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だから業界首位が揺るがない…スシローが「最安値120円皿のおいしさ」に競争範囲を絞り込んだワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月12日 12時15分

「スシロー ユニバーサル・シティウォーク大阪店」の外観=2021年12月8日、大阪市此花区 - 写真=時事通信フォト

回転すしチェーン首位の「スシロー」は、コロナ禍で外出自粛が長引いたにもかかわらず、過去最高の売上高を叩き出した。なぜこのようなことができたのか。淑徳大学経営学部の雨宮寛二教授は「スシローには、競合他社が真似できない3つの独自戦略がある」という――。

※本稿は、雨宮寛二『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■コロナ禍でも好調を支える「3つの戦略」

スシローは、郊外の顧客だけでなく繁華街の顧客もターゲットにする全方位戦略を展開してきました。「都市型店舗」として出店攻勢をかけ、2021年3月には、新宿に「スシロー新宿三丁目店」をオープンさせています。

スシローでは1皿120円が最安値皿ですが(※編集部註:10月1日に110円から120円に価格改定があった)、家賃が高い都市型店舗では1皿150円が中心です。それでも顧客の満足度は高く、顧客の心をしっかりとつかみ都市部の需要を取り込むことに成功しています。その背景には、スシロー独自の3つの戦略があります。

1つ目の戦略は、「定番寿司メニューの強化」です。回転寿司業界では、「回転レストラン」と言われるように、どの寿司チェーン店でも寿司以外のサイドメニューを豊富に取り揃える傾向が加速しています。たとえば、くら寿司はイタリアンシリーズを発売して、和風だしのカルボナーラなどを展開しましたし、かっぱ寿司ではビーフ100%ハンバーグをメニューに打ち出したことがありました。

このように、各社がメニューのバラエティー化を競い合ってきましたが、スシローはこうした路線とは一線を画し定番寿司メニューの強化に取り組んできました。スシローが最も重視したのは、まぐろやはまち、サーモンなど120円の定番ネタの味の追求でした。

■強みは「素材」と「客を待たせない仕組み」

たとえば、まぐろの赤身は従来のキハダマグロを減らし、濃厚でまぐろの味が強くて美味しいとされる40キロ以上のメバチマグロにしました。原価は高くなりますが、スシローとしてはメバチマグロの大きく安定したタイプの方を顧客には届けたいとの思いがありました。

また、通常、身質チェックは尻尾だけですが、食べる部位である中心部まで確認して、合格したものだけを仕入れるという厳しいチェック体制を取りました。これも定番を強化するために加えた選別方法であり、定番を徹底的に強化することで顧客をつかむとの狙いがあったといえます。

2つ目の戦略は、「客を待たせない仕組み」の構築です。回転寿司では皿に載せた寿司を運ぶために、専用レーンが設置されています。スシローでは、顧客がパネルで注文すると驚くほどの速さで寿司が流れてきます。

たとえば、注文した後に顧客が次に何を頼もうかとメニューを見ていると、もう「届きました」とアナウンスが流れて注文したネタがレーンに届きます。新宿などの都市型店舗では席数が200席を超えるにもかかわらず、オーダーしてからのスピードが速く注文した皿が直ぐに届くようになっています。

その秘密は、スシローが独自開発した「引き込みレーン」にあります。これは注文品の専用レーンからそれぞれの顧客テーブルに枝分かれして寿司が届く仕組みで、これにより専用レーンが込み合うことなく次々に寿司を流すことが可能になりました。

また、顧客テーブルに最短ルートで届けられるよう、専用レーンを所々ショートカットして皿が複雑に移動していくような仕組みに改善しました。これにより、厨房から流された寿司が逆方向に進む専用レーンに進路変更して、顧客のテーブルまで最小時間で注文皿が届けられるようになったのです。

■席に着くまで、店員と接触することがない

3つ目の戦略は、「無人化による店内誘導」の確立です。店内での顧客案内は全て機械による自動化が取られています。すなわち、無人化による非接触を徹底しているのです。

まず、顧客が店舗に入り正面に設置された機械に予約番号を入れると、機械が「プリンターの案内札をお取りになって、○○番の座席にお進みください」とアナウンスします。それと同時に、「○○番のテーブル席にお進みください」とプリントされた案内札がプリンターから出力されます。顧客はこれに従って店員と非接触でテーブルに進むことができます。

