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だから子供にも安心して見せられる…Mリーグの麻雀が「賭博」と「タバコ」にまるで縁がない理由

プレジデントオンライン / 2022年10月2日 14時15分

©Mリーグ

2018年に始まったトッププロによる麻雀のリーグ戦「Mリーグ」が年々、視聴者数を増やしている。なぜ麻雀というゲームがいま注目されているのか。Mリーグ創設に関わった株式会社AbemaTVの塚本泰隆・スポーツエンタメ局局長に聞いた――。(聞き手・構成=フリーライター・東川亮)

■賭博への関与を禁止する「ゼロギャンブル宣言」

麻雀は、日本人の「庶民の娯楽」として、長らく大衆に楽しまれてきたテーブルゲームです。運の要素も多分に絡むゲーム性は、初心者が上級者に勝つことも可能であり、そうした経験から麻雀にハマっていった人も多いでしょう。

塚本泰隆さん
塚本泰隆さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

一方で、巷の多くの麻雀荘で行われているように、既存の麻雀界とギャンブルは切っても切り離せない関係にありました。しかし、2018年に発足したプロ麻雀におけるナショナルリーグ「Mリーグ」は、発足時には「ゼロギャンブル宣言」を表明し、違法賭博との決別を明言。Mリーグで麻雀を打つことを許された麻雀プロ(Mリーガー)に、プライベートを含め麻雀で金銭のやり取りを行うことを一切禁止し、麻雀という知的ゲームの魅力を世の中に周知してもらおうと取り組んできました。

スタートから4年、Mリーグは麻雀界にどのような変革をもたらし、これからどのような展望を描いているのでしょうか。Mリーグ発足から運営に携わるとともに、インターネットテレビ「ABEMA」でMリーグ中継のプロデューサーを務める塚本泰隆氏に、Mリーグの現在地や、この先のビジョンについて聞きました。

★Mリーグ
2018年に株式会社サイバーエージェント・藤田晋社長が発起人となって生まれたプロ麻雀リーグ。男女4名の麻雀プロで構成された、全8チームによる半年強のリーグ戦で優勝を争う。2022年現在、クラブオーナー企業にはサイバーエージェントをはじめ、電通、博報堂DYメディアパートナーズ、テレビ朝日、KONAMI、セガサミー、U-NEXT、KADOKAWAと日本有数の企業が名を連ねている。

■視聴者数は毎年10~20%ほど増加し、開始時の2倍以上に

――現在、Mリーグの視聴数はどうなっているのですか。

2018年の開幕から視聴数などの数字を見ていくと、1シーズンごとに前年度比較で10%から20%くらいの増加率を維持できています。4年間を通じてでは発足当初から2倍以上の数字にはなっていて、我々としては大変満足のいく結果となっており、手応えを感じています。また、一般の方々に見える数字で言えば、Mリーグの公式Twitterのフォロワー数は2022年9月時点で16万人を超えています。これも我々の当初の目標を完全に前倒しできている状況で、順調にファンが定着してきているという実感があります。

インターネットテレビであるABEMAでは、番組の視聴数が表示されます。Mリーグ発足当初から注目の集まる試合などでは視聴数が100万を超えることもあったのですが、4シーズン目に関してはむしろ100万視聴を超えるのが当たり前となり、優勝の決まるシーズン最終日には選手たちの素晴らしい戦いもあって、視聴数は300万を超えるほどになりました。

Mリーグ
©Mリーグ

また、Mリーグでは有観客のパブリックビューイング(PV)も行っています。昨シーズンにコロナ禍で中断していたPVを復活させたところ、EXシアター六本木など数百人単位の会場の入場チケットが発売直後に完売するなど、大変好評でした。会場に集まっている人たちも世代や性別など多種多様で、Mリーグが世代や年齢を超えた広がりを見せていることを実感しています。

■企業スポンサーも2社→10社へと急成長

――注目度が高まると、広告価値も上がるように思います。スポンサーからの反響はどうでしょうか。

初年度の協賛社は大和証券さんと朝日新聞さんの2社だけでしたが、その後順調に増え、今シーズンの協賛社は現時点で10社にまで増えました。昨シーズンが8社なので、こちらも単純に20%以上の増加率となり、視聴数同様にビジネス面でも順調に反響が大きくなっていると感じています。Mリーグのスポンサーが増えるということはABEMAの数字自体の期待値が比例して高まっていると言え、MリーグとしてもABEMAとしても、視聴数が増えたことによってかなり広告価値が上がっていることになります。

