ため息はどんどんついたほうがいい…首や肩のコリがスーッと消えていく魔法のような呼吸法
プレジデントオンライン / 2022年10月13日 15時15分
※本稿は、伊藤和磨『痛みが消えていく身体の使い「型」』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■ストレスを減らす横隔膜呼吸ができない大人
まずは呼吸の基本についてご説明します。
一般的には胸式呼吸と腹式呼吸が知られていますが、どちらが良い悪いということではなく、呼吸のテクニックとして使い分けられるようにしておくと良いでしょう。
通常では横隔膜を効率的に働かせる「横隔膜呼吸」が理想です。
横隔膜呼吸は特別なものではなく、赤ちゃんや幼児のときには誰もが無意識にしていた呼吸のしかたなのですが、大人になるにつれて浅い呼吸(胸式呼吸)に置き換わってしまう人が大勢います。
呼吸が浅くなる原因はいくつかあるのですが、最も影響が大きいのは姿勢です。猫背になると胸郭と腹部が圧迫され、横隔膜が伸縮できず呼吸が浅くなります。
特に仕事や勉強に集中しているときは呼吸が浅くなりがちですが、そうなると脳が酸素を取り込もうとして呼吸の回数が増加し、その結果、酸素の過剰摂取が起こります。
脳と全身の細胞に酸素を運ぶためには、適量の二酸化炭素が必要であるため、この状態が定着すると、交感神経過活動による全身の緊張、末端の冷えやむくみ、疲れやすさ、消化機能の低下、不安の増大といった問題が生じやすくなります。
理想的な呼吸の回数は1分間に6~8回とされています。このペースで呼吸しているときは、心身をリラックスさせる副交感神経が活性化し、痛みやストレスへの耐性が高まります。
ストレス社会で健やかに暮らすためには、一回の換気量が多い横隔膜呼吸を心がけて、呼吸の回数を減らすことが肝要なのです。
■メンタル不調な人ほど浅い呼吸をしている
人は何かに集中しているときや重いものを持ち上げると、体幹を安定させるため無意識に息を止めています。
「息を詰める」「息を潜める」「息を呑(の)む」「息を殺す」「息を凝らす」といった言葉は、どれも息を止めて身体を硬直させた状態のことを表しています。
一時的に呼吸を止めて作業するのは問題ありませんが、肺に入れた空気をしっかりと吐き切らないと、十分に空気を吸い込むことができません。そうなると、脳は息を吸おうとして呼吸の回数が増えてしまうわけです。
もうひとつ、しっかりと息を吐き切らないことのデメリットとして、胸腔の内圧が上昇して心臓への負担が増すことが挙げられます。このとき、副交感神経はうまく働かず、精神的なストレスが高い状態が続きます。実際、メンタル的な問題を抱えている人の多くは、息を吐くのが非常に苦手で浅い呼吸パターンになっています。
日頃から意識していないと、息を吐く能力は低下していき、肺に残っている空気を出し切れなくなります。水泳の息継ぎと同じで、しっかりと息を吐かないと、しっかりと息を吸うことができません。
肋骨を下げて息を吐くことを身につければ、肺に残っている空気を吐き出すことができるので、十分な酸素を取り込むことができます。一回の換気量が増せば余分な呼吸の回数を減らすことにもつながります。
■「ため息をつくと幸せが逃げる」はウソ
先述したように、多くの現代人はしっかりと息を吐けていません。そのせいで常に身体が緊張した状態に陥っており、自ら上半身を凝り固まらせているのです。
緊張した後やがっかりしたとき、疲れ切ったときなど、思わず「ふぅ~」「はぁ~」とため息をついてしまうものですが、あれには肺に溜まった空気を出し切ることによって身体をリラックスさせる効果があるのです。
「ため息をつくと幸せが逃げていく」などという人もいますが、ため息をつかなかったら心身共に窮屈になってしまいます。
そこで私は皆さんに、肋骨に手を置いて深いため息をつくことを推奨しているのですが、「深くため息をつくと気持ちが楽になるし、背中や肩の凝りも軽くなる」といった感想をもらいます。
ふとしたときに深いため息をつくようにすれば、張り詰めた状態から解放されて心身のデトックスをすることになりますので、ぜひ習慣にして頂きたいと思います。
■いつのまにか質の悪い呼吸をしている
肩を持ち上げて息を吸う浅い呼吸をしている人は、胸郭の前面(みぞおちのあたり)がパカッと開いて鳩胸になっています。このように、肋骨の下端がめくれ上がり、肋骨弓の角度が90度以上になっている状態を「リブフレア=rib flare」と呼びます。
肩を持ち上げる努力性の呼吸が定着してリブフレアを起こすと、横隔膜が強制的に伸ばされた状態になります。この状態では、横隔膜が呼吸筋としての役割を果たすことができなくなり、換気量が大幅に減少します。それを補うために、呼吸の補助筋である頚肩部の筋肉を使って息を吸うようになり、効率の悪い代償性の呼吸パターンが定着してしまうのです。
頚肩部の筋肉を酷使して息を吸うようになると、慢性的な首・肩の凝りや腰痛を招くだけでなく、不安症、パニック障害などを起こしやすくなります。
ところが大変多くの人がこのリブフレアを起こしていて、質の悪い呼吸パターンのまま何十年と暮らしているのです。
■浅い呼吸が引き起こす体の不調
浅い呼吸は胸郭の形状にも悪影響を及ぼします。本来であれば、肩甲骨と肋骨は密着するように、それぞれが湾曲しているのですが、リブフレアになると胸郭の背面が平坦になるため、肩甲骨が肋骨から浮いた状態になってしまいます。
こうなると肩甲骨と肋骨が接する面積が小さくなり、肩関節の安定性と可動域が低下して、肩関節の障害リスクが高まります。
実際に、四十肩や五十肩を患っている人たちはリブフレアになっていて、頚部と肩関節の可動性が著しく制限されています。そういう場合は、肩甲骨の位置をリセットすることから治療を始めます。
そして、根本から改善するには、肋骨を下げて息を吐く習慣をつけて、リブフレアを修正することが必要になってきます(詳しいやり方は『痛みが消えていく身体の使い「型」』で紹介しています)。
一見すると、呼吸と関係なさそうな腰痛症や股関節の機能障害も、呼吸のしかたを最適化することによって改善できるケースが多々あるのです。
■すぐに眠れるようになる呼吸法
リブフレアによってお腹が伸びてしまった状態を「アブシザース=abscissors」(「abdominal/腹部の」と「scissors/ハサミ」を合わせた造語)と呼びます。
この名称は、上半身を側面から見たときに骨盤と胸郭の前面がパカッと離れている様子が、ハサミを開いた状態に似ていることに由来しています。
リブフレアによってアブシザースになると、骨盤を下方から支える下腹部の腹筋や骨盤底筋群も緩んでしまうため、腹圧が下がるだけでなく、臓器を理想的な位置で保持できなくなります。
さらに、体幹(コア)の安定性が損なわれるため、ちょっとしたことでバランスを崩しやすくなります。
仰向けに寝たときに腰が痛む人の多くは、リブフレアが原因で腰が反って床から浮いた状態になっています。そのような状態ではリラックスして眠ることができず、朝起きたときに疲労感が残ってしまいます。
「仰向けだと腰が痛くて眠れない」という人は、寝る前に肋骨の下部を締めながら息を吐くようにしてみて下さい。リブフレアが修正されると、副交感神経が活性化して腰の反りと膝の曲がりが矯正されるだけでなく、入眠がスムーズになるといわれています。
リブフレアを改善してアブシザースを治すには、上体を繰り返し起こす腹筋運動などを行っても効果はありません。上胸部を膨らませて息を吸っていたら、すぐにまた胸郭の出口が開いてしまうからです。
これらの問題は、筋トレよりも呼吸のしかたとパターンを修正することによって、効率的に解消することができます。
■横隔膜呼吸と胸式呼吸の使い分け
横隔膜呼吸は、胸郭と腹部を全方向に同時に拡張し、横隔膜を効率的に収縮させながら呼吸するのが特徴です。
平常は、できるだけこの呼吸を維持したいところですが、精神状態や運動による心肺への負荷、健康状態に応じて呼吸のしかたは変わります。
