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自分の目を通していない情報はゴミになるだけ…佐藤優がデジタルツールより紙のノートを愛用するワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月12日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

知識を増やすにはどうすればいいのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「紙のノートに記録、学習、仕事のすべてを集約して書くのがいい。デジタルツールに情報を放り込むというやり方はおすすめできない」という――。

※本稿は、佐藤優ほか『独学の教室』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。

■教養を身につけるために必要なのは読解力

教養を身につけるために必要なものとは何か。それをひと言で表すと「読解力」です。読解力を養うには、数学や論理学のような「非言語的論理」と、文章を読み解く「言語的論理」の二つを鍛える必要があります。

中学・高校までの学習も、煎じ詰めれば読解力の核となる「非言語的論理」と「言語的論理」の力を蓄えるものと言っても差し支えありません。

現代のビジネスパーソンは、そうした読解力を独学で身につける必要があります。

■博覧強記の佐藤優を支える「ノート術」

独学といっても、ただ漠然と本やテキストを読んでいるだけでは、知識は身につきません。知識を定着させるためには、内容に応じて「書く」作業が必要になります。

数学であれば、実際に手を動かして練習問題を解く。語学であれば、ディクテーション(読み上げられる外国語をそのまま書き取る勉強法)を繰り返す。人文科学や社会科学の本を読む場合は、重要箇所をノートに抜き書きし、自分のコメントを付記しておく。

どんな学びであっても、書くことが知識定着への近道なのです。ただし、「読書専用ノート」や「抜き書き専用ノート」をあえて作る必要などありません。

私自身、ノートは1冊に集約し、読んだ本の抜き書きやコメントに加え、語学の練習問題の解答から仕事のスケジュール、簡単な日記(何を食べたか、誰と会ったか)まで、すべて時系列で記すようにしています。後で読み返せるようにできるだけ分厚いノート1冊に、「記録」「学習」「仕事」のすべてを集約するのです。

■ノートを「人生の索引」にする

なぜ、すべてのことをノート1冊にまとめるのか。その理由は簡単で、探すことに費やす時間を省くためです。すべての記録を1冊に集約しておけば、過去に記した情報を参照したいときも、その1冊をパラパラとめくるだけで解決します。

「ここになければ、どこにも記録していない」とわかっているので、「どこに書いたっけ?」などと、あちこち探す必要はありません。手間も時間もかけず、極めて効率的に求める情報へとたどり着くことができます。私の場合、これまでの経験則から、コクヨの100枚(200ページ)ノートを年6冊のペースで使っています。

コクヨの100枚ノートは、厚さ約1.1センチです。つまり1年間で約6.6センチなので、50年間でもおよそ3.3メートルの棚を確保すればすべて保存できます。

私にとってノートは、すべての記録を収めた「人生の索引」です。先述したように、私はノートを索引にするため、「今日1日、何をしたか」「誰と会って何を話したか」「どこへ行ったか」など、その日にあったことを簡単に記しています。

これは独学するうえで、非常に有効です。試しに「今日学んだこと」を、ノートに書き出してみてください。おそらく、無駄なことに時間を費やしていたり、非効率的に時間を使っていたりといった今後の改善点が見つかると思います。

1日を振り返る行為が、独学の効率アップにつながるわけです。こうした意識的な「振り返り」をしないと、独学の時間効率はなかなか上がりません。どんな無駄があるか、どこを改善できるかは、可視化することで見えてくるものなのです。

■記憶を呼び起こすトリガーを作る

独学法でおろそかになりがちな要素が「記憶力」です。

現代の学生や若いビジネスパーソンを見ていると、かつてと比べて明らかに記憶する能力が落ちています。理由は明白で、「覚える努力をせず、すべて外部化で済まそうとしている」からです。

そうした点から見ても、エバーノートやドロップボックスのようなデジタルツールの使い方には注意が必要です。安易な使い方をすると、情報整理どころか、「情報のゴミ箱」になってしまいます。

