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「一流大学卒も三流卒も10年後の成果に差はない」日本電産・永守重信が偏差値よりEQと確信した衝撃データ

プレジデントオンライン / 2022年10月5日 9時15分

講演中、若者の質問に答える永守重信日本電産会長兼永守学園理事長 - 写真提供=日本電産

京都先端科学大学の理事長としての活動も広く知られる永守重信・日本電産会長は、採用する新卒社員のなかで、一流大学出身者より三流大学出身のほうが活躍する例が多くあることにかねて疑問を抱いていた。そこで一人一人の仕事の成果データを取ってみたところ、ある意外な結果が示され、「結局は情熱と教育がすべてを決める」「IQよりもEQが大切」と確信するにいたったという──。(第2回/全2回)

*本稿は、永守重信『大学で何を学ぶか』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

■一流大学卒も三流大学卒も、仕事の成果は変わらない

日本電産では、これまで多くの大卒・院卒者を採用してきた。だが、あるとき私は「社員の出身大学と仕事の成果に、どのくらい相関関係があるのだろうか」と疑問に思い、直近十数年で採用した新卒の社員一人ずつについて、仕事の成果のデータをとってみた。

すると、一流と呼ばれる大学を出た社員も、世間では三流と呼ばれる大学を出た社員も、入社後10年ほどの時点では仕事の成果に大きな差がないことがわかった。

しかし、それは以前からうすうす感じていたことだった。

■あてにならない「偏差値」

我が社は、1973年の創業当初は知名度のない零細企業に過ぎなかった。当然、新入社員として応募してくる学生にも、いわゆる一流大学の者はほとんどいない。

はっきり言って大学名も有名でなければ、学業成績もけっして良くはない。そんな学生たちを我が社では徹底的に鍛えてきたが、それによって自らの能力をぐんぐん伸ばし、会社を背負うほどまで大きく成長した者も多かった。

会社が大きく成長していくにつれ、2000年頃からは一流と呼ばれる大学からもたくさんの学生が応募してくるようになった。

だが、そうした学生たちが必ず成果をあげているかといえば、そうではないのだ。むしろ偏差値の高い大学の出身者には真摯(しんし)に学ぼうという気持ちが薄く、成果をあげられない者も多かった。同じ入社年次でも、三流と呼ばれる大学出身の社員のほうが活躍していることもあった。

そうしたことが、このデータによってはっきりわかったのである。そして、こう思わざるを得なかった。「何のために一流大学卒を採っているんだ。いったい偏差値とは何なのだ」と。

■社会に出て活躍できる人、できない人

私のみる限り、偏差値の高い大学を出ているのに成果をあげていない人というのは、与えられた仕事はうまくこなすものの、自分から率先して仕事をとってきたり、創意工夫して良い方法を考え出したり、状況の変化に応じて自ら判断して動くことが少ない。

一般的に上司の指示を待っている「指示待ち族」が多いように思う。

一方、偏差値の高い低いにかかわらず、何かに打ち込んできた人や個性の光る人は、何でも前向きに取り組み、人が嫌がるような雑務もこなす気概がある。こうした人たちは、自ら問題意識を持って仕事に臨むため、みるみる実力をつけていき、入社してから数年後には大きな成果を出している。

結局、入試のときの偏差値が高い大学を出たからといって、社会に出てから活躍できるというわけではないのである。

■日本の名経営者には一流大学出身者が多くない

これまで日本が生んだ優れた経営者や実業家たちに目を向けてみてほしい。

パナソニック創業者の松下幸之助さん(尋常小学校中退)やホンダ創業者の本田宗一郎さん(高等小学校卒。後に高等工業学校の聴講生を経験)、サントリー創業者の鳥井信治郎さん(商業学校中退)のように、大学を出ていない人もいる。

もちろんこの方たちはほんの一例に過ぎないが、そのほかの名だたる経営者にも、一流大学出身者はそれほど多くないのが実情である。

■指示待ち族が増えるのはなぜなのか

それにしても、なぜ有名大学を卒業しているのに指示待ち族になってしまう人がいるのだろうか。

有名大学や一流といわれる大学の出身者には、親の希望を叶えるために、自分の意志ではなく、他人から言われた通りに勉強することを優先してきた人が多い。そういう人は「自分はこれから何をすべきか」「自分の強みは何か」ということを考えられないのではないかと思う。これがブランド大学至上主義の大きな弊害だ。

もちろん私は、受験勉強そのものは否定しない。

より良い結果を出すため、懸命に勉強するのは何ものにも代えがたい経験である。「何かを必死で頑張る」という経験は人を大きく成長させる。私も学生時代は机にかじりついて勉強した。

問題なのは、自分の意志でなく誰かに言われた通りに大学や学部を選ぶことだ。そして、自分の志望や将来と関係ない大学や学部に入るために勉強することだ。

どんなものであれ、自分自身で目標を決め、それに向かって努力することをしなければ、主体性や自信は育たないし、潜在能力を伸ばすこともできないのである。

■正解のない問題に解答を見つけられるか

また社会に出て直面するのは、試験のように正解のはっきりした問題ではなく、正解のはっきりしない問題だ。ときには正解のないことだってある。

永守重信『大学で何を学ぶか』(小学館新書)
永守重信『大学で何を学ぶか』(小学館新書)

それに、どこかに1つの正解があり、その正解に従ってやっていれば何とかなるという時代はすでに終わった。企業でいえば、売れている他社製品を真似したような商品を出しても負けるだけなのだ。

入試を突破するためのテクニックだけを身につけたような人がいざ社会に出て、正解のわからない問題や先の見えない課題にぶつかったとき、果たして自分の力で解決していけるだろうか。たとえすぐに結果が出なくても、諦(あきら)めずに「できるまでやる」という強い心を保てるだろうか。私は難しいと思っている。

おとなの言う通りに小さな頃から塾に行って知識を詰め込んできた人は、誰かの言う通りに行動することには慣れている。だから会社に入ってからも、上司の指示通りに仕事をこなすだけになってしまう。

こうした指示待ち族の蔓延が、リーダー不在の日本社会をつくり出しているのではないだろうか。

■若い人の可能性の芽を摘む「偏差値教育」

偏差値教育の一番の問題は、18歳時の偏差値や入試の結果で若者の人生が決められてしまうことだ。

残りの人生は約80年もあるのに、有名大学に入ったかどうかで「お前は新幹線の人生」「お前はローカル線の人生だ」と決めつける。結果的に一握りのエリート以外は自信を失くしてしまう。

若い人の長い人生を偏差値や入試の結果で分類するなど、人生100年時代といわれる現状に合っていないし、夢も希望もない話だ。

そうやって若い人の可能性の芽を摘(つ)んでしまうのが、偏差値教育の大きな問題なのである。

■EQの高い人が求められる時代に

ところで、人間の能力には知能指数の「IQ」と感情指数の「EQ」の2つがあるといわれている。

IQ(Intelligence Quotient)の高い人は知能が高いため、当然、学校のテストでは有利になる。これまでの日本企業でもIQの高い人材が重宝されてきた。

しかし、IQの高い人材が社会に出て成功するとは限らない。医学部試験に受かった人が必ず立派な医者になるわけではないし、有名大学の卒業者だけが会社に入って売り上げをあげたり、新製品を開発したり、リーダーシップを発揮できるというわけではない。

特に今は昔とは経済環境が激変しており、単に頭の良い人が成功する、あるいは性能の良い製品をつくりさえすれば売れるという時代は終わっている。

こうした時代の変化とともに、企業の求める人材も知能が高いだけの人材から、人間としての総合力が高い人材に変わってきている。つまり、EQ(Emotional Intelligence Quotient)の高い人である。

■「人間力」が今こそ必要だ

EQとは感情の豊かさを表す能力のことで「心の知能指数」とも呼ばれているが、意欲や矜持(きょうじ)を生み出す原動力になるものであり、まさに人間力といえるだろう。

一般にEQが高い人は行動や言葉によって人を感動させることができ、また共感能力にも優れている。困難な課題にぶつかったときにも、身体中からほとばしるような熱意で、最後までやり抜くことができる。

「このことなら他の誰にも負けたくない」「この分野では絶対に一番になる」という情熱や、自分は必ずやり遂げるという矜持、できるまでやるといった粘り強さなどもEQによるものだと私は考えている。大学卒業後、社会に出た後はこうした力を持った人が多く成功している。

今後、AI化が進めば、こうした人間力がより必要とされるようになるはずだ。

■IQは伸ばしにくいが、EQは後天的に伸ばせる

覚えておいてほしいのは、「EQは努力や経験によって後天的に伸ばせる」ということである。

IQには遺伝的な要因が大きく影響しているため、努力しても簡単には上がらないという。一方、EQは遺伝などの先天的要素が少なく、経験や学習、努力によって上がっていく。いわば人間の筋肉のようなもので、鍛えれば鍛えるほど上がっていくのだ。

これまで多くの従業員や経営者を見ていて実感するのは、IQなどの能力的な差が生み出す成果の差は、どんなに頭がいい人でも普通の人のせいぜい5倍程度だということである。

しかし、EQの高い社員とやる気のない社員の成果の差は100倍以上にもなることがある。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

■買収企業はリストラではなく、従業員教育で立て直す

私は創業当初から従業員の育成について熱心に取り組み、社内にもいろいろな塾や経営人材育成プログラムなどをつくって人材を育ててきたが、EQの高い社員は学べば学ぶほど、意識が変われば変わるほど、その潜在能力を伸ばし、成果をあげることを実感している。

たとえば、こんなこともあった。会社ぐるみで変わった例である。

手を重ね合わせ団結するビジネスマン
写真=iStock.com/scyther5
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scyther5

我が社では別の企業を買収するときも原則としてリストラはせずに立て直すが、その際はいつも従業員を教育することで会社を立て直してきた。

2003年に精密小型モーター分野で強力なライバル会社が2期連続で赤字を出し、倒産寸前に陥ったときのことだ。

私はその会社を買収することにした。その会社には不良資産が多かったため、社内には反対する者も多かったが、製品は非常に優れており、従業員たちの技術力も高いことがよくわかっていたからだ。

■社員の意識改革で赤字287億円の企業が、1年で150億円の黒字に

しかしコスト意識に欠けている体質があった。

そこで私は、毎週2泊3日をかけてその会社に通い、日本電産流のコスト管理法を徹底して教育し、従業員に危機感とやる気を持たせるよう、私なりのメッセージを伝え続けた。

すると翌年、黒字転換した。この間、一人の人間も解雇していない。

同じ従業員たちが同じ設備をそのまま使い、景気もそれほど大きく変わっていないのに、前年に287億円もあった赤字を、わずか1年で150億円の黒字へと変えることができたのである。

何が変わったのか。それは、従業員の意識である。

■成果を生む根源は「従業員のやる気」

従業員教育でもっとも大切なのは、彼ら自身のやる気を引き出すことだ。

そのために、私は何度でも現地の会社に行き、社員と弁当をつつきながらの懇談会を開き、熱心に話をする。幹部社員は会食に連れ出す。

そこで、「生産性を上げる永守流の経営をすれば、業績は回復すること」、「あげた利益は、会社の成長のための再投資に使うこと」、「会社が成長したら、従業員に利益を還元すること」などを根気よく伝えている。

こうして永守流経営の考え方を理解してもらえる土壌をつくり、社員の意識を変えていくのだ。

最初のうち、従業員たちはそれを信じない。半信半疑の眼で私の話を聞いている。しかし次第に業績が回復していくと私の話を信じるようになっていく。それと同時に、彼らのやる気もぐんぐん出てきて大きな成果が出始めるのだ。

海外の企業を買収するときも同じである。基本的に経営者や従業員は変えない。いきなり文化や習慣の違う日本人の経営者を送り込んでも、現地の人の心はつかめないどころか離れてしまうからだ。それより私の信念や方法論を理解してもらい、やる気を出してもらうほうが大切だ。

■情熱と教育がすべてを決める

このように、結局は情熱と教育がすべてを決めるというのが、これまで50年間会社経営をしてきた私の実感である。

日本電産を創業したときも、私を含めて社員は皆、有名大学や一流大学の出身ではなかった。しかしお金も知名度も実績もないなかで我々は大企業の2倍働くと決め、会社の理念の一つである「知的ハードワーキング」を必死に続けた結果、世界一のモーターメーカーに成長することができたのだ。会社を大きくしてきた創業メンバーは皆、我が社の大幹部になった。

また、これまで画期的な開発をしてきたからこそ世界一のモーターメーカーになれたわけだが、その開発をしてきた社員たちだって一流大学出身というわけではない。

IQよりEQの高い社員たちが懸命に働き、持てる潜在能力を大いに発揮したことが、大きな飛躍につながったと信じている。

人間の潜在能力を生かせるかどうかは、このEQを伸ばせるかどうかにかかっているのである。

話を受験勉強に戻そう。皆さんのEQを高めるにはどうすれば良いのだろうか。それには大きい夢を持って、将来こうなりたい、この学部に行きたい、この学問を学びたいという強い意志を持つことだと思う。そのことは拙著『大学で何を学ぶか』で詳しく述べることにしたい。

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永守 重信(ながもり・しげのぶ)
日本電産 代表取締役会長
1944年、京都府生まれ。6人兄弟の末っ子。京都市立洛陽工業高等学校を卒業後、職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科を首席で卒業。1973年、28歳で日本電産を創業し、代表取締役に就任。同社を世界シェアトップを誇るモーターメーカーに育てた。また、企業のM&Aで業績を回復させた会社は60社を超える。著書に『成しとげる力』(サンマーク出版)、『人を動かす人になれ!』(三笠書房)、『大学で何を学ぶか』(小学館新書)など。

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(日本電産 代表取締役会長 永守 重信)

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