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あなたは「カモノハシの赤ちゃん」の画像を探せるか…拡散情報にダマされる人が検索でやりがちなこと

プレジデントオンライン / 2022年9月28日 9時15分

「カモノハシ 赤ちゃん」でグーグル検索した結果。

ネットではたびたびウソ情報が広がってしまう。なぜ多くの人がダマされてしまうのか。中高生向けにメディア情報リテラシーの授業をしているインフォハント代表の安藤未希さんは「『自分は大丈夫』と過信しないほうがいい。たとえばグーグル検索の上位に出てくる記事や画像にもウソ情報は含まれている」という――。

■「カモノハシ 赤ちゃん」で検索をしてみると…

「カモノハシの赤ちゃんの、正しい画像をネット検索で調べてください」

これは私が中高生向けの授業でよく出すクイズです。読者の皆さんは「そんなの、グーグルで検索すれば一発じゃないか」と思われるのではないでしょうか。実際、検索してみて「ほら、上位に出てきたこれが『カモノハシの赤ちゃんの画像』だろう」とさらに確信を強めるかもしれません。

ところが、現時点でグーグルの画像検索で上位に出てくる「カモノハシの赤ちゃん」の画像にはニセモノがあります。そのニセモノ画像は、よくみると写真説明に「可愛いと思ってもこの『カモノハシの赤ちゃん』を拡散しないで下さい」と書かれています。リンクを開くと、「これはセルビア人のアーティストが造った彫刻である」という「VAIENCE」というサイトの記事が出てくるはずです。

「VAIENCE」や「ファクトチェック・イニシアティブ」のサイトを確認すると、アーティストがインターネット上で作品を発表した後、第三者が「カモノハシの赤ちゃん」としてSNSで拡散してしまったことがわかります。その結果、グーグルの検索アルゴリズムで上位表示されるようになってしまったようです。

みなさんも落ち着いて読めば、画像検索で出てきたものを「ニセモノの画像」だと判断できるでしょう。ところが、写真説明を読み飛ばしていると、パッと見ただけで判断してしまうかもしれません。グーグル検索の上位にも「ニセモノの画像」が出てくる恐れがあるのです。

土佐塾中学・高等学校で授業を行う安藤さん。
写真提供=土佐塾中学・高等学校
土佐塾中学・高等学校で授業を行う安藤さん。 - 写真提供=土佐塾中学・高等学校

■画像は本物だが、添えられた説明が間違いなケースも

私は現在、インフォハントという会社を立ち上げ、主に中学や高校でメディア情報リテラシーやファクトチェックの授業をしていますが、ある中学校でこの「カモノハシの赤ちゃん」クイズを出題した時には、「早く見つけられた人、上位3人にステッカーをあげます」などと速さを競わせたこともあり、引っかかってしまった生徒たちがいました。

生徒たちは早く正解を出そうと焦ったことに加え、「検索したら上のほうに出てきたから本物だと思ってしまった」と言います。

こうした事例はほかにもあります。たとえば、2016年4月の熊本地震の際に、「うちの近くの動物園からライオン放たれたんだが 熊本」のコメントとともに市街地を歩くライオンの画像をツイッターに投稿したケースです。

この投稿は拡散されて大騒ぎになり、「もしかしたら」と不安に思った大勢の人たちが、真偽を確かめるべく熊本市内の熊本市動植物園に電話しました。熊本市動植物園の職員は100件を超える電話対応に追われることとなり、熊本県警はツイートをした神奈川県の男性を偽計業務妨害の疑いで逮捕。男性はその後、不起訴処分(起訴猶予)となりました。

厄介なのは、この画像そのものは本物であることです。朝日新聞のwithnewsはこの写真の出所を調べ、南アフリカのヨハネスブルクで、映画の撮影中に撮られたものだったと報じています。つまり「動物園から逃げ出した」というのはウソ情報ですが、市街地にライオンがいるという画像そのものは本物で、ウソではないのです。

よくみれば、映り込んでいる信号の形式などは明らかに日本ではありません。早とちりをしなければ、ウソ情報だと見抜けるはずですが、混乱の中で「多くの人に知らせなければ」という善意を持った人たちによって、こうしたデマはあっという間に広がってしまいます。

■「うわ、だまされた」…中高生が引っ掛かった画像

また、東京五輪の聖火リレーでもデマ情報が出回りました。2020年に予定されていた東京五輪はコロナの影響で一年延期になり、2021年3月に聖火リレーが行われていました。その際に、ノーマスクのスタッフたちが沿道の人に手を振っている画像と共に「コカコーラのイメージめっちゃ悪くなった」と、ノーマスクを批判しているようにも受け取れるコメントが、ツイッターに投稿されました。

聖学院中学校・高等学校で安藤さんが講演している様子。
写真提供=聖学院中学校・高等学校
聖学院中学校・高等学校で安藤さんが講演している様子。 - 写真提供=聖学院中学校・高等学校

インターネットメディアのInFactは、これについて検証を行っています。このツイートは当時、3000リツイート、1万いいねを超える反響を得ましたが、投稿された画像は、実際には前年のコロナ流行前に行われたリハーサル時に撮影されたものだったのです。元のツイートには確かに「2021年の画像です」などの誤った説明がついていたわけではありませんでしたが、投稿されたタイミングから見た人の多くが「2021年現在のものである」と思い込んでしまうというミスリードを引き起こしてしまいました。