最もやってはいけないのが、情報を取捨選択することなく、すべてクラウドに入れてしまうことです。クラウド化する際の鉄則は、「目を通していないものは保存しない」こと。

目を通していない情報は、保存したところで呼び出すことができません。この点でも、ノートには大きなメリットがあります。

デジタルは手軽で上限がないからこそ、後で使うかどうかわからないものまで「念のため」に保存してしまいますが、ノートに手書きするのは手間がかかるので、記される情報は自ずと選別され、「学びの記録」が「記憶のトリガー」になりやすいのです。

■ノートを取ることができない大学生

情報の外部化に加えて、ノートやメモの取り方がわからない学生やビジネスパーソンも増えています。

たとえば、大学の授業でノートを取らずに講義を聴いている学生をよく見かけますが、多くの場合、彼らは「ノートを取らない」のではなく「取り方を知らない」のです。

ノートを取ることができない大学生に話を聞くと、「そもそもノートを取った経験がほとんどない」と言います。「中学や高校の先生からノートを取れと言われなかったのか」と尋ねると、「先生が穴埋め式のプリントを配っていたので、授業中に空欄を埋めていた」という回答でした。

最近は大学でも穴埋め式のプリントを作成・配付し、学生に記述させている講師がいます。本人はきめ細かい教育をしているつもりかもしれませんが、そのような授業を行っていると学生のメモを取る力は衰える一方です。結果、社会に出てから苦労することになります。

繰り返しますが、ノートやメモは「記憶を呼び出すための重要なトリガー」です。ノートやメモを適切に取れないと、それだけ記憶力も低下することになります。

■レーニンに学ぶノート作りの極意

独学のためのノート作りに関しては、「レーニンのノート術」が参考になります。私の知る限り、レーニンはノート作りの天才です。また、革命という事業を成功させ、ソ連という国家を70年以上にわたって維持する基盤を構築したという意味で、レーニンは「一流の実業家」でもあります。

ロシアの革命家、政治家、ウラジーミル・レーニン=1918年1月1日
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
ロシアの革命家、政治家、ウラジーミル・レーニン - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

地下活動を続けていた革命家レーニンは、いつも政敵に追われていたので本を所持することができませんでした。そこで彼は図書館を利用しながら、ノートに読んだ本の抜き書きをしていました。コメントなども付記しており、そのノートさえあれば正確なデータを復元できるというのがレーニンのノートの特徴です。

レーニンの読書術は、現代のビジネスパーソンにも応用できます。限られた時間の中で、自分のビジネスに役立つ知識をインプットし、本から得た知見を即、自分の血肉とする。学者の本の読み方とは少し違う、ビジネスパーソンならではの本との付き合い方には、革命家の読書術と相通ずるものがあります。

■記憶の定着度を上げる一工夫

岩波文庫から出ているレーニンの『哲学ノート』(松村一人訳)は、書名どおり、レーニンの読書ノートを詳細に再現したものです。

『独学の教室』(インターナショナル新書)
『独学の教室』(インターナショナル新書)

たとえば、「フォイエルバッハ『宗教の本質についての講義』にかんするノート」の部分には、〈気のきいた書きかたとは、なによりもまず、読者のうちにも精神があることを前提し、すべてを語りつくさず、或る命題がそのもとでのみ妥当しまた考えられる関係、条件、制限を読者自身に語らせることである〉と抜き書きをしたうえで、〈適切な言葉だ!〉とコメントしています。

コメントの内容を見ると、〈非常に正しい!〉〈よく語られている〉といった端的な感想以外にも、〈ヘーゲルは物自体が認識できることを認める〉〈ヘーゲルはカントの「彼岸」に反対する〉など内容を要約したようなコメント、さらに〈一般にいって、歴史哲学は非常にわずかしか与えない〉〈もっとも重要なのは序論であって、そこには問題の呈出においてすばらしいものが沢山ある〉と本全体に対する意見を書き込んだ文章もありました。

こうした「抜き書き」と「コメント」をノートに記していくことを習慣化すれば、記憶の定着度は格段に向上します。逆に言えば、ほとんどの人はこの作業を怠っているので、肝心なときに知識を引き出すことができないのです。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

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