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なぜリベラル派はカフェでラテを飲むのか…いつの間にか情報が偏ってしまう「社会的分断」の怖さ

プレジデントオンライン / 2022年9月23日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jokic

日々、ネットで触れる情報は、私たちにどのような影響を与えているのか。東京大学大学院の鳥海不二夫教授は「人間はもともと価値観の合う人と一緒にいたいという欲求を持っている。デジタル空間ではそれが容易に叶うため、狭いコミュニティの中だけで情報や意見を交換するようになり、社会の分断が加速している」という――。

※本稿は鳥海不二夫、山本龍彦『デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康をめざして』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

気づかぬうちに偏るSNSの情報

SNS上で自分と似た価値観や興味関心を持つユーザーばかりをフォローした結果、特定の信念が増幅されてしまう現象を「エコーチェンバー現象」といいます。

ツイッターにおいて自分のアカウントがどのくらいエコーチェンバーの中にいるのかを可視化できたら面白いのではないかと思い、2021年に「エコーチェンバー可視化システム」というアプリをリリースしたことがあります。

このアプリでは、ある人がどの程度エコーチェンバーの中にいるかを、タイムライン上の偏りから可視化します。もし、幅広いタイプのユーザーのツイートがタイムライン上に存在するなら、その人はエコーチェンバーの中にはいないことになります。逆に、特定のコミュニティの人のツイートばかりタイムライン上にあるようなら、エコーチェンバーの中にどっぷり浸かっていることになります。

自分で使ってみたところ、私のツイッターアカウントはエコーチェンバー度上位10%に入っており、かなり強いエコーチェンバーの中でタイムラインを眺めていることがわかりました。確かに、私は研究者やIT技術者を数多くフォローしているため、これらの投稿を見ることが圧倒的に多くなっています。もちろん興味の対象がそこにあるので、そういったユーザーとつながるのは無理もありません。また、タイムラインで関心のある話題が流れてくることにも満足していました。

ミュートやブロックで構築されていく“居心地の良さ”

本当の意味で多様であろうとするならば、例えばアイドルや鉄道のマニアックな話をツイートしているアカウントもフォローするべきなのかもしれません。しかし、あまり興味のないツイートばかり見ても楽しくないため、自分が知りたい情報をフォローするアカウントをフォローしていたようで、これによって自分と価値観がよく似た人たち、私の場合は研究者やIT技術者に囲まれるようになり、居心地の良い情報環境を構築していました。

もし自分の価値観に対して否定的な反応を送るアカウントがいたとすると、そのような情報がタイムライン上に流れる情報空間は決して心地良いものではないでしょうから、タイムラインにできるだけ現れないようにフォローを避けるでしょうし、ミュートやブロックをすることがあるかもしれません。

例えば私の場合、「大学なんて意味がない」と主張する人が何十人もいるタイムラインになったりすると、大学教員としては居心地が悪くなりそうです。結果として、「もっとこういう研究予算が欲しいね」みたいな話で盛り上がれる環境を選んでいくことで、エコーチェンバーが形成されていきます。

人間はもともと価値観の合う人と集まっていたい

しかし、このエコーチェンバーを一歩出れば、「日本学術会議はとんでもない連中だ」とか、「日本の研究者はろくでもない奴ばかりだ」と主張している人たちもそれなりに存在します。自分はエコーチェンバーの中の快適な空間にいるので、そういった意見に触れずに済んでいるわけです。網羅的に見ればそういった人たちもいるんだ、ということを時々思い出さなければ、世間と感覚がずれてしまうかもしれません。

こうしたエコーチェンバー現象は、SNS特有のものではありません。

人間はもともと価値観の合う人と集まっていたいという欲求を持っています。しかし、それを実現するのは物理的に困難でした。自分とよく似た価値観の人を歩いて探し回ろうとすると、大変な作業です。ましてや、そういった仲間とだけコミュニティを作る手段などありませんでした。しかし、デジタル社会の実現によって、検索エンジンを使えば、自分とよく似た価値観を持っている人を容易に探すことが可能です。また、ネット上では物理世界で不可能な数の人々とつながることも可能です。

問題は「分断」が加速すること

例えば100人に会って一人しかいない価値観を持った人は、リアルな社会では同じ価値観を持った人にほとんど出会えないのですが、ネット上に100万人いれば1000人の仲間を見つけることができる可能性があります。その1000人の仲間でコミュニティを作ってしまえば、簡単に居心地の良い情報環境を作り出すことができます。