これらは「どこが間違っているのか」「間違えないためには何を確認すればいいのか」という事例として、授業でも活用しています。「実は事実とは異なるんです」と説明した時の生徒からの反応は大きく、時には「うわ、だまされた」「ヤバいな……」といった声も聞こえてきます。子どもたちにとっても、「うっかり本当だと思ってしまったけれど、実は誤っていた」という体験には、新たな発見があるのでしょう。

授業後の感想シートにも、「ネットに掲載されていることは事実だと思っていた。しかし必ずしもそうではなかった。生きていくうえで必要なことを知ることができた」と書いてくれた生徒もいたほどです。

■今の子どもたちはYouTubeで情報に触れている

また一方で驚いたのは、先に紹介した「町中にライオン」の画像は、2016年、つまり6年前に拡散されたものなので、中高生の年齢からすれば「大昔に話題になった」ものなのですが、かなりたくさんの子どもたちが「知っている」「見たことがある」という点です。一体どこで見かけたのか聞いてみると、YouTubeだというのです。

確かに今の子どもたちは幼い頃からYouTubeで「おもしろ動画」などを見ていますから、その中で目にしていたのかもしれません。しかし「その画像は見たことがあり、知っている」けれど、「それがどんな文脈で使われ、問題になったか」までは知らない子どもも多い。また、「嘘なんでしょ」ということまでは知っていても、ライオンの画像が合成やCGだから嘘なんだと思っている子どももおり、「何がどう嘘なのか」までは把握できていません。

これでは「嘘だと知っていたから判断できただけで、知らない画像についてはだまされてしまう」、つまりリテラシーの再現性がないことになります。そのため、「何がどう間違いなのかを皆で考えてみよう」と授業で取り上げ、生徒と一緒にじっくりと画像の観察を行います。すぐには気が付かない生徒でも、時間を取って冷静に観察すると「何がどう嘘なのか」を自分自身で見つけることができます。答えが出ない場合には、画像を見分けるヒントを出すなどして、楽しみながら、自然にリテラシーを身に付けられるように教えています。

■カナダのオンタリオ州ではメディアリテラシー教育を義務教育に

私がメディア情報リテラシー教育の重要性を知ったのは、一昨年まで在住していたカナダでの経験によるものです。カナダでは友人との会話で「新聞に環境問題についてこう書いてあったよ」と話題を振ると「どの新聞? どんなふうに書いてあったの」と媒体名まで確認されることが多くありました。

私が住んでいたトロントがあるオンタリオ州が、世界で初めて義務教育にメディアリテラシー教育を取り入れた自治体だった影響もあるのでしょう。日本との情報に対する感度の高さやメディアリテラシーの差を生活の中で実感することが何度もあったのです。

その影響で私もメディアリテラシーやファクトチェックに関心を持つようになり、実際にファクトチェッカーとして活動する中で、「日本にもメディア情報リテラシー教育が必要なのではないか」と思うに至りました。

取材中の安藤未希氏
写真提供=安藤未希

「メディア情報リテラシー」や「ファクトチェック」、あるいは「子どもとインターネットの付き合い方」というと、どうしても「だまされてはいけない」「間違いを拡散してはいけない」「知らない人とのやり取りは危険」などと言った恐怖訴求によって「正しく使える方法」を教えようとするものが多くなってしまいます。

■ファクトチェックの基本は「意見と事実を分けて考える」こと

しかし一方で、子どもたちはデジタルネイティブ世代であり、ネットやSNSを遠ざけては生きていけない社会にもなっています。そこで私は楽しみながら情報を探し、見つけ、中身(情報の真偽や、発信者の意図)を確認することはできないか、と考えてきました。

イースターというアメリカやイギリスで行われるキリスト教の行事では、庭や広場に隠された色とりどりの卵を探して集める「エッグハント」が行われますが、この「エッグ(卵)」を情報になぞらえ、楽しみながら「メディア情報リテラシー」を身に付けてほしい、との思いから、社名を「インフォハント」としました。

現在は、学校の先生方の口コミや私自身の営業で、学校でのメディア情報リテラシー教育の出張授業を手掛けています。

ファクトチェックというと、現在の日本ではどうしても党派性や、相手の意見を批判するための道具だと思われてしまうこともありますが、ファクトチェックの基本は「意見と事実を分けて考える」ことにあります。あくまでも事実に立脚しながら、自由にものを考え、自分の意見を持つ。そうして一人ひとりの意見を尊重し、多様な意見や立場が尊重される社会をつくりたい、というのが私の思いです。

ある生徒さんが言ってくれたように「情報を読み解く力」はまさに「これからを生き抜くために必要な力」。日本でのメディア情報リテラシー教育に取り組んでいきたいと思います。

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安藤 未希(あんどう・みき)
インフォハント代表
1986年生まれ。獨協大学卒業、司書資格取得。ハンバーカレッジ人事マネジメントコース修了。日本国内企業、外資系企業を経て、2021年からメディア情報リテラシーを普及させる活動を開始。22年4月インフォハントを設立。ファクトチェック独立系専門メディアである一般社団法人リトマス理事。 オフィシャルサイト:インフォハント/リトマス

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(インフォハント代表 安藤 未希 構成=梶原麻衣子)

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