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「イスに深く腰掛ける」をやってはいけない…腰痛をどんどん悪化させる間違った座り方

プレジデントオンライン / 2022年10月12日 15時15分

写真=『痛みが消えていく身体の使い「型」』より

腰痛はどうすればよくなるのか。メディカルトレーナーの伊藤和磨さんは「イスに深く腰掛けていないだろうか。座面を高くし、軽く腰掛けるようにすると姿勢が安定し、腰部と太ももへの負担が軽減する」という――。

※本稿は、伊藤和磨『痛みが消えていく身体の使い「型」』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■椅子に長時間座っていることは健康リスクを高める

WHOは2011年、「座りすぎることによって、毎年200万件の死亡を引き起こしている」という声明を出しました。

昨今では、座りすぎの生活は、糖尿病、血栓症、心疾患、脳血管系障害、大腸がん、乳がん、腰痛や股関節痛などを罹患する確率を高めることがわかっています。

椅子に長時間座っていることが健康リスクにつながる理由は、具体的に次の通りです。

下半身の筋量は全身の約70%を占めており、血液を全身に循環させる第2の心臓と呼ばれています。鼠径部(太ももの付け根)には大腿動脈と大腿静脈、鼠径リンパ節、大腿神経が通っているのですが、座面の低い椅子に座るとこの部位が圧迫されて、血流とリンパの循環が著しく阻害されてしまいます(骨盤が後傾して猫背にもなる)。

これが常態化すると膝下のむくみや冷え症が悪化するだけでなく、心臓への負担が増加して、循環器の機能障害が生じやすくなるのです。

■エコノミー症候群は職場でも起きる

椅子に5分間座っているだけで血流の速度は約25%低下し、30分間座り続けると70%も低下することがわかっています。この状態が習慣化されると、糖と中性脂肪を分解する酵素の働きが低下し、血液がドロドロになってしまいます。放っておくと高血糖症、高インスリン血症、高脂血症をはじめ、血栓症のリスクが高まります。

希(まれ)にではありますが、座りすぎによって下肢にできた血栓が、肺や心臓、脳に飛んで重大な問題に発展してしまうケースもあります。いわゆるエコノミークラス症候群です。その名称から、飛行機の中でだけ発生するトラブルと思われがちですが、自宅やオフィスでも起こり得るのです。

それを避けるためにも、腰痛症の予防も兼ねて、30分ごとに椅子から離れて立ち歩く癖をつけましょう。

■そもそもヒトの骨盤は座るのに適していない

座り型のポイントは、股関節で身体を折り畳む(=ヒップヒンジ)ようにして、骨盤を立てて(=立腰(りつよう))座ることです。そして、着座中はスタンスを広くしてアゴを引くことを意識しましょう。

立腰することで背骨をS状に保つことができ、上半身の重さを背骨の関節で支えることができます。その結果、脊柱起立筋や靭帯、椎間板への負担が大きく軽減されます。

座り型が整っている人は、両肩を真下に押されてもびくともしませんし、そのとき腰に怖さを感じることもありません。赤ちゃんや幼児の座り型は、お手本といえるくらい整っているのですが、それを可能にしているのは、立腰して骨盤の真上に頭部を保持しているからです。

一方、骨盤が後傾して猫背になっている人は、筋肉と靭帯と椎間板で上半身を支えているので、両肩を真下に押すと簡単に腰が丸まって、腰部に痛みや怖さを感じます。

そもそもヒトの骨盤の形状は、椅子や床に座るのに不向きな形をしているので、きちんとしたフォームで座らないとすぐに姿勢が崩れてしまうのです。

そこで、学校でも病院でもジムでも教えてくれない、腰痛にならない座り型のコツをご紹介します。最も重要なスキルなので、ぜひ習慣に取り入れて頂ければと思います。

■ポイント①お尻ではなく骨盤で座る

座り姿勢を極めるためには、骨盤の形状を把握して、どこで座れば安定するのかを知っておく必要があります。

一般的に、坐骨の出っ張っているところ(=坐骨結節)で座ると思われがちですが、これは大きな間違いです。椅子メーカーや専門家でも誤解している人が多いのですが、坐骨結節で座ると骨盤が安定しないうえに、圧迫されている部分が痛くなってきます。