これこそが、ネット社会でエコーチェンバーができやすくなった要因です。

エコーチェンバーという概念は、インターネット普及以前からありましたが、大きな社会問題として認識され始めたのは、トランプが米大統領に選出された2016年選挙です。フィルターバブルやフェイクニュースも同様に、インターネットが本来持っていたリスクとして、この時期に大きな問題と認識されるようになってきました。

トランプが大統領に選出された後、米国の主要都市で抗議デモが起こった。2016年11月13日、米国ペンシルバニア州
写真=iStock.com/Bastiaan Slabbers
トランプが大統領に選出された後、米国の主要都市で抗議デモが起こった。2016年11月13日、米国ペンシルバニア州 - 写真=iStock.com/Bastiaan Slabbers

では、フィルターバブルやエコーチェンバーが発生すると、何が問題なのでしょうか。その問題の一つは、社会の「分断」や「極化」が加速していくことです。

分断とは、「自分たち」と「自分たち以外」というように、世の中を分けてしまうことです。「自分たちは正しい。正しい自分たちの考えに反対するあいつらは全部間違っている」という考えが進むと、自分たちと異なる価値観を持つ人々を排除する可能性があります。

異なる価値観を持つ意見に出会うことは難しい

エコーチェンバーの中にいれば、たとえ一般的には間違っている発言をしても「そうだそうだ」という同意の反応が返ってきます。同じ考えを共有しているエコーチェンバーの中であれば「地球は平らである」と言っても、「その通りだ」と賛同してくれる人たちばかりがいるわけです。

そういった価値観を持っている人々の集団の中では、たとえ異なる意見を持っていたとしても、話を合わせるために意見を変えてしまうかもしれません。あるいは、集団内での地位を高めるためにより過激な言動をしてしまうこともあります。その結果、次第に周りの人たちと同調し、どんどん意見が一つに集約され、凝り固まっていきます。

もし「それは違う」と言う人が現れれば、異なる意見や価値観もあるなと気づく可能性がありますが、エコーチェンバー内では異なる価値観を持つ意見に出合うことが難しいため、分断が加速していってしまうのです。

情報の偏りは命も脅かす社会病理

2022年1月、慶應義塾大学大学院法務研究科の山本龍彦教授やデジタルプラットフォーム関係者と一緒に「健全な言論プラットフォームに向けて――デジタル・ダイエット宣言 version.1.0」という共同提言を出しました。

その前文では、「フェイクニュースやインフォデミックを、人々の命も脅かす深刻な社会病理と考える」と書きました。命を脅かすという意味では新型コロナウイルスを巡るフェイクニュースが典型例です。

幸いなことに、新型コロナウイルスに関しては日本では大半の人々は冷静な対応をし、重傷者や死亡者数は低く抑えられています。日本人の情報リテラシーが高かったという面もありますが、今回はたまたまそうなっているにすぎない可能性があります。間違った情報によって適切な公衆衛生が実現できない可能性はいつでもあります。

ワクチン
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

海外では新型コロナワクチンに関する様々なフェイクニュースによって、ワクチン接種を控える人々が多く出た例もあります。また、イランではメタノールが新型コロナウイルスに効果があるという偽情報が拡散した結果、5000人以上が被害に遭い700人以上が亡くなったとも言われています。

社会病理を解決する方法は確立していない

対立する二つの情報があったときに、自己決定をどのように行うべきかは、極めて難しい問題です。エコーチェンバーやフィルターバブルの中にいると偏った情報しか見ることができないため、命を守る情報すら自ら遠ざけている可能性があります。

このような場合は「自分できちんと調べればよい」というわけでもありません。果たして自分は十分に多様な情報に接触できているのかを判断することは困難です。また、逆に多様な情報に接触することによって、本来接触する必要のなかったフェイクニュースを信じてしまう可能性もあります。

この社会的病理を解決する方法はいまだ確立していないのです。

政治イデオロギーが趣味・嗜好にも影響を与える

2010年代にアメリカの社会学の論文誌に「なぜリベラルはラテを飲むのか」という面白い論文(※)が発表されました。

※:DellaPosta, D., Shi, Y., & Macy, M. (2015). Why do liberals drink lattes?. American Journal of Sociology, 120( 5 ), 1473-1511.

