5リットルの業務用ウイスキーが2週間で空に…女性ライターが直面した「ひとり家飲み」の危険性
プレジデントオンライン / 2022年10月15日 15時15分
■不安を打ち消す家飲みで逆流性食道炎に
「あー、逆流性食道炎ですね」
胃カメラの際の鎮静剤でぼんやりしていた頭が、この一言で一気にクリアになる。忘れもしないコロナ禍の胃カメラ検査。
それまで胃に関しては何の疾患もなかった。しかし、緊急事態宣言の発令により、仕事のすべてが飛んでしまい、失職不安を打ち消すため、あろうことかお酒に逃げ、逆流性食道炎になるほど飲んでしまったのだ。
自粛期間中は外飲みができないので、仕方なく家飲みオンリーとなる。最初のうちはビール程度で満足していた。しかし、外出が制限されるようになると、業務用の5リットルのウイスキーをネットで買い、まだ日の高いうちから濃い目のハイボールを飲むようになっていった。
気づくと、大きなボトルはわずか2週間たらずで空に。さすがに「これはまずい」と自分でも思うようになった。タイミングよく胃カメラ検査があったことで、自戒して酒量を減らせたが、検査がなかったら確実にアルコール依存症になっていただろう。この時、初めて自制がきかない家飲みの怖さを痛感した。
■「居酒屋離れ」で「家飲み」が主流に
現在は感染者数が減り、酒場にだいぶ人は戻ってはきているものの、コロナ禍と相次ぐ値上げのダブルパンチで、「居酒屋に行く頻度が減った」「家飲みがメインになった」という声をよく耳にする。実際、総務省が発表した2人以上世帯を対象にした「家計調査」(2020年5月)によると、酒類の支出額は前年比で25.6%も増えている。
酒飲みにとって、家飲みはパラダイスだ。その魅力は、何といっても人目を気にせず、自由にお酒が飲めること。終電時間や財布の中身を気にしなくていいので、家にあるお酒をかたっぱしから好きなだけ飲める。
しかし、この家飲みの最大のメリットとも言える「人目を気にせず、自由に好きなだけお酒が飲める」ことこそが、実は大きな危険をはらんでいるのだ。
平常時であれば、さして問題はない。二日酔いになる程度で済む。しかし、今は感染者数こそピークアウトしたといっても、コロナ禍であることに変わりはない。しかも3年近く、何かと我慢を強いられた状態が続いているのだ。そんな中で自由度の高い家飲みとなれば、これまで以上に酒量が増えてもおかしくはない。現に私がそうだった。
■家飲みに向かない「タイプA」
ではいったい、どういうタイプの人が家飲みに向かないのだろうか。
医師からうかがった話によると、「アルコール依存症をはじめとする精神疾患を抱えている人」が危ないという。特にアルコール依存症の場合、自助グループにおける人とのコミュニケーションが抑止力になっていることが多いので、孤独感を助長する状態はスリップ(再び飲み始めてしまうこと)をおこしかねない。
また、日本人に多い「タイプA」も家飲みに向かないと言われている。タイプAとは心理学用語で、時間的切迫感がある、負けず嫌い、いつもイライラしているなどの特徴を持つ人を指す。タイプAは自分に負荷をかえる生活を自ら選ぶことも多く、ストレスのはけ口がお酒になっていることが少なくない。そのため多量飲酒やアルコール依存症に陥りやすく、自制がききにくい家飲みは危険度がかなり高くなる。
■罪悪感を抱いてしまう人はさらに危険
しかし、自身の経験を通し、危ないのは何も精神疾患を抱えている人や、タイプAに当てはまる人だけではないと感じている。
これまで通りの常識が覆ったコロナ禍は、現在、潤沢に仕事がある人でも失職不安を抱えている人が少なくない。お酒を飲んで、楽しくなるならまだいい。問題はお酒が進むにつれ、ネガティブになり、自分を責めてしまう人だ。不安や自責の念を打ち消すため、お酒に頼るようになると、ますます酒量が増えてしまう。家飲みとなると、なおさらだ。
そして、さらに危険なのは「どうしてこんなに飲んでしまったんだろう……」と罪悪感を抱いてしまう人だ。90年代初めに、世界保健機関(WHO)が作成したアルコール依存症のスクリーニングテスト「AUDIT」にも「過去1年間に、飲酒後、罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか?」という設問もあるほどだ。
酒量を減らす前の私も、飲み過ぎたことに対し、日々罪悪感を抱いていた。通常は楽しいお酒の私でも、不安が重なれば簡単にネガティブなお酒になる。つまり、だれもがいとも簡単に酒量が増える危険性を秘めているのだ。
そんな危険を回避するためにも、ここで酒量をセーブする5つのポイントをお伝えしよう。
■まず知るべきなのは飲酒の「現状」
①AUDITで現状を把握
一番大切なのは、自分の現状を知ること。それを知るのに役立つのが、前述したアルコール依存症のスクーリングテスト「AUDIT」だ。
やり方は実に簡単。10個の設問に答えるだけだ。結果は0~40点で明示され、「問題ない飲み方」(7点以下・ローリスク飲酒群)、「有害飲酒」(8~14点・ハイリスク飲酒群)、「危険な飲酒」(15点以上・依存症予備軍)、「早急な治療が必要」(20点以上・依存症群)と4段階に分類されている。
ちなみに私は11点で「有害飲酒」だった。飲み方を改めたものの、まだまだ危なっかしい。
②アプリで酒量を可視化&管理
お酒を飲み始めると、どれだけの量を飲んだかわからなくなることが多々ある。そこで活用したいのが、飲酒量を把握するのに役立つアプリだ。
「これは!」と思ったのが、コロナ禍にリリースされた「drireko(ドリレコ)」(無料)。飲んだお酒の種類を選択すると、自動的にアルコール量を記録し、カレンダーに表示してくれる優れものだ。さらに酒量をグラフで可視化してくれるので、自然と酒量を意識し、飲む量をコントロールしようという気になる。
■その日に飲む量以上のお酒を準備しない
③お酒の買い置きをしない
