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「いつまで世界に恥をさらすのか」岸田首相がひた隠しにする"偽装留学生"再激増リスク

プレジデントオンライン / 2022年10月2日 9時15分

宮田学園の職員に鎖で拘束されるベトナム人留学生のチャン・マウ・ホアンさん(手前)。ホアンさんのFacebookで公開された動画より。 - 画像提供=筆者

昨年10月に在籍するベトナム人留学生を「鎖」で長時間拘束した行為が後に発覚し、社会問題となった西日本国際教育学院。同校に対し9月7日、入管庁が新入生の受け入れを今後5年間認めない処分を下した。だがこれは氷山の一角に過ぎない。3月に水際対策が緩和されて以降、留学生の入国ラッシュが起きたが、岸田文雄首相は留学生の受け入れをコロナ禍前よりもさらに拡大する方針を打ち出している。ジャーナリストの出井康博さんは「留学生問題、中でも“偽装留学生”の闇にふたをしたまま、この国は過ちを繰り返そうとしている」という──。

■日本語学校で多発する人権侵害

今年3月に新型コロナの水際対策が緩和されると、入国待機していた外国人留学生が続々来日した。その数は6月までの4カ月間で11万8207人に達し、同時期に入国した外国人の2割以上に上った。

留学生の多くは、まず日本語学校に入学し、2年程度在籍する。過去2年間、コロナの影響で新入生の受け入れが激減し、軒並み経営難に陥っていた日本語学校は、水際対策緩和によって救われた。

そんな日本語学校業界に9月7日、衝撃が走った。日本語学校を所轄する法務省出入国在留管理庁が、福岡市内の大手校「西日本国際教育学院」に対し、同庁「告示」から抹消する処分を下したのだ。2016年に現行ルールとなって初の処分で、同学院は今後5年間、新入生の受け入れが認められない。

渦中の学校法人宮田学園
写真提供=筆者
学校法人「宮田学園」 - 写真提供=筆者

処分の原因となったのが、同学院に在籍していたベトナム人留学生が昨年10月、学校職員に鎖で拘束された問題だ。「鎖」と聞いて驚かれる読者も多いことだろう。だが、外部の目が届きにくい「日本語学校」という空間では、日本人学生には起き得ない人権侵害行為が頻発している。

■職員がベトナム人留学生を鎖で拘束

筆者の手元に20秒ほどの短い動画がある。「鎖拘束」の被害に遭ったベトナム人留学生が、拘束時の様子を自撮りしたものだ。

動画では、スーツ姿の職員が太い鎖で自らと留学生のズボンのベルトを鎖でつなぎながら「アハハハッ」と野卑な笑い声を上げ、

「言うまで一緒! 教えて早く! 教えて!」

と、何かを白状するよう迫っている。しかも周囲は誰も止めようとせず、笑い声まで聞かれる。

この動画の存在を初めて報じたのは福岡の地元紙「西日本新聞」だ。昨年12月4日の電子版の<鎖で学生つなぎ波紋 「助けて」投稿、日本語学校釈明「悪ふざけ」>というタイトルの記事である。ただし、留学生本人には取材しておらず、学校名も「福岡市の日本語学校」と伏せてある。

■被害者の生々しい証言

私はベトナム人留学生が動画をFacebookにアップした直後の11月初めにコピーを入手し、福岡を訪れて本人や学校関係者への取材をしていた。被害に遭った留学生、チャン・マウ・ホアン君(22歳)はこう話していた。

「鎖には3時間ほどつながれていました。拘束した先生(筆者注:日本語学校の留学生は職員のことも「先生」と呼ぶことが多い)は以前にもベトナム人留学生に怪我をさせたことがあったので、本当に怖かった。必死でスマホを取り出して撮影し、助けを求めてFacebookに載せたのです」

