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世界的な品薄状態なのに…日本一の"セレブ通り"で富裕層だけ「ベンツの最新ゲレンデ」を入手できるカラクリ

プレジデントオンライン / 2022年10月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Japanesescape_Footages

■外苑西通りは、都内屈指のセレブ通り

「外苑西通り」は白金台、広尾、西麻布、南青山といった都内屈指のセレブタウンを貫いており、高級外車率がきわめて高い。筆者は、国内外の富裕層向け資産運用アドバイザーや金融コンサルタントとして、そうした界隈に住み、高級外車を保有する数多くの富裕層と長年接してきた。

足元の自動車業界では供給不足などによる品薄状態が問題化しているが、この外苑西通りには高級外車の新車が多いのはなぜか。365日この通りを走っている筆者の高級外車を保有する富裕層や業界関係者からの聞き取り調査によって、その背景を紐解いてみたい。

外苑西通りは、東京都港区の白金台交差点から、新宿区の富久町西交差点までの約6.8km。つい最近、高級外車であるベントレーとテスラ、BMWが絡む接触事故が起きたのもこの通りだ(2022年8月30日)。

通りの起点である白金台交差点から銀杏並木が続く坂は、「プラチナ通り」と呼ばれ、「シロガネーゼ」が行きかうカフェやブテックなどが立ち並ぶ。その先には、慶應義塾幼稚舎、聖心インターナショナルスクール、広尾ガーデンヒルズ、有栖川公園、ドイツやフランスなどの大使館、カフェやレストランなどが周囲に点在しており、軽井沢に本店がある「ブレッド&タパス沢村 広尾」の前には、早朝から美味しい珈琲とパンを求めて高級外車が連なっている。

SKYグループが運営する、ブガッティを筆頭に、マクラーレン、ランボルギーニ、アストンマーチンにマセラティといった正規輸入車ディーラーのショールームが居並ぶ通りはまさに壮観だ。

さらに北上して、青山通りと交差する南青山三丁目交差点から新国立競技場前にかけての区間は、「青山キラー通り」となる。旧ベルコモンズ跡に建ちPlan・Do・Seeが手掛けるスタイリッシュな青山グランドホテル、NY出発前に秋篠宮家の眞子さまが滞在したとされる高級サービスアパートメントのオークウッドレジデンス青山、ビクタースタジオなどが並び、国内屈指の売上台数を誇るジャガー/ランドローバー青山のショールームもこの通り沿いにある。

過去10年以上、出張などを除き正月を含め365日外苑西通りを運転して通っていると気づくことがある。毎日のように出会う車があり、今どんな車が人気なのかも手に取るようにわかるのだ。

■相変わらず「ゲレンデ」が強し

SUVがセダンから「主役」の座を奪って久しい。外苑西通りでは発売されたばかりのフェラーリやランボルギーニは普通にすれ違うが、高級外車SUVのメルセデスベンツGクラスのゲレンデに関しては、もう見飽きるほど走っている。

ロゴ付きメルセデスショールーム
写真=iStock.com/jax10289
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jax10289

芸能人御用達でもあるこの車はグレードやオプションなどを積み上げれば2000万円以上かかる。リセールバリューの高さもあって人気に拍車がかかり、正規ディーラーでは品薄状態が続いている。特にディーゼル車などは新規受注を停止中だという。一部では、中古車価格が新車価格を上回るほど人気化しているのだ。

品薄状態の背景には、コロナ禍やウクライナ危機による世界的なエネルギー危機や金利上昇、記録的なインフレにより、原材料費の高騰や人出不足を主因とするサプライチェーンの滞りがある。特にいま一番の問題は、人手不足とされる。なんとか半導体など部品が供給され生産されても、工場から港まで完成した新車を運ぶトラック運転手がいない、船に積み荷する荷役がいないのだ。

