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「僕より頭のいい人は社内にいくらでもいるから」東芝・島田太郎新社長が考える経営者のやるべき仕事

プレジデントオンライン / 2022年10月13日 9時15分

撮影=遠藤素子

東芝の新しい経営者は、いま何を考えているのか。3月に就任した島田太郎社長は「自分より頭のいい人は社内にいくらでもいる。だから私のやるべき仕事は、頭の良さや細かい指示ではない。みんなに納得してもらえる『コンセプト』を示し、それを広げる努力をすることだ」という――。(前編/全2回)

■社長就任後もSNSでの発信を続けている

――島田社長は大企業のトップには珍しくSNSを積極的に活用されています。名刺にメールアドレスを載せていますね。

名刺のメールアドレスは、最初から入っていたので気にもしていませんでした。たしかに珍しいかもしれませんね。社長就任後、FacebookやNewsPicksでの発信も続けています。

僕にとって、メールやSNSでのやり取りはとても大事なものです。社長に就任したときに、「皆さんメールください」と社員に呼び掛けたら、100通ほどのメールが来ました。すべて返信したのですが、まさか本人から返信が来るとは思っていなかったようで、驚いた社員もいたようです。

■「自分が社長ならどうするか」入社来意識してきたこと

――どんな思いで東芝のトップを引き受けたのですか。

僕は、以前働いていたシーメンスでも東芝でも、「自分が社長だったらどうするか」と考えながら仕事に取り組んできました。東芝でも、普段からそう考えながら働いていたところに社長就任の話が来たので、自分の考えを実行するだけだという思いで引き受けました。

仕事への取り組み方は、シーメンスでの経験が影響しているかもしれません。個々の社員がオーナーシップを持ちつつ働く「オーナーシップカルチャー」を叩き込まれました。重要なのは、目的が「社長になること」になってはいけないということです。そうではなく、「自分が社長だったらどうするか」と想像しながら日々の業務に取り組むということですね。

そうしてこれまでの考えをまとめたものが、6月に発表した「東芝グループ経営方針」です。それまで温めてきたデータビジネスを全面に出し、発表に至るまでの約3カ月間は、社内でもかなりいろいろな議論がありました。会社を巨大な船に例えれば、我々が目指す方向に舵を切り、しずしずと動き出したところです。

■示すべきは細かい説明ではなく本質を表す“方程式”

――東芝の方向性を決めるのは大変そうです。

やはり利害が異なるあらゆる関係者に納得してもらうというのは難しいですね。先ほど会社を「巨大な船」に例えましたが、東芝には社員、お客様、取引先、国や地域社会、そして株主と、複数のステークホルダーが存在します。どのステークホルダーが欠けても、このビジョンは実現に導くことはできません。だからといって、すべての人にいい顔をしようとしてはビジョンは作れない。

自分の考えはしっかり伝えなければいけませんから、そうした内容になるように皆を説得して回りました。

大事なのは、ビジョンを細かく説明するのではなく、哲学のように抽象的に表すことです。本質を方程式で表す、つまりメタ化して、それを他者が理解できる言葉に翻訳するのです。未来のことはまだ仮説ですから、それをそのままポンと出しても理解は得られません。

島田太郎社長
撮影=遠藤素子

これまで温めてきた思いを満載しながらも、それを人の心に刺さるような、特徴的な言葉で表そうと心がけました。たとえば、長期ビジョンの中にある「SHIBUYA型プロジェクト」という言葉は、コンサルタントに依頼したわけではなく僕が言い出したものです。

渋谷の街はいま、大変貌を遂げています。何百万人も行き来する状態を止めることなく、根本的に変えようとしている。これはまさにわれわれと重なります。モノを売る総合電機の会社から一転、データサービスの会社へと業態を変えながらも、顧客の事業は止めない、投資家の期待に応えるという思いを、「渋谷の街のように、いくつものステップを経てビジネス(電車)を止めずに会社(街)を再生する」という形で表現しています。

まずはこれをコンセプトとして示し、それを成功させるためにこういうことをするつもりですと、段階的に詳しく説明していきました。こうした表現手法が、皆さんの理解や承認につながったのではと思っています。

■東芝が持つ実世界のデータはGAFAをも勝る武器になる

――なぜデータビジネスを事業の柱にしようと考えたのですか。

まず「世界で最も稼いでいるGAFAの企業たちと東芝との差はどこにあるのか」と考えました。技術レベルで言えばわれわれのほうが原子力や量子といった難しいことをやっているのに、現実的には彼らのほうがはるかに儲かっています。一体なぜでしょうか。

それは、彼らが巨大なプラットフォームを持っていて、そこに集まる膨大なデータを有効活用しているからです。しかも、この情報ネットワークは人が集まれば集まるほど自動的に増幅されますから、当然、事業もどんどん伸びていきます。

ただし、GAFAが取得できるデータはデジタルの世界のものだけです。実際は、人間は店舗で買い物をしたりエレベーターに乗ったりと、実世界でもさまざまな行動をしています。そのため、実世界とデジタル世界を合わせた全データのうち、約8割は埋もれたままになっていると言われています。

そして、東芝はその埋もれたデータを持っているのです。われわれは、店舗のレジに使われるPOSシステムやエレベーター、照明など、現実世界での事業を数多く展開しています。これらから取得したデータをビジネスに生かせばGAFAに勝てるのではないか──。そう考え、長期ビジョンで「その未来を目指せば東芝は再び世界に冠たる企業になれる」という理論を描き出しました。

――そうした考えに至ったのはいつ頃のことだったのでしょうか。

「CPS(サイバーフィジカルシステム)」のような考え方自体は、東芝に入社する前、まだシーメンスにいた頃から持っていました。異なる業界の人たちと話す中で、これからは実世界にあるデータをデジタル空間で分析することで価値を生み出す時代だと思うようになったんです。

その後に東芝のデジタル推進部門に入って、最初の3カ月でDXに関していろいろな案を作りました。その一環で当時の社長にCPSの構想を説明して、「東芝はプラットフォーマーになるんだ、今までと違う顧客層からお金をもらうんだ」と言ったら、とても面白がってくれたのです。

島田太郎社長
撮影=遠藤素子

さっそく具体化に向けて動き出すことになり、まずは社員からアイデアを募集しました。単に企画書をもらっても面白くありませんから、皆には「2030年の新聞を作るつもりで、実現したいことを「東芝が○○○○!」という見出しをつけて提出してほしい」と伝えました。そうすれば、結局何が言いたいのかということがひと目でわかりますから。

皆、やりたいことがたまっていたんでしょうね。20代の若手から事業部長、子会社の社長までさまざまな人が応募してくれて、結局88件の案が集まりました。社内にマグマのようにたまっていたものを、破裂させられたのかなと思っています。その後は、寄せられたアイデアをいくつかに絞って、事業にできるものは事業化していきました。多くは、当初コーポレートファンドの出資を受けて始まりましたが、収益化に成功し、すでに自走している事業もあります。また、スマートレシートやifLinkといった既存事業も、これをきっかけに一気に拡大しました。

■組織を動かす3ステップ

組織において自分の考えを実現するには、3ステップでのアプローチが大事だと思います。ステップ1では、皆にコンセプトやパターンを理解してもらいます。コンセプトを「プラットフォーム」などの言葉にして、従前使っていた「デジタル」などの言葉との違いも含めて社内に定着させる段階ですね。

ステップ2は「やってみる」。これが大事になります。失敗してもいいので、事業として皆に体験してもらうのです。実際、先ほどお話しした事業案募集の際には、利益率の高いビジネスモデルがいくつも動きました。そして、ステップ3ではそれをリアルに展開していくために、数字に盛り込みます。会社の中期計画などに、そのまま数字としてコミットするのです。