ホアン君は2020年12月に来日し、翌21年1月に西日本国際教育学院に入学した。もともとは20年4月に入学予定だったが、コロナ禍で来日が遅れたのだ。

「福岡」や「西日本国際教育学院」を選んで留学したわけではない。自動車の修理・販売業を営む父親の影響で車に関心があり、「トヨタ」で有名な愛知県の学校を希望したのだという。しかし、ベトナム現地の留学斡旋(あっせん)業者から紹介されたのは、同学院だけだった。

■日本語学校に対する不満と不信

入学当初から、ホアン君は学校に不満を抱いた。

「いちいち届け出ないと寮から外出できず、学校を休むと掃除の罰が待っている。それに、周囲の留学生たちは出稼ぎ目的で、バイトばかりしていて勉強もしないんです」

他校への転校を希望したが、学校は認めてくれなかったという。日本語学校の留学生は、在籍する学校が認めない限り、自由に転校すらできないのだ。

彼は学校に対し、「ベトナムへ帰国する」「(実際には在留資格が「留学」のままであったのに、コロナで帰国困難となった外国人に当時発給されていた「特定活動」に)資格を切り替えた」といった嘘をつくようになった。

一方、学校側は以前から「問題児」とみなしていたホアン君の嘘を疑ったようだ。そして彼を学校へ呼び出し、在留資格の記してある在留カードを見せるよう求めた。

在留カードを見せれば嘘がバレてしまう。「留学」の在留資格を失えば希望の転校ができなくなるため、ホアン君は資格を変更していなかった。そこでカードの提示を拒み、抵抗していると、職員に鎖で拘束されたのだという。

■「内部進学」「強制帰国」強要疑惑

西日本国際教育学院は1992年に設立された老舗の日本語学校で、1学年の定員が900人を超える大手でもある。

学院を運営する学校法人「宮田学園」は、2014年には「国際貢献専門大学校」という専門学校も開校している。「鎖拘束」問題の前には地元のプロ野球チーム「福岡ソフトバンクホークス」のオフィシャルスポンサーまで務めていた“名門”学校法人なのだが、関係者を取材すると、「鎖拘束」以外にも2つの“疑惑”が浮上した。

その1つが、西日本国際教育学院から国際貢献専門大学校への内部進学強要である。他校への進学や就職に必要な書類の発行を拒み、同大学校に留学生を進学させているというのだ。

近年、専門学校を併設する日本語学校が増えている。留学生を専門学校に引き留め、続けて学費収入を得ようとしてのことだ。専門学校への内部進学を強要する学校も少なからず存在する。現に私は、これまで複数の具体例を取材している。

そしてもう1つの疑惑が、問題があるとみなした留学生を母国へ強制的に送り返しているというものだ。

多くの留学生の証言に加え、私は元職員を通じ、強制帰国させる際の手順が記されたマニュアルも入手した。学費滞納や素行不良の留学生を強制帰国させることも、日本語学校では当たり前のように起きている。

■担当者に直撃、「行き過ぎた行為」と証言

これらの疑惑に関しても、私は今年1月、宮田学園の担当者に質してみた。すると、まず「鎖拘束」について、

「(ホアン君が3時間だと主張する拘束は)だいたい1時間くらい。本人の自由意思で鎖を外せる状態だったので、拘束という事実はないと思っております。半ば冗談であったと(ホアン君)本人からも確認していますが、行き過ぎた行為であったと認識しております」

との回答があった。そして内部進学の強要疑惑に関しては、

「強要は誤解がある。中高一貫校と同じように内部進学を勧めているという認識」

なのだという。一方、「強制帰国」疑惑については「留学生を強制的に帰国させたケースはない」としながらも、マニュアルの存在については認め、こんな答えが返ってきた。

筆者が入手した「強制帰国マニュアル」
写真提供=筆者
筆者が入手した「強制帰国マニュアル」 - 写真提供=筆者

「どのマニュアルをお持ちかウチではわからないが、(帰国させる対象は)法律や学校のルールを破って除籍となって、将来日本に在留できなくなる学生。まあ、所在不明となる学生ですよね。こういう学生を無事に帰国させるためのマニュアルです。ただし、中には帰国に応じない学生もいる。そうした不測の事態を考えた手順書とご理解いただきたい」

