「給湯室でお仕置きされて泣く子をニヤニヤ笑う大人」旧統一教会だけじゃない宗教二世の一生消えない傷
プレジデントオンライン / 2022年10月1日 11時15分
今回は、小学1年生の時に、両親が「新興宗教」に入信したという現在40代の男性の事例を紹介する。彼の家庭のタブーはいつ、どのように生じたのだろうか。タブーのはびこる家庭という密室から、彼はどのように逃れたのだろうか――。
■小学校1年生の時に両親が「新興宗教」に入った
中部地方在住の桜木瞬さん(仮名・40代)は、自営業を営む父親(当時29歳)と専業主婦の母親(当時25歳)の間に生まれた。
冗談を言って家族を笑わせる父親と、優しい母親の夫婦仲は良く、2歳上の姉を含む家族4人で地域のイベントに参加したり、近くに住む父方の祖父母と温泉旅行に行ったり、笑顔の絶えない家庭だった。
ところが、桜木さんが小学校に入学した年の秋、桜木さんの家に2人組の女性がやってきたことがきっかけで、徐々に生活が脅かされていく。女性たちはある新興宗教の信者だと名乗った。
自営業者の父親と専業主婦の母親は、最初は玄関で少し話を聞いただけだったが、2人組は、約1週間後にまたやってきた。
「興味がありそうだった人の家に目をつけておき、時間を置いて再勧誘に来たのでしょう。父は追い返したのですが、2人組の穏やかな雰囲気に興味を持ち、次第に話を聞くようになっていったようでした」
桜木さんはこう振り返る。
両親は、みるみるうちに話に引き込まれていった。最初は女性2人から自宅で話を聞くだけだったたが、2カ月後には男性が加わった。男性が両親を担当し、女性2人は桜木さんと姉を担当するようになった。
ほぼ同時に、日曜日の集会や1週間に3回の頻度で行われる活動にも参加するようになり、約3年後には、両親は正式な信者になるための儀式を受け、さらに約2年後には、父親は地域の信者たちをまとめる立場となり、最終的に地域の信者たちのトップにまで上り詰めた。
「日曜は2時間、火曜の夜は1時間、木曜の夜は2時間の集会に参加し、その他に水曜は家族だけで行う聖書の勉強が1時間。信者が来ての聖書の勉強は土曜日の夜1時間ぐらいだったと記憶しています。それ以外は勧誘活動で家から家を訪問。遊ぶ時間なんてなかったですね」
■校歌、県歌などを歌うのは×…小学校生活の禁止事項
両親が信者になった途端、さまざまなことを禁止された。
・騎馬戦や剣道の授業など戦いにあたる競技
・誕生日やクリスマスなど異教の習わしにあたるイベント
・ニュースや、動物を扱った番組以外のテレビ番組、ゲーム全般
小1の頃は、運動会などの学校行事に参加せず、クリスマス会や誕生日会、校歌斉唱時は隅で座って見ていたため、必ずクラスメートからからかわれた。
「信者でない人は、ハルマゲドンで神に滅ぼされ、信者だけが生き残り、楽園で永遠に生きると教えられていたため、当時の私は、『みんな信者じゃないから死んじゃうんだ。なら僕も死んでもいいや。でもハルマゲドンは怖いな。その時みんなで一緒にいれば平気かな? なんて考えていました」
![廊下で一人、悲しんで座り込んでいる少年](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/4/1200wm/img_24d1cb366c2155663dd1c762aa28f719275434.jpg)
学年が上がると、クラス替えの度に、担任教師やクラスメートに、自分は宗教のせいで参加できないことがあるという旨を、自分の口で説明することを強いられた。
「それが嫌で嫌で仕方なかったですが、同学年に1人だけいた同じ信者のHくんは、小学生の頃から髪を七三分けにして、先生やクラスメートに堂々と説明していました。そのためHくんは私より変な目で見られていて、私は『あんなふうになりたくない!』と反面教師にしていました」
桜木さん一家が入信してから、近くに住んでいた父方の祖父母と桜木さんの父親は、度々口論になっていた。
「孫誕生日祝いやお祭りに連れて行くなどを禁止され、祖父母面白くなかったようです。私たちのことで祖父母と父がケンカになるのはいたたまれませんでした」
■給湯室という名のお仕置き部屋で泣く子供
週3回の集会のときは、集会所に集まり、トップや講演者からの話を長時間聞いた。
しかしまだ幼かった桜木さんは、退屈でたまらない。もぞもぞしているのが別の信者に見つかると、「一度連れて行かれたほうがいいかもしれないですね」と両親に言われる。
すると父親が、「そうですね」と言い、嫌がる桜木さんを給湯室兼お仕置き部屋に連れて行く。
給湯室の壁にはお仕置きするための道具が掛けられている。それをまず桜木さんが取り、「お願いします」と言って父親に渡し、ズボンと下着を下ろす。お仕置きは生尻に受けることに決まっているのだ。しかし恐怖のあまり、泣き叫びながら逃げてしまうことも。逃げるとお仕置きの回数が増した。父親が振り下ろした道具が桜木さんのお尻に命中すると、声も出ない。桜木さんは痛さと恥ずかしさと悔しさで泣くが、父親は「ありがとうと言いなさい。神に感謝しなさい」「言わないともう1回増えるよ」と容赦ない。桜木さんがやっとの思いで「ありがとうございました……」と言うと、無理やり泣きやまされ、再び集会場へ。
![もう殴らないで、と手をこちらに向けて訴える少年](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/a/1200wm/img_8a54348fc583abdca95b16786687a4c8242840.jpg)
だが、お仕置き道具で叩かれた痛みで再びもぞもぞしていると、「もう一度連れて行かれたほうがいいかもしれないですね」と言われる。こんなことが繰り返された。
「よく、大人たちはどんな道具が痛いか、どう叩いたら痛いかを笑いながら話していました。そりゃそうですよね、自分たちはお仕置きされたことなんてないんですから」
今も桜木さんの記憶に刻まれている光景がある。3歳くらいの女の子が、集会中にお仕置きを受けに何度か連れ出されるのだ。3歳では、何時間も静かに座っていられるはずがない。それなのに、「おしりぺんぺんやーよー‼」と言って泣き叫ぶ女の子を無理やり給湯室に連行。周囲の大人たちは、「かわいいわね」とニヤニヤ笑うのみ。
「子供たちはみんな心の中で泣いていました。私は『やめろ!』と声を上げそうになるのを必死でこらえていました」
この集会に、信者となって間もない人や信者になろうか検討中の人が見学に来ると、小さな子供でも静かに椅子に座り、長時間話を聞いている様子に感銘を受け、「うちの子もこんなお利口さんになってほしい」と思うケースが後を絶たないという。
しかし子供たちは、お仕置きが怖いから静かに従っているだけ。入信してすっかり染まってしまうと、自分の子供にも平気で道具を振るえるようになる親は少なくないようだ。
「今思えばただの虐待です。私は今でもお尻の右側にお仕置きによる傷があります。現在、組織はお仕置きを推奨していないらしく、過去のお仕置きは親が勝手にしたことだとシラを切っているようですが、過去をなかったことにしようとしているのだと思います」
■プールで全身を水に浸され、全身が水に沈んだら合格
クラス替えの度に説明させられるのが嫌で、小学校6年生になった桜木さんは、
・騎馬戦は「足が痛い」と言って途中離脱
・学校での誕生日会やクリスマス会はバレないので普通に参加
・テレビの話題は友達にリサーチした上で話を合わせる
・ゲームは友達の家でやる
という対策を考えて、実行した。
掃除の時間に友達とホウキでちゃんばらごっこをして遊んでいたところ、小5の時に担任だった教師に、「戦い禁止じゃないの?」と声をかけられ、内心青ざめたこともあった。
中学生になると桜木さんは、持ち前の明るさと要領の良さ、学校では教団の教えを破り、友達たちに合わせていたので、新興宗教の信者であることによるイジメはなくなった。
中2になると、両親や周囲の大人の信者から「そろそろ儀式を受けたら?」というプレッシャーをかけられる。学校では新興宗教の信者であることで白い目で見られ、新興宗教の世界では、儀式を受けないと神を信じていないとみなされるという、板挟みの状況に。
桜木さんによれば、儀式は、基本的に2冊の本を勉強し、集会や奉仕に休まず参加して、組織の教えを守り、地域のトップたちとの話し合いでOKが出れば受けられる。儀式の前には、口頭で組織と神に対して誓いを立てさせられ、その後プールに入り、全身を水に浸され、全身が水に沈んだら合格だ。
「儀式では、過去の自分が死に、新しく信者としての生まれ変わる意味があるようです。よく、『タバコをやめられない人や信仰が薄い人は、体の一部が沈まなくて儀式ができなかった』なんて噂もありましたが、ただの噂だと私が証明しました」
![暗いプールの水面](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/1/1200wm/img_914e7a264356d07e73377bb8ec0133d4413121.jpg)
■隠れて交際していた女性はうつになり、その後…
桜木さんによれば、信者は奉仕活動や聖書の勉強に時間を使うように指導されるため、義務教育後の進学や拘束時間の長い仕事はほとんどできないという。子供の頃から絵が好きで、「将来は車のデザイナーになりたい」と考えていた桜木さんだったが、拘束時間長く、両親にも反対されたため、その夢は潰えた。
桜木さんが住む地域の信者の子供は、中学を卒業すると、月曜1日だけ登校する4年制の通信高校に入学するのが普通だった。
「周りはおじさん、おばさん、ヤンキー、信者という感じでした。七三分けのHくんも同じ高校で、学校帰りにエロ本を立ち読みしているのを見かけ、『こっそり禁忌を破ってるのは私だけじゃなかった!』と思いました」
高2になると、同級生で同じ信者のYちゃんに告白され、隠れて付き合うことに。2人でランチをしたり、カフェで何時間も話したり、駅まで手をつないで歩いたりと、楽しい時間を過ごしたが、その時間は長くは続かなかった。
![ラテアートを施しているバリスタの手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/6/1200wm/img_a6bfbbc791ba49bd6151df501b2571ce320329.jpg)
付き合い始めて半年ほど経ったある日、Yちゃんから「大事な話があるの。私、うつ病って診断されちゃった」と打ち明けられる。
「信者になると、男女が2人きりになるのも、手をつなぐのも禁止。教えを破ればハルマゲドンで死。常に誰かに監視されているような状況で、真面目な人はうつ病を発症してしまうケースが多かったと思います。うちの母もそうでした」
桜木家では入信後、父親が暴力的になり、夫婦げんかが増えた。だが、それが他の信者にバレると排斥される恐れがあったため、母親は、父親の暴力や夫婦げんかをひた隠しにしているうちに、うつ病を発症。桜木さんが中学に上がる頃には、起き上がれなくなったり、常に泣いていたりという日が続いていた。
Yちゃんも、桜木さんとの交際を継続したいという欲求と、教団の教えに背いているという罪悪感との板挟みで、心を壊してしまったのかもしれない。
それから2カ月後、Yちゃんは自死し、帰らぬ人となった。
Yちゃんの葬儀で悲しんでいたのは、Yちゃんの家族と桜木さんだけ。信者たちは死者の復活を信じているため、誰かの死を必要以上に悲しむのは神を信じていないことと同義となる。だから他の信者たちは、「Yちゃんは楽園で必ず復活するので、楽しみにしましょう」「自死だったけど、Yちゃんは鬱(うつ)だったから、神は寛大に愛を与えてくださる」と明るく話していた。
■誰も気が付かないままマインドコントロールされる
桜木さんは、「楽園なんかいつ来るんだよ! 信者は幸せになれるんじゃないのかよ!」と心の中で叫んでいた。それに気付いたのか、トップたちが桜木さんの矯正に力を入れ始める。高3になると、「奉仕の僕」への異例の昇格。「奉仕の僕」は長老の下にあたり、さまざまな権限が与えられた。
特権とは以下のような、新しく課される仕事のことだ。
・奉仕活動の司会者(家から家の布教活動にどの順に周るか指示する)
・木曜日の集会の総合司会
・集会前後の祈り
・日曜日の公開公演(ステージの演題でテーマにそって45分話す)
・新しい研究生の集会での司会
「トップたちも父親も、私に考える時間を与えないくらい接触してきたため、私はすっかりマインドコントロールされてしまいました」
桜木さんによると、教団のマインドコントロールは巧妙だという。
まず、身近な生活に役立つ話を、教団が運営する出版社が発行する聖書や書籍から抜粋して聞かせ、信頼させる。それから不安をあおり、「じゃあどうすればいいの?」と誘導。不安の原因である、テレビや書籍、友人・知人など、外部との接触を“悪魔の誘惑”として制限するよう助言。すると、入ってくる情報は、信者か教団が運営する出版社の書籍だけになる。
![赤い血しぶきのような、脳内の情報の流れでつながっている人々の抽象図](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/2/1200wm/img_92bd86c64b60106fed672d20104825ea498980.jpg)
集会や書籍では、教団の教えに従わない者のおぞましい死を教え、「従えば楽園で永遠の命を得る」という両極端な選択肢を示し、「さあ選びなさい!」と促す。頻繁に神に祈るよう教えることで、実際に神がいるように錯覚し、やがて親近感さえ覚え始める。
極め付きには、神を信じる人は、「たびたび親族や友人から反対される」「悪魔が神から離そうと躍起になる」と教えるため、実際に親族や友人から、「新興宗教なんてやめなよ」「その宗教おかしくない?」などと言われると、「悪魔の攻撃だ!」「教団の教えの通りだ!」となる。
そうなれば信者はさらに外部を遮断し、聖書や書籍に頼り、自分の頭で考えなくなる。このループが、教団のマインドコントロールの仕掛けだという。
「特に、瞑想させたりおまじないを唱えたりするわけではないので、誰も気が付かないままマインドコントロールされてしまうのです」
成長とともに教団に対する疑問が大きくなり、反乱因子として幹部に警戒され、マインドコントロールされてしまった桜木さん。この後、いつ、何がきっかけで教団から離れようと思ったのだろうか。教団から離れることによって、幸せな生活を取り戻せたのだろうか。ぜひ後編で確認してほしい。(以下、後編へ続く)
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ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。
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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)
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