東芝のDXは、ここまで来て初めて始まったと思っています。その数字を積み上げたものが、長期ビジョンで示した「2030年度に向けたデータサービス事業の収益性」なのです。

■データがつながれば世界は大きく変わる

――私たちの生活はどう変わっていくでしょうか。

それは、iPhoneがない時代に、iPhoneが広がった世界を予見するようなものですから、説明が難しいのですが、すべてのデータがつながる世界が来れば、生活は大きく変わることは間違いありません。

例えば、インドの経済学者であるアマルティア・センは、第2次世界大戦中に起こったベンガル大飢饉(ききん)について「原因は食糧不足ではなく、人々が十分な食糧を入手する能力と資格が損なわれた結果だ」と述べています。

島田太郎、尾原和啓『スケールフリーネットワーク』(日経BP)
島田太郎、尾原和啓『スケールフリーネットワーク』(日経BP)

実は食糧はあったのに、人々がそれを知ることができなかったがために飢饉が起きたのだと。つまり、問題は食糧不足ではなく、情報の非対称性にあったわけです。何が、どこに、どれだけあるのか。人々がそういった情報を知ることができる世界であったなら、そんな悲劇は起こらなかったのではないでしょうか。

同じようなことは、半導体市場など、いまもさまざまな分野で起こっています。今までつながっていなかったデータがつながれば、ありとあらゆることに影響が出てくるでしょう。

ただ、中国で進んでいるOMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインの融合)のような取り組みは、日本ではデジタル化の遅れやプライバシーの問題もあって、すぐには実現しにくい状況です。この点は、今後取り組んでいかなければならない課題だと思っています。

■一緒に考える“余地”を大事にする

――社員12万人を率いるリーダーとはどうあるべきだと考えていますか。

常に謙虚であること、誰とでも話すことを心がけています。僕はエンジニア出身ですから、あることが正しいかどうかを判断する際、「僕はこう思うけど君はどう思う?」という姿勢が大事かなと思っています。

正直、東芝には僕より頭のいい人はいくらでもいますから、それに対して自分の思いを「こうしろ」と言うのは違うだろうと。「社長が言っているからこうしろ」という考え方は嫌いですね。

島田太郎社長
撮影=遠藤素子

社長の仕事は、皆に「そうだよね」と思ってもらえるコンセプトを示すことです。ですから、普段から細かいことにはあまり言いたくありません。ビジョンでも「ソフトとハードを分離する」と掲げましたが、よく考えれば完全に分離できるわけがないんです。そうすると「どういうことですか」と社員からたくさん質問がくるので、それに一つひとつ答えていく。つまり、一緒に考えていく余地が生まれるのです。

こうしたやり取りには社内SNSも積極的に活用しています。ただ、これだけでは全社員にリーチできないので、全国の拠点を回るなど、現地に足を運ぶことも大切にしています。

6月に発表した長期ビジョンは外部向けのものであって、内部に伝えたいことは他にもたくさんあります。今は、そうした「裏・東芝戦略」を社員に伝えて回っているところです。伝えたい相手にリーチするためなら手段は選びません。これからも、リーダーとして自分にできることは何でもやっていくつもりです。(後編に続く)

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島田 太郎(しまだ・たろう)
東芝 社長 CEO
1966年生まれ。1990年に新明和工業に入社し、航空機開発に従事。その後、アメリカのソフトウェア会社SDRCにて日本法人社長を務める。同社がドイツのシーメンスに買収された後、ドイツ本社駐在を経て日本法人専務執行役員に就任。2018年、東芝に入社。執行役常務、コーポレートデジタル事業責任者を経て執行役上席常務、東芝デジタルソリューションズ取締役社長。2022年より現職。

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(東芝 社長 CEO 島田 太郎 構成=辻村洋子)

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