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「俺に似ているからポテンシャルが高いはず」"20代課長"誕生計画をフイにするOLD上司の罪作りな口癖

プレジデントオンライン / 2022年10月4日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nagaiets

20代課長を誕生させよう。そんな施策を打ち立てる大企業が増えている。日本企業の標準登用年齢の平均は課長で41.8歳、部長で49.3歳。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「専門家によれば、適性のある人材は100人中1~3人。課題はそうした若くして管理職が務まる人材をどう発掘して、育てるかです」という――。

■企業で盛ん「20代課長誕生」プランはうまくいくのか

若手社員を管理職に積極的に登用しようという動きが大手企業に広がっていると報じられている。しかも、20代の課長が誕生するという触れ込みだ。

たとえば、次のような事例がある。

NTT:管理職ではない社員を対象に基準を満たせば入社年次や年齢に関係なく早期に昇格・昇給できる制度を導入。20代で課長級の役職への抜擢も可能にする。

リコー:管理職への昇格試験や資格による登用制限を廃止し、20代半ばの社員でも実力次第で課長職に抜擢される。

パナソニックインダストリー:2022年10月から課長職と部長職の公募制を実施。20代の社員でも求められる条件に合致すれば役職に登用される可能性がある(パナソニックホールディングス子会社)。

テルモ:2022年4月から従来の14年程度かけて昇進する課長登用の条件を一新し、社内公募制により20代にも登用の道が開かれた。

近年、デジタル化によるビジネスモデルの変革が急速に進んでいる。DXに象徴されるように新しい価値やイノベーションの創造が期待される中で、若い人が活躍できる環境が求められているのは確かだ。

20代の有能な課長が誕生するのは望ましいことだろう。できる人が年齢に関係なくきちんと認められ出世する。個人的に親しい上司にかわいがられたとか、派閥力学とか、学歴や学閥とか、「仕事」とは関係ないことで誰かが出世して、真面目にやっている社員のやる気が失われるような事態を繰り返す会社は伸びるはずがない。

だが、難しいのは、登用の条件を緩和したり、公募制に変えたりしても、誰でも課長が務まるわけではないということだ。

■入社6~7年目で年下年上の部下やチームを牽引できるか

大企業のライン課長であれ、通常5~8人の部下を率いる。課長の役割は部下の指導・育成だけではなく、プレイングマネージャーとして課の業績責任も問われる仕事だ。

リクルートマネジメントソリューションズが調査した管理職に期待する役割のベスト3は以下の通りだ(管理職層回答)。

「メンバーの育成」(46.0%)
「担当部署の目標達成/業務完遂」(32.0%)
「業務改善」(30.7%)

なかなかハードルが高い。そのほかに「メンバーのキャリア形成・選択の支援」「担当部署のコンプライアンス・勤怠管理の徹底」「部署内の人間関係の円滑化」などの役割を担う。もちろん部下の給与・昇進に関わる人事評価とフィードバックも重要な仕事だ。

自分のことだけでなく、部下育成にも気を配らないと任務を果たしたことにはならない。

日の当たる場所で自信ありげに腕を組む男性
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

こうした仕事を新卒入社6~7年目で担うのは大変だろう。しかもこうした役割をこなせると見なされるには経験と知識の蓄積が問われる。

都内のサービス業の人事部長はこう語る。

「営業であれば、困難な要求を吹っかける顧客などさまざまな取引先との交渉を経験する。さらにチーム長としてプロジェクトの案件を何件かこなし、リーダーシップや専門性を磨いていく。場合によってはジョブローテーションによって違う部署で経験を積むこともある。一般的に主任、係長を経て課長になるわけだが、課長の登用条件を満たすには最短でも10年かかるのが普通だ」

今の仕事の仕組みを考えると確かに10年程度はかかるかもしれない。しかしこの10年も必要条件であって課長になる十分条件ではない。

労務行政研究所の「等級制度昇格・昇進、降格の最新実態」調査(『労政時報』22年6月10日)によると、一般社員層から管理職への昇進候補者決定で考慮されるのは「人事考課の結果」と「上司からの推薦」が最も多い。少なくとも人事考課結果がトップクラスであることが求められる。

その上で昇進・昇格の判断は「社内の会議」で行われる。

特に従業員1000人以上では「候補者の選定・昇格判定を行う会議体」を設置している企業は73.2%に上る。

■標準登用年齢の平均は課長で41.8歳、部長で49.3歳

冒頭に紹介した登用要件の緩和や公募制導入企業でも、上司の推薦は別にしてもおそらく人事考課をベースに社内会議で決定するプロセスは変わらないだろう。

しかも現状、昇進年齢はそれほど早くない。調査によると、標準登用年齢の平均は課長クラス41.8歳、部長クラス49.3歳となっている。最短登用年齢は課長クラスなら平均35.5歳、部長クラス42.1歳だ。日本社会では、最短でも20代課長を輩出するのは容易ではないことがわかる。

