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旧統一教会問題がクローズアップされる中、どうも腑に落ちない「日本人は無宗教」という誤解

プレジデントオンライン / 2022年9月29日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

「日本人=無宗教」は本当なのか。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「日本人の生活の中に“信仰”が深く根付いているから、あえて宗教を意識しないのではないか。ただ、20歳前後の大学生を調査すると6割以上が死後の世界や霊魂の存在を信じていることがわかった」という――。

■旧統一教会問題が注目されているが、日本人=無宗教?

故安倍晋三元首相が銃弾に倒れて以降、旧統一教会問題がクローズアップされている。だが、これまでメディアではしばしば、「日本人の多くは無宗教であり、宗教離れが顕著」といった文脈で語られることが少なくなかった。また、自分は「無宗教」「無神論者」であると自認する人も多い。しかし、「日本人=無宗教」は本当なのか。本稿では日本人の、宗教との関わりをひもといていきたい。

日本人の宗教性はしばしば、欧米のキリスト教との比較において論じられる。米調査会社ピューリサーチセンターは米国人のうちキリスト教徒は約64%で、ユダヤ教やイスラム教、仏教などのキリスト教以外の信者が約6%、無宗教者は約30%と報告している。

しかし今後、米国のキリスト教徒は急激な減少に見舞われる見通しだ。2070年までに無宗教者の割合が全人口のうち34〜54%に拡大するとみられる。

その背景のひとつに、信仰の切り替え(宗教アイデンティティーの転換)がある。米国では現在、キリスト教信者の家庭に生まれた子どものうち、約31%が15〜29歳までの間に無宗教者に転じているとされている。

背景として米国では、近年「イエの宗教」から「個の宗教」への転換が急激に進んでいる。つまり、祖父母や両親が熱心なキリスト教信者だからといって、自分も教会に通うとは限らないのだ。

しかも、現代はネット社会だ。ネットを通じて、自分好みの「教え」や「宗教者」に自由にアクセスできる。例えば、マインドフルネスなどを入り口にして、ユーチューブなどの動画を見ながら、「ZEN(禅)」を実践する。とはいっても、特定の宗教団体に所属することはないのだ。

では、日本はどうか。NHK放送文化研究所が参加している国際比較調査グループISSPは2019年、日本人の宗教意識についての調査を発表している。それによると、日本人全体のうち「宗教を信仰している」割合は全体の36%に過ぎなかった。これは米国の半分に近い水準である。

宗教を信仰している人の割合は、前回調査の2008年時点の38%より2ポイント下げている。この割合を見ると、確かに、日本人は無宗教だといえるかもしれない。ちなみに宗教を信じる人のうち「仏教」と回答した割合が31%、神道が3%、キリスト教が1%となっている。

■家にミニチュア寺院と神社を構えるのは日本人くらい

参考までに、日本のほかに「無宗教」の割合が高い国は中国、北朝鮮、チェコ、エストニアなどである。

中国共産党は無神論を掲げ、文化大革命期には宗教施設に対する破壊が行われた。現在の中国は宗教に関して比較的寛容とされているが、文革時代の影響を少なからず引きずっている。チェコも戦後の長きにわたって、共産政権時代が続いた。独裁国家の北朝鮮においては、そもそも信教の自由がない。バルト三国のエストニアは、ソ連に併合されていた時代の宗教に対する抑圧が影響している。

ちなみにロシアは、共産主義時代は宗教を否定していたが、ソ連邦崩壊によって信教の自由が認められ、現在ではロシア正教がおよそ4割を占めている。現在、ロシアでも無宗教の割合が多いとされているが、日本ほどではない。

日本は明治維新時の廃仏毀釈(きしゃく)を除けば、伝統教団への宗教弾圧はあまりなかった。むしろ、歴史的には国家が仏教や神道を庇護してきた経緯がある。なのに「無宗教の割合が多い」という珍しい民族なのだ。

しかし、「日本人は本当に無宗教なのか」を、疑ってみたい。

ISSP調査の「神仏を拝む頻度」の設問では、「1日1回以上」が17%、「月1回〜週数回」が14%、「年数回」が48%であった。「ほとんどない」は21%だった。この設問では、8割の日本人が「神仏を拝む」ことを拒絶しているわけではないことがわかる。

確かに年中行事を見回しても、日本人は一年に何度も宗教に接している。正月の初詣でには1億人近い人々が神社や寺院に足を運ぶ。また鬼を追い払う節分、春夏のお彼岸、お盆、地域のお祭りなど、伝統的な宗教儀式のほか、それぞれの家庭では仏壇や神棚を祀り、死者が出れば法要を繰り返し実施する。

仏壇はミニチュアの寺院であり、神棚はミニチュアの神社だ。自宅の中に、小型の宗教施設を構える国民は日本人くらいのものである。

また、お盆の帰省は、お墓参りがセットであることが多いはずだ。お墓参りのために、高速道路の渋滞が何十kmもでき、新幹線は乗車率200%超というすさまじい混雑が生まれるのである。

もっといえば、食事の前の「いただきます」「ごちそうさま」は、自分が生きるために犠牲になってくれた「命」に対する懺悔の表現といえる。これも立派な宗教行為だ。

こうしてみれば、日本人はかなり日常的に宗教に関わっているといえる。むしろ、生活の中に信仰が根付き過ぎているからこそ、あえて「宗教を意識しない」といえるのかもしれない。

シャイな日本人は、他者から信仰を問われれば無宗教を標榜するものの、決して「無神論者」ではない、といえる。

■20歳前後の6割以上「死後世界や霊魂の存在を信じる」

私は近年、二十歳前後の若者の宗教観を調査してきた(2022年、東京農業大学の1~4年生を対象。有効回答数1105)。

筆者・鵜飼秀徳さんの最新刊『仏教の大東亜戦争』(文春新書)
筆者・鵜飼秀徳さんの最新刊『仏教の大東亜戦争』(文春新書)

例えば、「あなたは死後世界を信じるか」についての設問がある。そこで、「はい」と回答したのが62%と過半数を占めた。また、「あなたは霊魂の存在を信じるか」については66%が「信じる」としている。

さらに、「あなたや、あなたの葬式はどの宗教で行うか」では、「仏教式」が75%と多数を占めた。「神道式」は6%、キリスト教式は3%、その他の宗教が3%、無宗教式が13%だった。

死を迎える時には、仏教のお世話になりたい。そう多くの若者が考えているのは意外だった。葬儀において何らかの宗教を選択するとの意識は、それこそ立派な信仰の証しといえるのではないだろうか。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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