一般的に胸式呼吸=悪い呼吸と思われがちですが、激しい運動をしているときや感情的になっているときには、自然と胸式呼吸(努力性の呼吸)に切り替わります。つまり、より多くの酸素を取り込まなければいけない状況下では、胸式呼吸が正解なのです。
ただし、なんでもないときにもこの呼吸をしていると、身体がとても疲れやすくなります。
最適な呼吸の型を習得するためには、時々胸とお腹に手を置いて、横隔膜呼吸をしているか確認することが肝要です。
■呼吸を見直す際に気を付けること
呼吸を見直すときは、肋骨を下げながら息を吐くことから始めるのが良いでしょう。こうすることで、全身の緊張が緩和して、遊びがなくなっている胸郭の可動性が改善するからです。
呼気は、深く長くゆっくりと吐くのがポイントです。また、息を吐くときにお腹に力が入っていると、横隔膜と肋骨の動きが止まってしまうのでお腹を緩めておきます。
次に胸骨や肋骨の脇に手を置いて、肋骨の動きをモニタリングします。置いた手に力を入れてしまう人が多いのですが、あくまでも手は肋骨の動きを感知するだけです。
はじめのうちはお腹の力がうまく抜けず、4~5秒で息を吐き終わってしまうかもしれませんが、肋骨を下げながら息を吐く感覚をつかめれば、10~15秒くらいかけて息を吐けるようになるでしょう。長く息を吐けるようになるほど、心身のリラックス度が増し、息を吸ったときに、より多くの空気を取り込めるようになります。
仰向けで数回息を長く吐いた後、肋骨の脇を両手で押すと胸郭がたわむのを感じ取れるはずです。
はじめは仰向けで吐く練習をし、座位→立位→歩行とポジションを変えていきます。
■最適な呼吸をするための練習法
呼気の練習は、肋骨を下げながら息を吐き、肺に溜まっている空気をできるだけ吐き出すことが目的です。
①仰向けに寝て膝を立てて90度に曲げます。この体勢をとると腰が痛くなる人は、背中と腰の筋肉(広背筋)の緊張を和らげるために、椅子などに両足を乗せて腰部の緊張を緩和させます。いずれのやり方にせよ、両膝を開いてガニ股にします。
②両手を胸骨の上に置き、お腹を弛緩させた状態でゆっくりと口で息を吐き、胸骨が沈みながら骨盤に近づいていくのを確認します。
吐くときは肩と首の余分な力を抜き、口を軽くとがらせて「ふー」と息を吐き、少なくとも8~15秒かけて吐き切ります。
息を吐いている最中は視点を下方に固定し、「胸を平らにする」「胸の空気を抜いてしぼませる」というイメージでやると、よりスムーズに肋骨を下げることができます。
吐き切った後は、すぐに息を吸わずに2~3秒間息を止めます。
息を止めることによって呼気と吸気にメリハリがつき、血中の二酸化炭素濃度への耐性が上がり、すぐに息を吸おうとする癖が改善されます。
③胸骨を下げて吐く感覚をつかんだら、次は肋骨の脇に手を置いて肋骨弓を締めながら息を吐く感覚を養います。
基本的には②と同じ要領ですが、肋骨の脇を骨盤に向かって押し下げるように、手で軽く押しながら動きを誘導するとうまくいきます。
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メディカルトレーナー
プロサッカー選手の時代に、度重なる怪我や慢性の腰痛に苦しんだ経験を、「同じような症状で悩んでいる人たちの役に立てたい」という思いから、2002年に「腰痛改善スタジオ」を開業。21年、一般社団法人日本姿勢道を設立し、「最適な身体の使い型」の啓蒙活動に注力している。『痛みを歪みを治す健康ストレッチ』『腰痛を治すからだの使い方』(以上、池田書店)、『腰痛はアタマで治す』(集英社新書)、『アゴを引けば身体が変わる』(光文社新書)、『アゴトレ』(光文社)など、セルフケアに関する著書を多数執筆。
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(メディカルトレーナー 伊藤 和磨)
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