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地方スーパーの品を北海道・沖縄の人にも届ける…群馬の「ベイシア」が打ち破った"ご当地スーパーの殻"

プレジデントオンライン / 2022年10月5日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/alexsl

東日本を中心に1都14県に出店するスーパー「ベイシア」(群馬県前橋市)が楽天やヤフーへの出店を強化し、アマゾンへの出店も見据えている。なぜネット販売に力を入れているのか。7月に社長に就任した相木孝仁さんに、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が聞いた――。(後編/全2回)

※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「変革を求められる小売業界。『スーパーを超えていく』ベイシアの小売DX戦略とは。」(9月15日公開)の一部を再編集したものです。

■年商3000億円を1兆円にするのが仕事

【田中】小売業界を数十年単位で見てみると、総合スーパーでも食料品はある程度堅調または横ばいであることに対して、非食料品は下がってきています。その一方で専門店が伸びています。専門性が最大のポイントの一つですよね。

【相木】そうですね。

【田中】このあたりで相木社長の野望をぜひおうかがいしたいと思います。密かな野望をどこまでお話しいただけるかは分かりませんが、ベイシアをどういうところまで成長させていく野望をお持ちでしょうか?

【相木】まだなにも成し遂げていないので、ビッグマウスになってはいけないと思いますが……。

【田中】ソフトバンクグループの孫さんも「日本に不足しているのはビッグマウスだ」とおっしゃっていますので、ぜひ相木社長にはビッグマウスを発揮していただければと思います。

【相木】私は、野望は口に出さないと絶対に叶わないと思っています。

【田中】そうですよね。思っていないことは実現しないし、言わないことも実現しない。ぜひ有言実行するつもりで、野望をお話しいただければと思います。

【相木】ベイシアは年商3,000億円で、パート・アルバイトを含めると20,000人近い雇用責任を持っています。これは凄いことだと思いますが、そういうスーパーは世の中にたくさんあるわけです。そんな中で、「数年かけて3,300億円を達成したい」ということならば、私は呼ばれていません。まず規模の話でいうと、これから5年、10年かけてこの業界は合従連衡が起きると思っています。そうすると5,000億や1兆円のプレイヤーにならないと、食品スーパーとして難しくなってくる。

ただ、全国チェーンのスーパーはどうしても地場に特化したスーパーに勝てなくなる傾向もありますので、スケールしたときにどうやってチェーンストアオペレーションを徹底しながらローカライズを組み合わせていくのか。このあたりが大きなポイントになると思っています。これが規模で見た側面ですね。

■スーパーの基本は圧倒的なおいしさと鮮度の高さ

もう一つはやはり食品というお客様の口に入るもの、医療、健康につながる商品を取り扱っていますので、今のお求めやすい価格優位性や品揃えを維持しながら、圧倒的においしい、圧倒的に鮮度が高い状態をつくりたいと思っています。これが食品スーパーの基本の「き」だと思います。加えると、これからはお客様が食品を買うという行動や購買体験が変わっていくでしょう。すでにネットスーパーにより変わりつつありますので、しっかりキャッチアップし、フロントランナーになりたいと思っています。

現状はeコマースも十分ではありませんが、まずはネットスーパーを始めました。これからはお店でピックアップする時代になっていきますので、お客様のニーズの半歩先を行きながら、5年後にはベイシアが圧倒的に進んだ「メガSPA&DX小売」といった存在になりたいと考えています。

【田中】野望についてきちんとお答えいただいてすごく嬉しいです。

【相木】まだなにも成し遂げていないからいえることかもしれませんが(笑)。

■ネットスーパーとeコマースの両方を活用

【田中】先ほど、大きな野望のキーワードとして「メガSPA&DX小売」というお話が出ました。ネットスーパーでは楽天と提携していますが、北関東だけではなくて全国展開する大きな切り口の一つとしてネットスーパーも考えているということでしょうか?

【相木】ネットスーパーとeコマースの両建てで検討しており、ネットスーパーは主に今の地域のお客様を対象に考えています。どうしても子育てや介護、働き方の変化の中でお店になかなか来られないけれど買い物はしたいという方はたくさんいらっしゃいます。スマホで注文したいというお客様に対して、お店から新鮮な商品をお届けしたいと思っています。これは私が参画する前からの話ですが、自分たちで一から作るのではなくて、プラットフォームを活用しようということで楽天と組むことにしました。

どの企業も悩みながら進めていると思いますが、配送効率の問題はどうしても出てきます。いきなり全店を対象にするわけにはいかないので、私たちの店舗が多くある群馬・埼玉・千葉の9店舗から進めていますが、もう少し加速しようと考えています。

ベイシアでは一日あたりの注文件数をトラッキングしていて、これが最高になることを「ギネス」と呼んでいます。昨日まさにギネスを更新しまして、数字がどんどん増えています。一度使ったお客様はもう一回使ってくださるので、もう少しアクセルを踏んでいこうと、チームが頑張ってくれています。ネットスーパーではeコマースでは扱えない生鮮食品も扱いますので、時間はかかると思いますが、少しずつ伸ばしていきます。

