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月2、3時間の稼働で20万円…「定型業務の自動化」で生じる"報酬が上がる仕事、下がる仕事"のすさまじい格差

プレジデントオンライン / 2022年10月22日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

AI時代、働き方はどう変わっていくのか。クロスリバー代表の越川慎司さんは「定型業務は完全自動化され、働き方の大変化が生じる。より早く新しいモデルに移行できたビジネスパーソンと、旧態依然のままの人にはけっして埋まらない差が生じる」という──。(第3回/全5回)

※本稿は、越川慎司『29歳の教科書』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■労働集約型の働き方は終了

2020年に中小企業が労働基準法改正(残業抑制)の適用対象となり、その時点で除外された業種(建設業と物流業など)へもいよいよ2024年に適用されます。法律をおかしてまで残業を続けることはないでしょうから、「長時間労働を抑制する」という1つの指標は達成に近づくでしょう。

しかし、テクノロジーを駆使した業務効率化を進めたり、人を集めて売り上げを伸ばすような労働集約型のビジネスモデルを改めたりしない限り、今後は会社の利益を伸ばし続けることができません。

限られた時間で成果を出し続けるには、労働時間といった量の改革ではなく、労働によって生み出される価値の向上といった質の改善が求められます。

■「アベンジャーズ化」するビジネスの未来

価値を生み出すのは、顧客や社会の課題解決です。しかし、その課題があまりにも複雑になり、一個人や1つの会社で解決することが難しくなってきました。

そうなると、必要な能力を持った人たちがプロジェクト型で結集し、1つのチームとして取り組んでいく方式が主流となっていきます。

たとえるなら、米国映画『アベンジャーズ』のようなものです。メンバーの強み弱みを掛け合わせたチームが巨大な敵を倒していく、それと同じです。効率化してじっくり個人で能力を磨いていくのではなく、自分の弱みを補完してくれるメンバーを仲間にして、課題解決に当たるのです。

より多くの課題を解決していくには、こうした各個人が持つスキルの組み合わせが不可欠になっていきます。

■すでに進む大変化

さまざまなスキルを持ったメンバーがチームを作る際には、社内のみ、正社員のみ、都市部のみ、日本のみといった「壁」は打破されます。テクノロジーの進展で、誰でもどこでもインターネットに接続できるようになり、Zoomがあれば即座に集まることができます。

社内の英知だけで解決できなければ、他社のメンバーと連携していけばよいのです。リモートワークで共同作業ができれば、オフィスに通勤できる都市部のメンバーだけでチームを組む必要もありません。特殊能力を持っていれば、正社員でなくても、契約社員や個人事業主(フリーランス)でも構いません。

さらに、自動翻訳の技術がどんどん進化しています。多言語を使いこなせるようになれば、世界各地のメンバーとつながることができます。

オフィスに出社しない宮崎の開発チームが、北海道の営業担当やパリのコンサルタントとつながり、自動翻訳を通じて新商品の開発についてディスカッションする、というような世界観です。社内のクローズド(閉ざされた)な環境ではなく、オープン(開放された)な世界で活動していく。

さまざまな壁がなくなったボーダーレスな環境で、多様な能力が絡(から)み合い、従来経験したことのない解決策、つまりイノベーションを生み出すような働き方へと大きく変化していきます。

私自身、この大きな変化の只中を生きていますし、次代を担う20代、30代は、キャリアのスタートからそれが当たり前の世界を生きるようになる。まずはその事実を知ってください。

■今後のキャリアアップはRPG化する

このような社会の変化を踏まえ、私は、これからのキャリア構築は「ロールプレイング(RPG)型」になると考えています。

自分が目指すキャリアゴールに向けて何をすべきか、オープンワールドの“冒険”の旅を続けながら、自分自身で探索していきます。

そして、自発的に学習することによって、単純にレベルアップするだけでなく、勇者だったところから、次は魔術師になるといった“転職”も通じて、スキルの複線化が実現できます。

どんどん転職を重ねて、学習し続けることで、キャリアが多様化する──このスタイルはまさしくRPGに似ていると思います。今後のキャリア構築は、積み重ねるラダー型(階段型)ではなくて、こうしたRPG型になっていくと確信しています。

そして“働く環境”それ自体も、国境や言語の壁がなくなり、オープンワールド化していきます。思うがまま、どこにでも行ける広大なフィールドの中を動き回り、みずから探索し、課題を設定し、転職や学習などに自律的に取り組むことが求められるようになるのです。

■テクノロジーによる「人間の補完」

こうした変化をテクノロジーの進化が促進します。

越川慎司『29歳の教科書』(プレジデント社)
越川慎司『29歳の教科書』(プレジデント社)

2022年1月の世界経済フォーラムでは、「テクノロジーによる労働力の拡張」という報告書を発表しています。テクノロジーによる人間の補完を一段と加速させる必要があると主張しているのです。

営業や人事や経理といった職種を含むホワイトワーカーにとって、最も影響があるのは「RPA」というツールでしょう。これは、Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の頭文字を取った略語で、定型業務を自動化するものです。

たとえば、インターネットで必要な情報を収集・統合してシステムへ入力するという作業や、財務レポートの作成など、標準化された業務プロセスを自動的に行うこと、さらには過去のやりとりを学習して、顧客からの問い合わせなどに対応することもできます。

■広がるデジタル・レイバー

米マッキンゼー・グローバル研究所の調査では、2025年までに全世界で1億人以上の仕事がRPAなどの自動化ツールによって置き換わるとしています。

RPAのようなツールは、テクノロジーとしてではなく、「デジタル・レイバー」、つまり、人間に代わる新たな機械の労働力と捉えて最適な業務に配置し、企業が戦略的に導入すべきものとなりました。そして、人間はAIに代替できない非定型業務を行うことになっていきます。

その一方で、いままでにないようなイベントを企画したり、データの分析方針を決めたり、見解の異なる人を説得して協働作業したりすることが「人間の仕事」になっていきます。

■日本はAIで年平均成長率3倍の試算も…

アクセンチュアとフロンティア・エコノミクスの共同報告書では、テクノロジー活用が遅れている日本は、AIによる成長余力が高く、2035年までの年平均成長率は約3倍に達すると試算しています。

アクセンチュアは、2035年まで年平均0.8%にとどまる見込みの日本の成長率について、AIを十分に活用できれば、これを2.7%まで引き上げられる、としています。AIなどのテクノロジーを各業種で活用することによって、事業を継続できるどころか、成長を促進することができるというのです。

RPAによって多くの定型業務は自動化できます。今後はAI搭載ロボットも続々と登場し、人間以上の認識や予測、実行ができるようになります。RPAやAIは、人間と違って24時間働き続けることができます。そうなると、人間が週5日も働く必要がなくなる会社も出てきます。

社員が週休3日でも会社の収益が伸びていけば、社員の給与を下げる必要はありません。給与が下がらない週休3日の会社があれば、魅力を感じた労働者が押し寄せるでしょう。少子高齢化で人材獲得競争が激化する中にあって、「週休3日・給与変わらず」の待遇で採用活動が優位になることは間違いありません。

もちろん、すべての業界、すべての人が週休3日制になるなどとは思っていません。それでも、週休3日制は働き方の1つの選択肢になっていくことは確実です。

■「新しい働き方」を5年半実践してみた

そこで、私は2017年に創業したクロスリバーで、こうしたテクノロジーを活用した新しい働き方(「Web3の働き方」と呼んでいます)を実践してみました。週休3日・複業・完全リモートワークを続け、この原稿の執筆時点で、5年半にわたって継続しています。

気づいたら「DAO」を実践していたことになります。

DAOとは「分散型自律組織」のことを指し、次の3つを表す単語の頭文字を取っています。全員フラットな関係性で中央に権限が集中しておらず(Decentralized)、全メンバーが自律的に行動して自走する(Autonomous)組織(Organization)である、ということです。

また、「複業時代が来る」と予測していたので、複業でないと入社できないルール、つまり専業禁止としました。クロスリバーのメンバー全員がほかにもメイン業務を持っています。

■異質なメンバーの「パーティー」で化学反応が起きる

当初3人でスタートし、現在は39人にまで増えました。変わったところでは、医師が在籍しています。民間企業に勤めているメンバーもいますし、住職(お坊さん)もいます。お坊さんはクロスリバーのトップセールスです。

そうした異質なメンバーのパーティーを結成することで、化学反応を起こそうとしています。働きがい制度の新設や大規模ウェビナーの企画などのプロジェクトで、多様なメンバーに参画してもらい、斬新なアイデアを出し合っています。

さらに、地域分散も実行しています。デジタルの世界における分散ではなくて、地理的に行おうと考え、39人は世界の各エリアで働いています。

日本では東京・名古屋、アジアではほかにバンコクで働いているメンバーがいます。ヨーロッパではパリ、米国ではシアトルとニューヨークの2拠点でメンバーが働いています。

グローバルに活躍する人材のイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■世界中で常時メンバーが稼働

こうして日本を含むアジア、ヨーロッパ、米国で地域分散することにより、時差を活用することができるようになりました。太陽が昇っている地域で誰かしら働いている、という態勢にほぼなっています。

たとえば夕方5時に私が日本で仕事を終えて、作りかけの提案書をビジネスチャットでシアトルのメンバーに送るとします。シアトルのメンバーは日本が夜間のうちに、その具体的な指示を読み、提案書の続きを作成して私へ返信します。すると、日本時間で朝を迎え、起床した私が完成した提案書を見てガッツポーズする……という感じです。

逆に、ニューヨークのメンバーが、編集の詰めの作業が終わっていない動画を送ってきて、日本のメンバーが仕上げをして送り返し、ニューヨークのメンバーが動画の最終データを出力して日本のメンバーに共有する、といったこともできます。

