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日本人はもう年金だけでは暮らせない…投資の経験のない人ほど「つみたてNISA」を急ぐべき理由

プレジデントオンライン / 2022年10月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

■預貯金や公的年金だけでは老後暮らせない

8月末、金融庁は「令和5(2023)年度税制改正要望について」を公表した。その中で最初に記載されたのが、“少額投資非課税制度(NISA)”の改善要望だ。それはNISAの利用者であるわたしたちにとって非常に大きな意味を持つ。2014年にNISAがスタートしたことは、“貯蓄から投資へ”の流れを加速させる起爆剤になると期待を集めた。

ただ、現時点でNISAは時限措置だ。NISAの恒久化は早期に実現されるべきだ。ここでいう恒久化とは、少額投資非課税制度そのものを恒久化することと、非課税保有期間を無期限にすること、を意味する。

利用者にとってNISAの最大のメリットは、世界経済のダイナミズムをより効率的に享受し、長期の視点で資金を運用することにある。それは、わが国の個人が、より安心した人生を送るために欠かせない。1990年代以降、わが国の経済成長率は低位に推移し、賃金はほとんど増えていない。財政の悪化も深刻だ。預貯金や公的年金に頼って“人生100年時代”を送ることに不安を抱く人は増えている。

個人にとって自らの責任で必要な資金を運用し豊かな人生を目指すことの重要性は一段と高まっている。NISAの恒久化などは、人々のライフスタイルに合った、より柔軟かつ持続的な資金の運用を可能にするだろう。

■そもそもNISAとは何なのか

NISAを活用することによって、毎年、一定の金額の範囲内で行う株式投資などから得られる利益に税金がかからなくなる。NISAを用いない場合、利得の約20%に税金がかかる。その差は大きい。

現在、NISAには3タイプある。まず、“一般NISA”は20歳以上の人が対象だ。2028年までが新規投資の可能期間であり、非課税期間は5年、投資枠は年120万円、非課税の限度額は600万円だ。運用は、上場株式、株式投資信託などで行う。5年が経過すると、煩雑な手続きを経て新たな非課税投資枠に資金を移管できる。

次に、“つみたてNISA”は20歳以上を対象とし、2042年まで新規投資が可能だ。非課税期間は20年、投資枠は年40万円、非課税の限度額は800万円だ。一般NISAとつみたてNSIAは併用できない。未成年が対象の“ジュニアNISA”は親権者などが口座の管理と運用を行う。

非課税期間は5年、投資枠は年80万円、非課税限度額は400万円だ。2024年に一般NISAは“新しいNISA”に移行し、ジュニアNISAは廃止される。

■必要なのは極力コストを抑えること

NISAの使い方は、長期の資金運用にある。例えば、一般NISAであれば国内外の株式、国内外の上場投信(ETF)、国内外の不動産投資信託(REIT)などから資金運用の対象を選択する。海外の個別株や株式ETFを選択することによって、より高い成長が期待できる企業や国に投資することも可能だ。

つみたてNISAの選択肢は一般NISAよりも絞られている。対象商品は、インデックス投信、インデックスを上回る利得確保を目指してプロ(ファンドマネージャー)が運用する投資信託などだ。なお、インデックスとは、市場全体の値動き、価格の水準、リスクなどをはかる“モノサシ”をいう。日本株の代表的インデックスにTOPIXがある。

重要なことは、将来の展開は不確実であることだ。株が下がると思って売った結果、株価が上昇した。それがリスク(予想と異なる結果)だ。その上、プロのファンドマネージャーに運用を委託すると、あがりそうな銘柄を調査するためにコストがかかる。常にプロがインデックスよりも高い利得を生み出すとも限らない。

以上をまとめると、NISAを使う際、可能な限りコストを抑えることを心掛けるとよい。個別の株を買う場合は、相場が大きく下落したところで買うようにする。また、投資信託の購入を検討する場合はより低いコストで運用が行われている商品を選ぶのが良いだろう。

■なぜ日本は投資する人が増えないのか

このようにNISAは、一定金額内で税金を負担せず、自分に合ったスタイルで長期の資金を運用するための重要な手段だ。ただ、NISA口座普及ペースは期待されたほど伸びていないように見える。2022年3月時点で、NISA(一般、つみたて)の口座数は1699万3887口座だ(出所は金融庁)。一方、2016年の日本証券業協会の報告によると、英国では成人人口の約半数が“個人貯蓄口座(Individual Savings Account、ISA)”を保有していた。

