"日本"を売って売って売りまくれ…経営コンサルが緊急提言「円安を逆手に日本を急浮上させる」3つの秘策
プレジデントオンライン / 2022年10月13日 11時15分
■為替は「ビルト・イン・スタビライザー」
年初に114円程度だったドル・円レートが、147円程度まで円安が進みました。図表1にあるように、2020年度の平均レートは106円で、それに比べると30%以上円安に振れています。つまり、円は米ドルに対して30%以上、価値が落ちているということです。
テレビでは、この夏休みにハワイに行った観光客が「スパムのおにぎりが1000円以上した」「うどんが高くてびっくりした」などとインタビューに答えていましたが、米国ではインフレに加えて円安ですから、米国でも有数に物価の高いホノルルでは、日本からの観光客は物価の高さに驚くのも無理はありません。
政府・日銀も9月22日に145円に近づいたところで、円買い・ドル売りの介入を行い、一時140円台まで円高方向に戻しましたが、その効果もすぐに薄れ、145円台をつけました。この原稿を書いている10月13日時点では146円台後半です。
米国の政策金利が、現状3.0~3.25%の誘導ゾーンとなっており、今後も利上げが予想される中で、日米金利差が広がる上に、前回のこの連載でも指摘したように、長年、低成長に苦しみ、かつ将来も人口減少や財政赤字のさらなる悪化が予想され、日本のファンダメンタルズからも円が売られやすい状況です。
政府はこの際には、「円安」を逆手に取って経済を回復させることに大きく注力すべき時です。具体的には、インバウンド客の増加、輸出促進、製造業の日本への回帰です。
「ビルト・イン・スタビライザー」という考え方があります。「ビルト・イン」というのは組み込まれたという意味で変動する為替レートが自然に貿易収支などを改善し、円高に向かわせるように為替レートを調整するということです。
インバウンド、輸出、製造業の日本回帰、は、いずれも円買いを起こします。それにより、安くなった円が買い戻されます。もちろん、それらは、日本経済にもプラスに働きます。
■インバウンド客を呼び込む施策を
まずは、インバウンドです。訪日客は、コロナがなかった2019年には3188万人でした。4兆8113億円の経済効果があったとされています。2020年のコロナ後はそれが激減し、2021年では訪日客数は82万人、消費額は1208億円まで落ち込みました。
ここにきて政府は、入国制限をなくすなどの措置を採っていますが、諸外国に比べて遅すぎる感は否めません。また、中国がいまだに「ゼロコロナ政策」を採っていることから、当面は中国からの訪日客増加はあまり見込めません。
最近、街では少し外国人を見かけるようになりましたが、まだまだです。日本は、外国人から見て行きたい国では常に上位に入っていますが、コロナ明けで外国人観光客を誘致したいのはどの国も同じです。
そうした状況を考えれば、訪日客を増やす施策を大いに考えるべきです。具体的には、訪日客は新幹線などJRの割引を受けられる「ジャパンレールパス」の購入ができますが、期間限定で政府が補助するなどでその料金を値引きする、航空運賃の補助をするなどです。
そして、今ほど円安のメリットを生かせる時はありません。先日、私の会社の顧客が米国に出張したら、都市部のホリデイ・インで1泊700ドルだったと言っていました。700ドルと言えば、10万円を超えていますから、日本では「超」高級ホテルでもそこまでの値段はしません。「超」高級旅館でも2食付いてもそこまではしません。私は、たまに牛丼のすき家で朝食を食べますが、好きな「納豆・牛まぜのっけ朝食」でも400円しません(ごはんミニ:360円、並:390円)。3ドル以下です。おそらく、ニューヨークの街角のカジュアルなお店で朝食を食べたら、20ドルはくだらないでしょう。
訪日客にとって、日本のホテル価格や飲食費の価格は、まるでバーゲンセールのように感じるでしょう。こうした日本の“武器”を生かさない手はありません。インバウンドは、対日投資などにくらべて、素早く結果を出しやすいのです。
逆に言えば、米金利などの低下など、何らかの理由で円高に進めば、インバウンド客にとってのメリットは薄らぐので、できるだけ早くインバウンドを呼び込む政策を採るべきです。
さらには、日本人にも国内旅行を今以上に促進すべきです。海外に行っても円安とインフレで旅費はとても高くつきます。それが、日本なら豪華旅行をしてもとても安いということをもっと認識すべきです。仕事なら海外出張も必要かもしれませんが、旅行なら日本にも素晴らしい観光地や食事もたくさんあります。10月11日から「全国旅行支援」が始まりました。「Go To トラベル」の後継ともいえる施策は国内旅行を促進するでしょう。
■「輸出ドライブ」をかける
もうひとつは、輸出です。現状は、図表2にあるように、2020年度はかろうじて黒字でしたが、このところは貿易赤字が続いています。それを、円安を利用して反転させるのです。
日本には機械や自動車、さらにはアニメなど優秀なものは多くあります。なかでも今、注目したいのは、農林水産物です。日本の農林水産物は、品質も高く、中国はじめ多くの国で注目されています。とくに、中国からのインバウンド客が当面は大きく期待できないのなら、農林水産物や食品をこれまで以上に多く輸出することを考えればいいのです。円安を大いに生かせます。
実際、今年の1〜8月の農林水産物の輸出は過去最高の8826億円です。政府は2025年に2兆円を目指しているようですが、それを加速するチャンスです。
とくに、米の輸出を促進すべきです。小麦が世界的に高騰する中、米を代替品として輸出することは可能だと思います。日本でも米粉のパンも出回っています。また、米国では、小麦由来のグルテンに対して、健康上の懸念を感じる人も少なくなく、スーパーなどでは「グルテンフリー」の表示をよく見かけます。円安と小麦高を利用して、日本の米などの農林水産物の輸出ドライブをかけるチャンスです。輸出も、インバウンドほどすぐではないにしろ、円安のメリットを生かせる即効性が期待できます。
■製造業の日本回帰を
最後は、製造業の国内誘致です。インバウンドや輸出ほど、すぐには結果が出ませんが、長期的には、日本にとってはとても大切なことです。
製造業の国内誘致には、2パターンあります。ひとつは、世界有数の半導体製造業のTSMCが熊本県菊陽町に工場を建設するように、海外資本の国内進出を促すことです。進出企業も円安のメリットを大いに享受できます。
さらには、主に中国に進出している日本の製造拠点を日本に回帰する動きを促進することです。今の円安水準なら、国内製造でも十分に輸出競争力がある製品を作れる企業は多いはずです。
さらには、ロシアのウクライナ侵攻以来、中国が一方的に台湾を統一するリスクを懸念する声も高まっています。台湾での緊張が高まった場合には、米国は経済的にも中国に大きなプレッシャーをかける可能性は低くなく、日本企業もそれに巻き込まれる可能性があります。中国からの部品や製品の調達などは、経済安全保障上も懸念があるということです。
今の円安水準が、いつまで続くかはだれにも分かりませんが、日本のファンダメンタルズを考えれば、しばらくは続くような気もします。
経済安全保障などを考えた場合に、製造業を日本に回帰することを政府は真剣に考えるべきで、そのための補助金を強化するなどの政策を展開すべきです。製造業の日本への回帰は、日本の製造技術を生かし、さらに強化できるとともに、新たな雇用を生み、地域活性化や税収増にも役立つことは言うまでもありません。
いずれにしても、円安を生かし、インバウンド、輸出、製造業誘致を促進するべき時だと考えます。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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