■品薄状態なのに、ゲレンデを見かけるカラクリとは

にもかかわらず、外苑西通りでは、1年前と比べてもゲレンデの新車を見かける機会が増えているように感じるのは、なぜか。

富裕層や関係者への聞き取りで今回わかったのは、いわゆる「隠し在庫」の存在だ。確かに、ゲレンデの多くのグレードは品薄状態が続いているが、正規ディーラーには「別ルート」があり、VIPユーザーや、複数台保有するような既存ユーザーには、優先的に新車が割り当てられているというのだ。

つまり、百貨店の外商セールスと同じような仕組みだ。一見客は順番待ちさせられるが、この界隈の富裕層は別枠で特別に対応してもらえる。メルセデスに限らず、ポルシェなど他の高級外車メーカーも同様の対応をしており、結果的に、こうしたVIPユーザーや富裕層が多い外苑西通りでは、供給不足にもかかわらず、ゲレンデをはじめ高級外車の新車をみかける機会が変わらず多いというわけだ。

■ブランドの頂点マセラティは最優先で生産

マセラティのギブリやレヴァンテの新車もこの通りではよく見かける。ブランドアンバサダーを務める英国のデイビット・ベッカムがワンオフモデルを手掛けたスーパーカーであるMC20が日本でも順次納車されており、間もなく見かけることになりそうだ。

マセラティは現在、大手自動車メーカーであるストランティスの傘下にある。フランスPSAとイタリア・フィアット、米国クライスラーが合併したストランティスは、アルファロメオ、DSオートモービルス、ジープ、プジョー、フィアットなど多数の有力ブランドを有するが、その頂点に君臨するのがマセラティだ。

市内に駐車豪華なマセラティレバンテの車
写真=iStock.com/Roman Stasiuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Roman Stasiuk

マセラティは、単価も利益率も高く、富裕層顧客を留めブランドイメージ維持向上のため、ストランティスのなかでも、部品供給と生産が最優先されているという。そのため日本国内での納車も比較的順調であり、この通りでも新車をよく見かけるわけだ。

なお、フィアット(現ストランティス)から、2015年10月にIPO(株式新規公開)して分離独立したフェラーリも、その高いブランド力と独自の部品供給ネットワークを駆使して、生産体制を維持しており、日本国内の納車も同じく順調だ。

数字も紹介しよう。世界的な品薄状態のなか、国内では多くの高級外車ブランドが前年割れのなか、日本自動車輸入組合(JAIA)によると、マセラティが前年比118.6%増加の765台、フェラーリが前年比134.4%増加の1028台と、いずれも過去最高水準の月間販売台数となるほど売れに売れているのだ(2022年1月から8月までの累計新規登録台数、以下同)。

■得意客である富裕層優遇し、最高級車の生産を優遇する

複数台を保有したり、長年、定期的に乗り換えてくれたりする富裕層の得意客を優遇し、限られた生産体制のなか、利益率の高い最高級ブランドや最高級グレードに限定特別車に、生産を集中し優先的に供給するという仕組み。これは言わば、自由市場主義社会における合理的な動きだろう。無論、正規ディーラーや富裕層が批判されるようなことではないものの、別世界の話のようではある。

フェラーリやマセラティだけではない。2021年、日本全体で4台しか売れていない超高級外車ブガッティは、今年はすでに3台売れている(前同)。ちなみにブガッティ・シロンの価格はベース価格で3億円超えだ。

ロールスロイスも、前年比121.1%増加の178台も売れている(前同)。ベントレーや、マクラーレン、アストンマーチンも引続き好調な売れ行きだ。富裕層や外苑西通りの住人たちにとって、もはやコロナ禍など関係ないのかもしれない。

一方で、テスラを含むEV車が国内でさらに普及するには走行距離や品質に充電スポットといった課題もあり、まだ少し時間がかかりそうだ。高級外車のEV車も外苑西通りでは少数派だ。

まだまだ、日本では海外旅行なども限定されるなか、独特の甲高いエグゾーストサウンドを奏でる高級外車のガソリン車をコレクションに加えておこう、買っておこう、という動きが、金あまりのなかで継続しているということだ。