時差を活用することでメンバーの勤務時間外にほかの地域のメンバーがサポートし、「朝起きたらできている」という状態を作ることができているのです。

■いつでもどこでも働くことができる

全メンバーが週休3日ですから、円滑な運営にはメンバーの助け合いが必要です。同じ曜日に全員が休むのではなく、土日以外の平日休みをメンバー同士で調整しています。

クロスリバーでは2人組体制を取っていて、2人を1ペアにして、一方が水曜に休んだらもう一方は水曜以外で休む、というルールにしています。休みが重ならないようにして、休んだ人のカバーができるような態勢にしていることで、特定の人に依存する状態を防ぎ、かつ、お互いの業務が理解できて一石二鳥です。

このように、デジタルツールを使うことで、「いつでもどこでも働くことができる」ということを実感しました。グローバル規模でプロジェクトを組めば、時差が使えて、短時間で高品質のアウトプットをすることができるのです。

■「働き方実験」で気づいた2つの事実

Web3の働き方を実践して、わかったことが2つあります。

①都市部のアドバンテージは消えつつある

1つめの気づきは、世界の人と普通に仕事ができるということです。日本に住んでいると有利、東京に住んでいると有利といったことはいっさいありません。能力のある人は、どこに住んでいても引く手あまたです。

居住地に捉われずに、世界各地の人々とボーダーレスにつながり、一緒に仕事ができる世界になったことを実感します。

日本では、大企業の本社がある都市部の近くに住まないと通勤ができない、というのがこれまでの常識でした。しかし、Web3では通勤という概念が消えつつあり、今後はどうしても対面が必要となったら出社するスタイルに変わっていきます。

この動きを利用して、住居費が安い地方に住んで、浮いた費用を健康や教育に充てたほうがスマートだと考えます。

■多拠点生活は簡単に実現できる

私自身、多拠点生活を実践しています。現在は「温湿度の快適さは作業生産性を上げるのか?」という実証実験を行っています。月額サブスクサービスのADDress(*1)やSANU 2nd Home(*2)を使って、季節ごとに快適な場所を選び、リモートワークをしているのです。

*1 ADDress 月額4.4万円から全国どこでも住み放題 https://address.love
*2 SANU 2nd Home 自然の中にあるもう1つの家 https://2ndhome.sa-nu.com

本書は、週末に山中湖畔で執筆しました。都心は最高気温35度を超えていましたが、山中湖は20度超で過ごしやすく、これまでよりもスムーズに執筆ができています。

パソコンとコーヒーが置かれた窓辺のデスク
写真=iStock.com/AlessandroPhoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlessandroPhoto

■報酬が上がる仕事、下がる仕事がはっきり分かれていく

②自分の仕事が見えてくる

気づいたことの2つめは、「自分がすべき仕事」がわかってくるということです。

クロスリバーでは、ITツールを積極的に導入しています。クラウドサービスは200以上トライアルして、業務にフィットするものを月額サブスクで利用しています。請求書発行や経理処理、情報収集やデータ解析など多くの部分を自動化することができたのは、テクノロジーのおかげです。

しかし、テクノロジーでは代替できない業務もあります。クレーム処理を含む顧客対応や、経営者のコーチング、イベントの企画やタスクの優先順位づけなどは人間がやらざるをえません。つまり、改めて「人間にしかできない仕事」が明らかになりました。

また、「誰にでもできる仕事」もわかってきました。高度なスキルや豊富な経験がなくてもこなすことができるタスクはあります。このような専門性を必要としない仕事は、作業時間当たりの報酬がどんどん下がっていくと感じています。

一方で、スペシャルな技能を持った人の仕事は、単価が上がっていくと実感しました。クロスリバーの中には、月に2~3時間の稼働で20万円の報酬を手にするデータアナリストがいます。

■「行動の選択肢」を増やそう

人間にしかできない仕事がわかってきて、かつ時給の高い仕事が見えてくると、自分が目指すべきゴールをより明確な形で想像するようになりました。自分がしたい仕事、自分がすべき仕事が見えてきたことは大きな収穫でした。

働き方実験を進めることで、新たな気づきを得ることができます。気づきをさらに次の実験に活かせば、行動をいっそう進化させることができます。

激しい変化の時代を生き抜くには、行動の選択肢を増やしておくことが必要です。

■「働き方実験」は今日からできる

コロナ禍(か)になればリモートワーク、人手不足になったら地方のメンバーをリモート採用、時間が足りなくなったら時差を活用して他地域のメンバーに協力を求め、インフレになったら生活費の安い地方で暮らす……などなど。

行動の選択肢を増やすには、働き方実験が必要です。地方で働くワーケーションを1日試してみる、2カ月に1回は平日に有給休暇を取得してみる、といった働き方実験なら、すぐにでも実行できるはずです。

これからの大きな変化に備えて、ちょっとした働き方実験を試してみてください。

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越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。

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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)

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