これに対して、「坐骨枝(ざこつし)」と呼ばれる平らな部分で座ると自然と骨盤が立ち、背骨をS状に保ちやすくなります。

坐骨枝というのは馴染(なじ)みのない名称ですが、骨盤の開口部を形成する部分、簡単にいえば骨盤の台座といったところです。坐骨枝で座るコツを身につければ、どんな椅子でも立腰することができます。

股関節で身体を折りたたむようにして座る。着座中はアゴを引いて骨盤を立てる
股関節で身体を折りたたむようにして座る。着座中はアゴを引いて骨盤を立てる。(写真=『痛みが消えていく身体のつかい「型」』より)

■なによりも大事な「ヒップレンジ」

市場には何十万円もするオフィスチェアもありますが、どんなに高価な椅子であってもヒンジして腰掛けなければ、すぐに骨盤が後傾して猫背になってしまいます。つまり、椅子のデザイン(座面の形状は重要)よりも椅子に座るまでのフォームと、座ってからの意識の方が大きく影響するということです。

先ほど、腰のアーチを維持したまま、腰を折り畳むように出(で)っ尻(ちり)にしてかがむことをヒップヒンジと呼びました(省略して「ヒンジ」と呼ぶこともあります)。

このヒップヒンジは、最も重要なスキルです。坐骨枝で座面を捉えるには、ヒップヒンジして腰掛けなければいけません。

■正しい椅子の座り方

椅子に座るときは、まず太ももに手を置いて肘(ひじ)を伸ばしてつっかい棒にし、腰椎のアーチを維持しながらヒップヒンジします。

動作のはじめに鼠径部の中心を両手4本の指先で押すと、スムーズにヒンジすることができます。前述したように視点を正面に固定して、顔を前に突き出すようにするのがポイントです。

太ももに置いた手で上体の重さを支えれば、全身の動きの速さをコントロールすることができるので、下肢の筋力が衰えている人でも安心して腰を下ろすことができます。

坐骨結節が座面についたら、尾てい骨から頭頂まで一体となって起き上がるように、ゆっくりと骨盤を立てていきます。骨盤を起こす途中でピタッと止まり、安定する感覚が得られたら、坐骨枝で座面をグリップしたということです。

最後にアゴを少し引くと姿勢をキープしやすくなります。

座っているときに過剰に腰を反らせる人もいますが、手を仙骨に当てて、座面に対して仙骨が垂直になっているのが理想です。

■ポイント②できるだけ座面を高くする

坐骨枝で座るためにもうひとつ重要なことは、できるだけ座面を高くして腰掛けることです。

デスクワークによるダメージを小さくするために、自宅やオフィスの椅子の座面を可能な限り上げ、腰掛けたときにお尻が膝よりも高くなるように調整することが大変重要です。座面を高くするほど、ちょっとヒンジするだけで、簡単に坐骨枝で着座することができるからです。

写真=『痛みが消えていく身体のつかい「型」』より
写真=『痛みが消えていく身体のつかい「型」』より

また、上半身をかがめる角度が小さく済むので、腰部と太ももへの負担が軽減されます。

さらに、座面が高いと自然と骨盤が立ち、理想的な姿勢をキープしやすくなります。椅子から立ち上がるときも非常に楽になります。

■座るというより腰掛けるイメージ

座面が高い椅子だと座るというよりも腰掛けるという感じになります。座るから腰痛になるのであって、腰掛ければ腰痛になりにくいのです。

一方、座面が低い椅子の場合は、かなり上体をかがめないと坐骨枝で着座することができません。動作中に腰部と太ももにかかる負担も増大します。

座面が低いと猫背にもなりやすい
座面が低いと猫背にもなりやすい(写真=『痛みが消えていく身体のつかい「型」』より)

