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「罵声を浴びせ、缶コーヒーを投げつける」ヒラ銀行員をとことん追いつめる"モンスター上司"のエグい攻撃

プレジデントオンライン / 2022年10月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

メガバンクで働く銀行員のなかには、上司からのパワハラに苦しむ人がいる。メガバンク現役行員の目黒冬弥さんは「赴任したばかりの支店で上司に目をつけられた。飲みかけの缶コーヒーを投げつけられ、ネクタイをつかまれながら怒鳴られたこともあった」という。実録ルポ『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)からお届けする――。(第4回)

■病的なまでの完璧主義者だった支店長

その日は、朝から寺川支店長がピリピリしていた。本店の人事部から担当者が来訪、宮崎中央支店の行員数名との面接が予定されていた。

人事担当はこうして定期的に面接を行うことで、支店長がきちんと支店を管理・運営しているかを評価する。まだZoomミーティングなどない時代、北海道であろうと沖縄であろうと、彼らは出張して臨店していた。

宮崎中央支店を訪れたのは、長身痩躯(そうく)の30代と思われる人事担当者。人事部、経営企画部、営業企画部は銀行全体の人員を動かしたり、経営計画の策定をしたり、支店長の尻を叩いて業績推進を引っ張る部署であり、本部の中枢、エリートコースでもある。

銀行という組織は、出世コースとそれ以外との差が大きい。先にあげたエリートコースにくらべ、総務関連、管財部門、事務企画部門などは日陰の浮かばれない部署である。組織にとって不可欠な部署であるにもかかわらず、「稼ぐ営業」の下に位置付けられている。

営業と事務では、営業のほうが格上という序列ができあがっている。どんな支店に属していても、営業職であれば成果を上げれば出世コースに乗ることができるが、成果がはっきりと見えない事務職ではそうはいかない。

また、支店にも格がある。格の高い支店の支店長は、人事部や営業企画部に対しても発言力がある。発言力があると、いい人材を集めることができる。だから、格の高い支店はいつまでも勝ち続け、格の低い支店は業績を上げづらいという構図になっている。

宮崎中央支店の寺川支店長は、病的なまでの完璧主義者だった。支店内でも他人のミスを絶対に許さなかった。当然、支店長の評価に関わる人事担当者との面接についても神経質になった。面接を受ける者は完璧を求められ、想定されるあらゆる質問にパーフェクトの回答をするよう、事前に想定問答を叩き込まれていた。しかし、アクシデントが起きた。

■わからないことを知っていて質問攻めにする人事担当者

当日、面接を受ける予定だった先輩がひどい風邪をひき、その日に出社することができなくなった。すると、人事担当者は、赴任したばかりの私と面接したいと言い出した。

そのことを私は当日の朝、知らされた。先方からの指名とあれば、断る理由もなく、面接に臨まざるをえなかった。

面接を受けるビジネスマン
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

「支店長の経営方針を説明してください」

人事担当者が問う。赴任してまだ4日。寺川支店長の考えなど何も教わっていない。

「わかりません。4日前にこちらに来まして、引き継ぎの最中です。これから確認しようと思っていました」
「では、支店全体の預金残高、貸出残高はどうなっていますか?」

答えられない。

「わかりません」と言い、人事担当者の顔色をうかがう。

「では、あなたが担当しているお客さま全体の預金残高と貸出残高はどうですか?」

さきほどの質問に答えられないのだから、この問いにも答えられるはずがない。人事担当者は私が答えに詰まるのを楽しんでいるようでもあった。

「それでは、支店長はどんな人か、ひと言で説明してください」
「……」

人事担当者は、次から次へと質問を浴びせた。質問の内容は昨日今日来たばかりの人間にとっては酷なものばかりだった。

私はいずれの質問にも答えることができなかった。悪夢の時間がすぎ、憔悴(しょうすい)しきって部屋を退出した。人事担当者が帰ったあとで、寺川支店長から声がかかった。

■罵声を浴びせ飲みかけの缶コーヒーを投げつける

「ずいぶんなことをしてくれたみたいだね。俺の顔に泥を塗ってくれたね」

寺川支店長は明らかに苛立っていた。あの人事担当者が、寺川支店長に私のことを告げたのだ。人事担当者はわれわれ行員を評価しに来たのではない。支店長評価のための面接なのだ。だから支店長は部下にヘマをされたくない。

