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大人もひるむ"えげつない長さ"に…中学入試で「1万字の出題文」に耐えられる子の幼少時代

プレジデントオンライン / 2022年10月11日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

■中学受験の理科と国語の出題文が異様に長い

中学受験の指導をするようになって、40年以上経つ。その間、毎年たくさんの入試問題を見てきたが、ここ5年くらいの間に入試問題の傾向が大きく変わってきているように感じる。特に変化を感じるのが理科だ。

理科といえば暗記科目と思われがちだ。しかし、近年の入試はいわゆる知識だけを問う一問一答型の問題はほとんど出題されない。かつてから難関校ではその傾向があったが、近年は中堅校でもすっかり見かけなくなった。代わりに増えたのが「思考力」や「記述力」を求める問題だ。入試の中身を「知識」から「思考力」「記述力」へと舵を切った大学入試改革の影響が大きいと考えられる。

特徴としては、とにかく文章が長い。その中には図や写真、表などの資料が盛り込まれている。ひと目見たときに、「えっ? 一体どこから問題が始まるの?」とおののいてしまうくらいやたらと問題文が長いのだ。なかには、初見の内容が出されることもある。こうした問題を前にしたとき、「塾で習っていないから分からない」とあきらめたり、「こんな長い文章、読めないよ……」とひるんでしまったりするような子は、難関校には合格できないだろう。「まずは読んでみよう」と一歩を踏み出し、問題を読み進めるうちに新たな知識を得たり、発見をしたりすることを「楽しいな」と思える子、今ある知識や経験を活用して「自分なりに考えてみよう」と思える子こそ、難関校が求めている生徒像だからだ。

知識そのものを聞く問題が減った代わりに増えたのが、「なぜそうなのか?」といった因果関係を聞く問題や、「○○だったらどうなのか?」といった条件が変わったときの変化を聞く問題だ。こうした問題を対処するには、与えられた資料の中から自分で課題を見つけ、自分なりに解決方法を見いだす力が欠かせない。だが、そういう力はある日突然身に付くものではない。

■幼い時の「熱中力」が考える力を身に付ける

幼い子供は好奇心の塊だ。例えば恐竜が好きな子なら、何時間でも夢中になって図鑑を眺めていられる。せっかく本を読むのなら、もっと勉強に役立ちそうな本を読めばいいのに、と親は思ってしまいがちだが、ここはそっと見守ってあげてほしい。なぜなら、この熱中している時間こそ、子供の頭の中は「なぜそうなるのだろう?」「だったらどうなるのだろう?」と思考を巡らせているからだ。

何に夢中になってもいい。

「このお魚と前に見たあのお魚は形が似ているなー。でも、違う名前なんだな。どこが違うのだろう?」
「積み木を高く積み上げるにはどうしたらいいんだろう? こっちに乗せたらグラグラしないかな? それともこっちかな?」

そうやって、興味の赴くままに、物の類似性や相違点を確かめたり、原因を探り因果関係を発見したり、創意工夫したりしているうちに、無意識に頭をフル回転させているのだ。こうした経験の積み重ねが、「思考力」を育てていく。また、自分で考えて解決方法を見つけられたという経験をした子は、「まずはやってみよう。きっと何かいいアイデアが浮かぶはずだ」と粘り強く向き合えるようになる。こうした姿勢こそが、今の理科入試を解くときに求められる姿なのだ。

■勉強だけやらされた子は他者の気持ちが理解できない

国語入試にも変化が出ている。

ひとつは、理科と同じように長い出題文(物語文・説明文)を出す学校が増えている。例えば、都内では麻布、駒場東邦、海城、神奈川では浅野、聖光学院といった学校は試験時間50~60分の中で8000~1万字近い出題文を出し、解答は選択式ではなく、記述式にするケースも目立つ(参考文献「中学受験ろぐ」)。読むスピードや表現力も問われる。傍線前後を読み返してテクニカルに解く力だけではなく、読み通して全体を俯瞰することを求められている。「結局、この作者は何を言いたいのか」という問いに答える力がより大切になってきたことになる。

日本文学に関する文章
写真=iStock.com/anants
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anants

「物語文」にも大きな変化がある。物語文といえば、かつては同じ年頃の子供が主人公の物語を取り上げるのが主流だった。そのため、友達にこう言われたから悲しくなったとか、もしお父さんとお母さんと離ればなれに暮らすようになったら寂しいなとか、自分と重ねて考えたり、想像したりすることができ、主人公の気持ちやとった行動を理解したり、共感したりすることができた。

ところが最近の中学受験の国語入試では、同世代の子供が主人公の物語は減少傾向にあり、小学生の子供が知らない時代背景の話だったり、主人公が同じ年頃の子供ではなく大人の物語だったりと、小学生の子供が理解するには難しい内容の話が取り上げられる。男子校の入試で仕事と子育ての狭間で悩むお母さんの葛藤を聞いてきたり、同じ年頃の女の子の恋心を聞いてきたりといった具合だ。

こうした問題を前にしたときに、「僕は男だから分からない」「経験したことがないから知らない」では、解き進めていくことはできない。

では、なぜ小学生にこのような長くて難解な問題を出すのか?

■小6に長くて難解な問題を出す理由

そこには、学校側の切実な思いが隠されている。近年少子化が進む中、「一度きりの子育てで失敗はしたくない」と、親は子供に期待を寄せ、幼い時から塾に通わせたり、習い事をいくつもかけ持ちさせたりしている。わが子の可能性を信じて、いろいろな経験をさせてあげること自体はよいことだと思うが、幼い時からいろいろなことをやらせすぎてしまうと、自分の興味の赴くままに熱中する時間や、あるいはぼーっとする時間が奪われてしまい、親や大人に言われるがままその日の予定をこなすだけになってしまう。

そういう子は幼い時から、親から「勉強さえしていればいい」と言われ、家のお手伝いをしてこなかったり、自然の遊びを知らなかったり、友達と十分に遊べずに過ごしてきたりと、勉強以外の経験が乏しい。そして、そういう子は中学受験では合格できたとしても、中学に入ってからも大人の指示がなければ動けなかったり、友達との関係をうまく築けなかったりとつまずいてしまうケースが多い。

そんな子供たちをたくさん見てきた学校は、過熱する今の中学受験に疑問を持ちはじめ、勉強ができるだけでなく、人として魅力のある子に来てほしいと切に願うようになった。

その表れが、近年の国語入試に反映されているように感じる。「勉強だけできればいい」「自分だけが幸せならいい」ではなく、もっと周りにも目を向けてほしい。世の中に関心を持ってほしい。自分が経験していないこと、接点がない人のことなどをどれだけ理解し、想像力を働かせることができるか──。戦争、貧困、差別、ジェンダーなど、世の中のさまざまな問題を背景にした長い物語文を取り上げる理由はそこにある。

鉛筆を手に、文章をたどっている少女の手元
写真=iStock.com/DNY59
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DNY59

■家庭内の会話が子供を大人にする

こうした世の中のことを教えるのは、家庭の役割ではないだろうか。戦争、テロ、いじめ、差別、貧困など、テレビをつければ毎日のように暗いニュースが流れてくる。なかには子供には見せたくないものもあるだろう。しかし、こうした現実こそ、子供に教えてあげるべきだと思う。なぜこのようなことが起きているのか、親が説明できなくてもいい。親も分からなければ、「どうしてこんなことが起きてしまったんだろうね」「どうしたらみんなが幸せになれるんだろうね」と親子で一緒に考えてみればいい。大事なのは、どれだけ世の中に関心が持てるかだ。

大人でもひるんでしまうような長い問題文を読ませ、自分なりの考えを答えさせる理科入試。同じく長い出題文に加え、小学生には理解が難しい背景の文を読ませる国語入試。

どちらの入試問題でも共通して言えることは、昨今の中学入試は「こういう問題が出たら、答えはこう」といったパターン学習が通用しにくくなっていることだ。また、塾に通えば身に付くものではなく、幼い時から家庭でどのように過ごしてきたかが問われているように感じる。「中学受験をするから勉強が一番大事」とそれ以外のものを排除するのではなく、中学受験は生活の延長上にあるということをぜひ知っておいてほしい。そんな学校側の思いが伝わってくる。

長年、中学受験に携わってきた私から見て、昨今の入試問題は非常に良質な問題が多いと感じている。まずは今の中学受験ではどんな問題が出るのか、親御さんに知ってもらいたい。すると、おのずとどんな力が必要になってくるか見えてくるだろう。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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