また、太ももが床と平行になるような椅子に座ると、おのずと骨盤が後傾して猫背になるだけでなく、椅子から立ち上がるときの太ももと腰部への負担が増します。

もちろん椅子を高くすると机の選び方も変わってきます。座る位置が高いのに机が低いままだと、猫背になってFHP(頭部前方突出位)のリスクが高まります。

■ポイント③椅子に深く腰掛けてはいけない

私たちは、子どもの頃から座面の奥に座るように指導されてきましたが、そのように座ると股関節はロックされ、骨盤が後傾して猫背になってしまいます。さらに太ももが座面に圧迫される面積が大きいため、太ももの裏側を通る血管や神経が圧迫され、お尻の痛みや坐骨神経痛、むくみ、冷え症の誘因となります。

一般的には椅子に深く座って、背もたれに背中を密着させている姿勢が良いと思われていますが、長時間あの状態を維持することはほぼ不可能です。

椅子メーカーのカタログにも、モデルが座面の奥に座って背もたれに背中を密着させている写真が載っていますが、あれも現実的ではありません。実際には、背もたれからの反作用で腰が前に押し出され、猫背になってしまうからです。

伊藤和磨『痛みが消えていく身体の使い「型」』(光文社新書)
伊藤和磨『痛みが消えていく身体の使い「型」』(光文社新書)

最適な着座姿勢をキープするためには、座面の前端に腰掛けることが必須条件といえます。座面の前端に座ることを「端座(たんざ)」と呼びます。

ヒンジして腰掛けたら、座面の前端から20cmくらいの位置に移動します。お尻が滑り落ちそうなくらいの位置に腰掛けると、骨盤を前傾させる力が働いて自然と立腰することができるのです。

端座すれば座面の高い椅子に腰掛けても、両足のかかとを床につける(グランディング)ことができます。さらに座面に圧迫されるお尻と太ももの面積が小さくなるので、下肢全体の血液循環を保つことができます。

ソファーや座面が柔らかい材質の椅子でも、端座して座面の端に腰掛けることで立腰できます。

また、着座の基本は端座なのですが、リラックスするときには座面の奥に座って休むようにしましょう。時々座る位置を変えることによって、身体の一部にダメージが蓄積することを防ぎます。なんとなく崩れてしまうのと、意識的に崩すのとではまったく違う結果になります。

■頻繁に座りなおすクセをつける

ここまで紹介してきた座り型において、大事なポイントがもうひとつあります。それは、頻繁に座り直す癖をつけることです。

座り直すときには上体を起こして太ももに両手を置き、手で上半身を支えながら顔を前に突き出し、お尻を座面から数センチ浮かします。

そして、視点を正面に固定したままヒップヒンジし、腰のアーチを維持しながら骨盤を座面に置き直します。ゆっくりと骨盤を起こしてピタッと立ったところで止めます。

大半の人は、上体が真っすぐになっているつもりでも5度くらい前傾しているので、鏡に身体の側面を映して床に対して垂直になっているかチェックしてみて下さい。

ちなみに、骨盤の開口部は三角形になっているので、座面の角に腰掛けるととても楽に立腰することができます。肘掛けのない椅子に腰掛ける際には、ぜひ試してみて下さい。

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伊藤 和磨(いとう・かずま)
メディカルトレーナー
プロサッカー選手の時代に、度重なる怪我や慢性の腰痛に苦しんだ経験を、「同じような症状で悩んでいる人たちの役に立てたい」という思いから、2002年に「腰痛改善スタジオ」を開業。21年、一般社団法人日本姿勢道を設立し、「最適な身体の使い型」の啓蒙活動に注力している。『痛みを歪みを治す健康ストレッチ』『腰痛を治すからだの使い方』(以上、池田書店)、『腰痛はアタマで治す』(集英社新書)、『アゴを引けば身体が変わる』(光文社新書)、『アゴトレ』(光文社)など、セルフケアに関する著書を多数執筆。

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(メディカルトレーナー 伊藤 和磨)

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