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「芸人のトーク番組」だと海外では戦えない…バブル期の人気番組「たけし城」にアマゾンが目を付けたワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月5日 13時15分

ベネチア国際映画祭のクロージング作品となった最新作『アウトレイジ 最終章』の上映のため現地入りし、観客らに手を振る北野武監督(=2017年9月9日、イタリア・ベネチア) - 写真=AFP/時事通信フォト

バブル時代の人気バラエティー番組「風雲!たけし城」(TBS)が、Amazon Prime Videoで34年ぶりに復活する。元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道さんは「いまのテレビはお笑い芸人によるトーク番組が人気だが、かつては言葉に頼らないバラエティー番組がたくさんあった。『たけし城』には日本のテレビが得意とする笑いが詰まっている」という――。

■100人が100万円を目指して体を張る

1986年~1989年にTBSで制作・放送された「痛快なりゆき番組 風雲!たけし城」が、2023年にAmazon Prime Videoで復活する。これを聞いて驚かれた方も多いのではないだろうか。

「復活!風雲!たけし城(仮題)」は、34年ぶりに伝説の人気番組をさらにパワーアップして復活させるというのだから期待が高まる。いま53歳の筆者もかつてドキドキしながら夢中になってみた番組のひとつである。

「風雲!たけし城」は大掛かりな視聴者参加型のバラエティー番組で、放送時には空前のブームになった。TBS緑山スタジオの2万3000坪の敷地に総工費1億円をかけて建てられた400坪の「たけし城」に、毎回100人の参加者が賞金100万円を目指し、城の「攻略」に泥だらけ・水浸しになりながら身体を張って挑む。まさに昭和のバブル真っただ中に放送された「古き良き時代のバラエティー」だ。

なぜいま復活? と思われる方もいるだろうが、そこにはきちんと時代を読んだ「計算」があると筆者は考えている。むしろ「風雲!たけし城」の復活はいまだからこそなのだ。

■かつての主流は「言葉に頼らない笑い」だった

私はこの番組の最大の特徴は、「言葉に頼らない面白さ」を追求していることだと思う。「ノンバーバル(非言語)バラエティー」とでも名づけることができるのではないか。ノンバーバルバラエティーは、とにかくわかりやすい。なにも考えずに楽しむことができ、人気が出やすい。幅広い層に、つまり誰にでも受け入れられるのが特徴だ。

かつてこうした「ノンバーバルバラエティー」がテレビを席巻した。その代表選手のひとつが「風雲!たけし城」なわけだが、他にも懐かしい番組はいろいろある。

たとえば「アメリカ横断ウルトラクイズ」。1977年~1998年に放送された日本テレビ系列の伝説の視聴者参加クイズ番組だが、「クイズ」というバーバル(言語)に頼る要素が入りつつも、アメリカを横断し、泥だらけになったり空から降ってくる問題を走って追いかけたり、さらに過酷な罰ゲームが用意されていたりと、視聴者がワクワクするポイントは「ノンバーバル」なものだったのではないか。

さらにこの番組を「元ネタ」にした「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」(日本テレビ系列 1989年~1996年)や、同じくビートたけしの「スーパーJOCKEY」(日本テレビ系列 1983年~1999年)なども、身体を張った笑いを中心に据えたノンバーバルバラエティーだと思う。

そしてテレビ朝日系列の「さんまのナンでもダービー」などもそうだろう。水をかけられながら「ダービー池」の上で落っこちないようにつかまって耐えたり、着ぐるみで競走したりとノンバーバルな面白さをウリに1993年~1995年に放送された人気番組だ。

画像=「風雲!たけし城」(TBSチャンネル)
画像=「風雲!たけし城」(TBSチャンネル)より

■「トークバラエティー」の隆盛

このように数々の言葉に頼らないノンバーバルバラエティーが、20世紀には日本のテレビの主役だった。しかし21世紀に変わる頃には、お笑い芸人などを雛壇に並べる「トークバラエティー」に取って代わられていった。

1997年に始まった日本テレビ系列「踊る!さんま御殿‼」や、2003年開始のテレビ朝日系列「アメトーーク!」がエポックとなったのではないか。芸人やキャラの面白いタレントたちが雛壇でトークの面白さを競い合う番組がテレビの主役となっていった。

ノンバーバルバラエティーが消えていった理由は大きく2つある。ひとつは「予算規模の縮小」。バブル以降次第に番組の制作予算は削られ、1億円をかけてたけし城を作るようなことは難しくなった。もうひとつは「コンプラ」だ。番組に参加する視聴者に身体を張らせ、それが芸人であっても過激なチャレンジはコンプライアンスの都合で難しくなった。

トークバラエティーはたしかに面白い。視聴率も取れた。なぜなら共通の体験などを基盤とするトークは視聴者に共感を持ってもらいやすいからだ。視聴者が「あるある」と、思わずクスッときてしまうような笑いは、わかる人には非常に深く刺さる。

ただし弱点もある。共通の基盤がない人にはまったく通じない。大前提として日本語がわからなければならない。そして、同じような価値観、同じような生活を送っていなければ共感は得られない。

