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年間降雪量の世界ベスト3はすべて日本…「世界一の豪雪地帯」である日本の雪がさらに増えそうなワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月7日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pangjee_9

日本は世界有数の雪大国だ。積雪量も降雪量も世界一の記録を持っている。気象予報士の森さやかさんは「冬が暖かくなると雪は増える。地球温暖化により、日本海側は今後さらに記録的な大雪にさらされる可能性がある」という――。

※本稿は、森さやか『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)の一部を再編集したものです。

■積雪記録世界一になっている滋賀県の山

その昔、寒さが豊かさを表わすという偏見から、「雪」が先進国の象徴とみなされる時代があった。だから海外向けの日本の紹介写真には、決まって雪景色が登場した。それは何も雪が綺麗ということだけではなく、先進国であるというアピールだったのである。今となっては、アラブ諸国やシンガポールなどの活躍で、そうした先入観は薄れてきたものの、雪が豊かさの象徴であるというのなら、日本は申し分のない裕福な国といえる。なぜなら、我が国は世界でもっとも雪深いからである。

その証拠に、世界一の積雪記録は滋賀県の伊吹山で作られている。1927年2月14日、雪の高さが11メートル82センチに達し、並み居るライバルの記録を抜いて世界一となった。その高さは4階建てのマンションや、鎌倉大仏の座高に相当するほどで、いまだにこの記録は破られていない。

また青森県の酸ヶ湯(すかゆ)は、混浴の大浴場で有名な標高925メートルの高地だが、ここは世界でもっとも降雪量の多い場所の一つとされている。つまり、積もった雪の深さではなく、空から降ってきた雪の総量が多いのである。気象史学者のクリストファー・バート氏によれば、酸ヶ湯に降る雪の量は年平均17メートルで、世界一だそうである。それなのに積雪の最大記録は5メートル66センチと、伊吹山の半分ほどしかないのは、大雪が降る割には標高が低いために、春夏に気温が上がって雪が解けてしまうからである。

■年間降雪量世界ベスト3は日本の市町村が独占している

このように積雪、降雪共に世界一の日本だが、世界でもっとも雪深い都市もまたわが国にある。アメリカの天気予報提供会社アキュウェザーの2016年の記事によれば、それは人口30万人の青森市で、その年間降雪量は8メートルにも達する。2位が札幌市、3位が富山市で、アメリカでもっとも雪の多いニューヨーク州シラキュースやカナダのケベックシティですら足元にも及ばない。

このように雪の量で世界を圧倒するわが国は、雪の降る面積でも他を寄せ付けない。積雪が50センチ以上ある日が年に100日以上あって、産業の発展が停滞し、住民の生活水準の向上が阻害されている「豪雪地帯」の面積は、日本の国土全体の半分を占めている。そこには全人口の16%に相当する2000万人がたくましく暮らしている。

■1000台を超える車が立ち往生…雪害が深刻化する理由

豪雪地帯にこれだけの人が住んでいるのだから雪害が絶えないのも無理はないが、近年は豪雪による車の立ち往生のニュースもよく耳にするようになった。しかも1000台以上の車が数日間も八方ふさがりという深刻な事態も少なくない。近年の新聞記事で、振り返ってみよう。

雪の夜に道路に駐車した車の列
写真=iStock.com/Shcherbyna
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Shcherbyna
「立ち往生が解消関越道大雪、発生2日 新潟」
立ち往生は16日午後発生。車内の人には飲料水やガソリンなどの支給が続けられたが、消防によると、新潟、群馬両県で、体調不良を訴えるなどした男女計5人が病院に搬送された。同社(東日本高速道路)や陸上自衛隊などは約700人態勢で除雪を急いだが、車と車の間に積もった雪を手作業で除いて1台ずつ車を出すしかなく、難航した。関越道上り線では、大型トラックが雪で動けなくなるなどし、16日午後6時ごろ、立ち往生が発生。最大時の17日午後1時時点では、上り線で1750台、下り線で350台の計2100台が巻き込まれた。下り線は18日朝までに解消された。(略)
記者会見した同社の小畠徹社長は「これだけの雪が短時間で降ると予測できなかった。事前に通行止めにするまでに思いが至らなかった」と述べ、判断が適切だったか今後検証するとした。
(2020年12月18日/時事通信)
「福井大雪1000台超立ち往生北陸道で一時陸自災害派遣」
日本海側を中心に降った大雪の影響で、福井県の北陸自動車道の上下線では9日午後以降、一時1000台を超える車の立ち往生が起きた。立ち往生は富山県の東海北陸自動車道でも発生。両県は陸上自衛隊に災害派遣を要請した。(略)
気象庁によると、福井市の9日(24時間)の降雪量は54センチを記録。9日に上下線の複数の場所でスリップ事故が発生し、一部区間が通行止めとなった。付近で渋滞が起き、停車中に路面に雪が降り積もるなどしたため、動けない車が出たという。
10日午前、陸上自衛隊の隊員や中日本高速道路の職員らが、車の周囲の雪をスコップで取り除いたり、食料や燃料などをドライバーに配布したりした。福井県によると、車内にいた4人が体調不良を訴えたという。
(2021年1月11日/読売新聞)

これらの立ち往生に共通することは、通行止めが遅れたこと、さらに記録的な大雪が降ったことである。実は、冬が暖かくなると“ドカ雪”が増える可能性がある。その理由は、雪が降るメカニズムに隠されている。