酒量を増やしたくなければ、これに尽きると言っても過言ではない。私の場合、コロナ禍以前から酒の買い置きはしていたが、さすがに業務用の5リットルのウイスキーを買ったことはなかった。
経験してみてわかったのだが、大量の買い置きがあると、いつもより量を飲んでしまう。酒量をムダに増やさないためにも、お酒は飲める量だけ買うのが正解だ。
④冷蔵庫には「その日に飲む分」だけのお酒を冷やす
これは医師からも勧められたことなのだが、「お酒はその日に飲む分だけを冷やす」のも有効な手段である。「今日はここまでにしよう」と思っても、冷蔵庫にお酒が冷えているとわかると、「ま、いいか」とつい手が伸びてしまう。
特に酔いが回ると、理性を司る前頭葉が麻痺し、自制がききにくくなるので、くれぐれも必要以上のお酒を冷やさないようにしよう。
■お酒以外の「快楽物質」を見つける
⑤お酒以外に夢中になることを探す
お酒と同等、それ以上に楽しめることをみつける。これもまた、アルコール依存症を専門とする医師からよく言われることだ。
脳にとって、お酒は快楽物質。お酒は有害な物質をブロックする「脳の門番」血液脳関門(ブラッド・ブレイン・バリア)をもたやすく通過してしまう。つまり「脳はお酒を大歓迎している」というわけだ。しかし、脳の望むままお酒を飲んでいたら、いつまでたっても酒量は減らない。
そこで必要となるのが、お酒と同じくらい夢中になり、脳に快楽を与えてくれる代替だ。例えば筋トレやジョギングなどの運動、資格を取得するための勉強でもいい。私の場合、再び大学で学びはじめたことが、酒量を減らす良いきっかけになった。夕食後の勉強を習慣化したことで、自然と酒量が減ったのだ。
■飲み日を限定すると、より味わって飲める
以上の5つは、思い立ったらすぐにできることばかり。かつては日本酒の4合瓶を軽く1日で空けていた私がこれらを実践し、酒量を大幅に減らせたのだから、誰にでもできると思う。
ちなみに私の場合、現在は週に2~3回を「飲む日」とし、家飲みと外飲みを健康的に楽しんでいる。酒量を減らしたことによって、逆流性食道炎もだいぶ改善し、少し高めだった中性脂肪の数値も標準値になった。睡眠の質、寝つきも良くなり、さらには体重が3キロ減った。体調はいたって万全だ。
何より変わったのは、お酒に対する意識。これまでは惰性で飲んでいた部分もあったが、飲む日の回数を限定したことで、お酒を飲む日が楽しみになり、これまで以上に味わって飲むようになった。
まずは自分で「これならできるかな?」と思えるハードルの低い目標を立て、それができたら、ほんの少しハードルを上げ、徐々に酒量を減らせばストレスもそうない。何となく惰性で飲むより、メリハリをつけて飲むほうが、今よりずっと飲む時間が充実する。
一生健康で、お酒を飲み続けるためにも、家飲み派の方はもちろん、外飲み派の方も飲み方を一考してみて欲しい。
----------
酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。「酒と健康」「酒と料理のペアリング」を核に各メディアで活動中。「飲酒寿命を延ばし、一生健康に酒を飲む」メソッドを説く。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。現在、京都橘大学(通信)にて心理学を学ぶ大学生でもある。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』『名医が教える飲酒の科学』(ともに日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)、『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)など多数。
----------
(酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
【漫画】「あの頃は若かった」20代と40代…年齢重ねた今だからわかる“お酒の飲み方"に共感の声 作者語る
よろず~ニュース / 2024年7月23日 11時11分
-
なぜ、ビール会社が「飲みづらいグラス」を開発したのか あえて“逆行”には意味がある
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月21日 8時5分
-
高齢者専門の精神科医が説く「今、がまんすれば歳をとって楽できる」の信憑性
PHPオンライン衆知 / 2024年7月5日 11時50分
-
就寝1、2時間前の軽食が睡眠の質を上げる…睡眠のプロがハーブティーを飲みながら食べる"意外なスイーツ"
プレジデントオンライン / 2024年7月5日 8時15分
-
「大好きなラーメンとお酒」やめられないナゼ 絵本作家が糖尿病と診断されるまで暴飲暴食
東洋経済オンライン / 2024年7月4日 15時0分
ランキング
-
1「うちの病院、ヤバすぎる」美容クリニック従業員がSNSで暴露…なぜ「内部告発」を止めることはできなかったのか?
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月27日 7時15分
-
2街にあふれる「アルファード」 なぜ「先代」も“高い”? すでに“型落ち”でも「現行型」に迫る「高リセール」維持する理由とは
くるまのニュース / 2024年7月26日 10時10分
-
3致命傷になる部位ってどこ? バイク事故で守るべきポイントとは
バイクのニュース / 2024年7月27日 10時10分
-
4日本のにんにくは中国産が9割。「国産にんにく」と「中国産にんにく」の違いとは? 3つの産地で比較
オールアバウト / 2024年7月26日 21時5分
-
5老眼も眼精疲労もこれで防衛できる…眼科医直伝どんなに忙しい人でも毎日続けられる"両目の自己回復習慣"
プレジデントオンライン / 2024年7月27日 10時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください