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ゆっくり話したほうが説得力は増すのに…私たちが早口な人を「頭のいい人」と誤解しがちなワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月13日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

マーケティングの世界では「説得力を高めるために、ゆっくり話したほうがいい」とよくいわれる。しかし、現実はそう単純ではない。さまざまな実験では、ゆっくり話すよりも早口で話しているほうが、好感をもたれやすいことがわかっている。それはなぜか。Screenless Media Lab.の堀内進之介さんと吉岡直樹さんの共著『SENSE』(日経BP)より紹介する――。(第2回)

■メールより直接伝えたほうが説得力は高い

言葉によるコミュニケーションでは、話される内容だけではなく、「伝え方」も影響力を持ちます。ここでの伝え方とは、言い回しではなく、トーンやイントネーション(ピッチ)を指します。同じ内容を話すにしても、早口か、ゆっくりか、女性の声か、男性の声かで、伝わり方がまったく変わります。

専門用語で、メッセージの内容やテキストの中身を「言語的チャンネル」、声の特徴を始めとする声にまつわる情報を「声的チャンネル」と呼びます。

通常、私たちの音声情報にはこのふたつが含まれていますが、テキストには前者の文字情報しかありません。言い方によって伝わるイメージの情報は増えますので、「声的チャンネル」のほうが情報量は多くなります。

その結果、声的チャンネルによって伝えられる音声特性は、言語的チャンネルによって伝達されるメッセージよりも重要な役割を果たすことがしばしばあります。

例えば、あなたが仕事を終えてそのまま帰宅する予定だった日に同僚に急に飲みに誘われたとします。そのときに自宅に電話して「今日、飲みに行くけどいい?」と家人に尋ねると、「いいよ」と返答をもらえました。

でも、この「いいよ」が本当に「いいよ」なのかは別の問題ですね。「いいよ」と口でいいながらも心の底ではそう思っていないことはよくあります。家人の「いいよ」の言い方次第では、家庭円満のために帰る人もいるはずです。

他の例を挙げると、仕事でクライアントと電話で話していて、「それいいですね、機会があったらやりましょう」といわれても、言葉通り受けとめる人は少ないでしょう。

「それいいですね」が本音かどうかは声を聴けばある程度はわかります。「検討します」、「前向きに考えます」と言われても、声から判断して「これはないな」と気づいた経験は誰もがあるはずです。声的チャンネルによってのみ伝わるメッセージがあるので、声を直接聴くことはビジネスで意思決定する際にも重要です。

■声の高さと話す速さが、人柄まで決める

このように、音声が重要な役割を果たしているのは明らかですが、声的チャンネルの研究は少ないのが現状です。人間の感覚に訴えるマーケティングの研究がそもそも少ないのですが、声の研究はとりわけ少ない印象です。

そうした中でも販売の場面や電話インタビュー、人前でのスピーチでの声の特性についての影響を考察した研究をいくつか紹介します。

これらの研究では、声の中の、大きくふたつの部分に着目しています。

ひとつは、声の高さ(基本周波数)、もうひとつはしゃべる速さ(発声速度)です。

このふたつが聴き手に大きな影響を与えています。話す内容の信憑性の判断基準になっているのですが、もっというと、聴いている側が、話し手自体が「どういう人か」を判断する根拠にすらなっているのです。

■低音の声は世界共通で「いい声」

心理学や言語学の研究によると、低音の声は高音の声よりも好意的に評価される傾向にあります。

イギリスの言語学者のアンドリュー・リン氏が2008年に手がけた研究によると、『ハリー・ポッター』のスネイプ役で知られる故アラン・リックマンの声が「理想の声」とされています。彼も低音の声ですね。

興味深いのは国や言語を問わず「いい声」=「低い声」と認識されている点です。

例えば、漫才コンビの麒麟の川島明氏は自身の声を「ええ声」とネタにしていますが、彼の声もバリトンです。そこに私たちが違和感を抱かないのは「ええ声」のイメージが低い声だからでしょう。ですからこの分野では、言語的な特性や文化的な違いを超えて、普遍的な影響力があると考えられます。

「いい声」、「低い声」、「高い声」に関する研究は70年代から80年代にかけて盛んに行われていました。

ある実験では、甲高い声の話者は低い声の話者に比べて、真実味に欠けて、協調性に欠けて、力強さに欠けて、神経質であると判断される結果が得られています。

また、同年代に行われた別の研究では、声の高さが高くなると話者の能力が低く、善良ではないと感じられたということもわかっています。話された内容そのものにも話し手の印象にも、声の高さが大きく影響しているのが理解できます。

■嘘をついているとき人間の声は上がる

嘘をついているときの音声の特徴を調べた研究もあります。それによると、嘘をついているときに声の高さは上がる傾向にあります。サスペンスドラマで嘘をついている登場人物の言葉が上ずるシーンがありますが、まさにあれです。

これらの研究は、声の高さとストレスや神経質、恐怖などの関連性を示唆しています。ですから、低音の声はストレスや神経質、恐怖と関係がないと判断されやすいですし、真実を語っている可能性が高いとも判断されやすい傾向にあります。

ここで、気をつけなければいけないのは、これを判断するのは、「受け手」であるという点です。発する側の人の責任で信頼性を左右する力が変わるのではなく、受け手の情報処理だという点がポイントになってきます。

■スネ夫とバイキンマンの声が高い理由

こうした情報処理を巧みに利用しているのが幼児向け番組です。ずるい奴や悪い奴が必ず登場しますが、そうしたキャラクターの声には共通項があります。

若い白人の女の子は、テレビでアニメーション映画の漫画を見て時間を無駄に床に一人で横たわっている
写真=iStock.com/Pawel Kajak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pawel Kajak

『ドラえもん』のスネ夫も『アンパンマン』のバイキンマンも声が高いですよね。視聴者にキャラクターのネガティブな印象を直感的に与えられるように声をつくっています。

反対に低い声は「いい奴」と思われる可能性が高くなります。

低く深みのある声は、なんと話し手の性格に好意まで与えるのです。その上、聴き手とは本来関連性の低い情報も受け入れる傾向が高まることもわかっています。

つまり、発信する人そのものが深みのある声で信頼に値すれば、自分は興味がなかったり、自分に直接関係なかったりする情報でも「なるほど」と受け入れやすくなる傾向があります。ある意味、内容の意味が少しわからなくても、低い声だったら信じやすくなる面があるのです。

「それならば、企業は低く深みのある声の人をCMに使えば、その製品は売れるのでは」と思われるでしょう。まさにその通りです。

■伝説的ボイスアクターの声色

ドン・ラフォンティーヌという伝説的ボイスアクターがいます。

彼は映画の予告編のナレーションを5000本以上、テレビ、ラジオのCMはそれ以上を数えきれないほど担当していたといいます。昔の映画の予告編などがYouTubeにあるので、聴いてみて欲しいのですが、声は超低音で深みはありますが、冷静に聴くと、決して聴き取りやすい声ではありません。ただ、超低い声のために、商品に好印象や信頼性を抱かせて、オファーが絶えなかったわけです。

低い声が信頼性を増すように感じるのは、私たちの情報処理の問題とお話ししました。しかし、脳のメカニズムの問題かというと必ずしもそうではありません。

これはあくまでも推論ですが、文化的な要因が大きいのでしょう。例えば法律的な助言だと、高い声よりも低い声のほうが信頼性が高いと感じる傾向にあるといわれています。これは法曹界がこれまで男性中心だったからにすぎないと思われます。

こうしたジェンダーギャップは、近年意識されてきています。

例えば、薬のCMのナレーションは以前は男性の声が大半でしたが、最近は女性の声が目立ち始めています。ですから、こうした積み重ねで、長期的には私たちの認知が変わる可能性もありますが、現時点では低い声が高い声よりも好意を形成しやすいのが現実です。

■信用される話しのスピードは「ゆっくり」か「早く」か

続いて、話し方の「速度」を見ていきましょう。

マーケティングの世界では、ゆっくり話すよりも速く話したほうが説得力が増すことが、多くの経験的な証拠によって裏づけられています。

いくつかの研究によると、速く話す人のほうが能力や信頼性が高いと判断される傾向にあります。話すのが速い人は、より知的、知識豊富、客観的と見なされたり、より真実味があり、真剣であり、説得力があると見なされるのです。

こうした研究が行われるようになった背景には60-70年代のテレビの爆発的な普及があります。

この時期は、企業もテレビに広告を積極的に出稿したい時代でした。ただ、放送時間は限られています。そこで、何をしたかというと、テレビ局は広告そのものの音を編集しました。早回しをし、収録された実際の時間よりも放送時間を圧縮し、多くのCMを流したのです。

そうした早回しした広告は、人々にどのような影響を与えたかに注目が集まり、研究が進みました。そして、それらの研究で、人々は通常の話し方よりも、適度に速い発話を好むことがわかりました。

■なぜ速い発話が好まれるのか

聴き手は話を早くされると、聴き取りにくいので、理解しようと、ついていこうとします。注意を向けざるを得ません。

これは本書の第1章、第2章で強調した点とも関係します。人間は自分から情報を積極的に取りに行くのは面倒くさがります。ゆっくり話された内容を、ゆっくり理解するほうが負担なのです。

一方、早く話されると自分は何もしなくても、無意識に注意が引っ張られます。自分が追いかけなくてすむのです。このプロセスが負担免除されるため、気が楽になります。

通常の速度よりも速い発話のほうが、その処理に大きな力を割くことが研究からわかっています。時間圧縮により早くなった広告のほうが、リスナーはより良く思い出せた上に、広告に対してより好意的にもなりました。これは発話が速くなると注意が引っ張られ、思わず聴いてしまうので内容がよく理解できるからです。