ベイシアの相木孝仁代表取締役社長
ベイシアの相木孝仁代表取締役社長

■良い商品を出店店舗の顧客にしか届けられないのはもったいない

【田中】店舗を中心に展開していくのですね。

【相木】今のところはそう考えています。もう一つ力を入れているのがeコマースですね。自社サイトではなく楽天とYahoo!に出店しています。こちらも相当なポテンシャルがあると思っていて、商品は優れていますし、eコマースによってベイシアが出店している1都14県以外にもお届けできます。私たちの商品はどれもユニークで、品質やボリュームにこだわっていますし、いろいろな会社と共同で商品をつくったりもしています。これを1都14県、141店舗にしかお届けできないのはもったいないと。

eコマースによって北海道でも沖縄でもベイシアの商品を買うことができる状態をつくります。これまではナショナルブランド寄りの品揃えでしたが、オリジナル商品や冷凍食品だけではなく、八天堂とコラボして開発したくりーむパンも売らせていただいています。これがけっこうな勢いで伸び始めていますから、eコマースはもっと伸ばせると思います。

【田中】eコマースは楽天とYahoo!に出店していますが、自社独自の展開も検討しているのですか?

【相木】可能性はあるとは思います。ただ、自分たちで手がけることが目的ではありませんので、効率が良ければ2社以外にもアマゾンなどに出店することも考えています。

■産地も形も違う生鮮食品のデータ管理に挑戦する

【田中】先ほどDXという言葉が出ましたが、DXについてはベイシアグループ全体でDXを推進すべきところと、そうでないところが明確に峻別されています。むしろ、ここはDXを推進しないと決めている領域はありますか。それとも特にルールアウトはしないのでしょうか?

【相木】優先順位はありますが、基本的にはDXを推進する方向に進んでいきます。おもてなしは引き続き強化しながら、裏側にDXを実装していきます。あまり表向きには発表していませんが、自動発注は既に完全デジタル化していますし、店舗の商品のアドレス(棚)はすべて管理されています。これはすべてのスーパーができていることではないと思います。そういったところは進んでいますが、機械学習の導入はこれからですし、やらなければいけないことがたくさんあり、本丸はここだと考えています。

ネットスーパーもアプリもまずまず成功していると思いますし、デジタルチームには素晴らしいメンバーが揃っていますが、これからの本丸は店舗内のDXです。生鮮のように単品管理が難しく、産地も違えば形も違う、それぞれユニークな商品のデータ管理を実現しているスーパーは日本には存在しません。ここにチャレンジしていきます。デジタル領域を統括する亀山(博史)という本部長がおりますが、彼のリソースを店舗DXにシフトしようと考えています。

■アプリは顧客との第二の接点

【田中】中国のアリババがリアル店舗を展開したときに真っ先に手をつけたのが商品管理です。ブロックチェーンで商品管理をして、機械学習で解析しています。ベイシアにおける店舗のDXと機械学習についてはいかがお考えでしょうか?

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

【相木】アプリの会員基盤がベースになると思います。私たちはお客様との第二の接点を、アプリと位置づけています。ベイシアのアプリは2020年にリリースしていて後発ではありますが、今ではかなりのお客様に使っていただいていますし、利用頻度は非常に高いです。もちろん情報管理は徹底しながら、お客様がさらに良い買い物体験ができるようなパーソナライゼーションを進めていきます。

お客様が来店したときに店舗が広いと、どこになにがあるのかわからないといったことが必ずあります。そこで買い物のエージェントとして個人の嗜好(しこう)と購買履歴に合わせて、お客様が欲しいであろうものをお勧めする。

それだけでなく、買いまわりを提案したり、ナショナルブランドを買おうとしている方にはプライベートブランドにするとこれだけお得になるといった提案も考えています。買い物をした後の満足度はすごく重要ですから、購買体験を豊かにするデータ分析とお客様のサポートが実現できれば面白いと思っています。

【田中】ベイシアのアプリはスーパーマーケット業界の中でもダウンロード数が多く、かなり利活用されていることで有名ですが、その理由を分析して分かったのは、当たり前のことをきちんとやっているということです。アプリを使えば会員価格で買えるなど、当たり前のことをやっているスーパーは意外と少ないのですが、それはこだわりでしょうか?

【相木】そうですね。これもメンバーたちが本当に頑張ってくれていまして、お客様目線でいろいろ考えてくれています。今後はメーカーさんとのタイアップもできると思っています。もちろん無理な誘導をするつもりはありませんが、新商品が出たときに試して欲しいお客様に、こちらの商品はいかがでしょうかとブランドスイッチの提案をすることもできます。

これはメーカーさんがなかなかやれないことですから、私たちがリーダーシップをとってやらなければいけないと思います。その先に販促ビジネスや広告ビジネスが広がっていくと思っています。

■スーパーにもデジタル特化の人材は欠かせない

【田中】先ほど亀山さんのお話が出ましたが、亀山さんの前職はアマゾンということで、描かれるビジネスモデルもアマゾンに近いと思います。こだわりを持ってされている事業をどのように強化していく予定でしょうか?