■ポルシェ911GT2は2~3年待ち

ところで、前出のゲレンデと双璧をなす存在として挙げられるのが、ポルシェ・カイエンだろう。弟分のマカンと合わせれば、高級外車SUVでは数的には多いが、ここしばらくは最新モデルとすれ違うことが減っている印象だ。実際、カイエンはモデル末期とされており、車種によっては即納車するケースもあるようだ。また、マカンの主要部品の一部はウクライナ製とされ、ロシアによる侵略で生産出荷に遅れが生じているという。

もっとも、911GT2や911GT3といったハイエンドモデルは2~3年待ち、ボクスター、マカン、ケイマンといったエントリーモデルも売れ行きがいいという。ポルシェの新規登録台数(前同)自体は、前年比97.6%の4779台と昨年とほぼ同水準を保っており、その人気は相変わらずだ。

ポルシェ 自動車ディーラー
写真=iStock.com/Wolterk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wolterk

■新型レンジローバーは一部受付中止中

外苑西通りでは、元祖ラグジュアリーSUVメーカーとして知られるランドローバーも多く見かける。英国王室御用達の証「ロイヤル・ワラント」の認定を受けており、先日国葬が行われた故エリザベス女王のパレードや、ウィリアム王子とキャサリン妃のロイヤル・ウェディングにも使用された高級車だ。

ランドローバーのフラッグシップカーであるレンジローバーでは、21年12月予約したファーストエディションが、22年9月にようやく第一便が日本に到着し、10月後半頃から、この通りでもお目にかかれそうだ。なお、英国だけでなく、中東や北米のセレブにも人気の新型レンジローバーは、V8モデルについてはすでに3年分の生産予定の受注台数に達したため、一部モデルの新規オーダーの受付を中止しており、ハイグレードモデルのみ受け付けている状況だ。

■ディフェンダー人気も続く

また、以前、本欄で書いた「中古車価格が新車価格を超える」富裕層の心を鷲掴みにした"あるクルマ"でも紹介した、約30年ぶりにフルモデルチェンジした新型ディフェンダーも見かけるようになった。日本では20年4月より通常モデルの受注を開始したが、第一陣の納車が今年夏前にようやく一段落し、21年10月から今年1月頃に受注した納車が22年10月から始まるような状況だ。今注文したとしても、ガソリン車では来春、ディーゼル車では手元に届くのは来冬か、という人気ぶりだ。このため、正規ディーラーでは、限定車をリリースすることで対応している。装備やボディカラーも決まっており、割高となるものの抽選販売となるほど人気だ。

■EV席捲はまだ先。高級外車の価値はさらに高まる

やはり、本欄の過去記事で書いた「東京随一の"セレブ通り"を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ」でも紹介したように、富裕層の特徴として、①人と同じは嫌、②面倒くさがり、③でも、構ってほしい、が挙げられるが、まさに、他人とは違うものを早く手に入れたい、待つのは面倒なので、高値でも限定車や特別なルートなどで手に入れたいという事になるのだろう。

テスラモーターズストア
写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

世界的な原材料費の高騰や人出不足を主因とするサプライチェーンの滞りで、もともと販売台数が限定的な高級外車の希少性が増せば、ますます「希少品を手に入れたい」という富裕層のニーズを掻き立てることになるのだ。

■カネ余りは続き、富裕層と高級外車の蜜月関係も続く

22年9月には、価格が39万ユーロ(約5460万円)もするフェラーリ初のSUV「プロサングエ」が発表され、そのフェラーリに続き、ポルシェのIPO(新規株式公開)が評価額750億ユーロ(約10兆5000億円)で実施されるなど、世界的にも高級外車市場はますます勢いづいている。

日本では、円安・インフレの悪影響が強まるなか、依然、日銀による大規模な金融緩和が続いている。富裕層を優遇し、利益率の高い高級外車を優先的に供給するという“カラクリ”があり続ける限り、金あまりを背景に、外苑西通りの富裕層の高級外車を所有することへの飽くなき欲求は衰えることはないだろう。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『いまさら始める?個人不動産投資』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。

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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

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