「だれでもラクに痩せられる」を信じてはいけない…違法広告を出す悪質業者が使う3つの手口
プレジデントオンライン / 2022年10月8日 15時15分
■ネット広告はなぜ信用できないのか
われわれ現代人は日々多くのネット情報に触れながら生活している。総務省の情報通信白書(令和4年度版)によると、全世代を通じたインターネットの一日あたり平均利用時間は176.8分と、一日の約3時間をネット閲覧に費やしている。
では、ネット情報をどれだけ信頼しているのか、というと、各メディアの信頼度の調査結果(*1)によると、インターネットの情報が信頼できると考えている人は全体のわずか28.2%にとどまり、テレビの60.3%や新聞の62.8%と比べて半分程度の信頼しか得られていないことが分かる。インターネットは触れる機会が多い一方で、消費者に信頼されるメディアとしては認識されていないことがうかがえる。
ネット広告に関するアンケート(*2)においても、「胡散臭い業種の広告ばかりの印象」「誇張の強い内容」といったネガティブな意見がみられ、多くの課題を抱えている。
本稿では、なぜネット広告は信用できないのか、というテーマの下、筆者の専門分野である健康食品の広告を中心に、「どのような広告が法律上問題となるのか」「なぜ悪質な広告が減らないのか?」といった疑問について取り上げていく。
*1 総務省 「令和3年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」
*2 一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会「2020年インターネット広告に関するユーザー意識調査(定性)」
■違反広告がもっとも多い健康食品
まず、健康食品の広告には悪質なものが多いのか? という疑問には、割と簡単に“Yes”と答えることができる。その理由は、消費者庁が公表している景品表示法の措置命令に関する状況を見れば明らかである。
図表1に、景品表示法における措置命令の件数をまとめたが、平成29年から令和元年度の3年間にわたり、全分野の商品・サービスの広告違反件数(措置命令件数)に対して、約30%が健康食品(保健機能食品を含む)に関するものだ。これは、どの分野よりも多く、健康食品の広告に違反事例が多いことを端的に示す証左である。
なお、景品表示法は、広告における不当表示や不当景品から消費者の利益を保護することを目的とし、商品・サービスの品質、内容、価格等を偽って表示することを規制している。簡単に説明すると、広告や商品パッケージにおいて「実際のものよりもよく見せよう」「実際よりもお得に見せよう」といった表現を取り締まる法規である。
■事業者が無視できない「三種の神器」
健康食品に関する法規制を図表2にまとめた。主に商品パッケージと広告に関与しているが、広告に関する法規としては、医薬品医療機器等法(薬機法、旧薬事法)、景品表示法、健康増進法、特定商取引法、食品表示法がある。
![【図表】健康食品の表示・広告に関する各種法規制](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/9/1200wm/img_a9b54f19a407e9c8fcd0650cc7e49e65251242.jpg)
この中でも重要なのは薬機法、景品表示法、健康増進法であり、健康食品法規の三種の神器と言っても良いほど、事業者にとっては無視できない法規である。この三つの法規は、健康食品の広告規制において互いに重なる部分も多く、景品表示法と健康増進法は相補的に取り締まりできるような枠組みとなっている。
■違反広告が減らない二つの理由
なぜ、広告に関する法規制がいくつもあるにもかかわらず、健康食品の違反広告は減らないのだろうか。この理由について、事業者サイドと監視サイドの二つの視点からそれぞれ追ってみたいと思う。
まず事業者の立場から考察する。現行の法律では、景品表示法や薬機法などが絡んでいると話したが、「健康食品のメリットはどのように伝えるのか?」という疑問が浮かび上がる。
そもそも「健康食品」という名称は一般的に使われているが、法律で定義された名称ではなく、食品のうち、健康に良いものとして販売している製品の通称である。後述する機能性表示食品制度が導入されるまで、日本では健康食品のメリットを伝えたくても、ただの食品である以上、伝えられる内容は多くなかった。
商品を売るために最も重要な「性能(機能性)」をPRできなかったことは、多くの事業者が違反広告を出しやすくする結果につながった。
2015年に保健機能食品に機能性表示食品が追加され、機能性を表示することが広く解禁されたことで、日本の健康食品の枠組み自体が大きく変化した。しかし、いわゆる健康食品も引き続き数多く販売されており、機能性を本来表示できない多くの商品が機能性をうたっているケースも多い(食品と医薬品の区分については、図表3を参照されたい)。
