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なぜ北海道の過疎地でも成り立つのか…大手コンビニの真逆を行く「セイコーマート」の独自モデル

プレジデントオンライン / 2022年9月26日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

北海道のコンビニといえば「セイコーマート」だ。道内全179市町村中175市町村に店があり、業界最大手セブン‐イレブンの120を超える。なぜセコマは過疎地にも出店できるのか。北海道新聞の浜中淳記者の著書『奇跡の小売り王国「北海道企業」はなぜ強いのか』(講談社+α新書)からお届けする――。(第1回)

■異彩を放つコンビニ「セコマ」の神対応

北海道南西部で18年9月6日午前3時過ぎに発生した最大震度7の北海道胆振東部地震は、道内全域が連鎖的に停電する〈ブラックアウト〉を引き起こした。

この未曽有の事態によって道内の生活インフラは一時的に麻痺し、チェーンストアは通常営業ができないだけでなく、主力商品を〈作れない〉〈運べない〉苦境に直面した。

中でも、高度なシステム化が裏目に出たのがコンビニだった。

ナショナルチェーンの店頭には、地震から1週間たっても、弁当が満足に並ばない状態が続いた。本部が全国の契約工場向けに定めている弁当の規格に、北海道内の工場が十分対応しきれなかったからである。

たとえば、漬物工場の稼働が遅れたため、他の食材はすべてそろっているのに、本部の定めた『幕の内弁当』として販売ができないといったケースが続いた。全国どの加盟店にも同じ商品を用意するのは、フランチャイズチェーン(FC)制度の基本ルール。停電の影響でたった一つのパーツが欠けるだけでも、契約上、商品として売ることはできない。その厳格さが、皮肉にも緊急時の商品供給の妨げになった形である。

こんな時にも異彩を放つコンビニがセコマだ。

ブラックアウト下の9月6日早朝から、大半の店が営業を開始。店内調理設備『ホットシェフ』が併設されている店舗のうち、ガス釜のある約500店では、従業員が急いで米を炊き、おにぎりを握って販売した。

昼過ぎにはおにぎりの具材が底をついたが、客の行列は途切れない。そこで、通常メニューにはない塩と白米だけの“塩にぎり”をつくり、提供を続けた店もあった。

■大手コンビニの真逆を行く「セコマ」の強み

丸谷智保社長(1954-)=現会長=は地震発生時、東京に出張中だった。当日の午後に札幌に戻ると、従業員が自ら判断したとの報告を受け、「うれしかった。涙が出そうになった」という。

何もかもが契約、規格に縛られるナショナルチェーンと対照的に、直営店が大半を占め、臨機応変な対応をしやすい特徴が緊急事態で鮮やかに生きた。

全域停電中に1000店以上が通常に近い形で営業できたのは、東日本大震災(2011年)を教訓に、事前に大地震対策に手を打っていたからだった。ガソリン車につなぎ、エンジンをふかすと発電できる非常用キットを全店に常備。ガソリン満タンなら1日以上発電を続けられるという優れ物で、これによってレジを動かすことができた。

16年に建て替えられた釧路の新物流センターには、自家発電設備と3週間分の燃料備蓄機能を備えていた。胆振東部地震の震源地から離れていた幸運もあり、備蓄していた燃料を活用して自社物流網を維持できたという。

ブラックアウトのさなか、温かなおにぎりを出したセコマに対し、ネット上には〈神対応〉と称賛する書き込みがあふれた。それは偶然にもたらされたものではない。後述するセブンの特色である〈持たざる経営〉とは真逆のビジネスモデル、製造ー物流ー販売すべてを自社でコントロールするセコマ流〈持つ経営〉の底力の発露であったのだ。

■北海道民に支持されるワケ

胆振東部地震の際にセコマが道民の支えになれた理由は、充実した店舗網にある。

道内全179市町村中175市町村に店があり、北海道の総人口の99.8%をカバー。店舗の数ではいい勝負をしているセブンも出店市町村数は120にとどまる。

セブンが店を出せない過疎地や離島でもセコマのオレンジ色の看板を見つけることができる。北海道においては、セコマこそが《お客様の生活拠点として「便利の創造」を続ける》コンビニだといえる。なぜセコマは地元住民に支持されているのか。