■なぜ日本海側にばかり大雪が降るのか

冬の間、中国大陸の北部を冷たい空気が覆い、「シベリア高気圧」ができる。これは世界一重い高気圧で、過去に数回1080へクトパスカル台(ロシアほか)の気圧が記録されている。一方で、北海道の東の海上には低気圧ができて、日本を挟んで西高東低の気圧配置となる。風は気圧の高いほうから低いほうに向かって流れるので、間に挟まれた日本の上を西から東に冷たい風が吹き抜ける。風上では乾いていた強烈な寒風も、暖かな日本海の上を吹くことで水蒸気を補給され、日本に着くころには、湿った冷たい風へと変質している。

この風が、日本の南北に走る山脈にぶつかって上昇し、雪雲を作り、日本海側の地域に大雪を降らせるのである。日本海はまるで雪製造マシーンのようで、そこから降ってくる雪は「海水効果雪」と呼ばれる。

冬の衛星画像で見てみると、雲の筋が何列も並んでいることがある。さらに目を凝らしてじっと見ると、その中にひと際太い雲の帯が発達していることがある。これを「JPCZ」と呼ぶ。日本名は「日本海寒帯気団収束帯」だが長いので、英語名の頭文字を拾ってこう呼ばれることが多い。

どうやってできるのか。まずシベリアから吹く西の風が北朝鮮と中国国境の白頭山(ペクトゥサン)にぶつかって枝分かれし、分流した空気の流れが日本海上で合流して太い雲の帯ができる。このJPCZがかかる場所では特に大雪が降って、1日で1メートルも積もることすら珍しくない。先述した1927年の滋賀県伊吹山では、1日に2メートル超えのドカ雪を降らせたものだから、世界がたまげる積雪記録となった。

■太平洋側では年間降雪量が減り続けている

では本題に戻ろう。なぜ温暖化でドカ雪が増えるのだろうか。そもそも暖かくなれば、雪が減るはずであり、実際、東京の年間降雪量は、30年前の平年値に比べて3割減、鹿児島は5割減、大阪にいたっては7割減となっている。

しかし、今後は日本海側で雪がどさっと増えていくかもしれないという。一体どういうことなのか。それは日本海の海水温の上昇で、大陸からやってくる風にたくさんの水蒸気が補給され、しかもたとえ気温が上がったとしても、北海道や北陸の山地などでは氷点下のままだからドカ雪が増えるだろうと予想されているのだ。実は同じような理由から、カナダとアメリカの国境にある五大湖周辺で降る雪もまた増えていくかもしれないそうである。

■積雪が30センチを超えると屋根からの転落事故が急増する

世界有数の豪雪地帯である日本では、むろん雪による死亡事故も多く、年によっては100人以上が命を落とすことがある。犠牲者の7割は65歳以上の高齢者で、死亡事故の主な原因は、落雪や雪下ろしによる転落、さらに除雪の際の水分補給不足に伴う心筋梗塞や脳梗塞などだそうである。

積雪が30センチを超えると、屋根からの転落事故が急増するという研究もあるから、リスクを考えれば雪下ろしはしない方がいいのだろうが、そうはいかない大事な理由がある。それは屋根の雪が想像以上に重いことである。ちなみにアメリカでは雪下ろしや除雪作業で年間100人が死亡するという統計があるのだが、雪などの悪天候による自動車事故の死者数はそれを遥かに上回る800人である。

■温暖化により、深い雪に埋もれたときの生存率が下がる

雪はどれほど重いのだろうか。湿った雪は粉雪よりも6倍以上重いという。同じ1立方メートル当たりの重さで比べると、たくさん空気を含んだ粉雪は50キロ程度なのに対し、多量の水を含んだ湿り雪は300キロにも達する。

森さやか『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)
森さやか『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)

だから、もし100平米の屋根の上に均一に雪が2メートル降り積もったとしたら、重さは60トンに及ぶことになる。60トンはどれほど重いかと言えば、元横綱・白鵬だと約390人分、恐竜ティラノサウルスだと約10頭分に相当する。屋根からの転落と同様に恐ろしいのが落雪で、それによる死者数は、雪の死亡事故全体の13%にも上るという。

ある統計では、1〜2メートルの雪に埋没した場合、25%の人が即死するというが、温暖化によって生存率がさらに低くなるかもしれないそうである。というのも、気温が上がって湿り雪になれば重くなるし、また雪の上に頻繁に雨が降ることで、雪の層が重くなるから、閉じ込められたら逃げづらくなるのである。

だから重かろうが、危険だろうが、誰かが雪かきをしなければならない。悲しき雪国の宿命である。そんな雪かきに文章を綴る苦労を重ね合わせた村上春樹氏は、書くことを「文化的雪かき」と表現した。物書きには人知れない苦悩と、社会的使命感があるのだろう。そういえば、国土の大半が雪に覆われたアイスランドは、10人に1人が生涯に1冊本を出版するそうで、世界でもっとも出版率が高いと聞いた。雪国は裕福なだけでなく、文化的にも豊かな国なのかもしれない。

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森 さやか(もり・さやか)
NHKWORLD-JAPAN気象アンカー
南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職、英語で世界の天気を伝えるフリーの気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共著/共立出版)。最新刊に月刊誌『世界』での連載をまとめた『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)。「Yahoo!ニュース個人」では最新の天気記事を執筆。

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(NHKWORLD-JAPAN気象アンカー 森 さやか)

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