旧統一教会と政治の「癒着」はどこが問題なのか…創価学会と公明党の関係から「政教分離」を解説する
プレジデントオンライン / 2022年10月9日 9時15分
■なぜ日本の政治家は「宗教団体」に頼るのか
【池上彰】旧統一教会(現在の世界平和統一家庭連合)に注目が集まり、信者への多額の献金やいわゆる霊感商法が問題となっているだけでなく、政治とのかかわりに疑問の声が上がっています。特に選挙時に教団や教団関係者がボランティアスタッフを派遣するなどの協力関係があったことがクローズアップされ、その実態が報じられています。
【増田ユリヤ】私は海外の選挙事情を各国で取材しますが、学生を含め多くの人が自発的に選挙スタッフに加わっていて、「人手集めで苦労している」という話はあまり聞いたことがありません。選挙運動自体も日本とは違ってかなり自由に行われており、たとえば交差点の角に旗を立てたテーブルを置き、候補者と地域の有権者がいろいろと話したり、グッズを配ってアピールしたりというのが選挙の風景です。日曜日に公園に集まって、都市の中心部までデモ行進を行うこともありますが、日本のように選挙カーで名前を連呼するような騒がしいものではありません。
■共産党や創価学会を恐れて、戸別訪問は禁止になった
【池上】日本の選挙運動は候補者による住宅への戸別訪問が禁止されたために、仕方なく自分の名前を選挙カーで連呼して覚えてもらうしかなくなったんです。戸別訪問が禁止されているのは、それぞれの屋内で金銭のやり取りによる票の買収が行われても確認できないことが理由でした。また、共産党や創価学会など、熱心に選挙活動をしてくれる組織を持つ政党が人海戦術で戸別訪問を行えば、選挙に勝ってしまうのではないか、という自民党の危惧もあったようです。
【増田】戸別訪問が禁止されたとしても、やはり選挙には人手が必要ですよね。
【池上】例えば選挙期間中に配るビラには、選挙管理委員会が発行している「頒布シール」を手作業で貼らなければなりません。貼っていないビラを配布すれば、選挙違反になります。何千枚ものシールを貼る人手をボランティアで集めるのは、そう簡単ではありません。
【増田】一般市民のボランティアが集まらないとなれば、候補者にとってはまとまった人数の人手を派遣してくれる組織との付き合いが選挙の趨勢を左右しかねない、ということになってしまいます。
■「旧統一教会と政教分離」でおさえるべき憲法条項
【増田】また、戸別訪問の禁止だけでなく、日本の悪しき選挙習慣はほかにもかなりありそうです。例えば、選挙期間前後には、候補予定者が「本人」というタスキをかけて、駅前や大通りで辻立ちをしています。事前運動をしてはいけないという公職選挙法が理由ですが、あのタスキを見ると滑稽だなと思ってしまって……(笑)。
【池上】公職選挙法はかなり複雑ですし、電子メールやウェブサイトを使ったインターネット上の選挙活動についても、認められたのは2013年で、「ネット選挙解禁」からまだ10年経っていません。
【増田】旧統一教会の問題は、政教分離という点ではどう考えるべきなのでしょうか。
【池上】政教分離については、憲法第20条、89条で定められています。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
つまり、政教分離とは、特定宗教団体に対し、政治が弾圧や抑圧を行うことや、不況のための公金支出、あるいはどこかの宗教団体が政権を取って、自分たちの宗教を国教に指定したり、国民に信じるように強要したりすることを禁じています。
■「創価学会と公明党」が問題にならない理由
一方で、宗教団体やその信者、教徒が政治活動を行うことは自由です。例えば現在、連立与党に入っている公明党は、創価学会という宗教団体が作った政党で、支持者も信者が多く、選挙前には組織的に活動してもいます。しかしそうした活動を行い、政治に参加すること自体は政教分離に反しません。ただし、仮に公明党が、創価学会にだけ有利なはからいをしたり、ライバルの宗教団体を抑圧したりするようなことがあれば、これは政教分離に反します。
創価学会は以前、国立戒壇を作ること、つまり日本が国家として富士山の大石寺の前に本堂を作り、日蓮宗を国教として定めることを目標としていました。そのために信者から多額の献金を集めることが必要だったので、かなり激しい集金活動を行ったのです。
しかし公明党が結成された時に、政党の母体が国教を定める運動をしていてはまずいのではないか、政教分離に反するのではないか、と指摘されたことで、創価学会は国立戒壇を断念しました。この国立戒壇の断念を許容できなかった人たちが作ったのが顕正会という宗教団体です。そのため、創価学会と顕正会は同じ日蓮宗系の宗教団体ですが(ただし双方とも日蓮正宗からは破門)、激しく対立しています。
■「ボランティア人員の派遣」はモラルとして許されるのか
【増田】旧統一教会は政治に接近して、教義を国教にしようとか、自分たちだけを他の宗教よりも優遇してもらいたい、と考えていたのかどうか。
現在のところ、政教分離の観点から違反を問える事例は出てきていません。信者や教団には信教の自由が憲法で保障されていますし、政治活動の自由もあります。旧統一教会の信者が政治活動を行うこと自体は、憲法の範囲内である限り、何の問題もありません。
一方で残るのはモラルの問題で、霊感商法や献金で消費者被害を出している団体の支援を国民や有権者の代表である議員が受けるのは、たとえボランティア人員の派遣だったとしても、モラルとしていかがなものか、という点が問われているのです。
![旧統一教会](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/b/1200wm/img_3b6d44057b2aff36c0da69294bc2b72d1154789.jpg)
■一部の人を不幸にさせたことは間違いない
【池上】本来、国会議員は国民の代表として、国民全体の幸福を考えなければなりません。しかし旧統一教会は、過去には霊感商法について民事裁判で負けるなど、一部の人を不幸にさせたことは間違いない。そうした団体から支援を受けていていいのか、という点が問われています。
【増田】国民の政治参加という点からも、この問題は問われますね。安倍元総理など自民党の一部の政治家が統一教会票を取りまとめたという報道もありますが、市民が政治に参加し、選挙の手伝いはもちろん、投票に行けば、相対的に組織の力は小さくなります。
【池上】そういうことですね。「自分にとっての理想的な政治を実現してほしい。だから自分はこの政治家を応援し、選挙を手伝い、投票する」と言う人が増えれば、モラルが問われる団体に支援してもらう必要はなくなります。政教分離や政治家側の姿勢だけでなく、国民の政治参加意識も問われています。
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ジャーナリスト
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。計9大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』など著書多数。
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ジャーナリスト
神奈川県生まれ。國學院大學卒業。27年にわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務めた。日本テレビ「世界一受けたい授業」に歴史や地理の先生として出演のほか、現在コメンテーターとしてテレビ朝日系列「大下容子ワイド!スクランブル」などで活躍。日本と世界のさまざまな問題の現場を幅広く取材・執筆している。著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『教育立国フィンランド流 教師の育て方』(岩波書店)、『揺れる移民大国フランス』(ポプラ新書)など。
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(ジャーナリスト 池上 彰、ジャーナリスト 増田 ユリヤ 構成=梶原麻衣子)
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