1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「0歳からの"おむつなし育児"に疑問」現役小児科医がトイレトレーニングを焦らないでと説くワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月11日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Capuski

0歳からおむつの外で排泄させるという「おむつなし育児」が良いという説がある。しかし、小児科医の森戸やすみさんは「おむつを外して排泄させたほうがいいという根拠が見当たらない」という――。

■なぜおむつをしないほうがいいのか

「おむつなし育児」を知っていますか? 「おむつなし育児」というのは、「なるべくおむつの外で自然に排泄させる機会をつくる育児」のことだそうです。

「おむつなし育児研究所」のサイトによると、おむつを外して垂れ流しにするのではなく、おむつを早く外すためのトレーニングでもなく、「布おむつ、パンツ、そして、紙おむつを上手に使いながら、なるべくおむつの外で排泄する機会を増やしてあげる」とのこと。あまり動かない生後2~5カ月が「はじめ時」らしいのですが、生まれた日からでも、いつからでもいいそうです。専用おまるを使わなくても、トイレや洗面器、開いたおむつなどの上で排泄させればいいとしています。

このおむつなし育児を実践する保育所があったり、おむつなし育児についての書籍が何冊も出されていたり、おむつなし育児研究所では「おむつなし育児アドバイザー養成講座」という民間資格が設けられていたり、インターネットで検索すると「子供のために」と一生懸命に取り組んでいる親御さんを見かけることがあります。

私個人はすごく大変そうに思いますが、もちろんご本人が選んでやるぶんには問題ありません。ただ、どうしておむつをしないほうがいいとされているのか小児科医として非常に疑問に思いました。

■一度にたくさん排泄できることはない

まず、真っ先に気になったのは、「おむつなし育児」の赤ちゃんのメリットとして「一度にたくさん排泄できるので、便秘や頻尿の改善のきっかけになる」と書かれていたことです。子供の便秘の原因はおむつではありませんし、早めに治療する必要があります。ですから、お子さんが便秘がちな場合は、おむつなしにするのではなく、小児科を受診しましょう。綿棒で肛門をつついて便を出してあげる綿棒浣腸の方法、食事や生活習慣の注意点などを小児科医がお伝えしますし、浣腸や内服薬による治療もできます。

また、おむつを使わないようにすれば、子供が一度にたくさん排泄するようになり、頻尿改善のきっかけになるということもありません。だいたい年齢や月齢が小さい子供の場合、頻回に薄い尿が出るのは普通のこと。ただ、普段に比べてお子さんが頻尿で、しかも排尿時に痛みがあったり、発熱していたりする場合は尿路感染症かもしれません。やはり小児科を受診したほうがいいでしょう。

では、なぜ子供は大人に比べて頻尿なのかについて、尿の出る仕組みから詳しく説明したいと思います。ぜひこの機会に知っておいてくださいね。

■知っておきたい「尿が出る仕組み」

私たちの尿は、背中側にある左右2つの腎臓で作られています。全身をめぐって老廃物や不要なものを多く含んだ血液は、腎臓の大動脈という太い血管から腎動脈へと流れ込み、さらに腎臓の中で枝分かれした細い血管を通り、最終的にはふるいのような役割を持つネフロンと呼ばれる組織で漉(こ)され、きれいになって再び腎静脈から出ていき、全身を循環します。

このネフロンはなんと左右の腎臓にそれぞれ100万個以上ずつもあり、これによって漉されてできるのが「原尿」です。原尿には不要な老廃物と、必要な成分(水分、アミノ酸、糖分、ナトリウムなど)の両方が含まれていて、必要なものだけが血液に再吸収され、残りが尿になります。尿の量は、脳にある下垂体という部分から分泌される抗利尿ホルモン(バゾプレッシン)によって濃縮されることで調節されます。

その後、尿は筋肉でできた尿管を通って、膀胱へ移動してたまります。そうして量がいっぱいになると、神経を通して脳へ排尿が必要だという知らせである「尿意」が伝わり、膀胱括約筋を開いて膀胱壁を収縮させ、膀胱から尿を尿道に流すのです。

トイレトレーニング
写真=iStock.com/romrodinka
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/romrodinka

■トイレトレーニングは2〜4歳が最適

子供が頻繁に排尿する主な理由は、①前述した尿を濃縮する抗利尿ホルモンの分泌が少ないことから薄い尿がたくさんできるため、②尿をためる膀胱が小さいことによって、すぐにいっぱいになって漏れ出るためです。

こうした小さい子供の排尿は「反射的排尿」と呼ばれます。大人やある程度以上の年齢の子供のように膀胱の充満を知覚し、排尿していい場所へ行き、膀胱括約筋を開いて膀胱壁を収縮させて排尿するのではなく、尿ができてある程度たまったら出てしまうということです。排尿回数は、新生児期は1日15〜20回、1歳前後は8〜12回、2〜4歳になると1日8回ほどです。