その理由は、セブンの〈変化対応〉のさらに上を行く〈変化を先取りする力〉にある。

道外の人がはじめてセコマの店に入って、まず驚くのが売り場に並ぶPB商品の圧倒的ボリュームだろう。同社が〈リテールブランド〉と呼ぶ自社開発商品は、加工食品、酒・飲料、日配品、総菜、冷食、菓子、日用品にまで及び、すでに1000種類を超えている。

さらに驚かされるのが価格設定で、500mlペットボトルのお茶が1本100円、おにぎりが1個100円、道産食材を使った総菜の小分けパックも1個100円……。100円ショップなのか、と言いたくなる安さだ。

もう一つの特徴が、丼物などの店内調理コーナー『ホットシェフ』である。できたてのカツ丼や豚丼が540円(店によって変動あり)とこちらも安い。北海道には商店や飲食店が成り立たないような過疎地が数多くあり、セコマがそうした地域の住民にとってのライフラインの役割を果たしているのだ。

セコマがPB商品第1号のアイスクリームを投入したのは95年、ホットシェフの展開を始めたのが94年のことである。セブン&アイグループのPB『セブンプレミアム』の登場が07年、ローソンの店内キッチン『まちかど厨房』の登場が11年……ということは、大手チェーンの取り組みを10年以上先取りしていたことになる。

■天性の勝負勘を持つ経営者の手腕

日本のコンビニは、もともと24時間営業の利便性によって成長してきた業態である。

1990年代までは店を出せば売れる時代が続き、商品、価格、サービスは普通だった。ナショナルチェーンが独自商品の開発や多様なサービス展開に力を入れ始めるのは、21世紀に入り、店舗数が飽和状態になってからのことだ。

そうした中で、セコマは全国チェーンが10~15年後になって後追いするサービスにいち早く取り組んできた。興味深いのは、24時間営業は当初から重視せず、全店の2割程度にとどまることだ。近年、大手コンビニを悩ませている長時間営業問題は最初から存在していないことになる。

こうした〈変化を先取りする力〉は、実質的な創業者である赤尾昭彦氏(1940-2016)の手腕によるところが大きい。天性の勝負勘を持つ経営者――そう表現するしかないほど、赤尾氏は常に時代の先手を打つ経営判断を下してきた。そもそも彼がコンビニという業態に着目したこと自体、大手の数年先を行くものだったのだ。

■酒店を救うために生まれた「日本最古のコンビニ」

70年代初頭、札幌の老舗酒類卸、丸ヨ西尾の社員だった赤尾氏が、得意先の酒店の経営支援策として立ち上げたコンビニ事業がセコマの原点である。当時の北海道は、コープさっぽろを筆頭にスーパーマーケットが台頭し、個人酒店は窮地に立たされていた。

《小規模ながら科学的な経営で成長しているアメリカの新業態「コンビニエンスストア」》――。赤尾氏は職場で偶然目にした雪印乳業の広報誌の記事をヒントに、独力で情報を集め、70年ごろから酒店の店主にコンビニへの転換を呼びかけた。

そして71年8月10日、現在の札幌市北区で食料品、日配品、酒などを取り扱っていた個人商店が『コンビニエンスストアはぎなか』としてリニューアルオープンする。

それから50年、現在も『セイコーマートはぎなか店』として営業を続けるこの店は、セコマ1号店であると同時に、現存するコンビニで日本最古の店である。日本で最初に『コンビニエンスストア』の看板を掲げたのも、おそらくこの店ではないかと思われる。セブンが東京・豊洲に1号店を出すのは、それから3年後のことだ。

日本のコンビニの元祖がセコマだと強調するつもりはない。重要なのは、セコマというチェーンが、セブンを頂点とする日本のコンビニ文化とは別の流れから誕生し、独自のビジネスモデルを築き上げたという事実である。

田舎のみち
写真=iStock.com/AaronChoi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AaronChoi

