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生ビールよりも「瓶ビール」…中国ライターが教える「ガチ中華」を最高に美味しく食べる"3つのコツ"

プレジデントオンライン / 2022年10月6日 11時15分

西川口で食べた東北(旧満洲)料理。こちらは見た目ほどの味ではなかったが…… - 筆者撮影

■日本でも本場の味が楽しめる「ガチ中華」

近ごろ、世間では「ガチ中華」ブームである。ガチ中華とはすなわち、平成時代以降に来日したニューカマーの在日中国人が調理している、過度に日本人向けのアレンジを加えず中国本土に近い味を提供している中華料理店のことだ。

この名称はおそらく、従来の日本社会で馴染み深かった、醤油ラーメンや焼き餃子や天津飯などを出す日本風の中華料理店「町中華」をもじったものだろう。

余談ながら、町中華とガチ中華の中間的存在としては、地方の国道沿いの潰れたコンビニなどに居抜きで出店している謎の中華っぽい食堂「パチ中華」がある(従業員は中国東北地方の人なのに「台湾料理店」を標榜し、安い油ギトギトの青椒肉絲ドンブリや自称台湾ラーメンなどを出す)。ただ、話が逸れるのでこちらはさておこう。

ガチ中華は、首都圏では特に池袋・高田馬場・新大久保・上野・小岩・西川口(埼玉県)あたりに多いものの、上記の地域に限らず幅広く見られる。個々の店舗について詳しく知りたい場合は、ガイドブックの『東京ディープチャイナ』(産学社)や、Twitterのガチ中華開拓系インフルエンサー(阿生氏などが有名だ)の情報を参考にしてほしい。

■ブームにはなったが十分に堪能できていない客も

とはいえ、個人的には近年のガチ中華ブームにちょっと微妙な気持ちもある。自分がこれまで当たり前のように食べていたものがマスコミに特集され、日常的に出入りしていた場所に、好事家的な一般の日本人が大勢やってくるようになったのだ。

もちろん、大好きな食べ物に新たなファンが増えるのは喜ばしい部分もある。ただ、どうしても心がザワつくのは、店内で目にする彼らの注文の仕方が「なっていない」ことだ。いや、食通ぶってマウンティングしたいわけでは決してないのだが、「その注文の仕方だと十分に堪能できないのに!」と、隣のテーブルを眺めて勝手にハラハラしてしまい、精神衛生上よくないのである。

ガチ中華は「麻辣」のみにあらず。こういうおとなしい煮物も美味しい。
筆者撮影
ガチ中華は「麻辣」のみにあらず。こういうおとなしい煮物も美味しい。 - 筆者撮影

そこで今回は、中国ルポライターの私が自分の経験をもとに、日本国内でガチ中華の美味しさをフルに味わう方法を紹介していこうと思う。

■食事は美味しいのに生ビールがまずい店が多いワケ

まずはドリンクについて書きたい。以下に気をつけると、ガチ中華をより楽しむことができる。

1.初見の店では生ビールよりも瓶ビール
2.初見の店ではハイボールやサワー、カクテルは避ける
3.飲み物の追加は瓶ビールのみか、そこから中国酒にリレーするのが無難
4.赤ワイン以外の他文化圏の酒は避ける

本来、中国の伝統的な食文化は、中医(zhōng yī:東洋医学)的な観点から冷たい飲み物を好まない。もちろん、現代の中国人は冷たいコーラもビールも飲むのだが、本質的に「冷たいものはキライ」という思想で食文化が形作られていることは重要である。

ゆえに中国人の店では、私たち日本人の感覚から見ると「冷たい飲み物へのこだわり」が薄い傾向がある。たとえば、食事は美味しいのに生ビールがまずい店が意外と多いのだ。ビールジョッキやサーバーの洗浄があまいせいで、ジョッキの内側に細かい気泡がついていたり、炭酸が弱く酸っぱいビールが出てきたりする確率もけっこう高い。

同じ理由から、ハイボールやカシスオレンジが「地雷化」する可能性も一般の日本人の店舗より高い。1杯ごとに濃度が安定しなかったり、ひどい場合は食洗機から出したばかりの温かいジョッキにハイボールを注いでくることもある。

脂っこいがお酒は進む。いくらでも進む。
筆者撮影
脂っこいがお酒は進む。いくらでも進む。 - 筆者撮影

ちなみにガチ中華店には、「おひや」を頼むと角ハイボールやビールのジョッキに入れて持ってくる店もけっこう多い。これも、店舗側が日本の飲食のテクストをしっかり理解していないことに加えて、そもそも冷たい飲み物に対するこだわりが薄いことが理由のひとつと考えていいだろう。

■意外とガチ中華と相性がいい赤ワイン

もちろん、なかには最適な状態の生ビールを提供する店や、美味しいハイボールを出すガチ中華店もちゃんと存在する。私見では「エクストラコールド」を置いている店は、ビール会社の営業さんがちゃんとメンテナンスしているので、まともな生ビールを出す確率が高い。また、そうした店は「冷たい飲み物」に対する目配りがあるので、ハイボールも美味しいことが多い。

