銀行の預貯金は一刻も早く引き出したほうがいい…インフレ時代に真っ先にやるべき「マネーの常識」
プレジデントオンライン / 2022年10月25日 9時15分
※本稿は、加谷珪一『スタグフレーション――生活を直撃する経済危機』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
■インフレでは「現金は最弱の投資対象」
ここからはインフレ時代において資産をどのように管理したらよいのかという運用の話に移ります。
デフレの時代においては、現金は最強の投資対象などと言われてきましたが、インフレ時代はまったくの逆になります。インフレが進んでいる時に多額の現金や銀行預金を保有していることは損失につながることを頭に入れておく必要があるでしょう。つまりインフレ時代において、現預金の保有はご法度なのです。
インフレとは継続的に物価が上がることを意味しています。たとえば、今年100万円だった自動車が5年後には150万円になっているという話です。この時、私たちの銀行預金はどうなるでしょうか。
今、銀行に預けている100万円を下ろせば、すぐに100万円の自動車を購入できます。しかし5年後には、この自動車は150万円出さなければ買うことができません。いっぽうで銀行預金は利子を除けば、5年経ってもやはり100万円のままです。つまり銀行預金の価値は5年で約3分の2に減ってしまったということになります。
■現金の価値は気づかないうちに下がっている
インフレが進んでいる時、銀行預金や現金だけで資産を管理している人は、物価上昇分だけ、その資産を失っていきます。ただ、インフレというのはジワジワと進みますから、日常生活では現金の価値が下がっていることについてなかなか認識できません。5年や10年という時間が経過し、気がつくと自身の資産が減っていた、あるいはなくなっていた。
これがインフレの怖さです。
銀行預金と同様、国債など債券に対する投資もインフレ時は大敵となります。
債券という商品は、満期まで保有していれば、その間に発行体(その債券を発行した企業や政府など)が破綻しなければ、毎年、一定額の利子を獲得できます。しかし満期になった時には、債券を買った時の元本がそのまま返ってくるだけです。
したがって利用者から見れば、債券の購入は、銀行にお金を預けて、利子を得ることと大きな違いはありません。仮に期間が5年の債券で、5年間で物価が1.5倍に上昇していた場合には、債券の購入者は実質的に損してしまいます。
■借金や固定金利の住宅ローンは「有利」
このように現金、銀行預金、債券はインフレにおいて著しく不利なわけですが、逆に借金は有利に働きます。
5年後に返済する契約で100万円を借りていた人がいるとしましょう。先ほど例に挙げたように、インフレが進み、5年後に物価が1.5倍になった場合、100万円の自動車は150万円になっているはずです。ところが100万円の借金は当初の契約通り、物価が1.5倍でも100万円を返すだけですみます。実はインフレが進んでいる時に借金をすると、インフレ分だけ利益を得ることができるのです。
だからといって、むやみに借金をすることは絶対にやめるべきですが、固定金利で住宅ローンを組んだようなケースでは、貸し主に対する支払い総額は変わりませんから、場合によってはインフレで大きな利益を獲得することも十分にありえます。
■物価が2倍になれば、政府の借金は半分に
過度なインフレでもっともトクをするのは政府でしょう。
現在、日本政府は1000兆円の債務を抱えており、これが原因でなかなか金利を上げられないということは第2回の記事でご説明しました。もし金利が大幅に上昇する前に過度にインフレが進んだ場合、物価は急上昇しているにもかかわらず、政府の借金の額は変わりません。最終的に物価が2倍になれば、実質的に政府の借金は半分になります。
この時、国全体で見れば、国民が銀行に預けたお金が実質的に半分に減らされ、いっぽうで政府の借金は実質的に半減していますから、これは国民の銀行預金に多額の税金をかけ、政府の債務返済に充当したことと同じになります。財政学の世界では、インフレが進むことを「インフレ課税」と呼びますが、国民にとってインフレというのは物価上昇分だけ課税されることと同じになります。
日本政府は今のところ税収を増やすことで政府債務を減らそうとしていますが、南米各国のように、意図的にインフレを発生させ、国民から実質的に預金を奪って政府の借金をチャラにしようと試みる政府もあります。
どちらがよいのかは国民の判断次第ですが、政府がインフレを放置した場合、基本的に重い税金が課せられていることと同じであるという現実について理解しておく必要があるでしょう。
■不動産はインフレに強いと言われるが…
不動産は一般的にインフレに強い商品と言われており、インフレが予想される時に不動産を買うことはどこの国でも鉄則になっています。しかし日本の場合、特殊事情がありますから、不動産については条件付きの投資対象と考えてください。
実物不動産を現金で購入したり、固定金利の長期ローンを組んで購入している場合には、不動産への投資はきわめて有益です。
物価が上昇した分だけ不動産の価格は上がっていきますから、現金を保有している場合と比較して、資産の価値を維持することができます。しかし、金利によって返済額が変化するローンを組んでいた場合には、物価が上がると銀行への返済額も増えてしまうので、大きな利益にならないケースもあります。
![ミニチュアの木造家屋と赤い矢印アップ。住宅のコストを増やすための概念。不動産の需要が高い。家賃と住宅ローン金利の伸び。アパートの販売。人口増加](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/6/1200wm/img_46708bafa6970fcb3016f2806336327e684029.jpg)
第2回の記事で説明した変動金利での住宅ローンがこれに該当しますし、賃貸用の物件を短期ローンで購入している場合も、金利負担が大きくなりますから、必ずしも得策とは言えません。
■価値を上げる物件を慎重に見極める
不動産会社への投資も基本的な仕組みは同じです。負債の割合が高く、しかも短期融資の比率が高い企業の場合、資産価格が上がっても業績は悪化する可能性が高く、株価はあまり期待できないでしょう。
加えて日本の場合、今後、人口が急ピッチで減少することが予想されており、不動産は供給過剰になることが確実です。いくらインフレで不動産の価格が上がるといっても、賃貸ニーズがないエリアの物件についてはその限りではありません。
地域の中心地から遠いエリア、あるいは近いエリアにあっても、駅からの距離が遠い物件の価格はあまり上昇しないと考えてください。今後、インフレが進むにつれて価値を上げる物件とそうでない物件の格差が急拡大すると予想されます。日本の場合、もともと価値が高かった物件の価格がさらに上がる可能性が高いですから、投資をする際には、物件の選別を慎重に行う必要があるでしょう。
■持っているだけでは収益を生み出さない金
一部の人はインフレと聞くと、金への投資を考えるかもしれません。
確かに、インフレが進む時は金の価格も上昇することが多く、インフレヘッジの有力な投資対象と言われています。しかしながら、金は特殊な商品であり、その特徴を理解せずに金投資を行うことは危険です。
一般的な投資対象と金の最大の違いは、金は持っているだけでは収益を生み出さないという点です。つまり、金は価格が上昇しない限り、収益を生み出さない商品なのです。
株式の場合、株価の値上がりが期待できるだけでなく、企業がしっかりと利益を上げていれば、配当を得ることができます。インフレ時に債券はお勧めできないという話をしましたが、債券も保有している間は利払いを受けることができます。ところが、金にはこうした利益の還元はいっさいありません。
それどころか、金は保有しているだけでお金が減っていく商品です。金を保有しておくには、貴金属会社に保管を依頼したり、自宅の場合には金庫を購入したりするなど、保管コストが必要となります。金への投資を金融商品化した金ETF(上場投資信託)などの商品もありますが、これも取引価格に変化がない場合には、毎日すこしずつ、その基準価格は下がっていきます。
■金投資に向いているのは投資家や富裕層
こうしたデメリットがあるにもかかわらず、金が投資対象になるのは、インフレ時に価格上昇が期待できるからです。厳密に言うと、金は世界の基軸通貨である米ドルと反対の値動きを示すことがほとんどです。インフレでドルの価値が下がると金の価格が上がるという流れです。
![加谷珪一『スタグフレーション――生活を直撃する経済危機』(祥伝社新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/f/1200wm/img_ef6a04923c9b720b83c0a891b3048ee4323737.jpg)
金にはこうした特徴がありますから、インフレ対策になるのは事実ですが、あまり使い勝手の良い商品ではありません。万が一、インフレがあまり進まなかった場合には価格が暴落するリスクもあります。
ですから、金への投資は一定以上の資産を持ち、インフレ対策を実施しているものの、さらにリスクヘッジをしたいという投資家や富裕層に向いた商品です。あまり資産を持っていない人が、いきなり金に多くの資金を注ぎ込むことはやめたほうがよいでしょう。
以上、3回にわたり、インフレが今後どのように進み、どう対応すべきかをテーマを絞って解説してきました。今回のインフレは非常にやっかいです。「自分の身を守る」ためにも、さらなる情報を集めることをおすすめします。
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経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。
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(経済評論家 加谷 珪一)
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