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佐藤優「ウクライナ戦争で北朝鮮が漁夫の利を得るためにやっていること」

プレジデントオンライン / 2022年9月28日 8時15分

2019年4月25日、ロシア・ウラジオストクにあるルースキー島の極東連邦大学キャンパスで行われた会談で、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩委員長が握手した。 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、北朝鮮がロシアに急接近している。元外交官で作家の佐藤優さんは「北朝鮮はロシアとの関係強化を図り、この戦争を自国の利益のため最大限に利用している」という――(連載第23回)。

■北朝鮮はウクライナ戦争を最大限に利用している

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長引き、食糧やエネルギーを巡って世界が疲弊する中で、漁夫の利を得ている国があります。北朝鮮です。ロシアとの関係強化を図り、この戦争を自国の利益のため最大限に利用しているのです。

7月13日に北朝鮮は、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認すると発表しました。このふたつの地域を独立国家として承認した国は、ロシアを除けばシリアに続いて2つめです。ウクライナは反発して、即座に北朝鮮との断交を発表しました。

北朝鮮は、ウクライナと軍事面で協力関係にありました。ミサイルのエンジンなどで、支援を得ていたのです。したがって両「人民共和国」を承認すれば、ウクライナから外交関係を断絶されることは予想できました。

ロシア側から、独立承認を働きかけた形跡は見受けられません。つまり北朝鮮は、両「人民共和国」を承認して外交関係を樹立することに、ウクライナとの断交を上回るメリットがあると計算したのです。

■北朝鮮の稼ぎ頭は「建設労働者の派遣」

北朝鮮の計算とは何か。ドネツクとルガンスクがビジネスの場になると読んだことです。ロシアの評論家ドミトリー・ヴェルホトゥロフ氏は、こう語っています。

現場監督の間には、「タジク人が1週間ですることを、北朝鮮人は半日あれば十分だ」という諺さえ伝えられていた。ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の都市では、住宅や公共の建物がひどく破壊された。それらの復興には、大勢の労働者が必要とされている。

基礎工事は、ロシアからの作業班が効率的に行うことができる。手間のかかる建物の内装は、北朝鮮建設労働者の専門だ。したがって、ドネツク人民共和とルガンスク人民共和国では、北朝鮮労働者が緊急に必要とされている。(8月16日「スプートニク」日本語版)

北朝鮮の稼ぎ頭は武器の輸出だと思われていますが、実は建設労働者の派遣です。特に中東には、たくさん派遣されてきました。アメリカの人工衛星に四六時中見張られている北朝鮮は、地下住宅の建設に関して高い技術をもっています。そのため、中東の独裁国家や軍事政権の幹部に、人気があります。

■国連に加盟していない両「人民共和国」は制裁の抜け道になる

戦禍で荒廃した両「人民共和国」の国土再建に手を借す国はロシアしかありませんから、建設労働者を大量に派遣すれば、外貨を得ることができます。国内にいれば食うや食わずの労働者を派遣して、1人が1日2ドル相当のお金をもらえれば、大変な外貨の獲得なのです。

ここで得られる外貨とはロシア・ルーブルですが、ルーブルがあれば、北朝鮮が必要とする食糧や石油や医薬品をロシアから買うことができます。

北朝鮮の労働者の受け入れは、国連による制裁の対象です。しかし国連に加盟していない両「人民共和国」では問題になりません。制裁の抜け道になるのです。

■北朝鮮が西側の武器に精通し、大量のジャベリンを入手する可能性

北朝鮮にとってもうひとつおいしいのは、アメリカの最新の軍事情報が入手できることです。ロシアの評論家ヴェルホトゥロフ氏は、こうも述べています。

北朝鮮にとって最も価値のあるものは、戦利品の武器の調査だ。西側製のさまざまな武器や装備品がウクライナ軍へ大量に供与された。その一部は破壊されたり、奪取されたり、さらにはウクライナ軍によって敵へ売却された。

ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国には現在、これらの戦利品が大量にある。それらを見たり、触ったり、分解したり、その書類を読むことなどができる。いくつかの種類の武器は、撃つこともできる。例えば、大量に奪取された擲弾発射装置ジャベリンを撃つことが可能だ。