![【図表】食品と医薬品の区分](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/a/1200wm/img_aa3c69f6eef22a2f9d9ec0777904832e287172.jpg)
次に、広告を監視する立場から、健康食品の違反広告が減らない理由を考察すると、商品数が多く、監視が行き届かないことが挙げられる。例えば、楽天市場の健康食品カテゴリーには10万を超える商品が登録されている(2022年9月3日現在)。ネット上にはショッピングモールが他にも多数存在し、企業HPやSNSなどのネット広告を合わせると全て把握するのは困難を極める。
また「限定した時間帯のみ表示される」「PCでは表示されない」「ターゲティングされた消費者のみに表示される」など多種多様な手段で広告が表示されるため、取り締まることが難しいことも挙げられるだろう。この監視サイドの課題は、健康食品に限らずあらゆる分野のネット広告にも当てはまる。
■ネット広告を監視する3つの目
とはいえ、広告を監視するのは、何も行政機関に限ったものではない。各メディアによる広告審査や、消費者による行政機関への通報制度など、一億総監視社会とも言われる現代では、あらゆる目によってネット広告が見張られている(図表4参照)。
![【図表】広告を監視する3つのグループ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/b/1200wm/img_0b69fcfebc10529a5f2f35947a9f2063157067.jpg)
また、冒頭で紹介した「メディアへの信頼度」と「広告の質」はおおむね一致しているようだ。テレビや新聞などの信頼されたメディアでは、広告審査が厳しく、景品表示法や薬機法などに違反した広告は許可されない。一方、インターネットでも広告審査はあるが、動画共有サイト、SNS、ニュース系キュレーションメディアなど、媒体ごとに審査の通りやすさは異なっている。
ネットメディアの広告ポリシーを見る限り、媒体によっては景品表示法や薬機法の規則まで細かくチェックされていないことが推察される。このように、行政機関だけでなく、多くの視点で監視できているかが広告の質に反映されている。
■これからも規制強化は続いていく
行政機関としても、悪質なネット広告を看過するわけにはいかず、年々取り締りが強化される傾向にある。2016年には景品表示法の課徴金制度が導入され、違反広告をした事業者に対して、対象商品の売り上げの3%を納付することが定められた。2021年には薬機法にも課徴金制度が導入され、違反広告を出した事業者には4.5%の課徴金の納付が命じられることとなった。
また、消費者庁や都道府県ではインターネットにおける虚偽・誇大表示の監視を行っている。消費者庁が令和4年1〜3月に実施したネット監視では、健康食品等を販売している98事業者、117商品の広告に対して改善要請を行った。
さらに消費者庁は令和5年度の予算として、2億2000万円を「デジタル広告の監視業務」に計上し、デジタル広告の監視に関する増員を要求するなど、今後ネット広告に関する取り締りはますます厳しくなることが予想される。
■真面目な企業がいつまでも損をする悪循環
悪質な広告が減らないという話をすると、健康食品を販売している企業が全て悪質な広告をしているように思われるかもしれないが、実際にはそうではない。広告規制を守り、適切な表現を心がけながら販売している企業も数多く存在している。しかし、少数でも悪質な広告を出している事業者が悪目立ちするため、健康食品全体がグルーピングされ、信頼度がおとしめられているという側面がある。
また、一部の悪質な広告のために規制を強化すると、販売する全事業者が取り締りの対象となり、真面目にやろうとすればするほど広告が出しづらくなる。一方で、一定数の悪質な広告を出し続ける業者はその網をくぐり抜け、また規制が強化される、といった悪循環に陥ってしまう。
ネット広告の質を上げ、消費者の信頼を高めていくには、行政機関の取り締りだけでなく、不適切な広告が放置されない自浄作用を内包したエコシステムの構築も、重要な役割を担っているものと考える。
■「健康食品」が健康を害するケースも
悪質な健康食品の広告により、消費者が損害を被るケースとしては、主に二つに集約される。一つ目が購入した健康食品を摂取しても(場合によっては多額を支払っても)健康に何ら変化が見られないケース、もう一つが、安全性が確認されていない製品を摂取し、健康に支障をきたすケースである。
例えば、健康食品に含まれるプエラリア・ミリフィカという成分があるが、この成分を摂取した消費者から消化器障害や皮膚障害、月経不順、不正出血などの健康被害が5年間(2012年4月〜2017年3月)で209件あったという報告がある(*3)。プエラリア・ミリフィカは、「豊胸効果がある」という触れ込みで広告され、主に若い女性をターゲットに販売されている。「豊胸効果がある」という文言は、薬機法や健康増進法で違反とされている表現だ。