「キミにはこのさき、冷や飯を食べてもらうわ。わかるかな? 十字架だよ。まあ、簡単には外れないからな。それぐらいのことをしてくれたんだよ。ナメるな!」

そう怒鳴って、飲んでいた缶コーヒーを投げつけてきた。缶コーヒーは私の太ももにあたり、床に転がった。スーツに染みができ、床にコーヒーが流れ出た。

「申し訳ありません」

頭を下げるが、寺川支店長の追撃はやまなかった。私のネクタイを掴み、そのままねじりあげた。

「これからずっと苦しむがいい! そして自分の運命を恨め!」

寺川支店長は興奮が治まらず、通路にはみ出していた課長の椅子を蹴りあげ、そのまま帰ってしまった。寺川支店長は、これまで面接に臨む担当者には、自らの意図する答え方を徹底して教え込み、膨大な時間を費やして面談のリハーサルまでしていた。そうまでして臨んでいた人事部との面接を、新しくやってきた私がぶち壊したと捉えたのだろう。

■「こっちは元気にやっているよ。そっちはどう?」

通訳係の奥山さんがブチまけたコーヒーを雑巾で拭き取り、私を給湯室に手招きした。

「気にせんでいっちゃが」

奥山さんは流し場で雑巾を丁寧に洗い流す。

「いっつもあんげやから」
「……」
「大丈夫やかい。あんたんごつ人はまっこちかわいそうやねー。まっこちまこちまこちぃ~っ!」

奥山さんがわざときつめの方言でそう言って笑う。少しだけ気持ちが落ち着いた。

行内でいたたまれない時間をすごす。その日の仕事を片付け終わったのは午後9時半をすぎていた。独身寮の自分の部屋に戻り、深夜1時をまわっていたが、妻に電話した。妻はすぐに出てくれた。

銀行は、顧客の秘密を守り、外部に漏らさないことが鉄則である。家庭でも銀行内であった話をすることは禁じられている。入行時に誓約書を書かされるし、服務規律として定められている。とはいえ、実際にはどの行員も一言も話さないわけがない。

銀行員の妻ならばそういうことも理解している。さっき起こった出来事について愚痴をこぼしたかった。だが、妻の声を聞いた途端、身重の彼女にあんなことを伝えてはいけない気がしてきた。

「こっちは元気にやっているよ。そっちはどう?」

15分ほど話をした。宮崎の人たちの言葉は難しいけれど、みんな温かく迎えてくれている。うまくやっていけそうだ。そんなことを伝えた。週末に帰ると伝え、電話を切った。

■なにごともなく朝のミーティングが進んでいたが…

毎朝、7時30分からミーティングが開かれる。その5分前に寺川支店長が会議室に現れる。

課長と副支店長には当日のミーティングで話す内容を事前に伝えておかなくてはならないので7時前に支店に入ることになる。発表は年齢順だった。

会議室でのミーティング
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

私は5人のうち3番目。今月の営業目標、収益目標金額に対して昨日までの進捗(しんちょく)状況、目標に届いていない分をどうするか、どの担当先に何を持ちかけるか……そんなことをみんなの前で発表する。海老原副支店長の司会でミーティングが始まる。

「おはようございます。6月13日、水曜日のミーティングを始めます。全体の予定はとくにありません。支店長の予定ですが、基本的に店内で、本部の営業企画部と業績推進についての企画打ち合わせです。それでは矢野課長から発表」

矢野課長は、課全体の営業目標に対しての現況を報告する。「業務粗利益の目標達成率48%は先月末と変わらず。貸出増加額目標達成率38%は先月末対比で7%のマイナス。預金増加額目標達成率45%は……」