破壊されたり損傷した装備品の調査にも大きな関心がもたれている。損傷の性質は、西側の軍事装備品の脆弱(ぜいじゃく)な部分を示しており、それらを破壊する戦術の改善に役立つ。韓国の軍事装備品は多くにおいて西側の装備品に類似しており、米国が用いる武器を目にするチャンスであるため、これは北朝鮮司令部にとって間違いなく価値がある。

戦利品の視察に大人数は必要ない。ロシアにある北朝鮮駐在武官事務所から、ロシア語が堪能な将校を数人派遣すれば十分だ。彼らはすべてを見聞きすることができる。このような北朝鮮将校はすでにそこで集中的に活動している可能性が高い。(8月16日「スプートニク」日本語版)

ウクライナ軍が退却する時に慌てて置いていったアメリカ製の兵器や操作マニュアルが、戦利品としてドネツクとルガンスクに残されています。北朝鮮はそれに、多大な関心をもっているのです。北朝鮮がこれらを購入し、ロシアを経由して北朝鮮へ運び込むことも考えられます。北朝鮮が西側の武器に精通し、ましてや北朝鮮に大量のジャベリンが持ち込まれるようなことになれば、韓国にとっては大きな脅威になるでしょう。

FGM-148ジャベリン対戦車ミサイルを発射する兵士(写真=SGT MAURICIO CAMPINO, USMC/PD US Marines/Wikimedia Commons)
FGM-148ジャベリン対戦車ミサイルを発射する兵士(写真=SGT MAURICIO CAMPINO, USMC/PD US Marines/Wikimedia Commons)

■プーチン大統領の祝電に変化

ロシアと北朝鮮は、首脳間の信頼関係も強化しています。

日本では終戦記念日と呼ぶ8月15日を、北朝鮮は日本の植民地支配から解放された祖国解放記念日として祝います。今年は、金正恩・朝鮮労働党総書記とロシアのプーチン大統領が祝電を交換しました。

北朝鮮側の内容には新味がありませんでしたが、プーチン大統領が金正恩総書記に宛てた祝電には、ロシアが北朝鮮に接近する姿勢が如実に示されていました。日本を名指しこそしていないものの、〈朝鮮の解放のために肩を組んで共に戦った、赤軍軍人と朝鮮の愛国者に対する追憶〉という文言があったのです。

■ロシアは北朝鮮の制裁決議に拒否権を発動するかもしれない

対日戦争という共通の記憶が、ロシアと北朝鮮の友好協力関係の基礎であるという歴史認識が、ここに示されています。加えて〈われわれが共同の努力によって、総合的かつ建設的な双務関係を引き続き拡大していくものと確信する〉という表現によって、ロシアが北朝鮮に協力する姿勢を明らかにしています。

では具体的に、何に協力するのか。考えられるのは、核実験です。これまで北朝鮮の核とミサイル実験に関しては、ロシア、アメリカ、日本、韓国、中国が連携して牽制してきました。

しかしロシアは、ウクライナ戦争によって、アメリカ、日本、韓国を非友好国としました。北朝鮮は数少ない友好国ですから、仮に核実験を再開しても「核の拡散はよくない」という形だけの非難にとどめるでしょう。国連安保理の制裁決議でも、拒否権を発動する可能性があります。

その意味でも現在の国際情勢は、北朝鮮を利する形になっているのです。日本の報道からでは、現状がよく見えません。北朝鮮がフリーハンドで核を持つ状況になれば、日本にとってはかなり面倒な事態です。

■北朝鮮から武器の買い付けも

ロシアが武器不足に陥っていて、北朝鮮から買い付けようとしている、と報じたのは米紙ニューヨーク・タイムズです。

同紙によると、米政府当局者は、米主導の制裁の効果でウクライナ侵攻を維持するロシアの能力が低下し始めたとの見方を示しているという。

この報道について米当局者はメールで取材に対し、正確と認め、購入は「ウクライナの戦場で使用するため」と指摘。ロシア軍が「輸出規制や制裁の影響もあり、ウクライナで深刻な供給不足に見舞われている」ことを示していると言及した。(9月6日・ロイター時事)

事実だとすれば北朝鮮は、自国が危機に瀕した際にロシアの支援を得るため、ロシアの国際的な孤立につけ込もうとしているのです。実に強かな国です。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優 構成=石井謙一郎)

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