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この10年で68店→1200店以上に…爆発的成長を遂げたアメリカの自動車修理店が最重視した経営指標とは

プレジデントオンライン / 2022年9月30日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kunakorn Rassadornyindee

コロナ禍で、経営危機に直面した企業と価値を高めた企業は、どこに違いがあったのか。経営コンサルタントのフレッド・ライクヘルド氏は「想定外の危機に強いのは、明確な存在意義を持つ組織だ。なかでも『顧客の生活を豊かにすること』を1番に掲げることが成功する上で重要だが、実践できる経営者は全体の1割に過ぎない」という――。

※本稿は、フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ著『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■コロナ禍で業界全体の売上高は半減したが…

2009年、スティーブ・グリムショーがCEOとしてキャリバー・コリジョンに入社したとき、この自動車修理チェーンは全米のわずか2州、68店舗で営業していたにすぎなかった。ところが、2020年初め頃までには、全米1200カ所以上で店舗を構えるアメリカの圧倒的な業界リーダーにまで成長した。売上高も2億8400万ドルから50億ドル近くまで爆発的な拡大を遂げている。

そして2020年3月、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(感染症の世界的拡大)というブラック・スワンが急襲する。自動車は車庫とドライブウエー(私有車道)に押しやられ、車の衝突事故は急減した。業界全体の売上高は55%も落ち込み、競合他社の多くは負債の支払い能力を維持するために営業店を閉鎖した。

だが、キャリバーはこの逆風に真っ向から立ち向かうことにした。売上高が大幅に減少していたにもかかわらず、全店舗を開店して危機を乗り越える方法を見つけ出したのである。

スティーブはこのときの選択について、こう説明する。「キャリバーは、利益第一ではありません。人々を最優先しているのです」。

業界の低迷を受けて店舗を閉じるのではなく、3億ドルのクレジット・ライン(訳注:銀行の融資枠)の一部を引き出しながら、サービスの質を引き上げたのである。喜びを与える顧客の数を増やすために、店舗内の余った設備を活用することにしたのだ。

その結果、同社のNPSは前代未聞の水準にまで急騰し、業界標準をはるかに上回ることになった。そして、この事実に気づいた保険会社は、事故の際に同社を紹介する頻度を上げた。

■「顧客愛」を企業文化に昇華させた

この驚異的な粘りと回復は、なぜ実現したのだろうか。スティーブの説明によると、「フレッド、人は給料のために働きます。良い上司のためにはもっと働きます。そして意義あるパーパスのためには懸命になって働くんです」。彼のチームは長い間、自分たちのパーパスが何なのかを考えに考え、その答えを同社のミッション・ステートメントに組み入れた。

お客様が当社を訪ねてくるのは、生活が混乱しているときです。事故に遭うというのは、悲惨な試練です。そして、誠実で、効率的な修理工場を見つけ出さなければならないというプレッシャーにさらされます。保険でどこまでカバーしてもらえるのか、自己負担はどの程度かといったことが心配になります。仕事の予定もガタガタになり、自分の車が修理工場に入っている間は代替車を探すという煩わしさにも直面します。生活が大混乱に陥るのです。そこで、私たちは当社のパーパスを「お客様一人ひとりが元の生活に戻るためのお手伝い」と決めました。「お客様にご自分の生活のリズムを取り戻してもらうこと」だと考えたのです。

自動車事故の後、電話をしている女性
写真=iStock.com/Daisy-Daisy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daisy-Daisy

スティーブと彼のリーダーシップチームは、従業員を刺激して仕事のリズムを取り戻しながら、各店舗の取扱高を大幅に引き上げる方法を探した。

キャリバーは、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が収束するまで、初ファーストレスポンダー期対応者と前線の医療従事者全員の免責金額(自己負担額)を負担する(上限500ドル)と発表した。

これは、衝突による修理を必要とする警察官、消防士、救急車の運転手、医師、看護師全員にとって多額の救済になる。感謝の気持ちを伝えるとともに、チームを鼓舞し、余剰設備を活用する何と素晴らしい方法だろう!

■時価総額は買収当時の52倍に膨らんだ

不況のときにチームを雇用し続けて給料を支払い、顧客に喜びを与える努力を続けると、顧客も従業員も幸せになれる。これは明らかだ。では、投資家はどうだろうか。

スティーブをキャリバーのCEOとして採用したプライベート・エクイティ企業は、同社の買収に1億6500万ドルを支払った。10年後の今日、スティーブの試算によると、キャリバーの時価総額はおよそ100億ドルに近づいており、投資金額の約52倍にもなる。10年間の利益率で計算すると年率50%に近い。何と素晴らしい成果だろう!

