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泥船の自民にすり寄る意味がなくなった…維新がここにきて"犬猿の仲"である立憲との「共闘」を決めた理由

プレジデントオンライン / 2022年10月3日 18時15分

会談に臨む立憲民主党の安住淳(右)、日本維新の会の遠藤敬両国対委員長=2022年9月21日午前、国会内 - 写真=時事通信フォト

政治スタンスとしては正反対の立憲民主党と日本維新の会が10月の臨時国会での共闘に合意した。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「国葬問題で支持率を急速に落とした自民の凋落ぶりを見て、維新は立憲と組むほうが良いと判断したのだろう。ただ、これがこの先の選挙協力につながることはなさそうだ」という――。

■犬猿の仲だった立憲と維新の共闘

筆者が思っていたより早く、野党陣営に動きがあった。野党第1党の立憲民主党と、第2党の日本維新の会が9月21日、10月3日に召集された臨時国会で、6項目の部分的な国会内「共闘」で合意したのだ。部分的とはいえ、犬猿の仲だった立憲と維新の「共闘」は、各方面に波紋を呼んでいる。

7月の参院選以降、選挙に「勝った」はずの自民党の状況は目を覆うばかりだ。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題が拡大の一途をたどる一方、安倍晋三元首相の国葬に対する反対世論が急拡大し、岸田内閣の支持率は劇的に下落している。こんな状況で野党がいつまでも「多弱」のままでいて良いはずがない。今回の立憲と維新の動きは、筆者も素直に歓迎したい。

政界はこの動きが岸田政権に与える影響に関心が向いているが、これを野党間の力関係という観点で見れば、今回の合意によって、立憲が野党の中核として、維新に対し優位に立ったことがはっきりしたとも言える。メディアがこの1年近く「立憲下げ、維新上げ」という誤った印象操作を散々繰り返したことで、多くの国民もある種の勘違いをしていたかもしれないが、野党陣営はようやく本来の構図に落ち着き始めたということだろう。

そして、この合意は立憲以外の野党、特に維新に大きな混乱をもたらす可能性がある。しばらくなりを潜めていた野党陣営の流動化が、どうやら再び始まりそうだ。

■参院選後によく見られる「野党陣営の流動化」

現在の立憲と維新のような、野党陣営における国会での共闘の動きは、参院選の後にはよく見られる。参院選は選挙区に複数区があり、比例代表もブロック制の衆院と違って全国1区。このため、衆院選に比べて中小政党が当選しやすい。だから野党各党は参院選では自らの党勢拡大に走りがちで、野党第1党から見れば遠心力が働く。

しかし、参院選が終われば、次に控えるのは小選挙区を中心とする衆院選だ。政界は好むと好まざるとにかかわらず、政権を争う与野党の二大政治勢力にまとまる圧力がかかっていく。

その時に野党側の中核となるのは、第1党の立憲だ。たとえ第2党の維新が立憲より支持率が高かったとしても、国会では結局、議席という「リアルパワー」がモノを言う。野党第1党と第2党の間の壁は、実は政権与党と野党第1党の間より高いのだ。

■3年前には国民民主が立憲に流入した

前回参院選があった3年前の2019年を思い出してほしい。立憲民主党は当時、野党第2党だった国民民主党と勢力が拮抗(きっこう)しており、両党は特に参院で、熾烈(しれつ)な「野党第1党争い」を展開していた。

しかし、参院選で立憲民主党が改選議席をほぼ倍増させる躍進を果たし、国民民主党が伸び悩むと、参院選後の国会では立憲を中核とした国会での野党共闘態勢が構築され、1年後の20年秋には、現在の泉健太代表をはじめ多くの国民民主党議員が立憲民主党に合流した。

「あれは両党が解党してできた『新党』だ」との声もあるだろうが、外から見れば党名も代表(当時は枝野幸男氏)も同じ。立憲が所属議員を大きく増やしたようにしか見えないだろう。

ここまで分かりやすい展開もめったにないが、参院選で遠心力が働いた野党勢力が、衆院選で再び、野党第1党を軸にまとまる方向に動くのは、衆院選と参院選の選挙制度の違いによる必然でもあるのだ。

■維新は立憲を叩き続けるか手をつなぐかの選択を迫られた

今年の参院選では第1党の立憲が議席を減らし、第2党の維新が議席を伸ばした。前回と違い、参院選で立憲の求心力が高まったわけではない。

しかし、以前に書いた記事(「比例票では野党第1党となったが…維新が『政権交代の選択肢』として浮上しきれない根本原因」、8月2日公開)でも指摘したように、維新も比例で議席を伸ばしたとはいえ、選挙区では地盤の大阪以外でほとんど伸びず、野党第1党の最低条件と言える「全国政党化」の足がかりをつかめなかった。最近はメディアの「維新上げ」機運もしぼみがちだ。

維新は立憲から「野党の中核」の立ち位置を奪うことに失敗した。少なくとも次の衆院選までの間に、維新が主導権を握って野党の中核となる構図を作るのは難しい。

こういう状況の中で、維新は次の衆院選に臨むことになる。必然的に「野党として立憲とも組んで自民党に対峙(たいじ)する」か「与党の補完勢力とみられても立憲を叩き、野党第1党の座を奪うことを目指す」か、どちらかの路線を選ばなければならない。

維新が野党第1党を目指すなら、これまでのように立憲を叩き、違いを強調するのがベストな方法だ。実際、筆者も臨時国会が開会してしばらくは、こうした路線を取るのだろうと思っていた。

■支持率を落とす自民へすり寄る意味が薄まった

だが、それを許さなかったのが、岸田政権の「崩壊過程」とも言える現在の状況である。この状況で立憲との差別化を図り、自民党にすり寄ったところで、維新にとってメリットは多くない。

そもそも、自民党内で維新と近いとされた安倍晋三元首相はすでにこの世になく、菅義偉前首相も政権の中枢にはいない。維新の中に、泥舟のような岸田政権と運命を共にするより、鼻をつまんで一時的にでも立憲と組んでおく方が得策、という考えが生まれたとしても不思議はない。

握手をしながら、後ろに回したもう一方の手では、ウソをついているというジェスチャー
写真=iStock.com/Love portrait and love the world
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Love portrait and love the world

■「大阪系」と「非大阪系」の分裂含みとなる可能性も

問題は「維新が今後もその方針で一枚岩になれるのか」だ。 

前述したように、制度上「二大政治勢力の構築」を誘う小選挙区制では、野党第2党以下の政党は良くも悪くも「野党第1党と共に政権と戦う」か「政権与党の補完勢力となる」かの選択を迫られる。維新は今、便宜的に前者の立場を取っているわけだが、果たしてそれは、党創立メンバーの松井一郎前代表(大阪市長)らの意思なのだろうか。

松井氏は事実上「勝った」はずの参院選の直後、なぜか突然代表を辞任した。後任を選ぶ代表選には露骨に介入し、自らを「(松井氏の)8番キャッチャー」と呼ぶ馬場伸幸氏を代表に据えることに成功したものの、代表が国会議員に移ったことで、党内の力学にも微妙な影響が出始めたのかもしれない。

立憲との「国会内共闘」が進むなかで、やがて維新が、国会での野党間協力を重視する非大阪系の国会議員勢力と、立憲との対決姿勢や党の独自性を重視する大阪の地方議員らの勢力との間で、分裂含みとなる可能性も否定はできない。

小選挙区制の導入以降、「第三極」を標榜した保守系の中小政党は、多くがこうした運命をたどってきた。分裂して所属議員が自民党に吸収されたり、時の野党第1党に吸収されたりしてきたのだ。考えてみれば、維新自身も同様の経験を持つ。現在の維新の前身と言える「維新の党」の代表を務めていた江田憲司氏は、現在は立憲民主党のベテラン議員である。

そんな危機感からだろうか。維新内には早くも波風が立っている。維新のルーツとも言える地域政党・大阪維新の会大阪府議団は9月28日、立憲との「共闘」に「断固反対」する申し入れ書を馬場氏に提出した。松井氏は記者団に「共闘は選挙協力ではない。過剰反応するのは幼稚だ」と府議団の対応を批判。自身も21日には立憲との選挙協力の可能性について「そんなことがあったら維新を徹底的に叩く」と語気を強めていた。

■共闘が選挙協力に発展する可能性はほぼない

松井氏の言葉を待つまでもなく、今回の「共闘」が選挙協力に発展する可能性はおそらくほとんどない。両党ともそんなことを考えてはいないだろう。

維新は3年前の国民民主党とは状況が違う。もともと旧民主党という一つの政党から誕生し、基本的な政策が近い国民民主党と異なり、維新は新自由主義的側面を強く持ち「自己責任社会」を志向する。「支え合いの社会」をうたうリベラル系の立憲とは、目指す社会像が真逆と言っていい。

そんな両党の選挙協力など、両党の所属議員もそれぞれの支持者も、誰も望まない。むしろ支持が離れる可能性が高い。実現の可能性どころか、実現に向けた動きさえ起きないのではないか。

