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まとまらない、決まらない、終わらない…わが国の企業で「ムダな会議」が繰り返される根本原因

プレジデントオンライン / 2022年10月8日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

なぜ日本の会社では「ムダな会議」が繰り返されるのか。元国税調査官で、コンサル会社を経営する久保憂希也さんは、「その原因は、日本人の『数字力』の弱さにある」という。著書『数字が苦手な人のための いまさら聞けない「数字の読み方」の超基本』(アスコム)からお届けする――。

■数字に「強い人」と「弱い人」の違い

「あの人は数字に強い」という言い方をすることが、よくあります。

国税調査官から東証一部上場企業の経営企画部門(財務担当)に転身し、コンサルタントを経て経営者になった私は、これらの肩書だけで「数字に強そうですね」と言われたりします。

しかし、考えてみれば、「数字に強い」とはよくわからない表現です。簿記を知っているとか、計算が速いとかであればわかりますが、“数字に強い”とはいったい何を意味しているのでしょうか?

私は、数字に強い人とは「数字力」のある人のことだと思います。数字力とは、数字を使って意思決定への筋道を立てる力のことです。これは、どんな仕事をするうえでも最も本質的で重要な能力です。

そのためには、仕事の問題を何でも数字で置き換える癖をつけることや、生活の中で数字を意識したり、数字で考えることを習慣にしていくことが必要です。そうすれば、誰でも仕事で使える「数字力」を身につけることが可能です。

■日本の企業から「ムダな会議」がなくならないワケ

私はさまざまな会社の会議に出席してきましたが、たまに何時間もえんえんと終わらない会議をする会社に遭遇することがあります。実際、多くの人が経験しているのではないでしょうか。

終わらない会議はなぜ終わらないのか。
それは、数字をうまく使っていないことに原因があります。

ものごとの量的な側面に着目して数字を使って分析することを、「定量的」に分析するという言い方をします。それに対して、質的な側面に着目して分析することを、「定性的」に分析するといいます。

定量的に分析をする場合、その結果は誰が見ても同じであり、客観性があります。たとえば、店舗での小売りをやっている会社が、「ネット通販に乗り出すべきか否か」といったテーマで話し合うとしましょう。

「富士経済の発表によると、通販・EC市場の2020年の市場規模見込みは、前年比10.1%増の15兆1127億円です。2022年は16兆4988億円まで拡大すると予測されています。ネット通販は通販市場の8割以上を占めており、カタログ通販は1兆1200億円程度、テレビ通販は6000億円程度で横ばい傾向が続く見通しです」

というのは定量的な「報告」です。市場規模を数字で表現しています。

■数字が無ければ議論は終わらない

それに対して、「最近はネット通販が当たり前になっているようです。私の周りでも、欲しいものがあったらとりあえずネット検索をしています。パソコンを使わない人もスマホでショッピングができるし、若者だけでなく団塊世代にもいけるのではないでしょうか」というのは定性的な「意見」です。

話し手の主観や経験をもとに話を組み立てており、数字が一切出てきていません。

定性的な言葉は人によって受け止め方が変わりますが、数字を使っている定量的な説明なら「意図と違って伝わってしまった!」というようなミスコミュニケーションも起こりづらくなります。

会議に数字を持ち出すくらい当たり前のことだ、と感じるかもしれません。ところが、実際の会議では、驚くほどみなさん定性的に発言しているのです。

もちろんすべてを数字で表すことは不可能ですし、不確定要素は必ずあります。定性的な意見がすべて悪いわけではありません。しかし、最初に議論の立脚点とできるような数字がなければ、いつまでたっても議論はばらばらでまとまりません。

数字を使って定量的に考える能力は、すべてのビジネスパーソンに必須のものなのです。

さまざまな数字を表すチャートが並ぶ
写真=iStock.com/lucadp
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lucadp

■数字を知らなければ、騙される

ビジネスにおいては、「なんとなくAがいい」「Bがよさそう」という感覚で決めることはできませんし、「えいや!」と勢いで決めては、結果が思わしくなかったときに、その失敗を次に生かすことができません。

数字を使えば、「これは直感ではなく、客観的根拠がある」と主張することができますし、後から検証することもできます。

ところが、数字によって逆に騙されてしまうこともあります。数字を見たときに、直感的に正しいと思ったことと、定量的な事実に差がある場合です。数学で博士号を取得した研究者や大学教授も間違ったとされる、有名な問題を解いてみましょう。

目の前に3つの扉があります。そのうちの1つには豪華賞品があり、残りの2つはハズレ。どれか1つだけ扉を選んでください。豪華賞品が当選する確率はいくらでしょうか。

……と、ここまでは簡単です。答えは3分の1です。異論ありませんよね。この問題が面白いのはここからです。

あなたが扉を選んだあと、正解を知っている司会者が1つの扉を開けて、それがハズレであるのをバラしてしまいました。つまり、あなたが選んだ扉か、残ったもう1つの扉のどちらかに豪華賞品があることになります。そこで司会者が言います。

「その扉のままでいいですか? それとも変更しますか?」

■直感は常に間違える

ほとんどの人は「最初に決めた選択を変えない」と答えます。ハズレの扉が1つわかったから、確率は3分の1から2分の1になった……というのが直感ではないでしょうか。

「よし、自分が選んだ扉が正解だという確率が高まった。このままいこう!」と考えます。でもじつは、扉を変えたほうが、正解の確率が高いんです。

最初にあなたが扉を選んだときは、当たる確率が3分の1でしたよね。ということは、あなたが「選ばなかった扉のグループ」が当たる確率は3分の2です。この確率は変化しません。たとえ、選ばなかった扉のグループのうち1つが開いてしまったとしても。