もちろん企業もそれでよいと思っているわけではない。

欧米企業の経営層に比べて年齢の高い経営層の若返りを図る取り組みも以前から実施している。ただし、一定の経験と知識が必要な管理職に誰でもよいから抜擢すればよいというものでもない。

ビジネスマン同士で握手
写真=iStock.com/seb_ra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/seb_ra

経営幹部となりうる若手社員を早期に選抜し、配置と研修による次世代経営者教育を実施してきた大手企業も少なくない。若手の優秀なビジネスパーソンの早期抜擢について何らかの取り組みをしているのは従業員1000人以上の企業で26.3%もある。

日本企業の喫緊の課題は「経営層の若返り」を図ることだ。これを進めるには最初の登竜門である課長昇進年齢を早める必要がある。

ところが、労務行政研究所の調査(2022年)によると、5年前(2017年)と比較した昇進スピードの変化は課長クラスへの昇進では「速くなっている」と回答した企業はわずか17.8%で、「変わらない」が73.1%と大多数を占めた。結局、早期選抜教育の重要性はよくわかってはいるけれど、なかなか実現できないのだ。

なぜ、うまくいかないのか。

■20代で課長になれる人材は100人に1~3人だけ

専門家によると「早期に経営人材としてのポテンシャルを見抜き、特別なトレーニングが必要だ」と言う。

国内外のグローバル企業の役員のアセスメントを行う外資系コンサルティング会社のコンサルタントが言うには、そのポテンシャルとは具体的に言うと次の4ポイントだ。

【洞察力・好奇心・巻き込み力・胆力】

「ポテンシャルとは、先天的に身に付けている要素であり、われわれが人材を見極める場合に最も重視している。物事を深く考えることができる洞察力、新しいことに能動的に学び続ける好奇心、反対の立場の人とも折衝しながらうまく巻き込める力、困難な状況に立たされても決めきることができる胆力。このポテンシャルを持つ人を見つけて、トレーニングしてスキル・経験を身に付けさせると課長にふさわしい要件を満たす人材ができあがる」

逆に、ポテンシャルが十分にない人に対して無理に修羅場の体験をさせると潰れてしまうという。

このコンサルタントが言うようにこうしたポテンシャルを持つ人材を見つけて特別の訓練を施せば20代の課長が誕生するということでもある。ただ、問題はポテンシャルを持つ人材がどれだけいるかだ。

オフィス内を行き交う人々
写真=iStock.com/gremlin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

このコンサルタントは「われわれの経験では、例えば新卒を100人採用したとすると1~3人。新卒人材に限らない。グローバル企業の役員候補者を調べても、ハイポテンシャル人材は大体1~3%程度しかいないのが実態」と語る。

この話を延長すれば新卒を100人採用した企業であれば、20代で課長になれる人は数人程度ということになる。

しかも難しいのは、どうやって前述のポテンシャルを見極めるのかだ。聞いてみると、「ポテンシャルが高い人でなければポテンシャルを見極めるのには難しい」(コンサルタント)と答えた。見極め方は、同社が蓄積した世界のグローバルリーダーの行動特性のデータをベースに行うというが、その内容は社外秘であり、明かすことはできないということだろう。

■「自分と似ている人」を選ぶ上司は人材の目利きではない

それでも、何かヒントはないのか。食い下がってみると、こう教えてくれた。

「(人材の目利きではない)上の世代の中には、『物事に前向きな姿勢がある人』『自分とよく似ている人』『ノリがいい人』をポテンシャルが高く管理職に向いている、と主張しますが、それは勘違いであることが多い」

結果、そうした非目利きの上司がせっかく引き上げても全然うまくいかず、誰ひとり幸せにはなれない。ダメージを負うだけだ。

20代の課長を誕生させるのは早期の特別教育はもちろん、ポテンシャルの見極めが重要な鍵だ。単に登用要件を緩和したり、公募制を導入したりと人事制度を変えただけでは成功できないことは、冒頭で触れた企業も当然承知しているに違いない。

もし、その認識や覚悟がなく、半ば強引に20代の課長を誕生させてしまったら、最悪のシナリオは、若き課長が部下のマネジメントに失敗し、自分のキャリアにも傷をつけ、チームの業績は右肩下がり……。

ただでさえコロナ禍で厳しい中、会社は新たな損失を被って足を引っ張られる恐れもあるのだ。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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