淡々としたトーンで数字の報告が続く。

「もう週半ばですので各自、目標数字に早く追いつかないと手遅れになりますよ。私の本日の予定ですが、店内で稟議(りんぎ)書資料の準備となります」

そう言って報告を終える。矢野課長は無気力を絵に描いたような人だったが、不思議なことに寺川支店長が課長を攻撃することはなかった。続いて担当者の発表が始まる。その3番目、私の順番がやってきた。

■「よし、言ったな。10万、死んでもやれよ!」

「おはようございます。私の今月の営業目標、業粗(ぎょうあら)(業務粗利益)項目で、500万に対して350万が未達成となっています。申し訳ありません。えー、今日の予定といたしましては……」
「具体的に言えよ! どこで何していくら稼ぐって。どうするんだよ!」

前の2人はあっさりと通過したが、私の発言に寺川支店長が噛みついた。人事部との一件から、明らかに私はターゲットにされていた。

急に心臓がズキンと鳴り、動悸(どうき)が激しくなる。脇や首筋から汗が吹き出してくるのがわかる。喉が急に乾いて、へばりつきそうだ。

「は、はい。まず、デリバティブのセールス対象先の……」
「違う! 今日いくら稼ぐか聞いてるんだよ! どうせできない話なんか聞きたくないわ! もう一度だけ言う、いくらだ?」
「じ、10万です」
「よし、言ったな。わかった。10万、死んでもやれよ! おまえが言った数字、今週1日も達成できてないからな。いい加減、給料泥棒はやめてもらえないかな?」
「やります」
「どこで何をするんだ! 具体的に言えよ!」
「太陽工業がA銀行でしている今月分の振込100件をうちでやってもらいます」

口から出まかせだった。この話は先週、太陽工業に持ちかけていて、すでに断られた話だった。

■何時間にも感じられた上司からの攻撃

「できるんだな? おまえ、やってもらうと言ったからな! 死んでもやらせろよ。約束じゃダメだからな。やった証拠を夕方見せろよ!」
「はい」
「振込手数料っていくらだよ?」
「振込金額で変わってきますが、おおむね500円ぐらい……」
「500円を100件なら5万だろ。残り5万はどうすんだよ!」

怒る人と拳を握りこらえる人
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

「外貨預金を、その……契約して……円からドルに、ですね」
「それ、どこの会社でやらせるんだよ? 言ってみろ」
「月川精機と星沢建設です」
「いいか、残り5万だぞ! 5万円分、外貨預金だといくらやらせるんだよ?」
「5万米ドル……600万円ぐらいです」
「おまえら、聞いたか? 今日、目黒が600万円分、ドルで押し込んでくるそうだ。おまえら証人だ」

その言葉で解放された。時間にしたら15分程度だったろうが、何時間にも感じられた。長い攻撃から一息ついたにせよ、これは問題の先送りにすぎない。

■「そんげなんこつ無理じゃろ、目黒君」

ミーティングが終わり、後輩の諏訪君がトイレで声をかけてきた。

「目黒さん、大丈夫っすか? あんなこと言っちゃって。できるんすか?」
「無理だよな」
「気持ちはわかりますけど、どう考えても無理っすよ。早めにできないって言ったほうが……」
「今から言うのか? そっちのほうが殺されるだろ?」
「ですよね。僕だって今日もなんにもないっす。目黒さんもあんまり思い詰めないほうがいいっすよ。夕方、一緒に怒られましょ」

諏訪君は快活な性格で、決して二枚目ではないが、笑った顔が少年のように愛嬌(あいきょう)がある。きっと東京にでもいたらモテていただろうに、人生で一番楽しいはずの20代をこんなパワハラ支店ですごしている。

朝9時すぎ、相棒である軽のスバルに乗り込んで、営業先に向かう。運転中、寺川支店長に宣言した最初の訪問先・太陽工業の経理部長にどう話を切り出そうか考えている。そのことで頭の中がいっぱいで、信号が赤から青に変わるのに気づかず、後ろから盛大にクラクションを鳴らされた。