だが、「エクストラコールド」を置いていない店の場合、他の客のビールジョッキを慎重に観察しないと、冷たい飲み物をちゃんと出せる店かの見極めが難しい。初訪問の店舗で頼む最初の1杯は、瓶ビールを頼んでおくのが最も無難な方法である。

追加のアルコールも、あらゆる店で失敗しない方法は瓶ビールを頼み続けることだ。中国酒もいいが、一般的な日本人が行きがちなガチ中華店の多くは東北料理か四川料理なので、長江下流域の酒である紹興酒との相性はよくない。ガチ中華の注文を成功させるコツは、厨師(料理人)や店舗と「文化圏」が近いメニューを選択し続けることにある(後述)。中国酒の選択に悩んだときは店員に聞こう。

日本酒や芋焼酎の注文はおすすめしない。文化的な距離感の問題から、そもそも店舗側がこれらの酒に愛着を持っていないため、ろくな品揃えをしていないことも多いのだ。どうしてもこれらに近いものを飲みたければ、(特に東北料理の店なら)マッコリやジンロなどの韓国酒を選ぶといい。

御徒町にある、北京の下町酒場の料理を赤ワインでいただけるガチ中華店。大変によろしい。
筆者撮影
御徒町にある、北京の下町酒場の料理を赤ワインでいただけるガチ中華店。大変によろしい。 - 筆者撮影

ただし、「文化圏」がまったく違うのにオススメできるわずかな例外もある。それは、ちゃんとした赤ワインだ。アルコールの品揃えがまともな店舗に限った話だが、一部の赤ワインはガチ中華と非常に相性がいいので試してみてほしい。

■東北料理店で麻婆豆腐を注文するのはNG

次に料理を注文するときのコツである。

1.店舗や厨師の文化圏から外れた料理は注文しない
2.店舗や厨師のヤル気がない時間・状況では入店しない

中華料理を考えるうえで「文化圏」はなによりも重要である。たとえば、東北料理の店で麻婆豆腐(=四川料理)や酢豚(=広東料理)、四川料理の店で小籠包(=上海など江南の料理)……などは禁じ手だ。もちろん、自分が食べたければ別に頼んでもいいのだが、本場の味を食べることが目的なら、こういう注文はオススメしない。

新疆の回族(漢語を話しイスラム教を信仰する少数民族。ウイグル族とは異なる)の料理。都内ではこんなガチ中華も食べられるのだ。
筆者撮影
新疆の回族(漢語を話しイスラム教を信仰する少数民族。ウイグル族とは異なる)の料理。都内ではこんなガチ中華も食べられるのだ。 - 筆者撮影

理由は簡単だ。中国は、その面積がヨーロッパ全土にほぼ匹敵する広大な世界だからである。ゆえに「東北料理の店で麻婆豆腐」や「四川料理の店で小籠包」は、地理的な感覚から表現すれば、ウクライナ料理店でパエリア(スペイン料理)を作ってもらうとか、フランス料理店でドネルケバブ(トルコ料理)を作ってもらうとかに近い。

もちろんメニューに書いてある以上、作ってはくれる。だが、「ウクライナ料理店のパエリア」に真の本物の味を期待するのは無茶というものだろう。作る人もテンションが上がらないに違いない。

注文の際は、店員に厨師がどこの地方の人か尋ね、そのうえで地元のおすすめ料理を尋ねていくと、あまり外れないものを食べられる。店員とちゃんとコミュニケーションを取って仲良くするのが、おいしい料理にありつくコツだ。

■名店でも時間を間違えるとまずい料理が出てくることも

上記とも関連するが、訪問する時間や状況にも注意が必要である。

大阪市西成区、飛田新地に向かう商店街のなかにある福清料理店の海鮮はるさめ。見た目は無骨だが、出汁がきいていて大変美味しい。福清料理は日本ではマイナーだが、西成区の中国人は福建省北部の福清市出身者が多いのだ。
筆者撮影
大阪市西成区、飛田新地に向かう商店街のなかにある福清料理店の海鮮はるさめ。見た目は無骨だが、出汁がきいていて大変美味しい。福清料理は日本ではマイナーだが、西成区の中国人は福建省北部の福清市出身者が多いのだ。 - 筆者撮影

日本人の客商売の場合、たとえ早朝だろうが深夜だろうが、店が繁盛していようが閑古鳥が鳴いていようが、店舗が営業している限りは顧客に対して常に同水準のサービスの提供を求める価値観が根強い。だが、中国人は必ずしもそうではない。

たとえ名店とされるガチ中華店でも、厨師が休憩している午前10時半や午後4~5時に行くとか、台風が直撃してお客が来ない日に行くとかすると、ヤル気がまったく感じられない料理が出てくることがある。さらにひどい場合、店員のおばちゃんが「厨師がいないので」と、すごく適当に作った食べものを出してくる場合すらあり得る(それなら店を閉めればいいのにと思うが、営業を続けているのが謎である)。