■徹底した分業で成長した全国チェーン

日本のコンビニの隆盛をもたらしたのは、徹底した分業体制だ。本部と外部の店舗オーナーがFC契約を結び、本部が商品供給、FC加盟店が店舗運営を分担して利益を分け合う。現在、ナショナルチェーンの店舗の約9割はFC加盟店である。

加盟店は優れた商品、サービスの供給を受ける代わり、商品代金、店舗物件の賃貸料、アルバイトの人件費など店舗運営に必要なコストの大半を負担し、加盟金や経営指導料(ロイヤリティ)を本部に納める。

本部は資産や人材を背負い込まず、身軽でいられるため、チェーンを加速度的に拡大できる。このビジネスモデルを国内でいち早く取り入れ、74年に1号店を開業したセブンの店舗数は29年後の03年に1万店、その15年後の18年に2万店に達した(22年5月末現在で2万1337店)。

本部の方針通りに商品をつくり、運ぶのは本部と契約した外部の専門企業である。セブンの場合、食品メーカーなどがセブン専用の商品を製造する工場が全国に160以上あり、それらの商品は国内20を超す物流企業が各地で共同展開するセブン専用の配送センターを介して店舗に届けられる。

現場のコストを負わないコンビニ本部は、常に最先端の商品・サービスを生み出す“最高級の頭脳”であり続ける責任がある。その難題をクリアし、国内で他の追随を許さぬ〈王国〉を築いたのがセブン‐イレブン・ジャパンという企業だとの言い方ができる。

■「持つ経営」で競争力を高めた

そのセブンも進出できないような北海道の過疎地、離島に店を出し、なおかつ都市部のスーパー顔負けの低価格を打ち出しているのがセコマというコンビニなのだ。

なぜ、そのようなことが可能なのだろうか。

セブン‐イレブン・ジャパンは、自らは資産を持たず、外部の専門業者へのアウトソーシングと分業で効率的なチェーン運営を行う〈持たざる経営〉で国内の頂点を極めた。対するセコマはそれとは正反対の〈持つ経営〉とでも呼ぶべき手法で北海道における競争力を高めてきた。

その象徴が、97年から03年にかけて約80億円の資金を投じ、釧路、旭川、函館、稚内、札幌、帯広の順に建設した自社の物流センターである。

北海道全域にいち早く自前の物流網を構築し、店舗への配送を自力で行う体制をつくり上げた。赤尾氏は社長時代の04年のインタビューで、その理由を「SKUの少ないコンビニは自前の物流システムを持ったほうが有利ではないかという考えがあり、思い切って投資した」と説明している。

■北海道の過疎地ではセブン方式は通用しない

赤尾氏の発言の真意は、セブンの店舗配送と比較すると理解しやすい。

前節で触れた通り、セブンは店舗配送業務を20を超す物流企業に外注しており、専用の共同配送センターは、プラス20度で温度管理された〈米飯〉(弁当、おにぎり、焼きたてパンなど)、〈常温〉(酒類・飲料、カップ麺、菓子、雑貨類など)、プラス5度の〈チルド〉(サンドイッチ、惣菜、サラダ、麺類、乳飲料など)、マイナス20度の〈フローズン〉(アイスクリーム、冷凍食品など)の4温度帯ごとに施設が分かれる。各温度帯を得意とする物流企業が中心となって各施設の運営と商品配送を請け負う形である。

店舗への納品は、商品の回転が速く、消費期限の短い〈米飯〉が一日3~4回、〈チルド〉が一日3回、〈常温〉が週2~7回、〈フローズン〉が週3~7回の頻度で、ほかに雑誌などの出版物が取次業者の専用便で運ばれてくる。

各店舗への納品回数は原則、全国一律だ。温度帯や商品カテゴリーごとに決まった頻度で配送する仕組みはシステマチックで合理的だが、どんな環境下でも効率的に機能するとは限らない。非効率の典型が北海道の過疎地である。