人間の性質として、人は同じ価値観を持っている人たちに影響されやすい傾向があるのですが、それによって政治的イデオロギーがまったく関係ない趣味・嗜向にも影響を与えているということを示した論文です。その例として、リベラルとラテの話が出ています。

リベラルな人たちの中にはラテが好きな人たちが一定数います。すると、リベラルコミュニティ界隈では皆がラテを飲んでいることになります。周りが皆そうしているのだから自分もラテを飲まなきゃいけないという気になります。

ウィンドウの話でカフェで長いテーブルに座っている 4 人の友人
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

リベラル派の人たちの中では、「カウチに座ってポテチを食べながらダイエットコーラを飲むのが好き」とは言いづらい空気があります。それは保守派の人たちの典型的な姿だからです。リベラルな人は、おしゃれな西海岸のカフェでラテを飲まなくてはならなくなります。こういうことがどんどん積み重なっていくと、起きるのは「極化」です。

保守よりリベラルの方が「エコーチェンバー度」が高い

日本では、政治的イデオロギーによってどのような違いが表れているのでしょうか。

最近出版された論文(※)では、リベラル系のほうがエコーチェンバー度が高い傾向があることが示されています。

※:Yoshida, M., Sakaki, T., Kobayashi, T. et al. (2021). Japanese conservative messages propagateto moderate users better than their liberal counterparts on Twitter. Scientifi

この研究ではツイッター上のアカウントを、安倍元総理を支持するか支持しないかで、リベラル、保守、中間層に分けて分析しています。

安倍元総理に関するツイートがそれぞれのコミュニティでどの程度拡散しているかを分析すると、安倍批判のツイートを拡散している人の大半は、同様のツイートを10回以上拡散しているリベラルなアカウントであることが示されました。これはかなりコアの「反安倍政権」の人々です。一般に政治的なツイートを10回もするアカウントは、それほど多くありません。安倍元総理批判のツイートの約9割はそういう人たちが発信したツイートでした。

このようなアカウントが作っているコミュニティを分析して見てみると、これらのアカウントは主にお互いにフォローする関係にあることがわかりました。

すなわち、外部とのつながりが少ないコミュニティを形成し、リベラルはリベラル同士で関係性を作る割合が高くなっていたのです。すなわち、リベラルなアカウントが好む安倍元総理を批判するようなツイートは内部でのみ拡散している、エコーチェンバー現象が起きていることがわかったのです。

目に見えないものを想像するのは難しい

この傾向は2017年の衆議院選の時に既に見られました。

立憲民主党はこのとき設立されたのですが、立憲民主党のツイッター公式アカウントのフォロワー数が、自民党の公式アカウントのフォロワー数を超え、ネット上では立憲民主党の人気が高まったとも言われました。

鳥海不二夫、山本龍彦『デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康をめざして』(日経プレミアムシリーズ)
鳥海不二夫、山本龍彦『デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康をめざして』(日経プレミアシリーズ)

ところが、公式アカウントから発信された情報がどのぐらいの規模で広まったかを分析すると、自民党の公式アカウントのほうが拡散する力が強かったことがわかりました。フォロワーの数は立憲民主党が多かったにもかかわらず、広がりは自民党が強かったのです。

詳細を調べてみると、立憲民主党の公式アカウントをフォローしていたアカウントは、先の論文の結果と同様に、仲間内でばかりフォローをしていました。一方、自民党のほうは、支持者以外のアカウントもフォローしている人が多かったので、結果として拡散力が強くなっていました。情報の拡散がエコーチェンバーの中で行われたのか、外で行われたのかの違いが表われたのです。

エコーチェンバーの中にいると、周りはみんな自分に賛成してくれるので、世界中の人が賛成してくれているような気がしてきます。私たちは、目に見えないものを想像するのは苦手です。実は自分たちが少数派だということには、なかなか気づきません。だから選挙の後に、「自分の周囲は皆、野党を応援しているのに、なぜ与党が勝つのか。これは不正選挙に違いない」と言い出す人が出てきたりします。

その人にとっては、それが真実になってしまいます。自分の周りには自分と同じ考えの人しかいなかったわけですから。しかし、その人には見えなかっただけで、世界には違う考えの人もたくさんいることに気づければ、その原因は不正選挙ではないところにあると考えることができるのではないでしょうか。

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鳥海 不二夫(とりうみ・ふじお)
東京大学大学院工学系研究科教授
計算社会科学者、博士(工学)、情報法制研究所理事。1999年、東京工業大学工学部卒、2004年、東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻博士課程修了。研究分野は計算社会科学、人工知能技術の社会応用。ツイッターなどのSNSや炎上の定量分析で知られる。

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(東京大学大学院工学系研究科教授 鳥海 不二夫)

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