ただ、2〜4歳になると、膀胱が充満したという知覚が脳に伝達されるようになるので周囲に尿意を知らせたり、誘導されればトイレで排尿できたりします。4〜5歳になると尿意を認識し、自分でトイレに行けるようになる子がほとんどです。

なお、健康な乳幼児46人を調査した結果、日中の尿失禁(おもらし)は、3歳6カ月(中央値)で消失するという論文があります(※1)。昼間の尿失禁が消失する割合は、3歳で52%、4歳で93%、5歳で100%でした。やはり3歳までにトイレトレーニングを始め、1〜2年間のうちに自然とおむつが外れ、遅くとも5歳までにトイレで排尿するようになるというのが妥当ですね。トイレトレーニングも焦る必要はないのです。

※1 Jansson UB, Hanson M, Sillén U, et al. Voiding Pattern and Acquisition of Bladder Control from birth to age 6 years. J Urol. 2005; 174: 289-93.

■「本来の自然な排泄の姿」とは何なのか

このほかにも赤ちゃん側のおむつなし育児のメリットとして「赤ちゃんのキゲンの良い時間が長くなる」「おむつかぶれが改善する」「排泄コントロール能力が自然に育ち、1歳後半〜2歳頃には排泄が自立する事も多い」「おむつを外す時間が増えて、体の動きが活発になる」「いかにも気持ち良さそうに眠る」などとありますが、かなり主観的なものが多く、データや根拠は記されていません。

また、ウェブサイトには「『トイレトレーニングの開始が遅れる(おむつの外での自然な排泄を経験することが遅れる)と、成長してから切迫尿失禁等の排尿コントロールの問題を抱えるリスクが高まる』という論文が複数の泌尿器分野の研究者によって発表され始めています。」と書かれています。ですが、その論文の出典を提示していません。

おむつをつけないのが「本来の自然な排泄の姿」とも書かれていますが、何が人間本来の自然な姿なのかは、難しいですね。平安時代くらいまでの日本の庶民は、大人も開放空間で排泄していたようです。布が貴重だった時代、乳幼児はおむつをせず、不適切なところに漏れたら拭いていたのでしょう。でも、それが日本古来の自然な姿だといわれても、戻りたい人はかなり少ないのではないでしょうか。

おむつ
写真=iStock.com/Liudmila Chernetska
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liudmila Chernetska

■大人のメリットも主観的要素が大きい

一方、おむつなし育児は大人にもメリットがあり、「赤ちゃんの排泄のタイミングがなんとなくわかるようになると、育児に自信がつく」「排泄に気持ちをむけることをきっかけに、赤ちゃんの他の欲求もわかりやすくなる」「ウンチをおむつの外(おまるやトイレ等)でしてくれると、お世話が楽になる」「おむつの使用量が減って、おむつ代が節約できる」「紙おむつゴミを減らせるので、『環境』にも優しい」そうです。

確かにおむつ代とおむつのゴミは減るでしょう。しかし、そのほかはやはり根拠がありません。赤ちゃんの排泄のタイミングがわかったら自信がつく人もいるでしょうが、別にそうでもない人もいるでしょう。前述のように赤ちゃんの排泄は反射的に起こるものなので、外から見てもわからないことがほとんどだからです。

そして排泄に気持ちを向けると、赤ちゃんの他の欲求もわかりやすくなるでしょうか。反対に排泄を注視するあまり、授乳量が足りない、あるいは母乳を飲みすぎて逆流してきて気持ち悪い、ただ抱っこしてほしいだけなど、他の欲求に思い至らなくなるかもしれません。ラクに感じるかどうかも個人の主観です。

■それぞれの根拠を明確にすることが必要

「おむつなし育児研究所」の創設メンバーであり、顧問でもある三砂ちづる氏(津田塾大学教員・作家)は、「昔の女性は月経血をコントロールできていた」という説を提唱したことでも有名です。しかし、多くの産婦人科医が月経血を思い通りに出したり止めたりすることは不可能で、昔の女性が月経血をコントロールできていたという証拠はないと話しています。

おむつなし育児も経血コントロールも、当然のことですが、やりたい人たちがやるぶんには全く問題ありません。冒頭にも書いたとおりです。でも、根拠の明確でないメリットやデメリットを提示したり、おむつを使うとよくないことが起こるというふうにほのめかしたり、ただでさえ子育てで大変な親を不安にさせたり、大変にさせることには断固として反対です。

また、少なくとも「おむつなし育児」には、特に子供の発達や成長にとって良いという証拠もありません。お子さんの発達に合わせて適切な時期にトイレに行けるよう誘導したり、排泄について教えるのはいいことですが、特に焦る必要はないでしょう。紙おむつのような便利な文明の利器を上手に使って、楽しく育児してくださいね。

----------

森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

----------

(小児科専門医 森戸 やすみ)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください