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成城石井でいちばん売れているポテトチップスが、なぜかドバイから輸入されている納得の理由

プレジデントオンライン / 2022年10月7日 10時15分

ハンターズ 黒トリュフフレーバーポテトチップス - 画像提供=成城石井

スーパーマーケット成城石井で年間100万袋を売る人気商品「ハンターズ 黒トリュフフレーバーポテトチップス」は、アラブ首長国連邦のドバイからの輸入品だ。なぜわざわざそんなところから輸入することになったのか。そこには「納得の理由」が隠されていた――。

■「トリュフ味」に火をつけたハンターフーズ社

スーパーマーケットの成城石井には、珍しい輸入ポテトチップスが数多く並んでいる。それゆえ、筆者のようなポテトチップス好きにとってはチェックが欠かせない店と言ってよい。

その中でもっとも売れているポテトチップスが、2020年春から販売しているハンターフーズ社の黒トリュフフレーバーポテトチップス(HUNTER’S Gourmet HAND COOKED POTATO CHIPS - Black Truffle)だ。

テレビ番組やYouTubeの試食動画、個人ブログでもよく紹介されているので、ご存じの方も多いだろう。缶タイプと袋タイプが流通しており、成城石井で取り扱っているのは袋のタイプ。2020年には100万袋も売れた。そのヒットを受けてか、国内メーカーでも今年に入ってカルビーが「ポテトチップス 至福のトリュフ塩味」を、湖池屋が「じゃがいも心地 トリュフと岩塩」を発売している。

■袋の裏には「原産国:アラブ首長国連邦」

ハンター社の黒トリュフポテチを実食してみる。厚めにカットしたじゃがいもを釜で手揚げしているため、食感は「サクサク」というより「ザクザク」。トリュフの芳醇な香りと塩気がかなり強い。国内メーカーのトリュフ系チップスが比較的「甘み」や「丸み」を意識したマイルド仕様なのに対し、こちらは酒のつまみとして十分成立するほど濃厚だ。ワインが欲しくなる。好き嫌いはあるだろうが、筆者はかなりハマった。

袋の裏を見ると、原産国名の欄には「アラブ首長国連邦」とある。お菓子の原産国としてはあまり目にしない国名だ。

なぜアラブ首長国連邦のポテトチップスが日本に輸入され、しかも大ヒット商品になっているのか。

■出合いはドバイの食品総合見本市

前提として、成城石井は海外食材を輸入する商社機能を持った東京ヨーロッパ貿易という子会社を持っており、海外の製品や原材料は同社を通じて自社で直接輸入している。中間マージンが省けるだけでなく、最適な輸送ルートを自ら選べるからだ。成城石井では自社のバイヤーが、自らの目と舌でそれらの“おいしさ”を見極めた上で商品を買い付けているが、直接現地に赴くことも多い。

「スナック菓子は成城石井で安定して売れているカテゴリーです。元々オリジナル商品のラインナップを増やしたいと考えていたところ、バイヤーのひとりがドバイの食品総合見本市で黒トリュフフレーバーのポテトチップスに出合いました。ハンターフーズ社が見本市にブースを出展していたんです」。商品との出合いを、成城石井の八尋佐和子氏(商品本部 商品部 菓子課 課長代理)はこう説明する。

ハンターフーズ社はドバイに本拠を置くスナック会社で、創業は1985年。黒トリュフポテチを擁する「HUNTER'S GOURMET(ハンターズ・グルメ)」シリーズ以外にも複数のスナックラインナップがあり、現地のスーパーには多くの同社商品が並ぶ。ホームページによれば、同国内の主要な小売業者に流通ネットワークを持ち、エミレーツ航空やスターバックス、高級ホテルなどとも取引がある。

■ドバイには世界中からおいしいものが集まる

実はトリュフフレーバー自体は、3年ほど前から日本の食品業界のトレンドになっていた。それを察知していた成城石井も、トリュフ味の商品を拡大しようとしていたタイミングだったという。バイヤーは黒トリュフポテチを食し、日本でも売れると直感した。

それにしても、なぜドバイなのか。

「欧米の食品見本市は他社のバイヤーさんもよく行かれるので、自社ならではの新しいものを発掘するには、文字通り世界中の見本市に足を運ぶ必要があります。中でもアラブ首長国連邦は、富裕層の方々が世界から集まる国。舌の肥えたグルメである方のお眼鏡にかないそうな食品が、世界各国から集まってくる市場なんです」(八尋氏)

こうして、ハンターフーズ社の黒トリュフポテチは2020年夏に日本で販売開始。またたく間に人気に火が付き、現在では成城石井が取り扱うすべてのポテトチップスの中でもっとも売れる商品となっている。

■港にたまったコンテナを有効活用して輸送費を抑える

ハンターフーズ社の黒トリュフポテチは国内での発売当初、輸入ものにしては比較的価格が安かった。たとえば、あるスペインのポテトチップスの場合、40gの小袋で店頭価格は税込み300円台とかなり高かったし、そこまでではないにしても、欧米のプレミアムチップスは40gで税込み300円近いものも少なくなかった。しかし黒トリュフポテチはそれらと比較すると、1gあたり2分の1程度の価格だったのだ(2022年9月30日現在の店頭価格は125g税込み486円)。むろん、国内大手メーカーの一般的なポテトチップスの店頭価格はもっと安く60gで税込み100円台前半が一般的だが、海外商品の中では安い部類だった――といってよいだろう。

輸入ポテトチップスが高くなるのは仕方がない。他商品に比べて輸送効率が悪く、輸送費が価格に乗ってしまうからだ。

「ポテトチップスは袋入りスナック菓子という性質上、『空気を運んでいるようなもの』とよく言われます。チョコレートやキャンディなどに比べると、同じ容積のコンテナでも運べる量が少ない。コンテナ積載率が低いんです」(同)

ところが、である。

「ドバイは輸出より輸入がずっと多い港なので、コンテナがたまってしまうんですね。ずっと置いておくわけにはいかないけれど、空っぽのコンテナをそのまま戻すと無駄に輸送費がかかってしまう。だから多少輸送費を安くしてでも、コンテナに何か入れて港から減らしたいという事情があります。成城石井が輸入を始めた当時は、このような状況からポテトチップスを相場より安く運べたんです」(同)

欧米のポテトチップスだったら、こうはいかなかった。ドバイ発のポテトチップスだからこそ、価格を抑えられたのだ。

■ハンターフーズ社にとって成城石井は世界一の輸出相手

黒トリュフポテチのブレーク後、成城石井では同じハンターフーズ社の「グルメシリーズ」である「クアトロフォルマッジ」「シーソルト&ビネガー」(10月ごろ終売予定)「サワークリーム&オニオン」「バーベキュー」「バジルパルメザン」の各フレーバーを輸入して市場投入した。さらに今年8月26日には、「キャビア」「黒トリュフ&パルメザン」「白トリュフ&ポルチーニ」も加わった。

ハンターフーズ社の「グルメシリーズ」
画像提供=成城石井
ハンターフーズ社の「グルメシリーズ」。上段左から「キャビア」「クアトロフォルマッジ」「サワークリーム&オニオン」、下段左から「バーベキュー」「バジルパルメザン」「白トリュフ&ポルチーニ」「黒トリュフ&パルメザン」。 - 画像提供=成城石井

実はこのうち「クアトロフォルマッジ」と「キャビア」は、成城石井とハンターフーズ社が共同開発したフレーバーだ。しかし、ドバイの大手スナックメーカー(ホームページによれば「46カ国以上に製品を販売」している)が極東のいちスーパマーケットチェーンの求めに応じて商品開発するとは、どういうことなのか。

ハンターズ キャビアフレーバー ポテトチップス
画像提供=成城石井
ハンターズ キャビアフレーバー ポテトチップス - 画像提供=成城石井

「実は、ハンターフーズ社のポテトチップスを去年(2021年)世界一たくさん輸入販売しているのは成城石井なんです。そうした実績もあり、共同開発に至りました」(同)

ハンターフーズ社にとって成城石井は世界最大の大口顧客だったのだ。

■日本は世界一のポテトチップス王国

日本人はポテトチップスが大好きだ。2021年の国内スナック菓子出荷実績3035億円のうち、1097億円をポテトチップスが占める。ほかのじゃがいも系スナックであるシューストリングポテト(じゃがいもを細長く切って揚げたもの。「じゃがりこ」など)や成型ポテト(乾燥したじゃがいもをフレーク状態にして固めて揚げたもの。「プリングルズ」など)を足すと2000億円を超える。これは小麦系スナック(391億円)やコーン系スナック(448億円)をはるかに凌駕する数字だ(以上、日本スナック・シリアルフーズ協会「スナック菓子の出荷実績の推移」より)。

このことは、スーパーやコンビニのスナック菓子棚でもっとも良い場所を確保しているのがポテトチップスであることからも明らかだろう。

ただ海外に目を向ければ、これは当たり前の光景ではない。欧米やアジア各国では必ずしもポテトチップスが“スナック菓子の王様”ではないからだ。アメリカではコーン系チップスが強く、アジア各国では豆原料のチップスも多い。

また、これは複数の国内ポテトチップスメーカーが認めるところだが、フレーバーのバリエーションや次々と市場投入される新製品の数、製法の創意工夫や品質に関して、日本のポテトチップスは間違いなく世界一といっていい。日本は紛れもなくポテトチップス王国である。その地位を、高い商品開発力のみならず、迅速な商品供給体制や価格競争力によっても支えているのが、カルビーや湖池屋をはじめとした国内ポテチメーカーというわけだ。

■そもそも輸入ポテチは「扱いづらい」ワケ

それゆえに、輸入ポテトチップスが国内市場で大きなシェアを獲得するには至っていない。価格が高いのは理由のひとつだが、八尋氏によるともっと根本的な点があるという。

「成城石井の立場からお話をすると、そもそもポテトチップスは比較的扱いづらい商品なんです。製造から日が経つほど油が酸化して品質が落ちるので、賞味期限が短い。本国からの輸送日数が余計にかかる輸入ポテトチップスは、そこがネックになります。販売のしやすさという点では国内産じゃがいもを国内の工場で加工して国内に流通させる国産ポテトチップスがどうしても有利になるんです」

スナック菓子は、ここのところの原材料費高騰によって世界的に値上がり傾向にある。さらに海外商品の場合は、昨今の円安がさらに価格を押し上げる。今は「ポテチ受難の時代」なのだ。

とはいえ、コロナ禍以降、巣ごもり需要による追い風もあってか成城石井の業績は成長している。2022年2月期の売上高は前期比5%以上増の約1097億円。黒トリュフポテチのヒットも、まさにこの時期と重なっている。なかなか自由に外出できない分、多少高くてもおいしいものを家で食べようという気分にマッチしたのだろう。今後も成城石井には、値上げの逆風に負けることなく、世界中のおいしいポテトチップスをどんどん輸入してもらいたいところだ。

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稲田 豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター
1974年、愛知県生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経てフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)ほか。

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(編集者/ライター 稲田 豊史)

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