【相木】亀山の「ぐるぐる図(下図表1)」もまだ全てが実現していませんので、やるべきことはたくさんあります。デジタルの施策について亀山にすべてを任せるのではなく、彼にリーダーシップとってもらいつつ、もっと中の人材を育てていく。かつ、外部からも人材を採用していきます。私はこの半年間、採用活動に多くの時間を割いています。いろいろな方にお会いして「ベイシアは本当に面白いよ。カインズやワークマンで起きたことは次にベイシアで起きるから」という口利き文句で多くの人に参画してもらっています。

【図表1】ベイシアのぐるぐる図
ベイシアのぐるぐる図

【田中】ぐるぐる図についてはどのあたりが課題だと思いますか?

【相木】コンセプトは極めて正しいと思いますが、実現するためのリソースが十分ではなかったり、データプラットフォームが整備されていないなど、分析・解析ツールを使いこなせる人材が少ないのが現状です。ここを克服すればお客様への提案、メーカーへの提案もどんどんできるようになるでしょう。ベースとなるデータ分析力をつけることが次の飛躍につながると考えています。

■アプリが顧客の購買行動を邪魔してはいけない

【田中】ウォルマートはコロナ禍で一気にデジタル化が進み、スマホで顧客とつながることで膨大なデータを入手して、今までは取れていなかったデータが入手できるようになり、それを顧客体験価値の向上と広告事業に活かしています。ベイシアではまず、アプリとスマホで顧客とつながることが入り口でしょうか?

【相木】そうですね。さらにデータ分析で高度化していきたいと思っています。同時に忘れてはいけないのは、お客様の購買行動を邪魔するような提案をしてはいけないということです。うっとうしいと思われるような提案は避け、普通に買い物に来られた方も楽しめるようなデジタル体験をつくれるかが大事です。

【田中】そういう意味ではアマゾンは参考になりますね。BtoCの消費者の利益とBtoBの事業者の顧客の利益が対立したときは、BtoCを優先している。アマゾンの広告事業も、消費者を優先しているからこそ伸びていると思います。デジタル化を推進する上で意識してベンチマークしている会社はありますか?

【相木】業界の中で私たちより進んでいる企業はベンチマークしています。もっと力を入れたいのは海外の企業の視察です。私が参画した1月以降は海外に行けていませんので、アメリカはもちろん、中国の「フーマー」(注)は自分の目で見たいですね。いつになったら行けるのかなという感じですが、海外の勉強もしていきたいです。

(注)アリババグループが「ニューリテール(新小売)」のコンセプトで運営する中国のスーパー。

【田中】私もコロナ禍で中国に行けなくなりましたが、日本からリサーチしているとフーマーも常にアップデートをしています。どんどん新しい業態が生まれていますが、日本から新しい業態は生まれていません。例えばフーマーだと、都心部ではスマホで注文すると店頭で商品をピックアップし、配送するようなものも出てきたり、新業態が現れているので、アメリカ以上に中国をベンチマークするべきですね。

【相木】そのあたりも田中先生にご指導いただきたいと思っていますが、必ずしもフーマーがやっていることはテック企業の領域だけではないと思っています。店舗に生け簀があってその場で食べられるというライブ感もありますし、買いたいけれど重くて運ぶのが手間になる商品をデリバリーもしてくれます。フーマーから学ぶことはたくさんあると思います。

■デジタルの仕組みを他社に外販する動きは出てくる

【田中】今日はデジタルシフトタイムズの取材でおうかがいしていますので、デジタル化についてのお考えをぜひ教えてください。

【相木】商品の磨き込みですね。生鮮も一般食品も同じですが、もっともっと磨けるところがあると思います。ここが弱いといくらデジタルでがんばっても勝てません。

【田中】ネットスーパーでは三重県にあるスーパーサンシがいち早く収益化に成功されて、最近ではシステムを他社に提供する試みも始めています。相木社長もベイシアで培ったビッグデータ×AIの仕組みを他社に提供する予定はあるのでしょうか?

【相木】本当にまだなにもできていないのでおこがましいのですが、同様の企業は今後も出てくると思います。それも含めて土屋(裕雅会長)の危機感だと思いますが、今までスーパーがやっていたことを超えて、デジタルの仕組みを他社に外販していく動きは出てくるでしょう。

そして、これからは小売業が製造業になっていくと予想します。小売の業界では他業界で起きていることが十分に徹底されていないので、自分たちが生産者と深い関係を結び、ものづくりまでやっていく。そういうところにまでチャレンジしたい思いはあります。ただそこまで簡単ではないから他社も実現できていないわけですから、慎重に考えて進めていきます。

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相木 孝仁(あいき・たかひと)
ベイシア代表取締役社長
1972年生まれ。1994年、明治大学を卒業後、日本電信電話(現NTT)に入社。フュージョン・コミュニケーションズ(現楽天コミュニケーションズ)社長、鎌倉新書社長などを経て、2022年1月からベイシア副社長を務めた。同年7月より現職。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

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(ベイシア代表取締役社長 相木 孝仁、立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭)

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