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今のうちに買い替えたほうがいい…「世界一安い日本のiPhone」がこれから確実に値上がりするワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月18日 15時15分

発売され店頭に並んだ米アップルのスマートフォン「iPhone14」(左)など最新モデル=2022年9月16日、東京都渋谷区 - 写真=時事通信フォト

9月に発売された最新iPhoneの価格は、いちばん手頃なモデルでも約2万円の値上げとなった。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「それでも日本のiPhoneは世界一安い。円安の影響で中古iPhoneは品薄となりつつあり、次のiPhoneはさらに高くなるだろう」という――。

■1ドル=160円台ならiPhoneは15万円に

先日、ラジオで円安の話をさせていただきました。「円安で困ること」という質問にはストレートに「外国から輸入するものの価格が上がることです」と答えたうえで「象徴的にはiPhoneの価格がどんどん上がることで日本人は円安を実感すると思います」と答えました。

今年9月にiPhone14が発売された時に、その価格が高いということがニュースになりました。一番安い128GBモデルで11万9800円です。2021年9月に発売された時のiPhone13の128GBモデルは当初は9万8800円でした。約10万円から約12万円に値上がりしたわけで、そこからは円安の悲哀を感じ取ることができます。

それでは、円安がもっと進んだらどうなるのでしょうか。今のマクロ経済環境下では1年以内に1ドル=160円台というシナリオすら「ありうる」状況です。「仮に1年後、iPhone15が発売されたときの為替レートがそうなっていたら?」と電卓をたたくと一番安いiPhone15の価格が「15万円もありうる」という計算になります。

15万円というと体感的にはパソコンの上位機種の価格です。日本人はここまでの値上げについていくことができるのでしょうか?

■日本のiPhoneシェア率は7割で世界一

日本人は世界で一番iPhone好きであることが知られています。Webトラフィック解析を行うStatCounterがさまざまな国からのアクセス解析結果を公表していて国別のiPhoneシェアもわかるのですが、直近の日本のスマホはiPhone対Androidが7:3の比率になっています。この数字は実は日本が圧倒的に世界で一番iPhoneのシェアが高い国であることを示しています。

以前は「iPhoneシェアが5割を超えるのは日本とアメリカだけ」といわれていましたが、最近ではスイスやデンマーク、カナダ、そしてオーストラリアなどもiPhoneシェアが5割を超えてきています。一方でドイツやフランス、イタリアやスペインなど、欧州でも比較的人口が大きい国ではiPhoneは3割前後のシェアしかありません。

その理由を平たく言うと「iPhoneは中流層以上の階層が好んで購入し、Androidはそれ以外の層が購入する傾向がある」からだと経済的には分析されています。ファクトとしてみるとその国の一人あたりGDPとiPhoneシェアには緩やかな相関関係が見られます。

【図表1】国別のiPhoneシェアの比較
出所=statcounterのデータを基にグラフは百年コンサルティング作成

■コスパの良い店がにぎわう日本の異常なiPhone人気

このグラフからざっくりと傾向を読み取ると、途上国では圧倒的にAndroidのシェアが高く、先進国グループに入ってくるとiPhoneシェアが3割から5割のレンジになり、さらに先進国の中でも裕福な国々では最終的に5~6割のシェアレンジに上がっていく傾向が読み取れます。

もちろん国ごとの事情で例外はあります。豊かな国の中でもシンガポールのiPhoneシェアが低いのは中国との関係が強いせいでしょう。逆に台湾はアップルとのつながりが強いとみえてiPhoneシェアは高めに出ます。

このグラフを眺めると圧倒的に例外に位置付けられるのが日本です。経済的には低成長で、所得の二極化や若者の貧困が社会問題になってきていて、サイゼリヤやGU、百均などコスパの良いお店がにぎわう国であるにもかかわらず、なぜかiPhoneだけは国民が大好きなのです。

そこで冒頭の問題なのですが、もしiPhone本体が15万円の時代に突入したとしたら日本人はこの7割のシェアを維持できるのでしょうか? 一流会社の正社員家族は生活を維持できたとしても、ごくごく一般の庶民の懐事情で、円安による電気代やガソリン代、食費や学費などさまざまな値上げラッシュで家計を工夫しながら、iPhoneの大幅な値上げにどこまでついていけるのでしょうか?

■これからはAndroidに乗り換える日本人が増える

iPhone6やiPhone8あたりからiPhoneを使い始めた方は覚えていらっしゃると思いますが、当時はiPhoneの価格は7万円前後が最低価格でした。ある意味、誰でも買えたのです。心理的には10万円の壁というものがあって、今回はその壁を超えてしまった。これから先は為替レート次第で、私たち日本人に価格をコントロールする力はなさそうです。

グラフから読み取れることは、

「もし今の日本経済の苦境がこのまま続き、最低賃金も上昇せず、円安でただ物価だけが上昇する事態に陥ったとしたら、将来的に日本のiPhoneシェアは40%台に落ち込むのではないか?」