いっぽう、営業終了間際の場合、厨師はそれまでの仕事でエンジンがかかっているので美味しい料理を作ってくれるが、ご飯は冷や飯が出てきたりする。厨師と店員がベストのコンディションで働いてくれる時間帯や状況をこちらで見極めて訪問するのが、ガチ中華店を攻略するコツだ(つまり、普通の日の昼食どきや夕食どきに行けということである)。

他にも、マスコミに取り上げられて日本人客の比率が上がったり、儲かってチェーン展開をおこなったり、経営者や厨師が交代したりすると、かつては名店だったはずの店の味が一気に落ちることがある。注意が必要だ。

■「水もビールもまずいけど料理はうまい」ことも

いっぽう、ダメな店を判断する基準が、日本人の店舗を対象にした場合と異なることも指摘しておきたい。

日本人の店舗の場合、良い店もダメな店も、その要素が首尾一貫している。たとえばダメな店であれば、立地が悪くて内装や食器がダサく、しかも客の人数が少ないのにオーダーがまともに回っておらず、謎の薄笑いを浮かべた店長は仕事ができず、もちろん水も酒も料理もすべてがまずい──。と、たいていは店の一切がダメである。そのことに論理的な整合性すら感じられる。

なかには「パッと見は汚いのにうまい店」くらいのギャップがある場合もあるが、それでも実はトイレが非常にきれいでオーダーも迅速に通る、水が美味しいなど、やはりその店なりの首尾一貫性がある。

いっぽう、ガチ中華店に首尾一貫性はない。全体的に汚くて店舗の内装センスも壊滅的で、しかも水も生ビールもまずいのに、肝心の料理だけはすごく美味しい……、みたいな信じられない事例があり得るのだ。

首尾一貫性がない良店の一例。地下1階のボロボロの居酒屋を居抜き、清潔感ゼロの店内、100均の皿……と、日本人感覚では「地雷」感しかないが、広州の下町の食堂メニューをかなり高い再現度で提供していた巣鴨のガチ中華店。残念ながら現在は閉店。
筆者撮影
首尾一貫性がない良店の一例。地下1階のボロボロの居酒屋を居抜き、清潔感ゼロの店内、100均の皿……と、日本人感覚では「地雷」感しかないが、広州の下町の食堂メニューをかなり高い再現度で提供していた巣鴨のガチ中華店。残念ながら現在は閉店。 - 筆者撮影

もっとも、こうした首尾一貫性の欠如は、ベトナムやインドネシアなど他の「異国メシ」食堂についても似たことがいえる。むしろ、ものごとが首尾一貫している日本の文化のほうが、異国の視点から見ると特殊なのかもしれない。

■ガチ中華は心で食べるもの

最後に、ガチ中華を最も美味しく食べる「鉄板」の方法を紹介しておこう。それは、これから行く店と同じ地方の出身の、酒飲みのおじさん中国人(元中国人)といっしょに行くことだ。

自分の経験から語るなら、上海料理店に周来友さん(浙江省紹興市出身)と行く、四川料理店に石平さん(四川省成都市出身)と行く……などの組み合わせが黄金パターンである。

中国野菜「米莧」(通称「みし」)のにんにくと塩炒め。上海では庶民的な料理だが、さて、現地に住んだことがない日本人だけで来店してチョイスできますか……?
筆者撮影
中国野菜「米莧」(通称「みし」)のにんにくと塩炒め。上海では庶民的な料理だが、さて、現地に住んだことがない日本人だけで来店してチョイスできますか……? - 筆者撮影

これらのおじさんたちは、もはや「店の客」という受動的な立場ではなく、むしろ場を支配する存在だ。なので、注文をする際も自分が何を食べたいかなどは考えることなく、おじさんの選択にすべてをゆだねたほうがいい。

すると、100点満点評価でなぜか120点くらいのものが食べられるうえ、店員から「わかっている人たち」としてオマケの料理までご馳走してもらえたりする。中華料理はこういうハートフルな環境で食べるのがいちばん美味しい。

さておき、本記事の主張を一言でまとめる。ガチ中華を本気で美味しく食べるコツは、中国文化圏を理解すること、日本の常識で判断しないこと、楽しい相手と食べることの三点である。まずは飲み物のチョイスから、ぜひ実践してみてほしい。

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安田 峰俊(やすだ・みねとし)
ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員
1982年生まれ、滋賀県出身。広島大学大学院文学研究科博士前期課程修了。著書『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』が第5回城山三郎賞と第50回大宅壮一ノンフィクション賞、『「低度」外国人材』(KADOKAWA)が第5回及川眠子賞をそれぞれ受賞。他の著作に『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(中公新書ラクレ)、『八九六四 完全版』(角川新書)、『みんなのユニバーサル文章術』(星海社新書)など。

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(ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員 安田 峰俊)

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