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「若者の恋愛離れは草食化のせいである」そんなウソを政府もマスコミも信じてしまう根本原因

プレジデントオンライン / 2022年9月30日 10時15分

■少子化を防ぐには婚姻数を増やすしかないが…

日本の出生数が減少し続けているのは、婚姻数の減少によるものです。もちろん、結婚すれば必ず子どもを産むということではありませんが、そもそも婚外子の割合が極端に少ない日本においては、少なくとも結婚の数が増えなければ子どもの数は増えません。私は「発生結婚出生数(婚姻数に対してどれくらいの出生があったか)」という指標を作っていますが、1980年代以降その数値はずっと1.5人で変わらず推移しています。

つまり、婚姻数が1つ増えれば、その後離婚などがあったとしても、計算上は1.5人の子どもが生まれるということを意味します。逆に、婚姻が1組減れば1.5人の出生数が減るわけです。

■婚活支援で「壁ドンの練習」などありえない

そうした「婚姻数が減れば出生は減る」という根本問題については今まであまり触れられませんでしたが、さすがに問題の本質を無視し続けることはできなくなったのか、最近の政府の白書や提言には「少子化対策としての婚姻支援」という文言がいの一番に語られるようになりました。課題の抽出としてそれは間違ってはいないと思います。

とはいえ、婚姻支援をしたからといって婚姻数が増えるものでもありませんし、婚姻数を増やしたいからと、先般炎上した内閣府の研究会の提言のように「若者が恋愛しなくなっているのだから、恋愛支援をすれば婚姻も増えるはず。だから壁ドンの練習だ」などという論法はありえません。

そもそも、いつもいつも草食化とか恋愛の不活性化などと「これもできない、あれもできないよね」とネチネチ指摘してばかりなのは、部下のミスをいつまでも蒸し返す上司のパワハラ行動そのもののようでいかがなものかと思うわけです。

ラウンジでおしゃべりする男子学生たち
写真=iStock.com/Kavuto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kavuto

そもそも若者が恋愛をしないということ自体、別に彼らのミスでもありませんし、恋愛していないのは今に始まった話でもない。

つい先日公開された最新の出生動向基本調査の未婚者調査の結果をふまえた上で、まずは問題の本質はどこにあるかという点を共有しておきたいと思います。

■そもそも「結婚したい人が9割」は本当か?

最初に、未婚者の結婚意欲についてですが、「一生結婚しない」という未婚者が男性17.3%、女性14.6%で過去最高となったことがすでにニュースなどでも取り上げられています。しかし、それほど大騒ぎすることでしょうか? 2020年で生涯未婚率は男性28.3%、女性17.8%となっているのですから、そんなもんだろうとしか思いません。

この部分はかつて「結婚したい人が9割」とマスコミが喧伝していた部分で、9割を割っても「それでも8割以上が結婚したがっている」と言い続けている人もいます。どうしても「結婚したい」を多数派としたいのでしょうか。が、その論法はデマではないが正しくありません。そもそもこの質問は、「いずれ結婚するつもり」か「一生結婚しない」かの二択です。どちらかを選べと言われれば、よほど結婚しないという強力な意志のある人以外は前者を選択するでしょう。

実際、調査では「結婚するつもり」と回答した人に対して次の質問で「ある程度の年齢までに結婚したい」か「理想の相手が見つからなければ結婚しなくてもいい」かを聞いていますが、その割合は40年前から大体半々で推移しています。要するに、結婚に前のめりな層というのは、いつの時代も男女ともにせいぜい5割程度に過ぎないというのが正確なところです。

結婚指輪の交換の瞬間
写真=iStock.com/Nadtochiy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nadtochiy

■「恋人ナシ、恋愛願望もない」割合は10年で増えたが…

逆に、元々結婚に後ろ向きな層も皆婚時代から半分くらいずっと存在していたわけで、「一生結婚しない」の割合が増えたといっても、それは元々の後ろ向き層の濃淡の話にすぎず、ことさら大騒ぎする問題でもありません。

しかし、こういうことを言うと「一生結婚しないという割合が増えていることはすなわち若者の結婚離れという事実であり、由々しき問題ではないか」と反論されます。同じく出生動向基本調査において2010年から「交際相手をもたない未婚者の割合と交際の希望」についても調査していますが、それによれば、2021年段階で「現在恋人はいないが別に恋愛したいとは思わない」という割合が、30~34歳で男性40.7%、女性35.8%にも達しています。2010年段階では、男性27.0%、女性21.3%でしたから、男女とも大きく増えています。

こうしたデータを基に「ほら、やっぱり未婚者の恋愛意欲は減っているし、草食化だ。恋愛の不活性化だ」というわけですが、果たして本当でしょうか?

【図表】調査・年齢別にみた、交際相手(異性の友人/恋人、婚約者)を もたない未婚者の割合と交際の希望
出典=人口問題研究所

■「恋愛したくない人口」そのものは以前から変わらない

「恋愛を希望しない」割合で見ると、確かに2010年から随分と増えているように見えますが、では、コーホート別にその推移を絶対人口で見るとどうなるでしょう。それぞれの年齢別の割合に対して、国勢調査の未婚人口を掛け合わせて算出しました(2021年の割合は便宜上2020年の国勢調査の未婚人口と掛け合わせています)。

これによれば、現30~34歳世代も現40~44歳世代も、20代後半から30代前半にかけての「恋愛したくない人口」はほぼ同一です。つまり、割合が増えているように見えるのは、母数としての未婚人口が婚姻によって減っているからであり、20代後半時点で「恋愛したくない」未婚男女はそのまま30代前半以降も継続しているだけに過ぎません。つまり、「恋愛したくない人口」そのものは別に増えていないわけです。

【図表】コーホート別「交際希望しない」未婚人口推移

■それよりも「恋愛したいが恋人もいない」層に目を向けるべき

また、20代前半から20代後半にかけて「恋愛したくない人口」が減っているのは、この期間に急に恋愛意欲が湧き出たというより、能動的な恋愛意識はないものの、相手からのアプローチや自然な2人の人間関係の中で、恋愛または結婚へと進んだ未婚者がいるのでしょう。

「恋愛や結婚するつもりがなかったけど縁があったので結婚した」というのは、それはそれでよろしいのではないかと思います。しかし、30~34歳未婚男女で合計117万人が「恋愛したくない」と思っているのなら、それもそれで尊重すべきでしょう。もう年齢的に子どもでもないのですから。

それとも、若者の草食化と言いたい人たちは「恋愛したくない」若者を少子化解決のために無理やり恋愛や結婚をさせたいのでしょうか。まるで戦前の「産めよ、殖やせよ」の結婚報国思想のようです。それよりも、そもそも「恋愛はしたいけど付き合っている相手もいない」という残り中間層の4割の方に目を向けたほうが婚姻増の視点からは建設的です。

■恋愛したくない未婚者を糾弾するのは間違っている

少子化対策としての婚姻数増を図ることは間違っていません、しかし、だからといって、その手法として、恋愛経験のない未婚者に無理やり壁ドンの練習などをさせることはありえないし、また、「恋愛したくない」という未婚者に対してその考えや生き方を否定して、「きみたちは間違っている」などと追い詰めることなどあってはならないことです。婚姻支援というのであれば、むしろ「恋愛も結婚もしたいのにできない」という不本意未婚の層に重点を置くべきでしょう。

同じく出生動向基本調査と国勢調査を掛け合わせて、年代別の結婚を希望する未婚者を母数として、その後の5年間でそのうちどれだけ初婚をしたかという「結婚希望達成率」を算出しました。初婚数は5歳階級別の初婚数を人口動態調査より当てはめています。

【図表】未婚男女の結婚希望達成率推移

■草食化などという自己責任にすり替えてはならない

これによれば、若年層においては1990~1994年では、男性でも達成率80%超、女性に至っては、ほぼ100%です。これは、結婚を希望する20~34歳の未婚女性は1990年代前半まではほぼ全員が結婚できたということになります。その後、2005年にかけて大きく減少し、男女ともに5割台に下がっています。

要するに、34歳までの若年未婚のうち「結婚したいのにできない」層が5割近くも残されていることになります。ちなみに、中年男女は、達成率そのものは低いですが、結婚したいという希望者に対する達成率は、男女とも90年以降それほど変わりません。

つまり、これは「結婚できない若者」問題ということになるのです。

日差しのなかに佇む女性
写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

「本当に結婚したいなら、若いうちに結婚しておけ」という高齢既婚者もいますが、今の高齢既婚者が恩恵を受けていたお見合いや職場のお膳立てもなくなり、30年間給料が全然あがらないという経済環境の問題も皆婚時代とは大違いです。さらにはコロナ禍の行動制限などによって、そもそも出会いの機会すら剝奪されてしまった若者たちにとっては、本人のやる気や努力の問題ではないと言いたくもなるでしょう。

結婚したいと願っている若者が、若者であるうちに結婚できない。そんな「結婚したいのにできない若者が5割近く」も存在する状況、そしてそんな若者の環境をつくり出したのは誰なのかということを大人たちは自分自身に問い直す必要があるのではないでしょうか。最近の若者は草食だとか不活性だとか、そんな若者の意識の自己責任にすり替えてはならないと思います。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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