サプリメントを飲むと早死にする…臨床試験が打ち切りになるほど危険な「抗酸化サプリ」の落とし穴
プレジデントオンライン / 2022年10月14日 17時15分
※本稿は、左巻健男『陰謀論とニセ科学』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■「お茶が体にいい」のは抗酸化物質のおかげ
私たちが呼吸で酸素を取り入れると、体内で「活性酸素」がつくられます。基本的な酸素よりも酸化する力が強いものが活性酸素です。
この活性酸素は、酸素が化学的に活性化された不安定な物質の一群のことをいい、一般的に強い酸化力をもっています。
代表的なものに、スーパーオキシドラジカルやヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素があります。
また「抗酸化」とは、活性酸素をなくす働きです。そのような働きをする物質を抗酸化物質といいます。
「お茶が体によい」といわれるのは、お茶の中のカテキンというポリフェノールが抗酸化物質であることが大きな理由です。
ポリフェノール以外にも、ベータカロテン、ビタミンCやビタミンEなどが抗酸化物質の代表例です。
ベータカロテンとは、ニンジンやカボチャなど緑黄色野菜に含まれる抗酸化物質で、体内で必要に応じてビタミンAになります。
■活性酸素は老化の原因
抗酸化物質が注目されるようになった背景には、「活性酸素は病気や老化の原因」だという仮説があります。
その活性酸素が、強い酸化力で細胞膜の脂質を変質したり、DNAを傷つけたりすることで病気や老化の重大な原因になるのであれば、抗酸化物質をたくさん摂れば、若返ったり、老化を遅らせたり、病気を予防したりしてくれるはずだという期待があったのです。
■「抗酸化サプリ」を飲んだほうが死亡リスク増
やがて「血液中のベータカロテンやビタミンEの濃度が高い人はがんになりにくい」という研究結果が示されました。
その結果を受けて、今度はさらに2つの大規模な臨床試験がおこなわれました。
ひとつはフィンランドの研究です。
肺がんリスクの高い3万人を無作為に4つのグループに分けました。
うち3つのグループにはそれぞれベータカロテン、ビタミンE、ベータカロテンとビタミンEの両方を与え、残り1つにはビタミンEもベータカロテンも含まれないプラセボ、つまりニセモノを与えました。
その結果は研究に参加した研究者らにとって予想外のものでした。
体に良いものを摂り続けたはずのグループのほうが、プラセボを与えたグループより肺がんを発症した人が多かったばかりか、肺がんと心臓病による合計死者数も多かったのです。
もうひとつの臨床試験のほうは、もっと悲惨な結果でした。
肺がんリスクの高い1万8000人を2つのグループに分けて、片方にはベータカロテンとビタミンAを与え、残り半分にはプラセボを与えました。
この研究は6年間続けるはずだったのですが、予定よりも早く打ち切ることになりました。
なぜなら抗酸化サプリを飲んだグループのほうがプラセボを飲んだグループより肺がんで死亡するリスクが46%と高く、そのほかの要因で亡くなるリスクも17%あることがわかったからです。
■「サプリメントの多量摂取」は危険
この研究結果のような事実はあまり知られていません。
ベータカロテンは数多くの研究活動から「絶対、人に効果があるはずだ」と想定されていました。それをもとに大規模な臨床試験をしたものの、予想外の結果になったのです。
ほかの健康食品・サプリメントを、こうした大規模臨床試験にかけた場合、どんな悪い結果になるか、想像がつきません。
食品と健康との関係にはまだまだわからないことがたくさんあります。
ネズミを使って動物実験していても、実際のところ人体ではどうなのか、実際に確かめてみないと本当のところはわからないのです。
野菜や果物にはがん予防に効果がある成分が含まれている可能性はあります。
それが何なのか、単一成分なのか複合的な成分なのかなど、わからないことが多いのです。
とりあえずベータカロテンの教訓としては、「野菜や果物からとるよりも、なんらかの単一成分を抽出してサプリメントの形態で多量摂取すると危険性がある」ということでしょう。
結局、バランスのよい食事をとることが最大のがん予防なのかもしれません。