■子供が「みかんせいじん」に夢中になる必然

これに関連した事例として英語の倍速学習が挙げられます。英語の学習アプリには倍速再生機能があります。あれはスピードを速くしてリスニングに慣れる狙いもありますが、注意を向けさせる狙いもあります。注意が引っ張られて、学習効果が高くなります。

人間の耳は音に慣れます。1.5倍速で聴くと、当初はほとんど聴き取れませんが、1.3倍速に落とすとすごくゆっくりと感じます。速い速度で聴いてそこから速度を落とすと、人間の脳は処理が容易になります。

女性は耳の近くで手を握り、灰色の壁の背景に孤立して飛んで慎重にアルファベットの文字を聞きます
写真=iStock.com/SIphotography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SIphotography

私は、もし読まなくてはいけない本を読みたくないときには、読み上げソフトを倍速で流します。そうすると意識が向きます。音声の速度をうまく使うことで注意が向くからです。

少し古い話題で恐縮ですが、90年代に放映された子供向けテレビ番組『ウゴウゴルーガ』に「ミカンせいじん」というキャラクターが登場し、人気になったことがあります。ミカンせいじんは当時の幼児番組に珍しく、話すスピードが速く話題になりました。

これは子供の注意を向けさせる効果を狙っています。もちろん、子供たちは意識していませんが、直感的に見てしまったわけです。

■とにかく速くしゃべる人は「頭いい人っぽい」

人は、速い音声には無意識に注意を向け、よりよく理解し、その上好感を持つ、という話をしました。

しかし、これにはもっと適切な説明があるとの異論があります。聴き手が「好意的になる」ということは変わりませんが、それ以外が違います。実は、こちらの説のほうが有力だとも言われています。

広告の発話速度が速くなると、聴き手にとって、メッセージの内容を理解することが難しくなり、しかも広告自体から離脱してしまう可能性が高くなります。にもかかわらず、「なんだかわからないけどよく感じる」という説があるのです。

中身が理解できていないというのに好感を抱くのはなぜでしょうか?

この説によると、広告からの離脱の有無にかかわらず、リスナーは内容をあまり理解しない代わりに、話し手の声の好感度など、周辺の手がかりに焦点を当てるようになるというのが理由です。

つまり、話の速度が速くなると、内容を無視して、話し手の「速い」という特徴が好意の形成にダイレクトに反映されるというわけです。

内容がわからないので、逆に聴き手はこの人はどんな人なのか推測することにばかり関心が向いて、「よどみなく、深みのある声でしゃべっているから、この人はわかってるんだろうな」と好感を持って受けとめます。

この仮説では、発話が速くなることで内容が理解されて好意が形成されるのではなく、速くなるとよく内容がわからないので、周辺情報に関心が向いて、最終的に好意の形成につながります。

速すぎると、聴き手は周辺情報に関心が向くのがこの説のポイントです。

■最も信頼されない話し方は「高い声でゆっくり」

これまでの声の高さと話の速さを組み合わせるとどうでしょうか。

堀内 進之介、吉岡 直樹『SENSE』(日経BP)
堀内進之介、吉岡直樹『SENSE』(日経BP)

声は低いより高いほうが信頼性がなく聞こえるという研究を紹介しましたが、声が高くても、「速さ」を組み合わせると、知的だと感じられるようです。聴き手は内容をしっかり聴いて判断するのは負荷が高いので、高い声でも速くしゃべられると楽になり、「なんとなくすごい」と思ってしまいます。

まとめると、聴き手を引きつけるしゃべり方としては「低い声でよどみなく速くしゃべる」が一番理想的です。その次は「高い声でよどみなくしゃべる」になります。その次に「低い声でゆっくりしゃべる」で、最も聴き手を引きつけないのが、「高い声でゆっくりしゃべる」になります。

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堀内 進之介(ほりうち・しんのすけ)
政治社会学者
Screenless Media Lab.所長、東京都立大学客員研究員ほか。博士(社会学)。単著に『データ管理は私たちを幸福にするか? 自己追跡の倫理学』(光文社新書)『善意という暴力』(幻冬舎新書)『人工知能時代を〈善く生きる〉技術』(集英社新書)ほか多数、共著に『人生を危険にさらせ!』(幻冬舎文庫)ほか多数。翻訳書に『アメコミヒーローの倫理学』(パルコ出版)がある。

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吉岡 直樹(よしおか なおき)
Screenless Media Lab.テクニカルフェロー、ディレクター。(株)XAMOSCHi代表。デジタル系プロダクションの設立を経て現職。日本ディープラーニング協会認定ジェネラリスト(JDLADeepLearning for GENERAL 2017)、米国PMIR認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル、経営学MQT上級(NOMA)、ウェブ解析士(WACA)、日本マネジメント学会正会員(個人)。共著に『AIアシスタントのコア・コンセプト』(ビー・エヌ・エヌ新社)がある。

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(政治社会学者 堀内 進之介、吉岡 直樹)

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