「そんげなんこつ無理じゃろ、目黒君。でくっこつ(できること)と、できんこつ(できないこと)があっがね?」

振込100件の切り替えを真正面から切り出した私に対して、太陽工業の経理部長は言下に断った。

■見込んでいた3社はことごとく失敗に終わった

「今月だけでいいので、なんとかお願いできませんか?」
「そんげなん理屈に合わんこつ理由がないやろが。A銀行もいきなり100件減ったらよ、うちん会社がうまくいっちょらんち、勘ぐるやろが」
「そこをなんとかお願いします!」
「ダメっち、言うちょっがね、今、忙しいとよ、勘弁してくれんね」

それはそうだろう。太陽工業には、振込先100件をA銀行からF銀行に切り替える理由がない。部屋に上げてもらうこともできず、入口の立ち話で終わった。まずは5万円が消えた。

頭を抱えて座り込むビジネスマン
写真=iStock.com/tuaindeed
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tuaindeed

続いて、月川精機に向かう。外貨預金だ。弾丸はあと2発。今度は命中させたい。

「社長はいません」

受付に出てきた女性社員が申し訳なさそうにそう言う。

「お戻りは何時ごろになりそうですか?」
「さあ、ちょっとわかりませんねえ」

駐車場に社長のクラウンが停まっていた。きっと居留守だろう。無理もない。先週もその前の週も、こうしてお願いばかりしている。会ったとしても、される話はわかっている。もういい加減、会いたくないんだろう。いよいよ弾丸が最後の1発になった。星沢建設だ。

「今日5万ドルね? 次の輸入は秋って説明したがね? そんこつも、まだおたくでドルにするとは決めたわけじゃないとに。無理を言わんでくれんね」
「ダメですかねえ」
「そんげなん困ったこつ言わんでよ、こっちんほうがよっぽど困っちゃが」
「ダメでしょうか」
「あんたもしゃーしー(くどい)人やね、もうあきらめんね。できんもんはできんよ」
「ですよね。無理なお願いばかりですみません」

今朝見込んでいた3社が儚くも散った。

■後輩と一緒に成果ゼロで会社に戻る

星沢建設で断られた瞬間、一日分のパワーが瞬く間に失せていくのが自分でもわかった。もう、何もやる気が起きない。腕時計は正午を指している。

日本全国、昼休みだ。この時間にお客のところを訪問したり、電話したりすることは失礼にあたる。だから私はこの1時間を、午前の訪問結果の整理や、移動時間にあてていた。

目黒冬弥『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)

帰社の時間、つまり夕方の報告ミーティングまであと5時間もある。「なんとかしよう」と鼓舞する自分と、「もう無理だよ」とあきらめている自分が脳内で闘っている。こういう営業スタイルは「お願いセールス」という。

顧客に自分の会社都合でお願いお願いと勧め、成果を上げる。しかし、それは長くは続かない。商売はギブ・アンド・テイクであるべきだが、これではテイク・アンド・テイク。ギブが見当たらないのだ。相手のほうが嫌になり、信頼も失うことになる。

こうしたセールスを続けていると、自らの仕事への価値観も揺らいでくる。毎日誰のトクにもならない案件のために必死に頭を下げる。自分の仕事に意味があるのか。考え出せば、行き着く先は決まっている気がして、私は考えるのをやめる。

帰り道、気が重かった。成果ゼロ。早く支店に帰るわけにもいかず、とはいえ行く先もないまま、支店周辺を人工衛星のようにぐるぐるクルマを走らせる。ギリギリまで時間調整するのだ。あきらめて銀行の駐車場から重い足取りで支店に向かう途中、諏訪君と会った。彼もオケラだろう。足元を見つめ、やはり重い足を引きずっている。

「先輩、お疲れさまです」
「どう?」
「……」

お手上げだと言わんばかりに両手を広げ、首を横に振る。

「先輩は?」

もっとオーバーに同じジェスチャーで返す。

「怒られましょ」
「だな」

顔を見合わせて笑った。人間、あきらめの境地に達すると自然に笑みが漏れるものだ。

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目黒 冬弥(めぐろ・とうや)
現役メガバンク行員
バブルの終わりごろ大手都市銀行に入行。地方都市や首都圏の支店で法人営業に携わる。紆余曲折を経て、窓口事務の管理者としてメガバンクM銀行に勤務する現役行員である。

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(現役メガバンク行員 目黒 冬弥)

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