担当者は、「鎖拘束」についてこそ「行き過ぎた行為」と非を認めたが、内部進学強要や強制帰国の疑惑に関しては、悪びれた様子が感じられない。担当者には「多くの学校がやっていること。ウチに限った話ではない」との思いもあったのかもしれない。

■入管庁の「甘さ」で日本語学校はやりたい放題

「鎖拘束」問題に関し、私は『週刊新潮』2月10日号に寄稿した。ホアン君に加え、西日本国際教育学院や宮田学園の実名も記してのことだ。

その際、入管庁にも見解を問うた。同庁は「個別の事案には回答を差し控える」と断りつつ、「鎖拘束」には「事実関係を確認した上で適切な対応を行う」と答える一方、内部進学の強要等は「日本語教育機関の告示基準第2条第1項第8号〈抹消の基準〉に該当する」と認めた。

「告示基準」とは、入管庁が日本語学校に対して定める規則で、違反すれば「告示」から抹消され、留学生の受け入れが禁じられかねない。

私は取材を通じ、日本語学校による「告示基準違反」の具体例を数多く目の当たりにしてきた。入管庁とも何度となくやりとりしてきたが、対応はいつも同じだった。一般論でしか答えず、「必要があれば調査する」という態度なのである。

いくら明確な証拠を突き付けようとも、学校の処分はなされない。こうした入管庁の甘さが影響し、日本語学校のやりたい放題がまかり通っている。

■国会で法務大臣を追及

今回の「鎖拘束」問題でも、入管庁が動く気配はなかった。そこで私は、問題に関心を示してくれた市村浩一郎・衆議院議員(日本維新の会)に相談した。

すると市村氏が、4月22日の衆院法務委員会で古川禎久法務大臣(当時)に質問してくれるという。大臣による国会答弁は、入管庁の担当者が私の取材に回答するのとは重みがまったく違う。

市村氏には日本語学校の「告示基準違反」として、3件の事例を取り上げてもらった。「鎖拘束」に加え、宇都宮市の大手校がベトナム人留学生に対し、進学や就職に必要な書類の発行を拒み、系列の専門学校への内部進学を強要していたケース、そして仙台市の学校が、やはりベトナム人留学生に課していた不当な「賠償金」の問題だ。いずれも私が取材した具体例である。

仙台の問題を少し説明すると、この学校では、中途退学して就職すれば300万円もの「賠償金」を請求するという誓約書を作成し、留学生たちに署名させていた。しかも入学金を納めた後に署名を求めるという悪質さなのだ。また、大学進学を条件に30万円程度の「保証金」まで徴収していた。内部進学の強要と同様、留学生の進路選択の自由を侵す行為にほかならない。

西日本国際教育学院の「鎖拘束」は突発的に起きた問題だが、仙台や宇都宮のケースは構造的で、よりタチが悪いともいえる。しかも、両件とも被害に遭った留学生は地元の入管当局に助けを求めたが、何ら対処もしてはもらえなかった。

■ようやく下った処分

衆院法務委員会の席上、古川氏は市村氏への答弁で、次のように断言した。

「生徒(留学生)の進路を妨害する行為、生徒に対する暴力、高額な賠償金について誓約させる行為などは、日本語教育機関の告示基準第2条に定められている〈抹消の基準〉の人権侵害行為に相当すると考えられる」

つまり、3件とも「違反」で、留学生の受け入れが禁じられるべきケースだと、古川氏が認めたわけだ。そして古川氏はこうも続けた。

「(日本語学校が留学生の)立場が弱いことにつけ込むなど、日本人の名誉にかけてあってはならない。職員を督励しながら、私が先頭に立ってやっていく」

この答弁から4カ月半を経て、西日本国際教育学院にまず処分が下る。処分があった翌日の9月8日、「西日本新聞」はこう書いている。

<西日本新聞が昨年12月、動画について報じると、国会でも取り上げられ、今回の処分につながった>

同紙は自らの記事が国会を動かし、同学院が処分されたと考えているようだが、その判断は読者に委ねたい。

■全国の大学よりも多い日本語学校と“偽装留学生”

