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日本の経済力がどんどん下がっている証拠…プロでも難しい「仕組み債」に手を出す人が増えている理由

プレジデントオンライン / 2022年10月11日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SunnyVMD

■「仕組み債」の販売をやめるケースが増えている

最近、“仕組み債”と呼ばれる複雑な金融商品の取り扱いを停止、あるいは縮小する金融機関が増えている。その背景には、仕組み債を購入した個人投資家が想定外の損失をこうむり、販売した金融機関とトラブルになるケースが増えていることがあるようだ。

個人的見解を述べさせていただくと、仕組み債は個人投資家には分かりにくいリスクが潜んでいるケースもあり、一般の個人投資家はあまり手を出さないほうがよい。

仕組み債は債券の一種だが、派生商品を組み入れた高リスク商品として認識すべきだ。そのリスク・リターンのプロファイル(特性)は通常の国債や社債と大きく異なる。仕組み債のリスクとリターンが理論的にどの程度か、金融機関でディーリングやポートフォリオ・マネジメントを行うプロでも理解することは難しい。

ここでいう難しいとは、いつ、何によって、仕組み債の価格がどう変化するかをあらかじめ想定し、将来のキャッシュフローを予想することが困難であることだ。金融市場の不安定感が一段と高まる状況下、仕組み債保有のリスクはこれまで想定されてきた以上に高まっていると考えられる。

■プロでも運用が難しい「仕組み債」とは

仕組み債は、機関投資家がより高い利回りを手に入れるために開発されたリスクの高い金融商品だ。うまくいけば相応の利得を手にすることはできるかもしれない。反対に、想定と異なる結果が起きると、予想を上回る損失に直面する恐れがある。個人の資金運用の目的は、無理なく、長期の視点で資金を運用して生活の安心感を高めることだ。個人の資金運用に仕組み債は必要ない。

仕組み債の目的は、一定の期間にわたって資金を運用し、高い利得を目指すことにある。個人の投資家と異なり、機関投資家は達成しなければならない利得の水準が決められている。1年間でTOPIXを3ポイント上回る収益を目指す、あるいは今ある100万円を1年間で110万円に増やす(年間の目標収益率は10%)という具合だ。

株価が上昇する状況であれば、目標達成の可能性は高まる。しかし、株価が下落すると目標とする利得を得ることは難しくなる。その場合、機関投資家のなかから、仕組み債を活用して目標の利得を達成しようとするものが出始める。そのため、仕組み債の説明資料などには、“相対的に高いリスクを負担することによって、投資家のニーズに合った資金の運用を目指すことが可能”との文言が記されることが多い。

■償還時に元本割れが発生する恐れも

仕組み債は、主として①特定の国債や社債などの債券と、②特定の企業の株式やインデックスを原資産(アンダーライング・アセット)とする金融派生商品=デリバティブ、を組み合わせてつくられる。そのため仕組み債の目論見書などには、債券の発行者と、対象株式などの名称が記載されていることが多い。

近年のわが国における仕組み債の傾向として、相対的に利回りの高い債券と、オプション(決められた日、あるいは一定の期間内に対象となる資産を特定の価格で買ったり売ったりすることができる権利)を組み合わせて組成されたものが多い。

デリバティブを使っているため、金融市場が大きく変動すると想定外の損失に直面する恐れがある。また、仕組み債にはノックイン条項が設けられていることが多い。対象の株価などが、あらかじめ定めた水準(ノックイン価格)を下回ると仕組み債が利益を生むことなく早期に償還されたり、償還時に元本割れが発生したりする恐れがある。

■なぜハイリスク投資に手を出す人が増えているのか

通常の国債など確定利付き証券の場合、年間に支払われる利息(インカムゲイン)が定められている。満期償還時には元本(100円)が支払われる。利率と満期があらかじめ決められた債券のキャッシュフローは予想しやすい。しかし、仕組み債のキャッシュフローはノックイン条項などに大きく影響される。仕組み債の保有からどの程度の利得が得られるかは、プロの投資家でも正確に予想することが困難だ。

