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支払った消費税の半分以上はネコババされている…日本の税制は「金持ちと大企業」にあまりにも有利すぎる

プレジデントオンライン / 2022年10月18日 10時15分

出典=『平等バカ』

日本の税金はなぜ高いのか。生物学者の池田清彦さんは「簡易課税制度や輸出還付金があるため、消費者が消費税として払った金額のうち、実際に国庫に入るお金は半分以下。所得が低い人ほど不利という不公平な制度になっている」という――。

※本稿は、池田清彦『平等バカ』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■金持ちは税金徴収システムの裏をかく

現実にある経済的格差があまりに大きすぎて、もう多くの人たちは一部の富裕層に対する羨望の眼差しを向けることさえしなくなりつつあるが、ピケティは高所得者の税負担を増やすことが格差の是正に必要であると論じている。

ただ、グローバル化が進んだ現代は、金持ちの金は国内だけで動くわけではない。

海外の株に投資したり、海外の土地を買ったりして儲けることだって自由にできるのである。

また、タックス・ヘイブン(課税が著しく軽減されたり完全に免除される国や地域)を使って税を逃れることもできるだろう。

金持ちは税金徴収システムの裏をかきながら自らの富を増やしていくのだ。

それを抑制するためには世界的な規模の協調が不可欠だとピケティは言っているのだが、国にはそれぞれに国家主権があるからなかなか難しい。

むしろそれを助長することで儲けようとする国もあって、そこがマネーロンダリングの天国のようになっており、簡単には制御できなくなっているのだ。

■日本の税制は富裕層に有利

そもそも日本の現行の税制自体が、富裕層に忖度(そんたく)していると思えてならない。

個人の所得税は7段階の累進課税だが、4000万円以上の所得に対しては一律45%である(図表1)。

つまり、4000万円を超えたところからは、5億だろうが、10億だろうが、100億だろうが、税率は同じなのである。

2014年までは所得1800万円以上は一律40%だったので、そのころに比べれば随分ましにはなっているが、この程度の改正ではとてもじゃないが、広がった格差の是正にまでは至らないだろう。

■株による収入はどれだけ儲(もう)けても税率20%

もっと問題なのは、株による収入は分離課税の対象なので、累進課税が適用されず、どれだけ儲けても税率は約20%だということだ。

つまり、働いて得た1億円だと住民税まで含めれば約5000万円の税金を取られるのに、株で1億円儲けた場合にはそのうちの約2000万円しか取られない。

これこそが、格差拡大をさらに深刻にする税制なのである。

金持ちは税金徴収システムの裏をかく
写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

まあ所得にしろ株の収入にしろ、その金額が膨大だからといって極端に高い税率を課したりすれば、当事者たちは全力で節税対策を講じるだろう。

その道のプロをお金で雇って税制の欠陥や抜け穴をうまく使い、時にはタックス・ヘイブンも活用して、合法的に課税を逃れようとするだろうから、結果はたいして変わらないようにも思われる。

つまり、どんな複雑なシステムを構築しようとも、お金を貯め込むことに取り憑(つ)かれた亡者たちにはあまり効果がないというわけだ。

築き上げた巨大な富から派生する余剰金の大半を寄付しているビル・ゲイツのような「ノブレス・オブリージュ」が真に浸透する世界にならない限り、格差の是正など望めないのかもしれないね。

■所得が低い人ほど消費税の負担が高い

国税庁のホームページで「商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税」だと説明されているにもかかわらず、消費税に対して不公平感を抱いている人は多い。

生活必需品の購入にかかる費用が同じなら、所得の低い人のほうが家計における税負担率は高くなるのが当然なので、「逆累進性」という現象が起こるのは間違いない。

ただ、それ以上に私が気になるのは、例えば1000万円の家を買うのがやっとという人にとっての10%と、1億の家を買える人にとっての10%はまるで重みが違う、という意味での不公平感である。

■福祉に使われる消費税はたった2割

もしも消費税というものが、当初約束されていたように福祉のために使われるのなら、巡(めぐ)りめぐって自分に戻ってくる可能性が高いので、不公平感という犠牲を文字通り「払った」としても、無意味だとは言い切れない。

