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豊かな高齢者にも5万円の現金給付…岸田政権の「黄金の3年間」は国民にとって「悪夢の3年間」になる

プレジデントオンライン / 2022年10月3日 12時15分

アメリカ・ニューヨークで開かれた日本食PRイベントで乾杯の音頭を取る岸田文雄首相(2022年9月21日) - 写真=時事通信フォト

これから日本経済はどうなるのか。経済アナリストの森永康平さんは「アフターコロナでも一部の需要は回復せず、ゼロゼロ融資も終わるため、これから企業の倒産件数は増加するだろう。本来であれば消費減税の必要な局面だが、岸田政権の経済・金融政策には期待できない」という――。

■平均14%もの値上げが直撃

スーパーに買い物に行けば、あらゆるモノの値段が上がっていることを実感する。帝国データバンクの発表によれば、10月に値上げが予定されている食品は6532品目に及ぶという。値上げラッシュの22年だが、10月の値上げはこれまでで最大の規模となるだろう。

すでに実施された値上げと、今後予定されている値上げを合算すると、2022年は通年で2万を超える食品が値上げされ、その平均的な値上げ率は14%となる。

メディアは連日のようにインフレや値上げラッシュを報じているが、その際に物価の指標として引用されるのは、総務省が毎月発表している消費者物価指数である。

8月の消費者物価指数は総合の伸び率が前年同月比+3.0%となり、1991年11月以来、30年9カ月ぶりの高水準となった。

中でも、私たちの実感に近いとされている「持家の帰属家賃を除く総合」は前年同月比+3.5%、生活必需品を表す「基礎的支出項目」は同+4.8%となっている。

値上げラッシュが私たちの生活を直撃している様子がうかがわれる。

【図表】消費者物価指数(前年同月比)の推移

■値上げの分だけ家計が苦しくなる

一方、消費の原資である賃金が、物価の上昇率以上に伸びるということは起きていない。

厚生労働省が従業員5人以上の全国3万余りの事業所を対象に行った毎月勤労統計調査によれば、基本給や残業代などを合わせた働く人1人当たりの現金給与総額は、名目ベースでは6カ月連続でプラスの伸びを維持している。

しかし、物価の変動分を反映させた実質ベースでは3カ月連続でマイナスとなっている。

【図表】現金給与総額の推移

そんな中、食品の平均的な値上がり率が14%、生活必需品の値上がり率が4.8%となれば、家計が節約に走り、消費が冷え込むことが懸念されるが、総務省が発表している家計調査のデータを見てみると、やはり消費が冷え込んでいることがデータに表れている。

■家計が苦しい原因は「消費増税」

図表3は、2016年から2018年の各月の平均値をベースラインとして、2019年以降の毎月の消費支出のベースラインに対する乖離(かいり)率をグラフにしたものである。

コロナ禍における特殊要因や2019年10月に行われた消費増税の影響を除く操作をしているが、消費増税以降、消費が冷え込んでいるのはあきらかだ。

企業にとっても大変苦しい期間が、すでに3年近くも続いているという、日本経済の厳しい現実が見て取れる。

【図表】実質消費支出の推移(ベースライン比)

■政府がお金を使うしかない

この状況が自然に改善されることはないだろう。

物価が上昇し、賃金が上がらないなら、家計が消費を控えるのは当然であり、その結果として企業の売り上げも当然落ちる。

そうなると企業は利益率を維持するために設備投資を控え、人件費も抑えにかかる。この企業の行動も合理的なものだ。

家計と企業というミクロの経済主体がそれぞれ合理的な行動をとった結果、マクロの観点では不都合な結果が生じる。これを「合成の誤謬(ごびゅう)」という。

いま日本経済が陥っているのはまさにこの問題である。この状況を改善するには、国内経済における最後の経済主体である「政府」がお金を使う必要がある。

■アフターコロナは大量倒産の時代

消費が冷え込んでいるのは、新型コロナウイルスの感染拡大による影響も大きい。

新規陽性者数の推移を見てみると、いわゆる第7波はピークアウトを迎えており、それにあわせて岸田政権も10月11日から1日あたりの入国者数の上限を撤廃することを発表した。

筆者は感染症の専門家ではないので、新型コロナウイルスについては何も語ることはないのだが、これまでのデータをみれば、今年の冬に第8波がやって来ることも考えられる。

ただ、新規陽性者数の数に対して重症者数が増えなくなっていることや、欧米が規制撤廃をしていることを考えれば、今後は日本も「アフターコロナ」となっていくのだろう。

【図表】新規陽性者数と重症者数の推移

アフターコロナとなり、企業にも追い風が吹くと考える方もいるかもしれないが、筆者はむしろ倒産件数の急増を懸念している。

■融資が止まれば企業倒産が増える

企業の倒産件数を見てみると、コロナ禍が始まった2020年以降、倒産件数はむしろ減少していることが分かる。

コロナ禍で景気が悪くなるのだから、普通に考えたら倒産件数は増加しそうなものだが、実際に起きたことは正反対の現象だ。

【図表】企業倒産の推移(左:件数、右:前年同月比)

