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「星占いなんて」と言う人に伝えたい…鏡リュウジ「本当の自分に気づき、運命を開く」小さなコツ

プレジデントオンライン / 2022年10月13日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Peach_iStock

占星術の世界で読み継がれるロングセラーで、世界中の占い師が参考にしている性格分析書『月と太陽でわかる性格事典』が、このたび鏡リュウジさんの監訳で復刊され、話題になっている。鏡さんは「SNS時代になって、誰もがたくさんの“ペルソナ”を使い分けるようになり、自分のなかの矛盾が広がっている。そういう今だからこそ、占星術という装置を、鵜呑みにするのではなく、もうひとつの自分を見るツールとして賢く使えば、きっと思った以上に役に立つはず」という──。

■30年前の「星占い」の本が売れる謎

このたび、『月と太陽でわかる性格事典』が復刊された。一言でいえば、生年月日の星の位置からその人のキャラクターを分析する「星占い」の本だ。一見、たわいないエンタメに映るだろう。

だが、ちょっと待ってほしい。実はこの本、日本で最初に刊行されたのは2003年、原著に至っては1994年である。邦訳ではほぼ20年、原著は30年近く前の本なのだ。

それが今、この時代に復刊された。そして、ある人気料理研究家がツイートしてくれたおかげもあって、発売後すぐに楽天ブックスでは占い部門1位に、そしてアマゾンでもランキング上位に上った。

ついでに言っておくと、占い本の事情に詳しい方なら、この時期(10月上旬)に占い本のランキング上位につけるというのが想像以上に激戦の結果であるということをご存じかもしれない。

というのは各社「来年の占い」を、定番の暦や占い本として競って出すシーズンだからだ。その中で「来年の運勢」ではない、性格分析の本の初速が目立って良いというのは、ちょっと異例のことだといえる。

■普通の星座占いより12倍詳しい

それはなぜか。監訳者である自分が言うのは手前みそもいいところなのではあるが、一言でいえば、それだけ内容が普遍的で、時代を経ても中身が古びていないということだろう。

「星占いなんて」という偏見をちょっと脇に置いて、できれば本書をパラパラ見てほしい。この本は通常の12星座(これは生まれた時に太陽が位置していた星座)と、月の星座(生まれた時に、あのお月様が位置していた星座)の組み合わせ、計144パターンで一人ひとりの性格を解説している。

いうなれば普通の星座占いよりも12倍詳しいということになる。そして、不思議なことにそれはなぜかよく当たっているように感じられる。家族で、友人たちで1冊回し読みすれば大いに盛り上がることは間違いない。

■「占いはなぜ、当たるのですか?」

しかし、この本が不思議に心に刺さる秘密はどこにあるのだろう。

僕自身は「占星術家」なので、簡単に「当たるから」と言えば済むのだろうが、普通はそうはいかない。不思議に当たるような感覚はあるが、これはあくまでも「占い」である。そこに実証的、あるいは科学的な根拠があるわけではない。合理的に考えれば、それは一種のお遊びでしかない。

だが、ここで少しだけ、この本が暗示していることを深堀りしてみたい。

この本の最大の特徴は、普通の星占いより「詳しい」ことにある。よく星占いは、人類を12のカテゴリーに大雑把に分けるだけのものだから、そんなざっくりした分類で妥当性のあることを言えるわけない、という批判をされることがある。本書は通常の星座に月星座を加えたものだから、144のパターンがあるので、より「詳しい」ものだと言うことは確かにできる。

しかし、それでもわずか144である。70億の地球人類をふるいにかけるにはあまりにも目が粗い。「正確さ」の根拠としては弱いと言わざるを得ない。

■人間はひとつの小さな宇宙

僕は本書の魅力は、その正確さというよりも、むしろ、この性格を描写する仕組みそのものにあると考えている。

繰り返しになるが、本書は「太陽星座」と「月星座」の2つを合わせて見ていくことが特長だ。

占星術の伝統では、太陽は自分自身の中の意識的な側面、旧来の社会のなかで「男性的」と形容されてきた性質や、「公」の面をつかさどっているとされる。一方、月は無意識的、本能的、よりプライベートな側面を表しているとされるのだ。

言い忘れたが、占星術では一人の人間はひとつの小さな宇宙であると考えている。マクロコスモス(大宇宙)とミクロコスモス(小宇宙)の神秘的な照応関係を、古代からの占星術は前提としているのである。

言ってみれば、一人の人間の中にはさまざまな惑星や星座が存在し、多重人格、副人格とでもいうべきものを表しているとイメージしているのである。

こうした占星術の考え方は実に古いものであるが、見方によってはまことに現代的、あるいはポストモダン的な人間観であるとはいえないだろうか。

■拡散し、分裂する人々のアイデンティティー

現在、人は社会生活の中でSNSなどを用いてたくさんの「ペルソナ」を使い分けている。

チャールズ・ハーヴェイ、スージー・ハーヴェイ著/鏡リュウジ訳『月と太陽でわかる性格事典 増補改訂版』(辰巳出版)
チャールズ・ハーヴェイ、スージー・ハーヴェイ著、鏡リュウジ訳『月と太陽でわかる性格事典 増補改訂版』(辰巳出版)