また、会計やテイクアウトも定員と接触しなくて済むようになっています。支払いは店内に設置されたセルフレジで済ませることができるし、お持ち帰りの寿司も厨房の裏にあるテイクアウト注文用のロッカー(冷蔵ボックス)に店員が入れた後、反対側の扉から顧客が取り出せるようになっています。こうした店内の自動化もまた、コロナ禍の顧客をつかむ戦略として機能しているのです。

■待ち時間を解消し、業界トップの売上高を叩き出した

その他にも、スシローはコロナ禍での顧客の不安を解消する施策を展開しています。すなわち、「来店予約システムの導入」です。これは、「スシローには行きたいが入り口で長時間待つのは密になるため避けたい」という多くの顧客が抱える不安を一気に解消することになりました。

来店予約システムでは、顧客がスシローのスマホアプリやLINEアカウントで座席を予約すると、座席に案内される時刻を提示してくれます。顧客は指定された時刻に来店すれば入り口で待たずに食事を楽しむことができます。

これを可能にしたのが、待ち時間の算出ロジックです。スシローは2015年から待ち時間のデータを蓄積しデータを解析することで何度も改良を重ね、的確な待ち時間を算出できるロジックを構築するに至りました。

このようなさまざまな取り組みで、スシローはコロナ禍でも新規出店攻勢をかけ、2020年10月から2021年3月までの半年間で24店舗を増やしました。そのうえ、2020年度回転寿司チェーン売上高(連結)では、並み居る競合の中でトップの2049億円を計上し、コロナ禍でも最高業績を叩き出すことに成功したのです。

■生産性を高める試みがコロナ禍でヒットした

コロナ禍では、顧客が外食による感染を恐れたことに加え、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置により外食店舗の営業時間制限が設けられたことから、店舗に来店する顧客数が平常時に比べ圧倒的に減少しました。経営上の問題点は、顧客減少による収益の圧迫であることが明白であったことから、政府による財務支援が行われる一方で、企業には効率性を高める経営が求められました。

スシローも例外ではありませんでしたが、実際には、スシローは世の中がコロナ禍に入る以前から生産性を高める試みを行ってきました。たとえば、店舗内の無人化による非接触の追求では、非正規雇用の時給が上昇し始めた頃から、自動機器を導入するなど生産性を高める施策を試してきました。そうした試みがこのコロナ禍というタイミングで非接触という価値を生むようになったのです。

他方で、寿司ネタの注文データを収集し、今どういう寿司ネタを流したら顧客に皿を取ってもらえるかというデータ解析も長年行ってきました。これは、元々ロスを無くしたいという思いから取り組んできたことですが、効率性を追求していく中で顧客満足度の向上も図ることが可能となりました。

回転寿司
写真=iStock.com/Nayomiee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nayomiee

スシローでは、原価の高いメバチマグロ2貫を120円で提供しているように、どのネタも新鮮で身の厚い割には、価格が安く設定されています。それゆえ、顧客の間には「安いのに美味しい」という評判が定着しています。なぜ、スシローはこのように寿司を低価格で顧客に提供できるのでしょうか。それは、以下の3つの理由に集約されます。

■どうやって「安くて美味しい」を実現しているのか

1つ目の理由は、仕入れた魚の全ての部位を捨てることなく使い切ることです。たとえば、スシローのメニューに、締めに顧客が頼む「コク旨まぐろ醬油ラーメン」(385円)があります。このラーメンは魚介でダシを取っていますが、ダシとして抽出しているのは、寿司には使えないメバチマグロの頭の部分です。

また、ラーメンの中に具として入れているまぐろカツも、メバチマグロの筋が多い部分を活用して作ったものです。このように、スシローでは仕入れたマグロの全身を無駄にせず隅々まで調理することで、高い仕入れ価格を吸収しているのです。

2つ目は、寿司を提供する工程においてオペレーションの効率性を高めることです。顧客に寿司を提供する一連の工程の中で、ほぼ全てを自動化しています。たとえば、寿司に使うシャリ玉は、炊飯、酢飯、握りまでの全ての工程を機械が超高速で仕上げています。細巻きも自動で海苔が巻かれ、皿も機械が全自動で洗浄して色ごとに分けてくれます。