それにもかかわらず仕組み債を購入する人が増えた。その一因として、わが国の超低金利環境が長期化したことは大きい。1990年代以降のわが国では、バブルの崩壊によって経済が長期の停滞に陥った。1999年には日銀が“ゼロ金利政策”を導入し、2001年には“量的緩和政策”が導入されて金融緩和策が強化された。その後、ゼロ金利と量的緩和策は一時解除された。リーマンショックを挟み、2013年4月以降は異次元の金融緩和が実施された。

■表面上の利回りの高さを金融機関もアピール

その結果、国債の流通利回りは低下した。言い換えれば、経済の実力が低下した。資金需要は停滞して金融機関の収益には下押し圧力がかかった。個人投資家も機関投資家も預金や国債の保有から満足のいく利得を得ることは難しくなった。

その状況下、仕組み債のリスクの高さの不安よりも、表面上の利回りの高さに魅力を感じる人は増えた。一方、金融機関にとっても仕組み債は、表面上の利回りの高さなどをアピールして個人資金を取り込み、手数料を獲得する手段として重要性が高まった。

しかし、2022年2月にウクライナ危機が発生すると、世界経済と金融市場の不安定感は急速に高まった。3月以降は、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ鎮静化のために金融引き締めを強化している。投資家のリスク回避の心理は強まり世界的に株価は下落した。

市場チャートをパソコンとスマホで開いて確認している男性の手元
写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

さらに、世界的に金利が上昇している。長い目線で考えた場合の企業の価値は下落し、株価には一段と強い下落圧力がかかりやすくなっている。その結果、仕組み債の保有によって予想外の損失発生に直面する人が増えている。顧客トラブルに発展するケースも増え、複数の金融機関が仕組み債の取り扱いをやめ始めた。

■投資の原則は「分かるものにだけ投資する」

金融庁は仕組み債の取り扱いについて、「真の顧客ニーズに基づく販売が行われているか懸念がある」と強い懸念を表明している。リスクの高さに加えて、仕組み債はコストも高い。通常の債券の運用に加えて、デリバティブ取引に必要な契約書類の作成、デリバティブの時価評価などには費用がかかる。

そのコストは、国内株で運用されるインデックスファンド(投資信託)などを上回る。それを負担するのは、仕組み債の購入者だ。しかし、手数料などは仕組み債の販売価格に含まれているため、具体的に把握することが難しい。

言い換えれば、仕組み債は複雑であるがゆえに、分かりづらい点が多い。命の次に大切なお金を増やすために運用を行うのであれば、可能な限り、分かることを増やすべきだ。“オマハの賢人”と呼ばれる米国の著名投資家、ウォーレン・バフェット氏が指摘するように、投資するのであれば、その内容が分かるものにだけ投資する。分からないものに投資すると、経済や金融市場の環境変化などによって想定外の損失に直面することがどうしても増えやすい。

そうした投資行動を続けることによって長期の視点で資金を運用し、利得を確保することは難しい。同じことは、デリバティブを活用してリスクとリターンの特性をジャッキアップしたブル型・ベア型などの上場投信(ETF)などにも当てはまる。

■今持っている金融商品を本当に理解できているか

資金運用において個人は3カ月や1年などの期間損益を気にする必要はない。最も重要なことは、安値で、コストを抑えて、分かりやすい(つまり、シンプルな)金融商品を購入し、無理なく資金を運用することだ。その点を徹底したうえで、国内外の経済環境の変化を予想し、より良い購入のタイミングを探ればよい。内容が分かりづらく、想定外の損失を抱える恐れがあり、コストもかさむ仕組み債に個人が手を出す必要はない。

今後、米国の追加利上げや中国の本格的な景気後退の懸念の高まりによって、世界経済は悪化し、金融市場では株価が一段と下落する恐れが高まっている。それだけに内容が十分に理解できていない金融商品に手を出していないか、いま一度、冷静に確認する意義は大きいだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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