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もっと「ありがとう」と口にするべき…ベテラン主婦の家事100のうち、夫や子は20しか見えていない

プレジデントオンライン / 2022年10月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

「最近、お母さんが機嫌が悪いけど、更年期かな?」と思っている人はいるだろうか。脳科学者の黒川伊保子さんは「原因は更年期だけではないだろう。たとえばベテラン主婦には100の家事が見えても、ほかの家族は20しか見えておらず、感謝がないことにイラついてしまうのではないか」という――。

※本稿は、黒川伊保子『女女問題のトリセツ』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■年を取ると勘が働くようになる

長く生きると、人は、「とっさに感知するものの数」が増える。「とっさに感知するものの数」が多いものほど、割を食う。それが世の常なのである。

認知スピードは、20代より、50代のほうがずっと速い。私は、50代に入って、物を落とさなくなった。たとえば、キッチンの上の棚から、タッパーが滑り落ちるようなとき、音と気配で「どこに、どう落ちてくるか」が瞬時にわかるので、ほぼ目視もせずに掴めるのである。作業台の上から滑り落ちる菜箸も、なんと膝で止められる……なんていう話を、同世代の友人に話したら、そこにいた全員が、「私もそう!」と瞳を輝かせたのだ。

新しいものを取り入れる速度は遅くなるが、過去に経験したことがある認知は、めちゃ早い。単位時間に気づけることの数も半端なく多い。

――それが、50代以降の脳の特徴なのである。

と言うわけで、主婦歴20年以上ともなれば、もう、さまざまなものが見えるわけ。風呂上がりに、水道栓や鏡の水滴をタオルで拭い、排水溝の髪の毛を捨て、必要ならばシャンプーやせっけんを補充する。

というのも、水道栓の水滴が目に入り、これを一日置くと、白いうろこ状の汚れになってこびりつくのが「見える」からだ。切れたシャンプーをそのままにしておくと、次に使う時にがっかりする家族(あるいは自分)の姿が「見える」からだ。

■「感謝してくれない」主婦の嘆きの根本原因

そんなふうに、ベテラン主婦がこまごま動く傍らで、風呂から上がった20代の娘は、パックして、マッサージして、ドライヤーをかけることに夢中で、自分が落とした髪の毛ひとつ拾おうとしない。彼女が投げた洗濯物は裏返しで、しかもかごから半分はみ出ている。

手伝ってくれとは言わないが、せめて「ありがとう」のひとつくらい言ってくれてもいいじゃないか、と思うのも当たり前だよね。

けれど、娘には、それができない。

なぜならば、見えていないから。水道栓の水滴と「明日の白いうろこ」が見えていたら、それを拭う母にも気づき、感謝のことばが口をついて出るだろう。けれど、残念ながら、水滴なんかに気づいていないのである。

ベテラン主婦は、家族の何倍も見えている。主婦が100見えているとしたら、他の家族には20くらいしか見えていないのではないだろうか。

だから、主婦たちは常に、家族は「わかってくれない」「感謝してくれない」と嘆きつつ、生きることになるのである(1980年代には、こういう主婦たちを「くれない族」と呼んだ)。

■お局様誕生秘話

職場だって同じこと。

ベテランは、若い人の何倍も見えている。「自分なら、こうするのに」が山ほどあって、それをやらない若手にイラッとする。せめて感謝してくれれば溜飲が下がるのに、誰も何も言わない。で、つい「なんで、やらないの? 見てればわかるでしょ」なんて言っちゃって、お局様と呼ばれたりする。

感謝のない相手にイラッとするのは、そういうわけ。年齢に関係なく、「仕事ができない人」も同様に着眼点が少ない。

だから、仕事ができない人ほど感謝せず、仕事ができる人ほど感謝する。そんな、腹立たしい矛盾が起こるのである。デキる上司ほど部下をねぎらい、デキない上司ほど文句ばっかり言う。

人は「見えているのに、あえて無視して、感謝もしない」のではない。「見えてないから、感謝するきっかけがない」だけ。

そういう相手に、「これしてあげた」「こうもしてあげた」と言い続けるのは恩着せがましくて、うるさがられるだけだし、これはもう打つ手はない。この人は、感謝するほどのセンスもないのだと覚悟を決めるしかない。