■施設を持ち、物流をコントロールするほうが有利

コンビニ1店当たりの商品数は、1アイテム1SKUを基本にトータル3000SKU程度。商品の種類は多いが、数は少ない。

北海道でも、札幌のように店舗の数が多く、物流センターから近い都市部であれば、商品カテゴリーごとにトラックを複数台に分けて運ぶことに問題は生じない。

ところが広大な北海道の多くを占めるのは、物流センターから遠く、人口密度の低さに比例して店舗の密度も低い地方の町村だ。

こうした地方の店舗向けにカテゴリー別の配送を行うと、トラックの荷台はほとんど埋まらず、燃料代ばかりがかさんでいくことになる。

この問題を解決するため、セコマは、遠隔地向けの配送は1台のトラックに各カテゴリーの商品を混載して一日1回、都市部は温度帯別に一日3回……などと店舗の立地やコストを勘案し、配送の仕方を変えている。

柔軟に配送方法を変えるには、自前の施設を持ち、自分たちで物流をコントロールするほうが有利だという考え方である。

■「北海道では何でも自分でやるしかない」

セコマの〈持つ経営〉と北海道の事業環境は表裏一体の関係にある。「専門業者の少ない北海道では何でも自分で考えてやらざるを得ない」。赤尾氏は自らの発想の原点をそう述べている。

隔絶された経済圏である北海道は、事業分野によっては本州企業の進出が遅れ、専門性の乏しい地元企業が生き延びる“ぬるま湯”の一面がある。そうした地元業者は本州企業が進出してくれば、あっという間に吸収されるか、淘汰される。

浜中淳『奇跡の小売り王国 「北海道企業」はなぜ強いのか』(講談社+α新書)
浜中淳『奇跡の小売り王国「北海道企業」はなぜ強いのか』(講談社+α新書)

いずれにせよ専門業者間の競争が少なく、外注しても品質、コスト両面で十分なメリットを得られない場合が多い。

コンビニ業界ナンバーワンの販売力とブランド力を背景に、日本全国の名うての専門業者を競わせ、もっともコストパフォーマンスの高い企業を外注先に選択できるセブンとは、事業環境が根本的に異なるのだ。

わらべや日洋ホールディングスという東証プライム上場企業をご存じだろうか。

セブンが日本に1号店を出した直後から弁当、おにぎり、惣菜を納入している食品メーカーである。全国にセブン専用の工場を23ヵ所持ち、22年2月期の連結売上高1923億円の実に78.6%をセブンとの取引が占めている。セブンにとって最大の外注先企業である。

これほどの実績がある企業であっても、セブンは商品に対する高い要求水準を緩めない。たとえば、15年秋に発売したチルド弁当の開発をわらべや日洋に任せたものの、試食したセブンの担当者が「品質に満足できない」と評価を下した結果、製造は別の業者に依頼されることになったという。

■大災害時に示した「持つ経営」の底力

専用工場を全国に持つほどの取引関係になっても、セブンが納得いかなければ別の企業に取引を切り替えられてしまう。外注先企業にとっては死活問題、ライバル企業にとっては千載一遇の好機である。

もともと力のある専門企業が常に緊張感を持って開発に取り組まざるを得ない状況が、セブンの高い商品力につながっているわけだ。

対するセコマは、地元に頼れる専門業者が少ないという事情に加え、純粋な事業規模だけをとれば、道外を含め1176店、全店売上高1837億円(20年)の中堅チェーン。セブンと同じ土俵で勝負しても、セブンの商品力を超えるのは不可能だ。

そこでセコマは、食品工場を自分で持ち、自社ブランドの食品、酒、飲料のほとんどを自家生産する体制を整えてきた。セブンのように自分たちの思い通りの商品を外注先につくらせることは難しい。ならば、自分自身でつくってしまおうという発想である。

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浜中 淳(はまなか・じゅん)
北海道新聞社 経済部 デジタル委員
1963年東京生まれ。北海道大学経済学部経済学科卒、1989年北海道新聞社入社。記者として浦河支局、旭川支社報道部、東京支社政治経済部、札幌本社経済部などに勤務。2016年論説委員、2020年札幌本社経済部長を経て、2022年7月から現職。著書に『奇跡の小売り王国「北海道企業」はなぜ強いのか』(講談社+α新書)、『ルポ 生協 未来への挑戦』(共著、コープ出版)がある。

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(北海道新聞社 経済部 デジタル委員 浜中 淳)

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