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橋下徹「なぜ今、トップの決断は正解を目指すより『後から修正』が優れているか」

プレジデントオンライン / 2022年10月14日 9時15分

早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最新の著作は『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)。 - 撮影=的野弘路

元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「正解がわからない中での最適解の導き方」です――。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2022年10月14日号)の掲載記事を再編集したものです。

■Question

政府対応が二転三転、混乱を招いています

新型コロナウイルス感染者数の把握に関し、政府対応が二転三転しました。1度は「全数把握の見直し」を表明し、判断を都道府県に委ねたものの、批判が相次ぎ、「全国一律」に方針転換。

誰も正解を知らない問題に対して決断を下すのは難しいことです。リーダーはどのように決断を下すべきでしょうか。

■Answer

修正しても構わない、決断のプロセスを可視化せよ

世界では今「アジャイル」(俊敏性)の必要性が語られています。ビジネスの世界でも、熟慮に熟慮を重ねて“正解”を導くより、まずは現時点で最適と思える選択を行い、走り出してから不具合が出たら修正していく柔軟性と機敏さが求められています。

その意味では「早く、不十分、すぐ変更」でも、僕は構わないと思っています。もちろん理想は「早く、完璧、無変更」で、そのほうが現場も混乱せずスムーズに物事は進むでしょう。でも、世の中そう単純ではありません。ことに感染症など刻一刻と状況が変化していく状況下では、早期になるべく「正解に近い判断」を求め、走りながら試行錯誤していくしかありません。

困難な意思決定の概念
写真=iStock.com/Bulat Silvia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bulat Silvia

もっとも、今回の政府の判断のように「遅く、不十分、すぐ変更」はよろしくないですね。

今回は2022年7月末に全国知事会や日本医師会から「感染症法上2類相当から5類相当への見直し」の要望が出され、それに応える形で、8月末の「全数把握見直し」の結論が出ました。要請から決断まで1カ月も時間を要した以上は、それなりに正解に近い答えを出したのだろうと思いきや、知事会からの反発を受けてすぐに「変更」となってしまった。これではリーダーとしての決断力が疑われても仕方がありません。

ここで菅義偉前首相の決断法と比べてみましょう。両者のやり方には大きな違いがあります。菅さんはまず自分で結論を下し、後から周辺意見をもとに修正していくタイプでした。僕自身は菅さんの出す「結論」におおむね賛成でしたが、世論の受け止め方は違っていました。「周囲の意見を聞く耳を持たない」「強気に決めたわりに、後から修正ばかり」「軸の定まらないリーダー」との印象を与えたようです。

しかし、リーダーがまず最適と判断した方向に走り、専門家の指摘があれば後から修正していく姿勢は、まさに「アジャイル」の実践ではなかったでしょうか。一方、その対比として登場したのが岸田文雄首相です。「聞く力」を前面に出し、「自分たちの意見を聞いてくれる」印象が内閣支持率を向上させました。

実際、岸田さんは世論を見る目が優れています。賛否両論ある問題を、世間すなわちメディアがどのような論調で語っているかを見定め、決断する。だからこれまでの「結論」の多くは、世論とそう大きく乖離はなかったはずです。ただ、そろそろこの手法も国民から飽きられ始めているのかもしれません。たとえば安倍晋三元首相の「国葬」決定は大問題に発展し、これを機に支持率も下がってしまいました。

大きな課題に関する決断の仕方は、菅さんと岸田さんとではこのように大きく違います。しかし、共通しているのは決断へのプロセスが見えにくいということです。ここがリーダーの決断として悪いところです。実は正解のわからない課題であればあるほど、決断の中身以上にプロセスが大切なのです。

すでにこの連載でも取り上げましたが、異なる意見が存在する際は、自分たちの主張・理由・背景をしっかり語ることのできる良質な論者をそれぞれの陣営から登場させ、彼ら彼女らに徹底的に議論させます。リーダーは両者の主張を聞き、議論が出尽くした後に、「決断」を下すのです。その際に公開議論の形式を取ることで、メリットもデメリットも考慮に入れたうえでの決断であることが国民や社員といった多くの利害関係者にも伝わります。ここで得られる納得感が大事なのです。

徹底的な議論を行うには、大人数の審議会方式ではダメ。それでは毒にも薬にもならない無難な結論に陥るからです。メリットもデメリットも含め、徹底的に議論できる少数精鋭の意見の対立する論者を集めることです。

■決断においては「本質を見る力」が問われる

さて、そのようなプロセスを通じてリーダーは決断を下すわけですが、決断においては「本質を見る力」が問われます。表現を変えれば「枝葉末節を削ぎ落としていく」力。たとえば、「感染者の全数把握見直し」の背景には、逼迫する保健所や医療機関の業務軽減という目的がありました。全感染者について細かな記録をとっていくことは膨大な事務負担なので、それを軽減しようという考えです。しかし記録の事務負担軽減というのは本質議論ではなく、手段の議論です。

まずここで議論しなければならないことは、保健所や医療機関がどこまで患者の面倒を見ていくのかということです。ワクチン接種者も増え、感染者の9割以上は軽症か無症状です。にもかかわらず、全感染者に対して保健所や医療機関が手厚く面倒を見るのであれば、医療インフラがパンクするのは誰の目にも明らかです。ですから本当に医療が必要な人々に手厚く医療サービスを提供すべきという本質に立ち返り、軽症者や無症状者は原則自己管理に切り替えるべきです。そうすれば軽症者や無症状者については詳細な記録をとる必要がなくなります。

そもそも通常の病気の場合は、基本的に「自己管理」ですよね。異変が起きたら、病院に連絡して治療なり入院をするのが基本スタイル。保健所などから積極的に病状を聞かれたり、食事が届けられたりすることなどありません。なのに新型コロナだけが、なぜか軽症者や無症状者であっても自治体が積極的に全面サポートする。そのために全感染者について細かく記録をしなければならなかったのです。つまり詳細な記録は、患者をサポートするための手段なのです。

■「本質」を議論する作業は、皮をむいていく作業

ですからここで本来議論すべきは、手段である全感染者についての詳細な記録(全数把握)を見直すかどうかではなく、「軽症者・無症状者に対して保健所や医療機関はどこまでサポートするべきか」という医療の本質論だったのです。その「本質」の議論が抜け落ちたまま、「手段」の見直しだけが発表されたため、大混乱が生じてしまったのです。記録を省略化した場合、軽症者・無症状者への対応はどうなるのか?と。まずは患者への向き合い方について結論を出して、そのうえで記録の省略化の議論をすべきでした。

「本質」を議論する作業は、皮をむいていく作業です。枝葉末節をすべて削ぎ落とし、そもそも自分たちは誰のために、何の目的で、何の議論をすべきなのか。この本質を抽出する能力と、異なる見解の論者にオープンの場で議論させるというプロセスを踏む力量がリーダーの「決断力」の源です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著書に『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)がある。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 撮影=的野弘路)

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