しかし、実際のところ福祉に使ってるのは2割以下であり、残りの8割以上は一般財源に組み込まれてその使い道は煙に巻かれ、いったい何に使われているのかはわからない。

国民の多くが反対するなか、開催を強行した東京オリンピック・パラリンピックのために使われた可能性だってあるというわけだ。

医療費の負担が高まる中、消費税の使途が問われている
写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

■実際に国に入るのは半分以下

しかも、法人や個人事業主には消費税の納税義務が免除されるケースがある。

そのせいで消費者が支払った消費税は、実はその半分以下しか国に入っていないということをご存じだろうか。

消費税の場合、仕入れの際に払った消費税と、それを売ったときに受け取った消費税の差額を消費税として国に収めるのが原則である。

つまり、受け取った消費税が100万円で、支払った消費税が30万円なら差し引き70万円を納めればいいということになる。

ただし、中小の事業者に対しては、簡易課税制度がある。課税売上高が5000万円以下の事業者には、仕入れにかかった消費税をいちいち計算せず、みなしで計上してもいいという制度だ。

例えば卸売業では、課税売上高の90%が「みなし仕入れ率」である。

ほかの業態でも、小売業では80%、農業や漁業では70%(ケースによっては80%)、飲食店では60%、サービス業では50%、不動産業でも40%を「みなし仕入れ率」とすることが認められている。

中小事業者はみなし仕入れ率を利用できる
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

小売業で3000万円の課税売上高があるとすれば、受け取った消費税は300万円であるはずだ。ただし、このうちの80%(240万円)は仕入れのときに消費税として支払ったと「みなす」ことが認められているので、実際に国に納めるのは、300万円のうちの20%、つまり60万円でいいことになる。

もちろん実際に仕入れ時に支払った消費税が例えば280万円だったときは、300万円-280万円で20万円だけ支払えばいいので、事業者は有利なほうを選択できる。

このような大甘の制度がある限り、消費税として国に入る総額が本来徴収すべき額よりも少なくなってしまうのは当然だろう。

■大企業を大儲けさせている「輸出還付金制度」

海外で販売する商品には消費税が発生しないため、仕入れの際に支払った消費税分は「輸出戻し税」というかたちで還付される。これが「輸出還付金制度」と呼ばれるものだ。

輸出で稼ぐ大企業にとってこれは非常にメリットが大きい。表向きは「仕入れの際に支払っている」ように見えても、実際には下請けの中小企業に対する買い叩きは常態化しているので、実質的には消費税分は支払っていないに等しいケースがものすごく多いからだ。

そうなると、支払ったと見なされる消費税分はまるまる還付される。

2019年12月9日付の全国商工新聞によれば、2018年度の輸出戻し税の還付額は、トヨタ自動車は3506億円、日産自動車は1509億円、本田技研工業は1216億円にのぼると試算されている。

この金額は消費税が8%当時のものなので、2019年10月に税率が10%になって以降は、還付金はさらに膨(ふく)らんでいる可能性が高い。

池田清彦『平等バカ』(扶桑社新書)
池田清彦『平等バカ』(扶桑社新書)

もちろん、これらはすべて合法であり、彼らは不正など犯してはいない。とはいえ消費税率が高ければ高いほど得をするのは確かなのだから、財界の大物たちは消費税増税に決して反対しないのだ。

こうなると買い叩かれたほうの中小企業にものすごいしわ寄せがいくようにも思えるが、課税売上高が1000万円以下であれば、消費税は免除されるので、売り上げ規模が小さい企業に痛みはない。ただしその場合、国には結局、何も入ってこないということになる。

消費税の回収率が半分以下というのはそれらもろもろの結果である。こんなことがまかり通っているのだから消費者は完全にバカにされていると考えたほうがいい。

不公平感などという感覚的なものではない本当の不公平は、このように水面下で確実に起こっているのである。

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池田 清彦(いけだ・きよひこ)
生物学者、評論家
1947年、東京都生まれ。東京教育大学理学部生物学科卒。東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。専門は、理論生物学と構造主義生物学。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」への出演など、メディアでも活躍。『進化論の最前線』(集英社インターナショナル)、『本当のことを言ってはいけない』(角川新書)、『自粛バカ』(宝島社)など著書多数。

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(生物学者、評論家 池田 清彦)

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