■「自分がしたいからする」へのシフト

自分と同じ人間はいない。違う人間のほうが圧倒的に多い。だから、自分軸だけでものごとを判断していたら、どうしても傷ついてしまう。

女性はよく、「普通はこうするよね」とか、「普通はこういうことしないよね」と口にする。自分の「普通」がみんなの「普通」だと信じて疑わない。でも、残念ながらみんなの「普通」はこの世にないし、自分の100を100全部見てくれる人もいない。

「私、何やっているんだろう」と立ち止まってしまったら、キッパリ、「いい人だと思われたいからやる」をやめてみよう。

今後は、家事も、自分のタスク以外の仕事の気遣いも、「自分がそれをして気持ちいいからやる」と決めよう。

「自分が美味しく食べたいから料理を作る」「自分が気持ちいいから掃除をする」「自分がそうしたいから、人を気遣う」の域でやめておく。やりたくないことは、徹底して合理化すればいい。

50歳を過ぎたら、自分がやりたくもないのに、他人のためだけに動くのには限界がある。「自分がやりたいからやる。たまさか、それを楽しんでくれる人がいたら、ラッキー」くらいに思っていればいい。

仕事も同じ。気配りもそこそこで大丈夫。

あなたひとりの気配りがなくても、世の中はなんとか回っていく。少しくらいギクシャクしたほうが、若い人の学びにもなる。

あとは、できるだけ、自分が好きでたまらないものに出会ってね。

■ちゃんと感謝を伝えよう

本稿を読んでいる人の中に、「最近、お母さんが機嫌が悪いけど、更年期かな?」なんて思っている人がいるだろうか。

これまで「いい妻」「いい母」をやってきたお母さんは、自分が何のためにそれをやっているのか、わからなくなる時期がくる。

毎日、朝食、夕食、お弁当を作る、家をきれいにする、洗濯してアイロンをかける……これを20年やってくると、それが当たり前の風景になる。家族はいちいち感謝なんてしない。

「私はちゃんと感謝してる」と思っているかもしれないけど、あなたが見えていて、感謝しているのは、お母さんがやっている100のうちの、せいぜい20だけだ、と思ってみて。

子育てのためには、母親は手を惜しまない。子育てが終わって、子どもが独立し、閉経すると、一気に、家族に尽くす意味がわからなくなってくる。朝から晩まで、家族のために家事して、仕事もして、さまざまな雑用に追われて「私、何やってんだろ」となる。だから、家族の感謝がないことにイラつくし、悲しい。

その年頃の女性のイラつきの原因は、更年期障害と言われているけれど、私からすると、それだけじゃない。脳が生殖期間を終えて、生殖本能が弱くなって、周りから守ってもらう理由がなくなってしまって、「いい人」やっている意味がわからなくなった挙句のクライシスも、相当数含まれているはず。

自分が年配になってくると、あ、お母さん、あれもしてくれたんだ。これもしてくれたんだとわかってくる。

感謝すべきことがわからなかったら、「お母さん、いつも本当にありがとうね」と、まるっと感謝すればいい。

ベッドに座って抱き合う母と娘
写真=iStock.com/ljubaphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ljubaphoto

■感謝されなくて悲しい女性たちへ

人に感謝されないと思ったとき、それはそこにいる人たちの中で、あなたが誰よりも優秀ということなのだ。みんなが20とか30しか見えていないときに、自分は80とか100が見えているということだから。

黒川伊保子『女女問題のトリセツ』(SB新書)
黒川伊保子『女女問題のトリセツ』(SB新書)

私は常々「社会人は、周りからの感謝が足りないと思うようになって、初めて一人前」だと言っている。周りの誰よりも、周りが見えているということだから。

周囲の感謝が足りないことは、プロとして(主婦のプロも含む)、誇りに思っていい。

ちなみに、私は家族に感謝されたくなんかない。

およめちゃんは、私のことを子育てする仲間だと思っているから、「眠くて耐えられな~い」と、私に泣いてる赤ん坊をポンと渡して、寝てしまう。つまり、私が赤ん坊を一緒に育てる仲間だと100%信じているということだ。

「お母さん、すみませんが見てくれませんか」とか「見てくださってありがとうございます」なんて言われたら、寂しくて涙が出ちゃう。それは、子育ての当事者じゃなくて、よその人に言うことばだもの。

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黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)
脳科学・AI研究者
1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。

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(脳科学・AI研究者 黒川 伊保子)

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