このように、違反広告された製品には、安全性に問題があるものも含まれるため、健康食品の広告規制は厳しくせざるを得ない部分もある。違反広告がなければ本来手にすることがなかった製品を、「自分の容姿のため」「自分の健康のため」と摂取したことで、かえって健康被害に遭うということは、未然に防がれなければならない。
*3 独立行政法人国民生活センター「美容を目的とした「プエラリア・ミリフィカ」を含む健康食品-若い女性に危害が多発!安易な摂取は控えましょう」
■「病気を治す食品」は信用してはいけない
消費者としても、広告に騙されないよう自衛するためのリテラシーを持つことは重要である。ここで、悪質な広告を見極めるための三つのポイントを紹介する。
まず一つ目が、「病気を治す」「病気を予防する」といった類の広告は、保健機能食品を含むすべての食品において違反広告に当たるため信用してはいけない。例えば「コロナウイルス予防のために」「認知症や老化を予防する成分含有」「糖尿病などの生活習慣病で悩む方に」といった広告は、医薬品的な効能効果に関する表現であり、違反広告に該当する。
二つ目に、ダイエット食品は多くの消費者が求めるジャンルで、違反広告が多いため注意が必要だ。特に気を付けたいのが「誰もが容易に著しい痩身効果が得られるかのような表現」である。これらは、まず違反広告と考えたほうが良く、例えば「痩せたいけれど食事を我慢したくない方に。飲むだけで美ボディへ」「ぽっこりお腹に燃焼成分が効く!」などは違反広告とされ、措置命令も多く出ている表現である。
![ダイエットのビフォーアフターのイラストがノートパソコンに映し出されている](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/6/1200wm/img_669c8942db589cc087028ecd53269761353315.jpg)
■「個人の感想です」と注釈があっても違反に
三つ目のポイントは、「この食品を飲んだら5kg痩せました」などの体験談と併せて「個人の感想です。効果には個人差があります」という注釈をするケースである。効果があるという体験談を見た消費者は「私にも効果を得られる」と感じてしまうため、「個人の感想です」などの打ち消し表現があっても、体験談から受ける印象はほとんど変わらないとされる。
このため、「個人の感想です」などの注釈があっても、「血圧が下がりました」「お通じが良くなりました」といった効果効能に関する体験談は、違反広告に該当する可能性が高く、措置命令を受けた広告にも散見されている。
最近では、コロナウイルス対策グッズが多々販売されているが、実は2020年度だけでも、除菌関連グッズに対して景品表示法の措置命令が9回も出ている(措置命令全体の半分以上!)。
除菌関連グッズの広告では「首にかけるだけで周囲空間のウイルスを除去」などの表現がよく使われるが、このような効果を示すデータは確認されず、狭い密閉空間での実験データしかないことがほとんどで、風通しのある場所等で使用しても、表示どおりの効果が得られない可能性があるとされている。このような広告を見かけた際には、注意するのが良いだろう。
■コロナ禍の不安を利用されないために
健康関連商品の悪質な広告が数多く出回っている背景には、コロナ禍における消費者の不安が強いことが関係していると思われる。2021年に実施された健康に関するアンケート(*4)では、「健康に関して何らかの不安があるか」という問いに「ある」と答えたのが59.1%で全体の約6割を占めている。
このような状況で、健康関連商品が次々と発売されることは、市場原理として至極当然のことである。そして、他社よりも自社製品をよく見せようとして、違反広告が萌芽するきっかけとなる。消費者庁から複数指摘を受けている製品群に対しては、広告の内容を信頼しすぎず、少し引いた目線で広告と向き合ってみると、不利益を被るリスクは減らせるだろう。
健康への不安がなくなることや、インターネットから切り離された生活様式へと戻ることは難しいが、ちょっとした知識やリテラシーがあれば、無意味に広告に踊らされずに済むはずである。本稿を読んで、広告規制についてより詳しく知りたいと感じた方は、消費者庁や国民生活センターのHPに消費者向けの注意喚起が掲載されているので、参照してみることをお勧めする。
*4 明治安田生命保険相互会社「健康に関するアンケート調査」
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薬事法マーケティング事務所代表
1981年、東京都生まれ。東京薬科大学薬学部卒業後、内資系ベンチャー企業で医薬品の開発を担当。サプリメントの開発・企画販売で活躍した後、製薬外資大手企業で市販後調査の業務に従事。2013年7月に株式会社薬事法マーケティング事務所を立ち上げ、機能性表示食品の開発支援やサプリメントを扱う企業への広告に関するコンサルティングを行っている。
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(薬事法マーケティング事務所代表 渡邉 憲和)
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