スティーブは「いつも正しいことをする」、とりわけ「いつも人々に正しく接する」という考えに基づいて、キャリバーの文化を築き上げた。「自社の社員が社内でどう感じているかどうかが、外でお客様をどう扱うかに反映されるのです」と、スティーブは言う。

キャリバーではリーダー全員が、チームメンバー一人ひとりが顧客(とチームメイト)に正しく接するとはどういう感じかを経験できる研修に参加する。なかでも上級リーダー育成プログラムのタイトルの一つが、私には非常に魅力的に思えた。それは「目的意識をもって率いる」だ。

■9割の経営者が見過ごしている無敵のパーパス

キャリバーは、企業文化や価値観を補強する方法とシステムも開発し、現在リーダーシップ研修で教えている。また、同社の顧客と直接接点のある従業員が顧客の信頼を勝ち得たインパクトを十分に記憶に残しておけるように、同社の経営陣は毎週の打ち合わせで各店舗が自分の顧客の数を振り返ることにしている。

こうした打ち合わせの間中、スティーブによると「チームは、その店舗が私たちのパーパスにどれだけ近づいたかを測定するいくつかの指標をチェックします。その中で圧倒的に重要な指標がNPSです。そうした過程を通じて、個々のチームメンバーは「ほら、あなたは正しいことをしているじゃないですか!」と称賛されるのである。

キャリバーの物語は、拙著『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』を通じて何度も繰り返される素晴らしいパターンを示してくれる。ビジネスが長期的に繁栄し、あらゆるステークホルダーに利益を与えるパーパスだ。そして、それはたった一つしかない。「顧客の生活を豊かにすること」。これだ。

ただし、自社の主なパーパスを顧客の生活を豊かにすることと考えているビジネスリーダーは、わずか10%だということを覚えておいてほしい。さらに一段と懸念すべき事実を指摘しておくと、今日の企業経営者のなんと90%が、顧客を中心に据えるというパーパスには無敵のメリットがあることを無視している。

■明確な存在意義がない戦略は危機に弱い

だが、勝つための公式は比較的単純だ。パーパスに従って勝利するリーダーは、優れたチームメンバーを引き寄せ、刺激し、顧客の日々を明るくする行為を通じて、人生の目的を見つけられるよう支援する。従業員と彼らのチームが、顧客の生活を豊かにして感謝されて報酬を得ることができれば、パーパスにけん引された弾み車が持続可能な成長と経済的な繁栄を加速させるのである。

フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ著『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』(プレジデント社)
フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ著『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』(プレジデント社)

単純化して言えば、これが個人と組織の成功への道だ。このパーパスに基づく戦略は、景気後退やパンデミック、そして、しだいに頻度を増してきた予想できないブラック・スワンと言われる事象にも強い。このような事態になると、説得力のないアプローチは脆さを露呈するものなのだ。

重要なのは、リーダーがNPSを使って実現しようとしている第一のミッションは何か、を見極めることだ。NPSを活用して、従業員は自分が接している人々の生活をいつも豊かに、つまりその人らしい生活を送る手伝いをする。これが偉大な組織のパーパスなのだ。NPSを正しく設計して導入すれば、NPSは組織のネット・パーパス・スコアになり、そのパーパスの達成に向けた進捗(しんちょく)度合いを測ることができる。

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大越 一樹(おおこし・かずき)
ベイン・アンド・カンパニー パートナー
京都大学法学部卒業。フランスHEC経営大学院修士課程(MBA)修了。第一勧業銀行、外資コンサルティングファームを経てベイン・アンド・カンパニーに入社。東京オフィスにおける顧客戦略プラクティスのリーダー。通信・テクノロジー、自動車、金融などの幅広い業界において、全社戦略、顧客ロイヤルティ(NPS)向上を中心とした顧客戦略・マーケティング、営業改革、アフターサービス戦略等のプロジェクトに携わる。『ネット・プロモーター経営―顧客ロイヤルティ指標NPS で「利益ある成長」を実現する』(プレジデント社)でも監訳を務め、多数の講演実績に加え主要ビジネス誌で論文が掲載されている。

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(ベイン・アンド・カンパニー パートナー 大越 一樹)

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