「踊る!さんま御殿‼」や「アメトーーク!」でクスッと笑えるのは、たぶん日本社会で生活する人だけだ。番組として国際的な競争力はまったく持ち合わせていない。実際にこうしたトーク番組が、海外に輸出され成功した事例はほとんどない。

■視聴率が取れていれば芸人頼りで十分だった

日本の文化は「ハイコンテクスト文化」だと言われる。それはトーク番組でも同じだ。日本国内のドメスティックな共感を基にしているから、芸人たちのトークも、言わずもがなのお約束がわからないと笑えない。

悪い側面から捉えると、結果的に日本のバラエティーは「芸人に頼り切った番組」がどんどん増殖し、お約束前提の内輪ウケを狙う方向に進んでいった。つまり日本のバラエティーがガラパゴス的な独自の進化を遂げていったのだと言うことができると思う。

視聴率が取れていれば問題はなかった。しかし、いまやZ世代の若者たちにもあまり通じないようになってきている。若者のテレビ離れがその証左だろう。

彼らは「前の世代と共通の文化的背景」をあまり持ち合わせていないからだ。雛壇の芸人たちのトークはどこか「共感できない別の世界の話」になってしまい、笑えなくなってしまっているのではないか。テレビの行き詰まりと、トークバラエティーの衰勢は少なからぬ連関があるように思う。

テレビのスタジオ収録
写真=iStock.com/DeshaCAM
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DeshaCAM

■TBSの地道な努力

そして時代は、ノンバーバルバラエティーに戻ってきた。国内では下火になっていた日本の「言葉がなくても笑えるバラエティー番組」は、海外で支持を広げ、トークバラエティーには無い国際競争力を持っていたことが大きい。

これは私の友人であるフランス留学経験のあるテレビマンから聞いた話であるが、「風雲!たけし城」は1990年代にフランスのテレビで深夜放送されていたそうである。そして、「結構フランス人の間で人気があった」ということだ。事実、世界中の多くの国で「風雲!たけし城」は再放送されて話題になり、しかもタイ、ベトナムなどのアジア各国やイギリス、サウジアラビアなど世界中にフォーマット販売された。

各国でローカライズされた「たけし城」が幅広く受け入れられていた。こうした番組販売とフォーマット販売を地道に続けて、世界に「たけし城」を広めてきたTBSの地道な努力はすばらしかった。

考えてみれば、番組にはかなり日本的な「たけし城」や「谷隼人隊長」などのキャラたちが登場する。だが、日本語が分からなくても理解できる「ノンバーバル」な笑いは外国人にウケた実績がすでにあったのだ。この点でトーク番組とは対照的だ。

さらに強力な味方が現れた。「Netflix」など世界的な配信プラットフォームだ。映像コンテンツが世界を席巻する最近の傾向は、そうしたノンバーバルバラエティーの存在価値をさらに高めることとなった。

日本テレビ「はじめてのおつかい」からスタジオトーク部分をカットして10分程度に再編集したものがNetflixで世界的に大ヒットしたのも、「言葉が関係なく楽しめる子どものおつかい」というノンバーバルな題材を、「不思議な国ニッポン」の田舎の「驚くほど平和な様子」を見ながら楽しめるコンテンツだからこそではないか。

家族そろってテレビ鑑賞
写真=iStock.com/Phynart Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Phynart Studio

■古き日本のコンテンツの「隠れた実力」

かつてアジアを中心に世界を席巻した日本のドラマは、いまや韓国ドラマに押されて国際競争力をあまり持たなくなってしまった。

日本のテレビコンテンツはオワコンなのか、というと決してそうではない。「風雲!たけし城」のような古き良き昭和のノンバーバルバラエティーが日本を代表するテレビコンテンツとして世界で戦える時代がきたのではないか。

今年5月にロイター通信が、TBSのスポーツバラエティー番組「SASUKE」から生まれた競技が新しいオリンピック種目の有力候補になっていると報じた。こちらもまた「たけし城」同様に言葉を超えた日本のテレビ発のコンテンツだ

そして国内でも、内輪ウケを狙った芸人頼みのトークバラエティーに飽きた視聴者や、トークバラエティーに共感できない若者の受け皿として、「ノンバーバルバラエティー」の時代が再びやってくるのではないかと期待したい。

考えてみればテレビ業界はトークバラエティーにあまりにも頼りすぎてしまったのではないか。若者に人気のユーチューバーたちが身体を張ってチャレンジするスタイルのコンテンツを多く発信し、それを受け入れる若者たちが多いことも考えると、ノンバーバルなコンテンツと若者の親和性は高いと言える。

こうしたコンテンツは日本のテレビのお家芸だった。「風雲!たけし城」のような番組は地上波でも、国内の配信でも、そして海外向けのコンテンツとしてもヒットする可能性は高いのではないか。

筆者は、日本のテレビ発のコンテンツが再び世界を席巻することを期待する一人であるが、その鍵となるのは、トークバラエティーの隆盛で忘れかけた「古き良き時代のバラエティー」なのかもしれない。

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鎮目 博道(しずめ・ひろみち)
テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、さまざまなメディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師を経て、江戸川大学非常勤講師、MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro

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(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)

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