立ち止まって、冷静になって、「そんな魔法のごとく健康になれるものがあるのか」と考えることが大切です。
常識的には、いつも「毎日のバランスのとれた食生活、適度な運動、適度にストレスを発散できる趣味などの活動」の重要性を教えてくれるはずです。
■「あやしいがん治療」見分けるポイント
がん治療において、次のようなアピールをしていたら要注意です。
・○○免疫クリニック、最新○○免疫療法……とにかく「免疫」という言葉で迫る
・○○%の患者に効果……藁をもつかもうとする患者に高い確率で治るとする、あるいは「消える」「副作用がない」と断言
・体験談やよく効いたという事例満載
・奇跡の○○治療、末期がんからの生還
・健康保険が効かない……自由診療で高額
とくに自由診療で健康保険が使えないのは、もちろん標準治療ではありません。
ただ、科学的に有効性のある治療法なら標準治療になっているはずです。
また、もしその治療法がまだ研究段階(臨床試験や治験)であるなら、研究を遂行できるしっかりとした機関でおこなわれ、治療にはあまりお金がかからないはずです。
なお「免疫チェックポイント阻害剤」への期待に便乗するとか、「免疫チェックポイント阻害剤」をごく少量使ったりして、効果不明の免疫細胞療法まで免疫療法を名乗って効果をアピールしている場合もあるので要注意です。
■「アガリクス」効果がないどころか安全性も疑問
世の中には「抗がんサプリ」と称するものがあります。
アガリクス、メシマコブ、フコイダン、プロポリスなどです。
アガリクスはその代表で、ハラタケ属のヒメマツタケ(カワリハラタケ)というキノコの一種です。
アガリクスなどキノコ系の抗がん作用は、ベータグルカンが免疫機能を活性化して、間接的にがんを攻撃するといわれています。
ところが「抗がん効果がある」「免疫力を高める」などと強調されていながら、人間に対して効果アリという信頼できる十分な情報が見当たりません。
多くのがん患者が利用してきたのに、人で効果を証明する臨床研究がなかったことに驚かされます。
アガリクスのがん治療効果を米国食品医薬品局が承認していないこともあって、人間を対象にした臨床試験のデータはありません。
効果を証明するための臨床研究では、同時に有害作用もチェックされます。
したがって、臨床試験のデータがないということは、安全性も十分確認されていないと考えるべきです。
■アガリクスは「肝機能障害の原因物質」とも
アガリクスには、どんな培地を使うかなど、さまざまな栽培法があります。
形態においてもさまざまな製品があります。乾燥させたもの、水・エタノールなどで抽出し粉末・顆粒(かりゅう)・錠剤・液状などにした製品、菌糸の状態で培養し、乾燥または抽出して粉末・顆粒・錠剤・液状などにした製品などが広く販売されています。
しかし、厚生労働省はそれら個々の製品まで把握できていません。
そもそもアガリクスは歴史的に摂取経験が浅い素材であり、原材料や製品でかなり品質に差異があるため、厚生労働省から注意喚起されています。
2006年2月、厚生労働省はアガリクスが含まれている1製品について、販売者に自主的販売停止と回収を要請しました。
国立医薬品食品研究所の試験で、アガリクスが含まれている3つの製品について、摂取目安量の約5〜10倍量をラットに与えたところ、その1つに発がん促進作用が認められたからです。
それに、アガリクスのサプリメントを摂取した3人のがん患者が重症の肝障害に陥ったとの報告があります。
なおかつアガリクスは、やせ薬以外の健康食品・民間薬による肝機能障害の原因物質としてはウコンに次いで報告が多いことにも要注意です。
そしてまた、がん患者が服用し劇症肝炎、肝機能障害、薬剤性肺炎など、重篤な健康障害を発症する例が目立ったことでも知られています。
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東京大学非常勤講師
東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。
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(東京大学非常勤講師 左巻 健男)
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