日清食品が協賛した麺麺位決定戦
(左)©ABEMA/(右)©Mリーグ
日清食品が協賛した麺麺位決定戦。日清食品の商品にちなんで牌が「どん兵衛」「麺」などとなっている。 - (左)©ABEMA/(右)©Mリーグ

そして「麺麺位決定戦」(注)のような、広告価値があって協賛社様に喜んでいただける商品を作れるリーグになってきた、というのもかなり大きなことだと思っています。こうした企画は見ているファンが少なければ成り立たないわけで、「こういうことをMリーグでやったら面白そう」とご意見をいただけるようになってきたことは、Mリーグそのものの地位がかなり認められてきた証しだと言えるのではないでしょうか。今シーズンも、どのような形になるかは分かりませんが、よりスケールアップしたものを協賛社様と一緒に作りあげていければと思っています。

(注)日清食品の協賛によって行われた特別対局。オリジナルの「日清牌」を使用してMリーガーが熱戦を繰り広げ、ファンの間でも大きな注目を集めた。

■スポーツ中継を参考に「麻雀を知らない層」の開拓に成功

――Mリーグ以前、麻雀番組の視聴者はコアなファンが大半でした。一方でMリーグ開幕以降には、自分では麻雀を打たない「見る雀」と呼ばれる人たちの存在が注目されています。

塚本泰隆さん
塚本泰隆さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

Mリーグでは選手が独自のユニホームを身にまとって戦うほか、さまざまなスポーツの演出を参考にするなどして番組自体をスタイリッシュに演出し、初心者にも分かりやすいような番組作りをしてきました。その結果、開幕初年度後の2019年に行われたアンケート調査では、Mリーグ視聴経験のある500万人のうち、実に300万人が非プレーヤーという数字が出ていました。

また、ABEMAのデータなどを見ても、Mリーグの視聴者はどの層の数字も満遍なく増えていますし、その中には10代の女性層なども含まれていて、非常に幅広い層にリーチできていると思います。これまでの麻雀を楽しむコア層はM2(35~49歳の男性)・M3(50歳以上の男性)くらいの方だったと思いますけど、M1層(20~34歳の男性)の伸び率も非常にいいですし、従来のファン層以外の方々にまでしっかりと訴求できているというのは、数字を見て感じます。

■Mリーグをきっかけに麻雀を始める人が多い

また、「見る雀」から実際に麻雀を楽しむ人も確実に増えており、我々のところにも「Mリーグを見て麻雀を始めた」という人の声が届いています。直接意見をいただいたこともあれば、選手からそのような話を聞くこともありますし、麻雀プロ団体の試験でも、Mリーグを見てプロを志したという人がたくさん増えているそうです。

今ではオンライン麻雀で気軽に麻雀が楽しめるようになっていますし、MリーガーやVTuberなどがYouTube配信などで麻雀の楽しさを伝えてくれていて、麻雀に興味を持ってもらえるタッチポイントがすごく増えています。Mリーガーの大会に参加したことがきっかけで麻雀にハマったという人の話も聞きますし、選手をはじめ、Mリーグに関わる人たちがそれぞれに、Mリーグのテーマである「この熱狂を外へ」を実践してくださっていて、その結果が今の数字やファンのみなさんの反応に表れているのではないでしょうか。

■Mリーグは「仕事帰りの雀荘客」を奪っていないか

――Mリーグが盛り上がりを見せる一方で、既存の麻雀界の土台となってきたのは、全国に数多くある麻雀店です。Mリーグの放送時間は原則として毎週4回、月火木金の19時から。この時間に麻雀ファンがMリーグを見るなら、それは麻雀店の顧客を奪っている、とも言えます。

世の中における麻雀のイメージは、今でこそ変わってきているとは思いますが、数年前までは「ギャンブル・たばこ・深夜」など、あまりよくないものだったと思います。我々は麻雀に対するそうしたイメージを変え、知的スポーツ・頭脳ゲームとしての魅力を発信していきたいというビジョンを掲げていました。

そのための「ゼロギャンブル宣言」でしたが、それによってMリーグに対して壁を感じてしまった麻雀業界の方、既存の麻雀ファンの方も、おそらくはいたと思います。

実際、Mリーグ視聴のために麻雀店に足を運ばなくなったという人は、一時的ではあるにせよ、いるかもしれません。しかし我々は麻雀店のみなさんを「競合相手」ではなく、ともに麻雀界を支える仲間だと思っています。そこで我々に何ができるかと言えば、やはり麻雀というゲームの本質的なファンを増やすことです。