入管庁が「告示校」として留学生の受け入れを認める日本語学校は、今年1月時点で816校に達し、10年間で2倍以上に増えている。その数は全国の大学よりも多い。

空港からの眺めを見る10代の少年
写真=iStock.com/Satoshi-K
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satoshi-K

コロナ禍前の数年間、留学生は急増した。安倍晋三政権が「留学生30万人計画」を成長戦略に掲げ、留学生の受け入れを進めたからだ。同政権が誕生した2012年末には約18万人だった留学生は、7年後の19年には35万人近くまで膨らんだ。

こうした留学生の急増は、ベトナムなどアジア新興国出身の留学生が大幅に増えて起きた。その中には、出稼ぎ目的で、留学費用を借金に頼って来日する“偽装留学生”が数多く含まれる。

留学ビザは本来、アルバイトなしで日本での生活を送れる経済力がある外国人に限って発給される。だが、その原則を守っていれば留学生は増えず、30万人計画も達成できない。

そこで政府は、ビザの発給対象にならないはずの“偽装留学生”にも入国を認めてきた。彼らがビザ申請時、経済力を立証するために提出する書類が捏造(ねつぞう)だと気づきつつ、ビザを発給するのだ。留学生を増やし、彼らを低賃金の労働力として利用する目的からである。

■日本語学校の横暴に歯止めがかからない根本原因

“偽装”を含めて留学生が急増し、最も恩恵を受けたのが日本語学校だった。営利追求のため、たとえ偽装留学生であろうと喜んで受け入れる学校はいくらでもある。

偽装留学生は勉強そっちのけでアルバイトに励む。バイトをかけ持ち、留学生に許される「週28時間以内」の就労制限に違反して働く者も多い。

そうした違法就労の後ろめたさから、人権侵害の被害に遭っても声を上げようとしない。違法就労が入管に知られ、母国へ送還されることを恐れるのだ。

そんな事情もあって、日本語学校の横暴に歯止めがかからない。ホアン君が「鎖拘束」動画をFacebookに載せ、外部に助けを求めたのも、彼が偽装留学生ではなかったからにほかならない。

■留学生の「数」を求める岸田首相の誤り

岸田文雄政権は「留学生の受け入れ再開」を前面に押し出し、水際対策緩和を進めた。15万人に上った入国待機中の留学生を早急に受け入れるため、優先的な来日までも認めた結果、留学生の入国ラッシュが巻き起こった。

同政権はコロナ禍前よりも留学生を増やす方針だ。8月29日には、岸田首相自ら永岡桂子文部科学大臣に対し、従来の30万人計画を見直し、留学生の受け入れを拡大するように指示した。この方針によって、今後起きることは目に見えている。偽装留学生の再流入である。

留学生が増えれば、日本語学校は大喜びだ。産業界にとっても、低賃金の労働力が確保できる。だが、留学生の「数」を求める政策は本当に正しいのか。

■海外で日本の評判が落ち続けていることを知らない日本人

「日本人の名誉にかけてあってはならない」

国会で古川氏は答弁したが、その「あってはならない」人権侵害が、日本語学校では横行している。それも本をただせば、「30万人計画」で強引に留学生を増やした弊害なのである。

ベトナム人の多くが利用するでFacebookは、留学生たちの日本での悲惨な暮らしぶりが拡散している。「鎖拘束」についても、学校処分のニュースを含めベトナム語に訳され広まった。現状を放置していれば、日本の評判が落ちるばかりだ。

留学生数を増やすよりも、岸田政権には直ちにやるべきことがある。それは留学生受け入れ現場、とりわけ日本語学校の闇にメスを入れることだ。「鎖拘束」問題への処分を「トカゲの尻尾切り」で終わらせてはならない。

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出井 康博(いでい・やすひろ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)近著に『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)などがある。

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(ジャーナリスト 出井 康博)

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