費活動を楽しむための所得を増やそうとするでしょう。

日本では、多くの子供は、結婚した夫婦の間に生まれるので、結婚が減ると、子供の数も減ることが予想されます。経済成長の結果、結婚を減らして消費活動を楽しむ所得を増やし、結果として子供の数が減る可能性もあるのです。

■ほぼすべての先進国で少子化が進んでいる原因

産業革命から始まる経済成長を経験したほぼ全ての先進国において、出生率が低下しています。本稿の最初で紹介したように、日本では人口の多い都市部になればなるほど出生率が低くなる傾向にありますが、このような傾向は、世界各国で共通して観察されます。

都市部の出生率が低いことは、東京一極集中の加速とともに、少子化も加速することを意味しています。したがって、都市部で出生率が低くなる要因を理解することは、日本の少子化の要因の一つを理解することにつながります。ここからは、経済活動が集中する都市部で出生率が低くなる原因を考えてみましょう。

川沿いのタワーマンション街
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

都市には多くの企業があつまり、たくさんの人々が住んでいます。その結果、都市の生活費はさまざまな意味で高くなっています。たとえば、東京のような大都市では家賃が大変高くなっています。一般に、供給に対して需要が多ければ、その財の価格は上がります。オークションサイトを利用したことがある人ならわかるように、ある物の値段は、買いたいと思う人の人数が多いと上がるのです。

■大都市の高い生活費は子供の人数を減らす効果がある

大都市では、与えられた土地当たりに住みたいと考えている人の人数が多くなります。すると、土地の値段が上がります。値段の高い土地に建てられた住宅、マンション、アパートの値段は当然高くなります。マンションやアパートが賃貸に出された場合においても、支払われる家賃で土地代や建物の建設費を回収しなくてはならないので、当然家賃が高くなります。

つまり、大都市に住む場合、高い住居費を負担しなくてはならないことになります。さらに、土地代が高いため、それを負担して店舗を経営しているスーパーマーケットが売る商品、レストランが提供する外食等、生活に必要なものの価格が軒並み高くなります。住居費に加え、全ての商品が高い傾向にあるため、大都市では生活費が高くなります。このような大都市の高い生活費は子供の人数にどのような影響を与えるでしょうか。

生活費が高くなることは、持っている所得の価値が目減りしてしまうことを意味します。1カ月の賃金が30万円だとしても、家賃が5万円、食費に5万円という地方都市での生活と比較すると、家賃15万円、食費に7万円かかる東京での生活では、子供の人数が減ってしまうことは容易に想像がつくでしょう。

つまり、大都市の高い生活費は子供の人数を減らす効果があるのです。

■大都市での子育ては経済的なデメリットが大きい

大都市ではさまざまなタイプの集積の経済が働くことにより、労働生産性が高くなることが知られています。労働生産性が高くなると、賃金水準も高くなります。賃金が高くなると、持ちたい子供の人数が変化します。賃金が高くなると、子供を育てることの機会費用が高くなり、働く時間を削って子育てをするインセンティブが減ります。

しかし、同時に賃金が高くなることは夫婦の所得が増えることを意味します。所得の高い夫婦は、たとえお金がかかってもより多くの子供が欲しいと考えるでしょう。賃金が高くなることには、子育ての機会費用を増やして子供の人数を減らす効果と、所得を上げて子供の人数を増やす効果の両方があるのです。

まとめると、大都市に住むと、①生活費が上がる、②賃金が上がることで子供を育てることの機会費用が上がる、③賃金が上がることで所得が上がる、以上の三つの効果が子供の人数に影響を与えます。

①と②の効果は子供の人数を減らしますが、③の効果は子供の人数を増やします。筆者と経済学者の佐藤泰裕の研究によると、①と②の効果の合計は③の合計を上回り、農村や地方都市に住む場合と比較すると、大都市に住むことで子供の人数は減ってしまうのです。つまり、大都市の出生率は低く、人々の大都市圏への移住は、大都市圏での生活費が高いこと、子育ての機会費用が高いことを通じて、子供の数を減らすのです。

■たくさんのレストランがある大都市では「所得の価値」が高い

さきほど、経済成長がもたらす、消費できる財の種類の増加が子供の数を減らすことを示しました。この効果は、大都市でこそ強く働きます。大都市には多くの企業が集積し、たくさんの種類の消費財が売られています。

東京にはたくさんのレストランがあり、地方都市ではあまり見かけないような国の料理を提供するレストランもあります。また、圧倒的に多くのアパレルブランドが店舗を構え、さまざまな種類の洋服を買うことも可能です。

こういった多種多様な消費財は、大都市で暮らす際の所得の価値を上げます。大都市では多くの種類の財があるので、同じ所得でも得られる満足感が高いのです。すると、大都市に住む労働者は子供の人数を減らして、会社での労働供給の時間を増やすことになります。

すなわち、たくさんの種類の消費財を消費することが可能な大都市では、農村や地方都市と比べると、子育てにかける時間を減らすために子供の数を減らす傾向が強くなることがわかります。

■都市に人が集中するほど、子供の数は減っていく

さらに、この傾向は財が地域間を移動する際の輸送費用や、人々が地域間を移動する際の移動費用が減ったりすると、強められます。

山本和博『大都市はどうやってできるのか』(ちくまプリマー新書)
山本和博『大都市はどうやってできるのか』(ちくまプリマー新書)

財の輸送費用や人の移動費用が減ると、多くの企業が一つの地域に集積する傾向が強まります。輸送費用と移動費用が減れば減るほど、多くの企業が一つの地域に集まります。多くの企業が集まる地域では、それら企業が生産する多種多様な消費財の消費が可能になります。すなわち、その地域の生活水準が上がるのです。

このような地域へはますます多くの消費者=労働者が集まってくることでしょう。多くの企業が集まる地域では集積の経済によって高い賃金を稼ぐことができますし、何よりも多種多様な財の消費を楽しむことができます。

こういったメカニズムにより、輸送費用と移動費用の低下は、企業と人々の東京一極集中を進め、その過程で少子化が進んでいくのです。

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山本 和博(やまもと・かずひろ)
大阪大学大学院 経済学研究科教授
京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。専門は経済政策、都市経済学、応用ミクロ経済学。2011年応用地域学会坂下賞受賞。著書に『大都市はどうやってできるのか』(ちくまプリマー新書)、共著に『空間経済学』(有斐閣)がある。

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(大阪大学大学院 経済学研究科教授 山本 和博)

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