Mリーグ
©Mリーグ

■Mリーグを通じて麻雀荘に足を運ぶファンが増えればいい

「平日夜にMリーグを見たいから麻雀店に寄らずに帰る」、その局面だけを切り取ったらお店さんの損になっているかもしれませんが、Mリーグによって麻雀ファン、そして麻雀を打つ人が増えていけば、巡り巡って麻雀店に足を運ぶお客さんも増えるでしょうし、我々もそうなってほしい、という願望があります。最終的には業界にメリットをお返ししていけるのではないかと思っていますし、長い目で見ていただければ、同じ仲間として一緒に手を取り合えるのではないでしょうか。

そして今、日常的に麻雀を打っている方にも、翌朝に試合結果を気にしたり、そこからハイライトの1局だけを見たりと、日常のどこかにMリーグが入ってくれるようになると、うれしく思います。我々としてはできる限り、Mリーグを見る全ての人たちに楽しんでもらいたいと思っていますし、Mリーグの面白い戦いを、生活習慣のどこか一部にでも取り入れていただけるとうれしく思います。

■Mリーグが成熟することで麻雀プロの社会的価値も上がる

――麻雀界を支える大きな存在に、今や2000人以上いると言われている麻雀プロの存在があります。その中のごく一部であるMリーガーは年俸という形で収入が保証されるようになっていますが、それ以外の麻雀プロの中には、麻雀店で打つ麻雀の結果が収入を左右する働き方をしている人も少なくはありません。

それは難しい問題で、どうすべきか答えられないというのが正直な答えです。たとえば、麻雀業界において我々が直接雇用を生み出せるかと言えば、限界はあります。とはいえ、Mリーグが成熟していくことでスポンサーが増えるなどしてお金がまわるようになっていけば、最終的には麻雀プロという職業全体のベースアップみたいなことも図れる可能性があると考えています。

ただ、そのために大事なのは、金銭面を含めてトップ選手たちが憧れられる存在であること。「1億円プレーヤー」などとは軽々しく言えませんが、まずはMリーグのビジネスを大きくすることによってMリーガーの給与水準を上げるとともに、その世界を維持し続けるのが我々の目指すべきことだと思いますし、逆にそれしかできることはないのかなと思います。

塚本泰隆さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
塚本泰隆さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■麻雀荘には子供が入れず、若年層への普及が課題

――近年の麻雀人気は子供たちにも波及しています。一方、現在の「風俗営業適正化法(風営法)」では、18歳未満が麻雀店に立ち入ることは法律で禁じられています。麻雀界でも実情に即していないとして課題となっている風営法ですが、Mリーグとしてこの問題に取り組めることはあるのでしょうか。

Mリーグは若年層への麻雀普及活動にも熱心に取り組んでいます。2022年8月にはMリーグ機構が主催して「夏休み小学生麻雀大会」を東京の朝日新聞本社で行うなど、さまざまな取り組みによって、多くの子供たちに麻雀の楽しさをお伝えできていると思います。

風営法については非常に難しいところがありますが、何とかしなくてはいけない問題であることは、我々も認識しています。Mリーグや麻雀界の将来を考えたとき、若年層への普及というのは大きなテーマの一つとなるわけですが、現在の法律においては子供たちを麻雀店に入れることができず、そこが一つのネックになっているわけです。現状では具体的なアクションを起こせているわけではないのですが、Mリーグチェアマンである藤田(晋)もその課題は認識しています。

法律を変えるとなると時間もかかるわけで、すぐに何かできるとは思っていません。今は何かを働き掛けるというよりも、我々の動きを加速させる方が、最終的な目標には結び付きやすいのかなとは思っています。

動きを加速というのは、Mリーグ機構やMリーグというナショナルプロリーグが子供たちに対してこういう活動をしています、という事例をたくさん作っていくこと。そして、それによって子供たちが麻雀を楽しんでいる、麻雀プロを目指している、けれども現状ではできる場所が非常に限られてしまっている、ということを知っていただくことです。

■いずれは子供の将来の夢に「麻雀プロ」が入るように

その結果、たとえば将来「子供たちの夢」ランキングで麻雀プロやMリーガーが上位に入ってくるようなことがあれば世の中の捉え方も変わるでしょうし、「もっと子供たちが麻雀をやれる場所を増やそう」という動きが出てくると思うんです。Mリーグとしても、今後存続し続けていくために、新しい人たちが目指せる世界を作る必要があります。特に、若年層のプレーヤーが増えなければ、将棋の藤井聡太さんのような存在は出てこないわけですからね。