もし何かあるとすれば、それは個々の議員の政党間移動だろう。これだけ基本理念や政策が異なる政党なのだから、現実には簡単にそんな事例が発生するとも思わないが、何が起きるか分からないのが選挙前の政界の常である。求心力を持つ政党に、所属議員が引き寄せられる可能性はないとは言えない。

そして、よほど大きなスキャンダルでも生じない限り、構図的に優位にあるのは立憲の方なのだ。

■両党の「共闘」で国民民主はどう動くか

維新のことばかり書いてきたが、筆者がそれ以上に関心を持っているのは、国民民主党の動向だ。

現在の国民民主党は、玉木雄一郎代表をはじめ、2020年の立憲民主党との合流新党が結党した時に、それを拒んで党に残った議員たちで構成される。立憲にはある種の近親憎悪的な感情があるのか、その後は何かにつけ、特に玉木氏の立憲への「逆張り」的言動が目につく。行き着いた先が、今年の通常国会での政府の2022年度予算案への賛成、そして岸田内閣不信任決議案への反対という、与党と見まがうばかりの行動だ。

新聞の見出しには「衆院選」の文字
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

昨年の衆院選で敗れ、有権者から「野党として臥薪嘗胆せよ」という審判を受けた国民民主党が、選挙が終わった途端に民意を無視して「与党化」していく光景は、見るに堪えないものだった。しかし、今回の立憲と維新の「共闘」は、こうした国民民主党の動向にも影響が及ぶ可能性もある。

■国民民主は再分裂の可能性がある

立憲と維新の「国会内共闘」は、結果的に共産党など他の野党にも波及している。立憲、共産の両党は9月26日、旧統一教会問題などを巡り臨時国会で連携することで一致した。

考えてみれば、「(国会から)憲法に基づく国会召集要求があった場合、20日以内の召集を義務づける国会法改正案を臨時国会の冒頭で提出する」などは、政治的スタンスの違いがあったとしても、野党であれば政権に突きつけるべきものばかりだ。立憲と維新と共産が「野党」としての役割を果たすため、党の独自性を保ちながら共通の追及課題について国会内で連携することは、本来野党のあるべき姿であって、何も問題にすることはない。

しかし、与党化に前のめりな最近の玉木氏を見ていると、果たしてどこまでこうした野党陣営の動きに本気で足並みをそろえるのか、一抹の不安を覚える。実際に3日、野党各党は前述した国会法改正案を衆院に共同で提出したが、国民民主党は加わらなかった。

こうした玉木氏に対し、国民民主党の所属議員はどこまで歩調を合わせるのだろうか。

例えば前原誠司選対委員長である。共産党との連携をめぐり立憲と異なるスタンスを取る前原氏だが、若手議員時代からの「自民党に対抗する大きな政治勢力をつくる」という姿勢に変化はみられない。立憲と維新の国会内共闘は望ましいことであるはずで、玉木氏との距離感がさらに広がる可能性もある。同党の支持労組も、これ以上の自民党への接近を望むとは考えづらい。展開によっては、国民民主党の再分裂も視野に入る可能性がある。

すべては今後の岸田政権の動向次第だが、政権の崩れ方によっては野党陣営にも意外な化学変化が起きかねない。少なくとも、野党陣営に久々に注目が集まる状況は生まれそうだ。

■立憲は数字以上に踏みとどまっていた

最後に、立憲民主党についても少し触れておきたい。

立憲が参院選に敗北したにもかかわらず、こういった状況が生まれたのは、選挙結果とは関係ないところで岸田政権が思わぬ形で大きく崩れつつあるという外的要因が非常に大きいのだが、それはそれとして、やはり参院選での敗北が「党にとって決定的なほど大きくはなかった」のだと思う。

維新との「野党の盟主争い」で、追い込まれつつも選挙区で踏ん張り、ぎりぎりで崩されなかったこと。また、泉氏が参院選の敗因を正確にとらえた上で、民主党・民進党時代に代表として野党共闘に汗をかいた岡田克也氏を幹事長に起用し、さらに安住淳国対委員長の再登板(この人事には驚いた)によって「攻める国会」の構えを取り戻したこと。これらが今になって効いてきている。

泉氏は参院選の直後にラジオ番組で「維新に支持率を上回られたが、ここまでよく持ち直して踏みとどまった」と語っていた。まさにその通りだ。あの参院選、立憲は「踏みとどまっていた」のだ。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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