企業は赤字になった瞬間に倒産するわけではない。

資金繰りがつかず債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になったときに倒産する。

コロナ禍において政府が無担保・無利子の融資(ゼロゼロ融資)を積極的に行ったことで、業績が悪化しても、企業は資金繰りに行き詰まらなかった。だからこそ、倒産件数は増えなかったのだ。

アフターコロナで企業業績は改善するかもしれない。だが同時に政府の支援が終了し、融資を受ける難易度が元に戻る。しかも、コロナ禍で受けた融資の返済がこれから始まっていく。

コロナ禍の2年間で私たちの消費行動は大きく変容してしまった。リモートワークの普及などの影響で、一部の業態の業績は、もう元には戻らないだろう。

するとどうなるか。アフターコロナで経済活動が再開する一方で、企業の倒産件数はむしろ増加する、という現象が起きるだろう。

実際、先に挙げた倒産件数の推移のグラフでは倒産件数の上昇傾向が見て取れる。

■豊かな高齢者にも「5万円現金給付」

政治や経済の話は難しそうで興味が持てない、という声を筆者も耳にすることがある。

ただ、だからといって政治や経済に無関心でいるのは危険だと思う。

国民が無関心なせいで、誤った経済政策が実行されてしまうと、その被害は国民の生活を直撃する。最悪の場合、人命が奪われてしまうこともある。

いま、日本政府がそうした誤った経済政策を実行しそうな悪い予感を筆者は抱いている。

前述の通り、消費者物価指数は総合の伸び率が30年以上ぶりに3%を記録している。しかし、企業は資源価格の高騰(こうとう)に苦しみ、あまり賃金を上げられていない。その中で、物価の上昇が進めば、家計はますます節約に走る。

その場合、政府がお金を使うしかないが、岸田政権は実行するだろうか。

たしかに岸田政権は、物価高対策の1つとして住民税非課税世帯に対する5万円の現金給付を打ち出している。

この政策は果たして有効なのか。

もちろん、何もやらないよりはマシということもある。

しかし、値上げラッシュに苦しんでいるのは、住民税非課税世帯だけではない。全国民が苦しんでいる。

そもそも、住民税非課税世帯の半数近くは高齢者であり、なかには十分な資産を持つ人も含まれる。住民税の課税・非課税を決めるのはその年の所得額であり、資産額ではないかららだ。

そのため、貧しい若者から、裕福な高齢者へ資産を移転することにもつながってしまう。

■消費減税のほうが望ましい

そういう不公平をできるだけ少なくするためには、一律で広くお金を配るような政策のほうが望ましい。

たとえば消費減税であれば、あらゆる消費者が恩恵を受けられるので、不公平が生じにくい。

「富裕層は物価高に苦しんでいないのだから、困っている人だけに現金給付するほうがよい」という意見も聞くが、困っている人をどうやって選別するだろうか。

消費減税によって、富裕層が通常より多く消費してくれれば、経済が活性化し、回りまわって「困っている人」の所得になるかもしれない。

一方、一部の人への現金給付では、経済を活性化させる効果も限定的なものにとどまるだろう。

なぜ政府は消費減税をせず、一部の人への現金給付にこだわるのだろうか。納得のいく説明が待たれる。

■日本はまだインフレではない

同時に、筆者は政府がこれから金融政策でも誤りを犯すことを懸念している。

現在の物価高は円安のせいであるという、いわゆる「悪い円安論」が喧伝(けんでん)されている。

その結果、円安を止めるために、日銀は金融緩和をやめて利上げすべきだという世論が形成されてしまうだろう。

米国の中央銀行にあたるFRBは「物価の安定」と「雇用の最大化」という2つの使命を持っているが、参照する物価の1つの指標が消費者物価指数の「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」の伸び率だ。

一方、日本で消費者物価指数として使用されている数字には、エネルギー価格が含まれている。つまり、日本と米国では、物価指数の内訳が異なっているのだ。

米国と同じように、日本におけるエネルギーを除いた消費者物価指数の伸び率を見ると、足元では前年同月比+0.7%に過ぎない。

【図表】消費者物価指数(前年同月比)の推移

つまり、現在の物価高は食料やエネルギー価格の上昇によるものであって、需要が物価を押し上げているわけではない。

米国のインフレと日本のそれとは、かなり性質が異なるのだ。

■金融緩和をやめればデフレ・円高に

このような状況下で、円安を止めるためだけに金融緩和をやめ、利上げという判断をすれば、日本経済は再びデフレや円高に襲(おそ)われる可能性がある。

こうした誤った経済政策が実行されれば、自殺に追い込まれる人も増え、将来に絶望し他人を巻き添えにしようとする「ジョーカー」、すなわち「無敵の人」もますます増加することだろう。

今後3年間は衆議院選挙がないため、岸田政権にとって黄金の3年間だと言われている。

しかし、誤った経済政策が実行されれば、国民にとっては悪夢の3年間になりかねない。

日本国民にとっての「黄金の3年間」を招き寄せる、正しい経済政策が採用されることを筆者は願っている。

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森永 康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO、経済アナリスト
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。その後2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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(株式会社マネネCEO、経済アナリスト 森永 康平)

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