まずは、本当に子供たちがやっても楽しい、親が教えたいと思っていることを発信していきたいですし、そのためにも先日の朝日新聞さんでやらせていただいたイベントのようなことを全国各地でやっていって、世の中に認知していただくことが大事だと思っています。子供たちに対するアプローチは今後5年、10年での大きなテーマだと思いますし、その活動を通じて、麻雀界を取り巻く課題解決につながるところもあるかもしれません。

塚本泰隆さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
塚本泰隆さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■ファンを巻き込んでビジネスとしての軌道に乗せる

――現在ではMリーグの盛り上がりに比例して、麻雀そのものの社会的価値が高まっているように感じます。

私がMリーグですごくいいなと思っているのは、業界の人だけでなくファンの方々も含めていろいろな人たちが一緒になって盛り上げている、というところです。ファンの絶対数が増えないと成立しないですし、「こういうところが面白い」「こういうものに参加してみたい」という気持ちにならないと、ビジネスとしても継続はできません。そうした思いをMリーグに関わる多くの人たちが共有し、みんなでムーブメントを作っていこう、と思ってくださっているのだと感じています。

■今は急拡大よりも地盤を固める段階

――Mリーグは順調に視聴者数を伸ばし、スポンサー企業も増加の一途をたどっています。将来についてはどのようなビジョンを描いているのでしょうか。

チームの増加、さらには1部2部制など、規模拡大についてはいろいろなことが考えられます。おそらく、パワープレーで急速に規模拡大を推し進めようとするなら、それもできなくはないでしょう。しかし、それをした結果が世の中にどう受け止められるかは別の話なので、今は地に足を着けつつ、規模拡大についてはいろいろな兼ね合いを踏まえて考えていくべきだと思っています。現状でうまくいっている手応えがあるからこそ、ここで支持される業界・体制を作ることが大事になってくるでしょう。

幸い、現時点での成長ペースはかなり順調ですので、あと5年くらいは同じような形で成長を続けていければと思っています。そうなると今の規模からおよそ2倍になっていることになりますし、その頃にはおそらく、誰しもが一度は耳にしたことがある、くらいの世界観が作れているのではないかと思います。

それと、ABEMAは海外でも視聴できる環境が整っています。今は海外でも日本式の麻雀を楽しむ人が増えていますので、そうした人たちにもMリーグをお届けしていくような構想もあります。これからも現状に満足せず、いろいろな形で麻雀の魅力を発信していければと思っています。

■歴史を積み重ね、さらに熱狂を広げていきたい

先ほど「Mリーグを見て麻雀を始めた人が増えてうれしい」という話をしましたが、今後はそういう人たちが当たり前に出てくるようにしていきたいですね。年月を重ね、開幕から10年がたてば、高校生、大学生くらいでMリーグを見始めた人たちの中から、Mリーガーとしてデビューする人が出てくるかもしれません。

そういうスパンにたどり着ければリーグとしてもまた新しいサイクルに入っていくでしょうし、積み重ねていく歴史の中で魅力的なストーリーが生まれ、ファンの方も多様化しながら、Mリーグの熱狂もさらに広がっていくと思います。まずは5年、今の成長率を維持しながら、無事に10年目を迎えられることを目標としています。

10月3日から、5シーズン目のMリーグが開幕します。ABEMAで無料視聴できますので、今のMリーグ、麻雀がどのようなエンターテインメントになっているのか、まずは一人でも多くの方にご覧になっていただきたいですし、楽しんでいただけたらいいなと思っています。

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塚本 泰隆(つかもと・やすたか)
サイバーエージェント ABEMA 総合編成本部スポーツエンタメ局局長
1987年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。学生時代は、最高位戦日本プロ麻雀協会に所属していた元麻雀プロ。大学を卒業後に一般企業に就職後、2016年に株式会社サイバーエージェントへ転職。 2016年、新しい未来のテレビであるABEMA「麻雀チャンネル」に従事し、2018年には、プロ麻雀リーグ「Mリーグ」の発足から運営にも携わる。2019年より、ABEMAの将棋や麻雀も含めた、スポーツ全体のジャンルを扱う現職に就任。

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(サイバーエージェント ABEMA 総合編成本部スポーツエンタメ局局長 塚本 泰隆 聞き手・構成=フリーライター・東川亮)

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