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LGBTの容認は、人間の堕落である…プーチン大統領が西側の反発を承知でそこまで主張するワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月8日 9時15分

赤の広場で、ウクライナ4州の併合を記念して開かれた集会で演説したウラジーミル・プーチン大統領=2022年09月30日、ロシア・モスクワ - 写真=AFP/時事通信フォト

■「聖書には、神様が男と女を作ったと書いてある」

【池上彰】安倍元総理の銃撃事件を機に、容疑者の動機であるとされている旧統一教会(現在の世界平和統一家庭連合)の問題がクローズアップされています。旧統一教会は「家庭」を重んじるという教義からか、反LGBTを掲げ、地方を含む政界に政策や教育でLGBTの問題を容認しないよう働きかけています。増田さんが取材してきた欧州でも、人々の反リベラル、反LGBTという傾向が強まっているそうですね。

【増田ユリヤ】取材に行くと、「同性愛や、トランスジェンダーなどは容認したくない」という人々の思いに接することがあります。8月に行ったルーマニア取材では、トランシルバニア地方のブラショフという街を訪れました。この町は元々ザクセン人、つまりドイツ人が作った町で、ドイツ人のほか、ルーマニア人、ハンガリー人が住んでいるという民族的に入り組んだ土地なのですが、この地で民族問題に真剣に取り組んでいる、キリスト教・カルヴァン派の牧師さんに話をうかがったのです。

相手がまず「あなたはどんな取材をしてきたのか」と尋ねて来たので、私が「民族問題はもちろん、世界の右傾化や選挙、多様性など、日本ではなかなか取り上げられないテーマについて取材してきました」、と答えると、その牧師さんが滔々と、「聖書には、神様が男と女を作ったと書いてあるんだ」と話し始めて止まらなくなりました。

■頭では理解できるけれど、気持ちが追い付かない

【池上】「聖書に書いてあることと違うから、性の多様性は認めない」と?

【増田】いえ、そういう言い方はせず、あくまでも「聖書にはそう書いてある」「世の中とはそういうものなんだ」と。表立って「LGBT容認に反対する」とは決して言いませんが、「世の中にはいろいろな考えや立場があるだろうけれど、自分は自分の考えに基づいてこれからもやっていく」と主張するんです。延々と1時間半、その話をされたんですね。そこで私は、「そうか、自分が信じてきた世界、つまりこの世に存在するのは、男性と女性だけなのだという前提は、人によってはここまで強固なものなのだな」と感じました。

日本では、内心はどうあれ多くの人が「多様性を認めなければならない」と言われれば賛成しますよね。学校の制服や水着なども考慮される動きが強まっていますし、一部には反対する人がいても、社会としては多様性を認める方向に、既に舵を切っています。

しかし宗教的規範が習俗や思想、思考に根付いている人たちにとっては、もともと持っていた常識の基盤が信仰と結びついているだけに、それを覆されることをよしとしない。もちろん世界的に、LGBTを認めるべきだという流れが強まっていることは彼らも知っています。現に同性愛者や、心と体の性別が異なる人たちが存在することも知っている。「でも自分としては認められない」と強く主張して、曲げないんです。取材したのは牧師さんでしたから余計にその思いは強いでしょうが、そうでない人々の中にも、「頭では理解できなくもないけれど、気持ちが追い付かない」と率直な感想を漏らす人たちがいます。

■「嫌なものは嫌だ」と言いたがる人たち

【池上】あえて差別するわけではないけれど、心から理解し、容認できるかと迫られると疑問符がついてしまうのでしょうか。一方で、アメリカのトランプ大統領やその支持者の一部のように、露悪的に反LGBTを掲げて見せる人たちもいます。

【増田】確かに、トランプ政権の前後から、LGBTの問題をどう考えるか、が大きな政治イシューとなりました。世界では人権や多様性はどうとらえられているのかを取材すべく、私もアメリカにプライドパレード(性的少数者の文化や権利を主張するパレード)を取材しに行きました。私自身には差別意識はないつもりですが、それでも見せつけるように肌を露出した人たちがキスしたり、絡み合ったりしているのを目の当たりにすると、日米の文化の違いはあれ、かなりの衝撃はありました。