職場や学校ではその場にふさわしい人格を演じ、家庭では母や妻、夫の、そしてまたSNS上ではさらに別のパーソナリティーを見せていることもめずらしくない。

いわば、一人の人間なのだけれども、さまざまな「自分」を生きているのである。

アイデンティティーは拡散し、分裂しているといってもいい。ちょっと前までなら二枚舌、一貫性がない、などといわれたことも、今ではフレキシブル、マルチな存在として肯定的に受け止められることもあるはずだ。

もちろん、昔からそうしたことは知られてきたわけで、「本音と建前」はあって当然であったし、「顔で笑って心で泣いて」ということもまたあったはずだ。

■現代人は「矛盾した自分」を生きている

このようなアイデンティティーの分散、拡散がネットの出現によってより先鋭化している。かつては、職場で「公の自分」を見せていても、飲み会などで「私の自分」もさらけ出すことも往々にしてあった。

しかしSNSでは自分の一面だけを見せて、あるいは作り出して人間関係を構築することもできる。人間は「複数の自分」を抱えた存在であるということがより自明になってきたのだ。

ただ、「たくさんの自分」「矛盾した自分」を現代人は生きているのだけれど、逆に言えば、その切り分けをうまくやりすぎて内的な葛藤から目を背けていることもあるかもしれない。

SNSだけであれば、あるいは「仕事と私生活の切り分け」をうまくすれば、矛盾を抱えた人間として清(せい)も濁(だく)も併せて人と向き合うということも、避けようと思えば避けることができるからだ。

■「当たるかどうか」より大切なこと

この本は「たくさんの自分」の中から、「太陽」が示す自分と「月」が示す自分というコントラストの強い側面に光を当てる。

ここで、星占いが実際に当たっているかどうかは、懐疑主義者のあなたにはどうか、いったん棚の上に置いておいてほしいのだ(もちろん、素直にゲームとして受け入れて楽しんでいただければ、それに越したことはない)。

現代的な人間なら、自分の中の複数性を素直に受け入れられるだろう。

ただ、肝心なことは、自分の中にある「太陽的」な自己と「月的」な自己という2つの異なるベクトルが矛盾を抱えながらも共存しているという枠組みで、自分自身と向き合うことなのだ。

■自分という存在はそれ自体が「ミステリー」

本書には、「あなたはこんな人」という一面的な解説はほとんどない。例えば僕の太陽は魚座、月は牡羊座で「繊細で内向的な詩人」と「自信に満ちた改革運動者」が内在し、「おそろしくわがままで」でも「誰よりも心優しい」という僕の矛盾が指摘されている。

言葉尻だけつかまえると皆に当てはまりそうなことではあるが、僕本人としてはこの一言は深く胸に刺さるのである。

どの組み合わせを見ても、実はその中に矛盾したことが書かれている。それだけに本書を楽しむには少しだけ「知性」と「成熟」が要求されると思う。それは自分自身が矛盾と多様性に満ちた存在であるということを受け入れられるだけの大人であることを要求するのである。

自分はこんな人! と単純に決めつけてすっきりしたい人には、本書はどこかで歯がゆさを残してしまうことになるだろう。

本書は行間から訴えている。あなたという存在は、簡単に分析し、解決できるようなパズルではなくて、言葉本来の意味での深い「謎」(ミステリー)なのだ、ということを。

■性格こそ運命なり

そしてもう1つ、僕は本書を見ていて現代占星術がモットーとしてきた格言を思い出す。それは“Character is Destiny”である。「性格こそ運命なり」とでも訳せるだろうか。

これは20世紀初頭に現代占星術の父と呼ばれるアラン・レオが好んで用いた標語だが、それは紀元前の哲学者ヘラクレイトスに遡(さかのぼ)るものだという。

性格が運命をつくるのか、あるいは運命が性格を与えるのか、卵が先か鶏が先かのような、これまた謎めいた禅問答のような標語であるが、いずれにせよ、自分自身の人生を見つめるには「性格」について改めて考えることは避けて通れないだろう。

長い伝統を持つ占星術という装置は、鵜呑みにするのではなく、もうひとつの自分を見るツールとして賢く使えば、きっと思った以上に役に立つのではないだろうか。

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鏡 リュウジ(かがみ・りゅうじ)
占星術研究家、翻訳家
国際基督教大学卒業、同大学院修士課程修了(比較文化)。占星術の心理学的アプローチを日本に紹介し、従来の「占い」のイメージを一新。占星術の歴史にも造詣が深い。英国占星術協会会員、日本トランスパーソナル学会理事。平安女学院大学客員教授。京都文教大学客員教授。主な著書に『鏡リュウジの占星術の教科書I、II、III』、『占星術の文化誌』(原書房)、『タロットの秘密』(講談社現代新書)、『占いはなぜ当たるのですか』(説話社)、主な訳書に『ユングと占星術』『占星学』(青土社)、『占星術とユング心理学』(原書房)、『ホラリー占星術』(駒草出版)など多数。

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(占星術研究家、翻訳家 鏡 リュウジ)

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