■優先度によって自動化と手作業を分担している

このように、スシローでは機械による自動化で効率化できるところは徹底して行っていますが、寿司ネタだけは優先度を美味しさに置いているため、ネタの鮮度を保つ必要性から職人が店の厨房でさばいています。

3つ目は、魚の仕入業者との関係を強化することです。仕入業者とのつながりを強めることは、より鮮度の高い魚の流通を可能にしてくれます。たとえば、三重県にある尾鷲物産は、スシロー向けにはまちなどを養殖・加工する会社です。

スシローは魚の仕入業者として、この会社と20年来取引をしてきましたが、2021年に資本参加して関係をより強固なものにしています。こうした仕入業者との関係強化は、スシローの仕入れにおける交渉力を高めることになり、結果として収益性を高めることにつながります。

東京・築地市場でのマグロ
写真=iStock.com/urf
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urf

■メニューをたくさん作るよりも「定番」に特化する

スシローは、競合他社がメニューのバラエティー化に邁進する中、こうした路線とは一線を画し定番寿司メニューの強化に取り組みました。これは、「自社の競争環境の範囲をどこに置くか」という競争戦略の視点から、とても意味深い意思決定に当たります。

スシローは、寿司以外のメニュー強化を放棄することで自社が取り組む競争範囲を寿司メニューに絞り込みました。さらに、寿司メニューの中でもまぐろやはまちなど定番寿司メニューに絞り込むことにより、競合する企業がほとんどいなくなる寡占状態を作ったのです。

この意思決定は、「同業他社との競合関係」で自社の力が強くなるだけでなく、「顧客との交渉力」も高めることが可能となります。定番寿司メニューの強化により、食する頻度の高いネタの鮮度や質が高まれば顧客満足度が上がり、顧客が競合他社に乗り換える可能性は低くなることから、リテンション(既存顧客維持)が可能となります。

このスシローの意思決定は、企業が市場において利潤を最大化するために、競争が激しい状態、つまり、儲かりにくい「完全競争」をできるだけ回避して、儲かりやすい「完全独占」の方向へと近づけていく戦略に当たります。

■負ける「5つの条件」を把握し、勝つ方程式を作った

ここで言う完全競争とは、以下の5つの条件を満たす市場と捉えることができます。

①市場に無数の企業が存在し、いずれの企業も市場価格に影響を与えることができない
②新たに他の企業が当該市場に参入する際の障壁が存在せず、また、市場から撤退する障壁もない
③企業が提供する製品やサービスは差別化されておらず、同業他社と同質である
④製品やサービスを作るための経営資源(人・物・金・情報など)は、企業相互でコスト無く移動できる
⑤製品やサービスに関する情報は、顧客・同業他社間で完全なる共有が可能である

雨宮寛二『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)
雨宮寛二『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)

これら5つの条件を満たす完全競争では、企業は超過利潤を見込むことはできません。なぜなら、どの企業も同じ製品やサービスを生産し販売することになるため、製品特性で市場に参入できず、価格を下げざるを得ないからです。最終的には、企業がかろうじて事業を継続していくだけの利益しか上げられない水準まで市場価格は下がることになります。

このような状況を回避するために、企業は完全独占の状態を作り出すことを目的に、自社の競争戦略を策定するのです。完全独占は、完全競争の条件と正反対の立場を取ることから、企業は超過利潤を最大化することができます。

スシローは、定番寿司メニューの強化などさまざまな打ち手を繰り出すことで、周囲の競争環境を完全競争から引き離し、完全独占に近づけて収益力を高めることに成功したのです。

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雨宮 寛二(あめみや・かんじ)
淑徳大学経営学部教授
淑徳大学経営学部教授。日本電信電話株式会社、公益財団法人中曽根康弘世界平和研究所などを経て、現職。経営戦略論など専門科目の講義を担当。 単著に『ITビジネスの競争戦略』(KADOKAWA)、『アップル、アマゾン、グーグルの競争戦略』『アップルの破壊的イノベーション』(いずれもNTT出版)、『図でわかる経営マネジメント』(勁草書房)があるほか、共著に『角川インターネット講座11』(KADOKAWA)、『現代中国を読み解く三要素』(勁草書房)など多数。新著に『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)がある。

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(淑徳大学経営学部教授 雨宮 寛二)

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