ということです。あと1~2年でかなりの数のiPhoneユーザーがAndroidに乗り換える事態が起きるかもしれないのです。

■円安でも日本のiPhoneは世界一安い

とはいえ、もうひとつ別の事実があります。実は日本は世界の中でも飛びぬけてiPhoneが安いのです。

これはiPhone14が発売された時に話題になったのですが、その時の記事(※)では「日本はiPhone14が世界で2番目に安い」とされていました。世界中のiPhone14の発売価格を比較するとそうだというのが記事の主張です。実際には世界一安いというのはアメリカの中でも例外的な「消費税がゼロの州」での価格です。それを言ったら世界で2番目に安い日本の価格は消費税込みの価格なので、もしインバウンドの外国人が世界中で免税価格を比較したら、日本のiPhoneは世界一安いということになるかもしれません。

※ITmedia「日本の『iPhone14』は世界で2番目に安い 世界37カ国の税込価格を円換算で比較 価格調査サイト調べ」

円安のイメージ
写真=iStock.com/PashaIgnatov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PashaIgnatov

日本のiPhoneが安い理由は日本市場がアップルにとって重要だからです。当然のことですが日本人の7割がiPhoneを買ってくれている状態なので、アップルも簡単にはそのシェアを40%台には下げたくない。そこで日本人から見れば大きな値上げでも、アップルからみれば抑えた値上げになっています。

実際、1年前のiPhone13から今回のiPhone14への2万円の値上げは上げ幅でいえば21%の値上げになります。実はこの間の為替変動は32%ぐらいになっているので、為替通りにするのであればiPhone14は最低価格を13万円超にすべきでした。それをアップルはあえて抑えているのです。

■「iPhoneは定価で買うものではない」というイメージ

もうひとつ日本でiPhoneが普及している理由は、携帯の販売店に携帯電話会社からたくさんのインセンティブが渡されているという事情があります。私の家族でこんなことがありました。母がiPhoneを使いこなしているという話を聞いて叔母がいよいよガラケーからiPhoneに買い替えようとしたのです。それで家電量販店に連れて行ったところ他社からの乗り換え契約となったことでiPhone本体は3万円台で手に入ったのです。

3万円台は特例だとしても、日本人の多くがこのように携帯電話会社からiPhoneを買っているので、本人は12万円ではなく6~9万円程度でiPhoneを手に入れたと思っているわけです。実際はそれで格安スマホよりは月2000円ぐらい高く通信料を払っていて、2年使えば差額で5万円ぐらい損をするかもしれませんが、とにかく「iPhoneは定価で買うものではない」と思っている日本人が一定数いて、それがiPhoneの高いシェアの一因になっているわけです。

■中古iPhoneを買いあさる外国人の目的

ですから日本のiPhoneシェアが1年後、大幅に下がるかどうかについては携帯各社の販売戦略も関係してくるわけです。ただこの問題、日本人にとって良い方に転んでいくかというとそうでもないかもしれません。

最近、秋葉原で外国人が中古のiPhoneを大量に購入しているという話があります。東南アジアやアフリカの国籍の方々が10個単位でiPhoneを買って自分の出身国の友人に国際郵便で郵送するのです。

話を聞いてみると、母国の中古iPhoneよりも日本のストリートで売られている中古iPhoneの方が郵送料を差し引いてもかなり安いのです。しかも日本人はカバーや保護ガラスを付けて使うので中古の状態もかなり良い。そしてその中でも人気なのが未開封の中古iPhoneです。

この動きは日本人にとっては痛手です。というのは7割のiPhoneユーザーの中にはかなりの比率で中古のiPhone愛好者が多いのです。先ほど申し上げたように中古の状態はかなりいい。SIMロックが解除されているかどうかなどの問題も中古販売店で丁寧に教えてくれる。電池が消耗していたら町の修理屋さんで比較的安価に電池も交換してもらえる。そのような中古がいいという消費者は結構な数いらっしゃるのです。

ところが世界的なiPhone価格の上昇でこの秋、中古のiPhoneが品薄になってしまい、結果的に中古のiPhone相場が大きく上がってしまいました。

■「エコサイクル」が壊れて、さらなる値上げの恐れも…

これまでは比較的収入の多いユーザーが携帯電話会社を乗り換えることで新しいiPhoneをインセンティブ付きで安く購入し、それまで使っていたiPhoneは中古店に売却。それを中古でもいいというユーザーが購入しまた使うという国としてのエコサイクルが成り立っていました。しかし世界の中でもiPhoneが安いことがはっきりすると、外国人もそれに注目します。

しかもこの先、アフターコロナでいよいよインバウンドが戻ってきますから、日本のiPhoneはさらに人気になるでしょう。これは本国のアップルを動かす事態になるかもしれません。

要するに、グローバルな並行輸入が目に見える規模になってくると、それを本国は必ず抑えようとします。そのためには安すぎる国の商品を他国と同じ水準にします。つまり日本のiPhoneはいつまでも世界一安いかどうかはこの先はわからない。むしろ為替レート通りにすべきだという話になって、さらにiPhoneは1万円高くなるのかもしれない。

結局のところ経済というものは適正な水準と適正なシェアにいつかは落ち着くものです。ここで述べた日本のiPhoneが安い特殊要因というものがいつまでも続くわけではないかもしれない。結果としてそれほど遠くない将来、iPhoneの価格は15万円を超えて、日本のiPhoneシェアが40%台に下がる未来がくるかもしれない。だったら古い機種をお使いの方は「今のうちに新しいiPhoneに買い替えておいたほうがいいかもしれない」という話でした。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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