LGBTQ コミュニティのシンボル
写真=iStock.com/BalkansCat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BalkansCat

あからさまな差別はせずとも、内心、「何も人前で見せなくてもいいじゃないか」と思う人がいてもおかしくはありませんし、そう感じる人の中から、あえて強く「嫌なものは嫌だ」と言いたがる人たちも出てくるでしょう。反発をおぼえて、差別的な言動を繰り返す人たちが出てくるという悪循環も起きています。

■中絶反対の目的は「女性の権利を奪う」ではないが…

【池上】アメリカの共和党の支持者の中には、聖書の教えに反するという理由から中絶反対の声を上げる人たちも多いですね。

【増田】中絶反対を訴える団体の人たちも取材しましたが、話していると、普段は皆さん本当に「素朴ないい人」です。アメリカの地方に住んで、毎週教会に通っているというような人たち。それゆえに、中絶反対をすることによって「女性の権利を奪う」ことを目的としているわけではありませんし、そんなつもりも彼ら・彼女らにはない。普段の市民生活を送っているうえでは、当然ですが全く何の問題もない人々です。

しかし中絶の問題になると、信仰も絡んでくるので強固な反対姿勢を崩しません。中絶に関する相談を受け付ける公的機関の前で、親指大の胎児の人形と出産に関する資料を配って「あなたはお腹の中にいる、こんな小さい赤ちゃんを殺そうとしているんですよ」と、妊娠に悩む女性に中絶をやめ、出産するように働きかけるんです。どんな形の望まない妊娠であっても、出産してくれさえすれば、自分たちが責任もって引き受けるから、と。

■「LGBTの容認は堕落」という考え方が出てくるワケ

【池上】プライドパレード批判と言えば、ロシア正教会のキリル総主教がロシア軍によるウクライナ侵攻を祝福した時の演説で、「ウクライナはプライドパレードを容認するような世界に行こうとしているのだ」と主張していました。

ウクライナがNATOやEUに近づくことは、聖書の教えに反してLGBTを容認するような「堕落」した国になることを意味する。だからロシアはそれを食い止めるためにウクライナに侵攻するというロジックです。増田さんが取材した牧師はプロテスタントのカルヴァン派、ロシアはロシア正教会ですが、そうした違いはあっても、一致するところはある。

【増田】ルーマニアは、ロシア正教会と同じ東方正教会の流れをくむルーマニア正教会が多いところです。しかし、19世紀から20世紀にかけて、オーストリア=ハンガリー帝国の一部だった地域もあり、そこにはカトリックの信者がいます。取材で立ち寄った町のカトリック教会では、日曜夕方の礼拝時、教会に入りきれない人たちが外にはみ出すほど、信者の方たちが集まってきていました。

宗派を問わず、とても保守的で、昔ながらの価値観や宗教的規範を、今も自分のものとして信じている人たちにとって、LGBT的な考え方というのは自分たちの認識を根底から覆しかねない脅威のように感じられているのです。自分たちが正しいと思ってきたことが、そうではないと思い知らされることに直面したくないのでしょう。

もちろん、それは差別をしていい理由にはなりませんし、LGBTや中絶の当事者からすれば、反対派の抗議に恐怖を覚えることもあるでしょう。しかしそれでも、保守的な人たちの抱く「変化に対する恐怖心」も理解する必要があるのではないでしょうか。

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池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。計9大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』など著書多数。

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増田 ユリヤ(ますだ・ゆりや)
ジャーナリスト
神奈川県生まれ。國學院大學卒業。27年にわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務めた。日本テレビ「世界一受けたい授業」に歴史や地理の先生として出演のほか、現在コメンテーターとしてテレビ朝日系列「大下容子ワイド!スクランブル」などで活躍。日本と世界のさまざまな問題の現場を幅広く取材・執筆している。著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『教育立国フィンランド流 教師の育て方』(岩波書店)、『揺れる移民大国フランス』(ポプラ新書)など。

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(ジャーナリスト 池上 彰、ジャーナリスト 増田 ユリヤ 構成=梶原麻衣子)

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