大きいのは、制度の分かりづらさと、時限措置であることだろう。2022年6月に日本証券業協会と日本取引所グループが公表した「2021年度国民のNISAの利用状況等に関するアンケート調査報告書」(以下、報告書)から読み取れる。

まず、制度の分かりづらさについて、回答者数1万人のうちNISAの名前も制度も知っているとの回答は35.4%、名前は知っているが制度内容はよく分からないとの回答が52.4%、名前を聞いたことがないとの回答が12.2%だった。NISA制度を認知している人(87.8%)のうち口座(一般とつみたて)を持つ人は34.0%にとどまっている。

■制度をシンプル化して普及に成功した英国

報告書によると、NISAを認知しているか否かにかかわらず、制度の恒久化および、非課税期間の無期限化を求める回答も多い。言い換えれば、口座を開設し、コストを抑えて長期投資を行うベネフィットを具体的にイメージしづらい人が多いといえる。

そうした課題解決のために英国の取り組みは参考になる。1999年に英国はISA制度を開始した。当初、ISAの口座開設期間は10年と定められた。制度設計も分かりづらかった。当初は、株式、預金、保険それぞれの口座を異なる金融機関で開設できる“ミニISA”制度と、株式、預金、保険をひとまとめにして運用できる口座を一金融機関に一つ開設する“総合ISA”制度の二本立てだった。

英国民はISAのベネフィットをイメージしづらかっただろう。そのためISA開始当初の口座開設ペースは緩やかだった。その後、2008年にISA制度の恒久化と、ミニと総合型の区分が廃止され株式と預金の2つを対象にするISAへ制度がシンプル化されたことを契機に、英国でのISA口座は一段と増加した。

■お金についての教育が充実していない

金融庁は、NISAの使い勝手を高めるべく、恒久化と、非課税となる期間を無期限にしようとしている。それは、個々人の資産形成にとって重要だ。ただし、それは使い勝手向上の必要条件ではあるが、十分条件ではない。

本来、個人の資金運用は3カ月や1年など、特定の期間における収益の多寡を問うものではない。各人のライフスタイルに合わせて時間と金額を分散し、長期の視点で無理をせずに資金を運用することが大切だ。個人の資金運用の目的は、老後など、万が一お金が必要になった時に備えることにある。

コインや貯金箱を前に電卓でお金の計算をする人
写真=iStock.com/Ivan-balvan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ivan-balvan

つみたてNISAを軸に制度を一本化し、年間の投資可能金額の引き上げなども検討されるべきと考えられる。報告書によると、課税対象の投資用口座(特定口座など)との損益通算を認めてほしい等の要望も多い。

それに加え、わが国は個人の投資教育も強化すべきだ。長期的に、株価はGDP(国内総生産)で評価される経済成長率に連動する。景気が良くなれば、株価は上がる。景気が悪くなれば、株価は下がる。投資の鉄則は、価格が大きく下落した時に買うことだ。世界経済の成長率が大きく低下するなどして株価が大きく調整した時に、タイミングと金額を分散して低コストの上場投信(ETF)などを買うことができれば、あとは景気の回復を待てばよい。

■政府が取り組むべきことは多い

反対に、景気が回復して株価の上昇が鮮明になってから株を買おうとすると、わたしたちは周囲の投資行動に流され、高値掴みをしてしまいがちだ。そうなると、満足のいく利得を手に入れることは難しい。NISAをより多くの人が活用するために、世界経済の現状、債券や株式、外国為替など“アセットクラス(金融資産の分類)”ごとのリスク・リターンの特徴、景気と株価の基本的な関係をしっかりと理解することは欠かせない。

NISAの恒久化と制度のシンプル化に加えて、基本的な経済と金融市場の関係を理解する機会の提供など、よりよい個人の資金運用を目指して政府が取り組むべきことは多い。政府が国民の要望に耳を傾け、よりよいNISA制度の在り方を目指すことは、個々人が自己責任で資金運用により能動的に取り組む一助になるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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