だから、「選ばなかった扉のグループ」を選びなおすことができるなら、そっちのほうがいいわけです。繰り返しますが、確率は3分の2ですからね。

このように、直感で得た数字が間違っていることは、けっこうあるわけです。

■「数字の魔力」を生かしたテクニック

数字が苦手な人は、一歩踏み込んで考えずに、わかりやすい数字に飛びついて判断をしてしまいがちです。そのために、「都合よくつくられた数字」に簡単に納得してしまうといったことが起こります。

ここでは、数字をうまく利用して見せ方を変えることで、消費者に与える印象がどのように変わるのかについて、実際の値付けや売り方を例に考えてみたいと思います。

先日、私の妻が「最近、ジーンズがすごく安く売っているから、2000円か、高くても3000円くらいで買ってくる」と言って出かけました。

さまざまなジーンズからお目当ての1本を探す女性の手元
写真=iStock.com/GoodLifeStudio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GoodLifeStudio

ところが、ショッピングから戻ってきた妻が私にうれしそうに見せたジーンズは4990円、当初の予算のおよそ倍のものでした。予算を完全にオーバーして、何がうれしいのか聞くと、「1万円も得した」と言うのです。

値札を見ると、元値が1万5000円。そこに線がひっぱってあって、赤字で4990円と書いてあったのです。私は「見事にアンカリングされているなぁ」と思いました。

「アンカリング」とは、簡単にいうと、最初に提示された情報に意識が行ってしまうことです。アンカリングの「アンカー」とは船の碇を指し、碇をおろすと船は場所を固定されることから、思考がある基準に引きずられてしまうことを指します。

■「1万円も安くなっている」という錯覚

元の値段が書いてあると、そこに意識が行って「1万円も安くなっている」といったことを評価しがちですよね。そのジーンズの本来的な価値が4990円であるかどうかには、意識が行かなくなってしまいます。

つまり、数字を並べて値引きをするのは、消費者の意識を金額の差、つまり「いくらお得か」にフォーカスさせる効果があるわけです。

値付けの問題にかかわらず、商談や提案の場でも、まず最初にどんな数字を見せるのか少し順番を考えるだけで、提案が通りやすくなったり通りにくくなったりするわけです。

人間の性向に関して、もう1つ面白い話があります。

人はうなぎ屋さんに行くと、多くの人がなんとなく「松・竹・梅」の「竹」を選び、お寿司屋さんに行くと、「特上・上・並」の「上」を選んでしまう。つまり「3つあれば真ん中を選んでしまう」という行動特性があるといいます。

行動経済学者の友野典男氏の著書『行動経済学』(光文社新書)に、このことに関する実験について書かれていたのでご紹介しましょう。

■「松・竹・梅」で「竹」が最も選ばれるワケ

経済学者のシモンソンとトヴェルスキーは、106人の被験者に対し、3種類のカメラを使って実験しました。

カメラAは品質は劣るが安く、カメラBは品質も値段も中くらい、カメラCは品質はいいけれど高額です。まずは、被験者にAとBのカメラを見せて、どちらを買うかを選ばせます。その結果、Aを選んだ人もBを選んだ人も50%ずつでした。

次に、品質がよくて高額なカメラCを加えて、再度3つの中から選ばせます。すると、Aが22%、Bが57%、Cが21%という結果になりました。3種類にしたことで、真ん中がより選ばれるようになったのです。

これを応用すれば、売りたい商品の1ランク上と1ランク下の商品をつくればいいことになります。たとえばお茶の販売なら、最も売りたい「健康茶 3000円」のほかに、「高級茶 5000円」や「お買い得茶 2000円」を用意すればいいのです。

久保 憂希也『数字が苦手な人のための いまさら聞けない「数字の読み方」の超基本』(アスコム)
久保 憂希也『数字が苦手な人のための いまさら聞けない「数字の読み方」の超基本』(アスコム)

これは、お茶やうなぎといった物の値段のつけ方に限らず、保険でもウェブサービスの提案でも、あらゆるビジネスに応用できる考え方です。いいものを安く提案すれば受け入れられるわけではないということです。

このように、毎日の仕事だけでなく、日常の中で消費者として買い物をするときにも、数字の見せ方に注目することで、仕事に活かせる「数字力」は少しずつ磨かれていきます。

数字の魔力に踊らされるのではなく、数字の「裏」を読む習慣を身につけていただきたいと思います。

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久保 憂希也(くぼ・ゆきや)
KACHIEL社長
1977年、和歌山県和歌山市生まれ。1995年、慶應義塾大学経済学部入学。2001年、国税専門官第31期として東京国税局に入局。飲食店・医療業・士業・ 芸能人・風俗等の税務調査や、外国人課税事務、確定申告関連事務を担当。 2005年、東証一部上場企業に入社。2007年、子会社の取締役に就任。2008年に独立し、コンサルティング会社InspireConsultingを設立。2016年より現職。著書に『数字が苦手な人のための いまさら聞けない「数字の読み方」の超基本』(アスコム)などがある。

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(KACHIEL社長 久保 憂希也)

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